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第五章24 『白は黒をまといて』

依茉が主人公なら涼晴がヒロインですね。その逆もあり得ますが。ではでは。

 破壊不能と思われていた封印の光は、蓮司(れんじ)のメスによる『一閃(ストラッシュ)』で多少の傷がつけられた。『絶抗衰(マキシマムフルメタル)超加工(・コーティング)』がほどこされているはずのメスでも、切断までいけないとは。




 神々が能力の設定を失敗したという、まさしく神のいたずらによって生み出された業物(わざもの)。それであっても傷をつける程度。最強の矛と盾といったところか。




 『裏社会(バックヤード)』では何が起こるかわからない。ゆえにこの傷が未知の力で消え、元通りに修復されてしまうことだってありえてしまう。この機を逃す手はないと言わんばかりに、依茉(えま)は最後の力を振り絞り、拳を打ち込んでいった。


 一発、一発。涼晴(すずはる)への想いをこめて。もはや気力でしか動かなってしまった腕を引き絞るたびに、全身にまで伝達する激痛を涙に変えながら。



「戻ってきてくださいっ!! 先生ーっ!!」









 ガツァァ…………ン!!









 少しだけ、今までよりも音が異なって聞こえた。『破壊不能』から来る絶望の音色ではなく、希望に満ち溢れた快音。明らかに、手ごたえが違った。



 いける──!! そう思ってもう一度、拳を後方にまで引き絞った時だ。



 烈音とともに黒い壁に亀裂が入っていき、途端内側から光と共に、四方八方へと爆散したのだった。



「きゃあっ!!」



 ドームに一番近かった依茉(えま)だけでなく、打騎(うつき)たちや『七福神』までもが風にさらわれ、数メートル後退する。何者かによって操られている歌澄(かすみ)のもとへも、爆風は届いていたようだ。


 右手で顔を隠すようにすると、指の隙間からシルエットが見えた。『見慣れたもの』と『見慣れないもの』が横に並んでいる。




 まるでライブの演出のように巻き起こった砂嵐がやむと、男女の声が『裏社会(バックヤード)』を震わせるのだった。




「「さぁ、世界を書き換えましょう!!!!」」




 純白の長髪と、女性のような顔立ち。細い体にはおっているのは亜麻色の薄いコート。見紛うことなどなかった。いや、あってはならない。彼は──『言葉を紡ぐ者(ノベリスト)』、文月(ふづき) 涼晴(すずはる)だ。



 依茉(えま)は、自分の疲れ切って動こうとしない両足にムチをうち、いち早く彼のもとへと走っていく。二人は思いきり抱きしめあい、お互いが今生きているということを分かち合っているようだった。



 涼晴(すずはる)に抱き着いて離れようとしない彼女は、声をあげて泣く。涼晴(すずはる)はそっと、赤い髪をなでるのだった。



「先生だ……文月(ふづき)先生だ……!! 夢じゃない……ですよね!!」


「はい、文月ですよ。心配をおかけして、申し訳ありません。少し遅くなりました」


「……大遅刻ですーっ!!」




 さらにぎゅっと力をこめ、小説家を抱きとめる。もう、決して離さない。話してなるものか。




「ったく……おっせぇんだよ、馬鹿野郎!! 本当にダメかと思ったじゃねぇかよ!!」


「…………おかえり、涼晴(すずはる)!!」



 打騎(うつき)は笑いながら軽く背中をたたき、愛絵(あいえ)依茉(えま)と同じく涼晴(すずはる)に抱き着くのだった。



「おーおー、涼晴(すずはる)のヤツモテモテじゃーん。びーは行かなくていいのかぁ~?」


「なッ……べ、別にいいし!! 羨ましくなんてないしー!!」


「こ~ら二人とも。感動のシーンが台無しよっ」





 涼晴(すずはる)が、帰ってきた。それだけでこんなにも喜ばれるのだから、彼は相当愛されているということが分かる。彼はドームに取り込まれた時に立ち込めた黒い濃霧(のうむ)は、皆の心からも荒野からも立ち去っていた。



 ところで……何かを忘れてはいないだろうか? 涼晴(すずはる)の帰還に喜ぶのはいいが、彼の隣でずっとほほえんでいる女性は一体何者なのだろう? アラビアンな服装をしているが、基本的に露出が多い。各所からのぞくつややかな肌は灰色で、間違いなく人間ではない。



「先生……その人は……?」


「あぁ、紹介しますね。悪魔のグレモリーです。わけあって、契約を結んだんですよ」


「はぁ~い♪ グレモリーよ。よろしく頼むわね」


「ど、どうも……ってなるかー!! ななな、なんですか悪魔って!?!?」


「えーと……長くなりそうなので、そういうものだと思ってください。それより今は……」





 動揺する担当編集の手をやさしくほどき、仲間たちをかき分けて前に出る。なごやかな雰囲気が瞬く間に消滅し、突き刺すような緊張感が立ち込めていく。


 彼が見つめるのはもちろん、実弟(じってい)である文月(ふづき) 歌澄(かすみ)だった。兄が帰ってきたことに対して、依茉(えま)以上にうろたえているようだった。



「ナルホド……。あの子が最初のターゲットってことね?」


「いいえ、違います。目を凝らしてよく見てください」


「む~……? アレはもしや……『伊邪那美(イザナミ)』ちゃん!?」





 グレモリーならば、あの『オーラ』の正体がわかるのではと踏んでいた涼晴(すずはる)は、「やっぱり」と思うのと同時にまゆを寄せた。




 伊邪那美命(イザナミノミコト)──。伊弉諾尊(イザナギノミコト)と共に日本を創造したとされる、いわば『創造神』である。日本においての歴史ならば、おそらく『七福神』よりも古い。そんな絶対的な権力を持つ伊邪那美(イザナミ)が、なぜここに。



「久しぶりでありんすね、ビッチ」


「ビッチはお互い様でしょ。ところで……一体なにをしているのかしら」


「見てわかるでありんしょう。遊んでいるんでありんす」




 ついに実体をあらわした伊邪那美(イザナミ)は、言葉遣い通り遊女のような姿をしていた。細長いキセルを手に持って、垂れた目でこちらを見つめている。



「人間というものは本当に愚かでありんす。まぁ、それが面白いんでありんすけどね。しばらくこの子の体は預かりんすね」



 一言も発さない──とうよりは発せないのだろう。うつむいたままの歌澄(かすみ)のほほにキスをして、さらに密着する。


 というかグレモリーといい伊邪那美(イザナミ)といい、神聖なイメージを持つものはセクハラをしないと死ぬ呪いにでもかけられているのだろうか。




 涼晴(すずはる)は彼女の声を聞くなりもう一歩前に出て、キレよく指を突き出して高らかに宣言した。




貴女(あなた)が神だろうが何だろうが、知ったことではありません。私の大切な弟をいいようにした……。貴女(あなた)が消える理由はそれだけで十分です。私とグレモリー、そして『禁忌全英書(きんきぜんえいしょ)』の力で、貴女(あなた)を倒してあげましょう!!」



 伊邪那美(イザナミ)および『七福神』たちから、驚嘆(きょうたん)の声が漏れる。『禁忌全英書(きんきぜんえいしょ)』、とな。まさかとは思うが、本当に力を手に入れたのか?


 『言葉を紡ぐ者(ノベリスト)』の抑制剤として使用したあのひとかけらが、まさかここまで大きなものへと発展するとは。幾多の戦場を踏んできた彼らであっても、これは全くの予想外の出来事だったようだ。



「主さん、おもしろうござりんすね。ぜひともあちきの物にしとうござりんす」



 本気で勝負する気になったのだろう。ついに彼女は歌澄(かすみ)の体を捨て、2本の足で虹の大地を踏んだ。キセルの先でくいくいとひっかくようにして、どうやら挑発をしているらしい。



「さて、と。私たちタッグでの初陣(ういじん)です。いけますか?」


「もちろんよ。だってワタシたち……()()()()()()()()()()()()なんだもん~♡」


「…………何言ってるのかよくわかりませんが、準備オーケーみたいですね」




 はしゃぎまわるグレモリーのせいで場は微妙にしまらなかったが、涼晴(すずはる)は左手に携えていた『禁忌全英書(きんきぜんえいしょ)』の表紙を開いた。


 するとどうだろう。『言葉を紡ぐ者(ノベリスト)』とは似て非なる神々しさを放つ光の文字が、渦を巻いて周りに浮遊するのだった。そして──




「『序文:白と黒をつなぐ者現れし時、世界と民に『救いの光(メシア・フォース)』が降り注ぐ』」




 小説家が悠々と音読を開始すると、文字はより一層輝きを増し、スポットライトのように依茉(えま)たちを照らし出した。


 一体何が起きているのだ。『裏社会(バックヤード)』では一切の回復手段がないはず。なのに、戦士たちの傷がふさがっていく。同時に疲労も解消したようで、依茉(えま)も今まで通りに動けるようになっていた。




「すごい……!! これが、『禁忌全英書(きんきぜんえいしょ)』の力……!!」




 流石、神が恐れた書物の力。今まで不可能と思われていたことすらも、可能にしてしまう。それが禁忌の力なのだ。




 ──さぁ、舞台は整った。英雄よ、あとのことは何も考えなくてもいい。思う存分、お前の弟を救うために、我が力を使ってみろ!!

面白かったらブックマーク、高評価や感想などよろしくお願いします!!マジで!!!!

Twitterアカウントもよろしく!! @kareha_henshin

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