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第五章18 『炎神の拳、悪魔の試練』

阿修羅の登場の裏で、恐ろしいことが起こり始めている……

 ゆらめく炎の海の中、『(ルーズ)』は人間の声でなげきながら、黒い体を蒸発させていく。中には地獄の業火に焼かれる苦しみを言葉にさせてもらえず消える者もいた。



 そんな地獄変、たった一人の女性が無傷でたたずんでいる。爆風にたなびく赤毛が美しい。



 しかし──彼女から発せられた声というのが、皆の知る依茉(えま)の声ではなかった。機械的に合成したかのような、元の声と誰かの声が一つになっている。



 簡単にいえば、『エコー』がかかっているようだった。





「『はははっ!! これはいい、久方ぶりに暴れられるぞ!!』」





 謎の声がミックスされた依茉(えま)の歓喜する声とともに、両てのひらから火炎弾が発射される。ちゃんと照準を定めているのかすらもわからないほど乱暴な手さばきだったが、みるみるうちに『(ルーズ)』の群れは消えていくのだった。



阿修羅(あしゅら)ァッ!! 貴様、何をしているッ!!」



 耐えきれなくなって、毘沙門天(びしゃもんてん)は大地に槍を突き立てて憤慨(ふんがい)する。他のメンツもなんとなく脳裏にあの炎神の姿を浮かばせていたようだったが、武神の一声で予想は的を射ていることが分かった。




 阿修羅(あしゅら)、と。そう呼ばれた、依茉(えま)の姿をした炎神は自慢げに振り返る。



「『ご無沙汰だな、腐れ貧乳神。こうして顔を合わせるのは……数百年ぶりだと思うんだが。おっと、今はこの人間の顔だったな。(わらわ)の美しい顔が見れなくて悲しいか~?」


「誰がお前なんかと再会したいと言った!! 早急にエマの体から出ていけ!!」


「『そう言われるだろうとは思っていた。だが、これはエマ自身が承諾したことだ、嘘はない。そして(わらわ)の責任でも何でもない』」


「だ……からって、やっていいことと悪いことがあんだろ!! 人間の器じゃ、神々の意識を受け止めることは不可能だ!! このままじゃエマの体が壊れちまうぞ!!」




 加勢するようにどなりつける大黒天(だいこくてん)。だが、阿修羅(あしゅら)は我(かん)せずといった様子で、遠方に向けて火炎弾を放つのだった。



「『ケチくさいことを言うな、やんちゃショタが。そも、エマは(わらわ)の『(かいな)』を装着することに成功している。並の人間には絶対にできないことだ。どこまで耐えられるかのお試しもとい、(わらわ)のストレス解消だ。それに、どうやら苦戦してるみたいじゃないか。(わらわ)は勝手に暴れてるから、テキトーに援護(えんご)を頼むぞ』」




 いつの間に彼女が隊長に就任したのだろうか。引きとめる彼らの声に振り向きもせず、嬉々として『上級』に殴りかかっていく。見た目は金鞠(かなまり) 依茉(えま)だが中身は阿修羅(あしゅら)ということで、バトルスタイルもがらっと変化していた。



 いつもは堅実に相手の弱点を突くような、アウトボクシング的な動きをとる依茉(えま)に対し、阿修羅(あしゅら)はまさしく暴力といった感じ。

 やたらめったら拳を突き出しては『(ルーズ)』を吹き飛ばし、頭突きをしたりまわし蹴りをしたり、しまいには首根っこをつかまえて地面にたたきつけるなんていう荒業も見せた。




 ボクシングというより、プロレスっぽい。




 やり方はどうあれ、彼女が参戦したことで戦況は一気にひっくり返った。黒の軍団によっておおい隠される様に見えなくなっていた歌澄(かすみ)のシルエットが視認される。


 彼は糸の切れた操り人形のようにぐったりとしていて──足は地についているようだった──、上半身を『紫のオーラ』が支えるようにして直立していた。



 そして、あろうことか彼にまとわりつくオーラは、見えていないのをいいことに大量の『(ルーズ)』を生み出していたのだ。



 ポップコーンがはじけるように飛び出す怪物は、どれも『上級』ばかり。




 『(ルーズ)』を生み出すという力は、阿修羅(あしゅら)にとって見覚えのあるものだった。記憶の中をたどって、一体だれが歌澄(かすみ)を操っているのかを探る。その間も機関砲のごとく拳を打ち出していたが、すぐに答えにたどり着いたようだ。



「『なるほど……()()、か。厄介なことにならなければいいが……』」



 肩をすくめて立ち止まる。やれやれと首を振るその隙を、『上級』は見逃さなかった。鋭い牙をむき出しにして襲い掛かる──直前に、『(ルーズ)』の首が飛んだ。


 その後も迫りくる黒を薙ぎ払っていったのは、黄金の三叉槍だった。戦いの神、毘沙門天(びしゃもんてん)



「『おやおや、助けられてしまったな』」


「勘違いするな。お前じゃなく、可愛い弟子であることエマを助けたんだ」


「『ふむふむ。これが俗にいう、ツンデレってやつか?』」


「う、うううるさい黙れ!! つるぺた三流女が!!」


「『なッ……!? わ、(わらわ)はつるぺたじゃないわ!! お前はAAA(トリプルエー)で、(わらわ)A(エー)だ。格が二つも違うんだよ!!』」


「どっちにしろ貧乳に変わりないだろ、脳筋神!!」


「『おっと、ついに自分が腐れ貧乳だという事実を認めたか!! それに、今の妾はE(イー)カップだ!! お前のようなちんちくりんには似つかないだろうな!! (わらわ)のような気高く気品にあふれた女にこそ、ふさわしい(ちち)だ!!』」


「お、お前!! それはずるいだろ!!」



 ……緊張感のなさこの戦場にミスマッチだったが、彼女らによって笑顔と活気が、再び舞い戻った。寿老人は声高く前進の命を下し、勇ましき戦士たちはみな武器と拳をかかげ、虹の大地を駆け抜けた。




 しかし妙だ……。このエマという女……ここまで(わらわ)の力を受け止め続けるとは。普通の人間ではないのか……? それに《金鞠》という性も、どこかで聞き覚えが……


~~~




「新人くんッ!! 皆さんッ!!」



 涼晴(すずはる)は顔を青ざめさせて、ドームの壁──だと思われる場所を凝視した。思わず立ち上がって、黒い壁に手をつく。どれだけ力をこめても、びくともしない壁の一か所に、長方形のスクリーン状に外の景色が映ったのだ。




 事の発端(ほったん)は、彼が外の状況が不安になってきたとつぶやいた時だった。涼晴(すずはる)とグレモリーしかいないこの空間では、お互いの独り言も鮮明に聞こえてしまうようで、グレモリーはすぐさま体をすり寄らせてきた。そして一言──







 ()()()()()()()()()()()()







 不安と焦りにかられて、あまり深く考えることはせずにすぐ始めてくれと伝える。するとグレモリーは魔方陣を書いたときのように指に口づけをし、漆黒の壁をなぞっていった。


 木漏れ日のように差し込んできた光に目を細めたが、一瞬とらえることができた炎を見て驚愕した。




 依茉(えま)が、戦っている。それだけが彼を驚かせたわけじゃない。みけんにしわが寄ったのは、彼女の力強い笑顔と、粗暴(そぼう)とまで言い表せてしまえそうなくらい激しい戦闘スタイルあってのことだった。



 依茉(えま)の戦闘に関しては、毘沙門天(びしゃもんてん)の次によく見てきた自信がある。ゆえに一目見て「依茉(えま)ではない」ことが分かった。




 もしかしたら……あの時、自分がたくした責任が、彼女をそうさせてしまったのかもしれない。




 あっているようで合っていない、つまりは誤解が生まれた。だが外の音が聞こえない涼晴(すずはる)はそこまで考えることができなかったので、すぐさまグレモリーの名を呼んだ。



「グレモリー!!」


「ん~? 何かしら? っていうかこれ、『MM号(マジックミラーごう)』みたいじゃない? もしかして『そっち』のお誘いかしら」


「何を言っているかよくわからないんですが……。そんなことより、『()()』です!! 今すぐ契約をしてください!!」



 悪魔は一瞬、彼の言っていることが信じられないといった感じで、口をぽかんと開けていた。だがおそらく涼晴(すずはる)の瞳の奥にたぎる、『覚悟』を見たのだろう。ぱあっ!! と表情が明るくなった。



「本当に!? 本当に契約してくれるの!?」


「本当です!! 今すぐ外に出ないと、きっと新人くんは壊れてしまいます……。そうなる前に、早く!!」


「うれしいわぁ!! まさか本当に契約してくれるなんて!! あーでも、そんなすぐにできるわけじゃないのよ」


「そ、そんな……」






 下唇を噛んで、肩を落とす。この時顔を上げたままだったら、グレモリーの『()()()()()』に気づけただろうにと、今になって思う。






 ……グレモリーは、気分を落とす彼を慰めるように、優しく頭をなでる。



「心配しないで。すぐにできないってだけで、実際十分くらいだから。それで何をするかってことだけど……まぁ、簡単にいえばテストみたいなものよ。悪魔と契約して、ちゃんと心臓を共有できるかとかを調べるの。でも安心して、ほとんど適合するから」


「そうですか……じゃあ、今すぐ始めてください。一刻が惜しい状況です」


「りょうか~い。じゃ、少し失礼するわね」




 グレモリーはそういうと、ぺしっと一つ、涼晴(すずはる)にデコピンをくらわせた。



 するとすぐに小説家は気を失い、死んだように眠ってしまうのだった。




 涼晴(すずはる)は消えゆく意識の中で、声を聞いたような気がする……。









「ほんと……かわいいかわいい、()()鹿()()()♡」








 ドームが再び漆黒に染まり、うじゅる……うじゅる……と粘液のしたたる音が内部を包んでいくのだった──

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