第五章28 『お前のカップ数を数えろ』
こんな最悪なオマージュあるかよ。ではでは。
『彩色の魔導士』──美王 愛絵も、どうやらショッピングに来ていたらしい。のちに分かったことなのだが、先日の『禁忌全英書』騒動は、なんと二日にわたって繰り広げられていたという。
打騎が蓮司の力を借りようと外に出た時はすでに昼だったが、それは二日目の昼だった。今まで多種多様な戦場におもむいてきたが、日をまたぐなんてことは経験したことがなかった。
時間の流れをまったく気にしていなかったとはいえ、考えてみれば恐ろしい。それだけ涼晴を取り戻すことに執着していた証拠である。
「依茉も新しいの買いに来たのかしら」
「はい……。ちょっと胸周りがきつくなってきちゃって……」
ほとんどが女性客しかいないランジェリーショップとはいえ、人前で自分のバスト事情を口にするというのは、多少なりとも恥じらいが生じる。
ぽりぽりと頭をかいてはにかむと──愛絵の表情は反対に、暗々と沈んでいくのだった。
「ははは……いいわよねぇ、あんたは……。あたしにはもう、成長期は来ないみたいだわ……」
どこぞのやさぐれ兄弟みたいに肩を落とす彼女に、はげましの言葉をかけようとする。どうやらその行為が一番貧乳にとって傷つくと言われたことを、忘却しているようだ。
だが、依茉が口を開くよりはやく、隣にいた悪魔が声をかけた。
『ないものねだりをしても、未来は変わらないわよ。それに、レディの魅力は胸だけじゃない!! 自分の欠点を探してなげくより、良いところを見つけて伸ばした方が、自分にとっても思い人にとっても良いことへとつながるわ!!』
「えっ……な、えッ!?!? グ、グレモリー!? あんた、何でここにいるのよっ!?」
普段耳にすることがあまりないようなワードであふれる店内でも、愛絵の言い放った『グレモリー』という固有名詞は一層目立っていた。ゆえに店員の数名と客は、けげんな表情で彼女らを凝視する。
グレモリーの姿は術で見えていない──とはいえ流石に不安になって、下着と愛絵をつかんで店の奥へと進んでいくのだった。
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「グレモリーの今後、ねぇ……。その露出狂みたいな服装で外を出歩けないってことを自覚してるだけ、お利口だとは思うわ。肌に関しては……それこそ露出を少なくするしかないわね。あとはお化粧とアクセでごまかしましょ」
こういう時、愛絵は本当に頼りになる。なんといってもファッションセンスが仲良し四人組の中で一番高い。
依茉はほとんどスーツ。涼晴は同じような服を何着も持っている。打騎は年中半そで半ズボンだと言っていた。
……周囲の比較対象がひどすぎて、愛絵のセンスが伝わらない気がするが、ノーコメントとしておこう。
して、なぜ依茉にグレモリーがついてきているのかを説明し終えたところだ。
「じゃあまずは採寸しましょう!! ……とは言っても店員さんにやってもらえないので。ちゃっかりメジャーを借りてきました!!」
『ナイスだわ、依茉♡ それじゃワタシのおっぱいをアナタにたくすわね』
「せめて胸って言ってくださいよ……」
店員やほかの客が来ないか少し心配だったが、なんとか採寸が終わった。心配するとは言っても、彼女らがいる場所は『ちょっと過激な下着』が陳列されているコーナーなので、人はあまり来ない。
見ているだけで恥ずかしいらしく、依茉は終始うす目で作業をしていた。ゆえにトップとアンダーの差を震える声で読み上げるのは、愛絵の仕事。
「差…………28.0センチ…………。ってことは…………『Hカップ』!?!? あ、あんたよくこれでブラしてなかったわねぇ!?!?」
『って言うけど、ワタシそもそも知らなかったし……』
「え、Hカップですか…………。じゃあ一緒に見に行きましょう。お金出してあげるのは今回だけですよ?」
身長的に立場が逆な気もするが、二人は親子のように下着を探しに行く。
後姿を見ていた愛絵は、とある『とんでもないこと』に気づき、あわてて二人を呼び止めた。
「ま、待って二人とも!!」
「ど、どうしたんですか……?」
「……………………たしかこのお店、『G』までしか置いてなかった覚えがあるんだけど」
盲点……ッ!!
うかつだった、その問題を忘れていた。見ただけで大きいと分かっていたのなら、『H』以上を取扱っている店に行けばよかったのだ。
余談だが、日本人女性でHカップ以上の物をお持ちの方は、約0.2%らしい。グレモリーは悪魔なので、その数値に照らし合わせても無駄なことなのだが。あと大きいサイズの下着は、『C』や『D』の物に比べて可愛いデザインの物が少ない。
「どどど、どうしましょう愛絵さん!?」
「そんなに焦ることでもないと思うけど……女性的にいは一大事ね。隣町まで行くのは面倒だし時間もかかるわ。うーん…………『サラシ』でも巻いてあげれば?」
「外見のアラビアンとのギャップがすごい!! で、でもないよりはマシですよね。グレモリー、ちょっとこっちに……」
期待させたグレモリーには申し訳ないが、いったんサラシで我慢してもらおうという結論を出し、件の悪魔を呼ぶ。
変わらずにんまりとした笑顔を浮かべるグレモリー……の両手には、とある『商品』が備わっていた。
『愛絵ったら、こっちの世界で暮らしてるのに、こんなに可愛いのがあること知らなかったのかしら? ホラ、ひらひらしてて可愛いわよ♡ サイズも……うん、ワタシにぴったりね!!』
体の前に下着を当て、サイズを確認する。彼女の言うとおり、依茉と愛絵が見てもぴったりだと思う。彼女のイメージに合っている黒もいいし、正反対であっても白も似合う。
似合っているし、サイズも上下ともによさそうだ。だが──ウキウキしているグレモリーには申し訳ないが。彼女の持っているそれらは、『下着であって下着じゃない』と言われそうなくらい過激なものだ。ぼかして言えば、『上も下も、秘部がもろに見えている』。
思わず、彼女にかけ寄って制止する。
「だめです!! これだけは絶対にだめです!! 残念ですけどこれは買えません!!!!」
「よく似合ってるのよ!? 似合ってるんだけどこれは完全にアウトだから!! アウトなやつだから!!!!」
『な、なにがだめなのよ? なにか問題があるの? 下着なんでしょ?」
一呼吸おいて。
「「だって先生/涼晴が……!!」」
夢中で悪魔を引き止めているときに出た、涼晴の名。考えているとこは二人とも同じなようだった。グレモリーがこんなセクシーな恰好で──もともと刺激の強い見た目してるけど──添い寝でもしたら、いくら涼晴であろうと彼も一人の『男』だ。何もないとは言い切れない。
同一の思考をしていたことに驚きつつも恥ずかしがっていると。突然、売り場の大人っぽさに似合わない、子供っぽい声が聞こえてきた。
「にゃははっ!! 文月 涼晴って、こーゆーの好きなの~?」
依茉たちがいるコーナーのさらに奥の棚から、金髪少女が顔を出した。
夏だというのにふかふかした黄色のニットを着ていて、左手にはアタッシュケースがぶら下がっている。右手には店の商品である、これまた刺激が強い『透けたベビードール』が備わっている。
子供がこんなところでなにをしているんだ、と思ったが、愛絵は彼女の容姿に聞き覚えがあった。百四十くらいの小柄な体型と、金髪のショートボブ。ニット姿に、ギラギラしたアタッシュケース。
「あんたまさか…………今富 嘉銭ッ!?」
今まで流れていた、いかにも彼女らの日常的な空気の流れが、一気にピリつく。とたん現れた女の名を聞いたとき、依茉も遅れてまゆをよせた。
今富 嘉銭──。その名はたしか、打騎から聞かされた。以前『美王 愛絵奪還作戦』を実行していた際、一時的に事務所を留守にしていた。その隙を狙って、彼女が侵入してきたところを打騎が追い払ったと聞いた。
子供のようだからといってなめてかかったらいけないと、彼に釘を打たれたのだ。
「せーいかーい!! 『左手の強欲』、今富 嘉銭ちゃんで~す!!」
「…………『超休日』といい、なーんでこういうほのぼのしたときに『闇企業』の人が出てくるんでしょうね」
……まったくもってその通りである。
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