第五章16 『神々の誤測、吐血をすする』
グレモリーキャラ濃いな……
「「あ……ああぁぁッ!!!!」」
怒りの化身となった打騎と愛絵はどうもうにほえ、大地を蹴り飛ばした。豪とうなるバットと絵筆。だがそれも押し返すように、歌澄のてのひらから波動が放出される。
打ち返そうとバットを振りかぶった打騎だったが、彼が必殺のスイングを見せる前に波動は彼らを襲った。あの打騎が振り遅れるなんて、めったにないことだ。
「なによ……あれ!!」
ウィッチハットを飛ばされないように押さえながら、画家は目の前の景色に毒を吐いた。
何者かに操られているかのように、一言も発さず波動を放出し続ける歌澄。彼の背後から、先程と同じ数──いや、それ以上の『才能人』が群れを成している。大群の中にはちゃっかりと『負』も混在しているようだ。
二人をはじめ、『七福神』さえも驚かせたのが、軍団のメンバー。あろうことか、寿老人によって作り出された巨大な『扉』で送り返した者たちだったのだ。
洗脳状態は解除されていないようで、赤く光る瞳が、いくつもこちらに殺意を向けている。これにはさすがの『七福神』も、そろって表情を曇らせていた。
「上等だ、コラ。親友が戻ってくるまでの耐久戦ってことだろ。そっちかその気なら、オレらも喜んで引き受けてやる」
「そうね。だとしたら、ちょっと少ないんじゃないかしら? 悪いけど、あいつに託された以上本気で行かせてもらうわよ」
涼晴は確かに言ってた。あとは、頼んだと。それはきっと、依茉にだけ伝えようと思っていたのではない。ドームに飲み込まれる瞬間でも、彼の目は力強く、打騎たちをいちべつしていた。
はたして彼がそこまで考えていたのかはわからないが、今は都合よく解釈させてもらおう。そのほうが、殺意も湧いて出てくる。
「歯ァ食いしばれよ…………コラァァァァァァッッ!!!!」
一見して平然を保っているように見えた打騎だったが、やはり湧き上がってきた怒りは簡単に抑えられるものではなかったようだ。
それは愛絵も同じで、彼女は叫ぶことはしなかったものの、いつもより絵の具を装填する動作が乱暴だった。
素晴らしい友情を見た『七福神』たちは、一刻も早くこの惨状を解決しようと努力していた。だが……一向に糸口が見えてこない。
ドームを破壊すれば、理論上小説家は救出できる。問題は破壊方法だが、一つだけ確実なものがある。寿老人の、神通力による超爆破だ。
普段『宝船』を浮かばせている分の神通力も回収し終えた今なら、たとい強固な黒いドームでも破壊することができるという。
「…………じゃけんど、そうしたら最後、涼晴は……爆発に巻き込まれることになる」
「そんなんじゃだめだ!! じーちゃん、なんとか火力を抑えられないのか……!?」
「できることならとっくにしている。これが……現実だ。今日ほど自分の力の強さを憎んだことはない……!!」
「今は涼晴のヤツを信じて待つしかねぇってのかよ……。つーか、なんでこのドーム、黒くなったんだ……?」
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頬を舐めあげられた感覚が残留する中、涼晴はグレモリーに一つの提案を突き付けられた。
ソロモン72柱のうち56柱の悪魔である彼女と、契約を結ぶということらしい。いわく一番リスクが少ない方法であるという。
未だ涼晴の肩にあごを置いて、チロチロと舌を出している彼女の顔は、どこか狡猾さに染まったかのような笑顔を浮かばせていた。いかにも悪魔らしい。
そう──彼女はれっきとした悪魔だ。人間の苦しむところを見たいに違いない。だというのに、『最善の一手』を彼に伝えてくれた。グレモリーと契りを交わせば、彼女は涼晴の配下につくことになる。
涼晴の命令に従うことしかできないので、本来の力を開放して暴走する……なんてことはできない。易々と封印を解き放って世界に混乱を招くよりかは、間違いなくこちらの方がいい。
だが小説家がここまで頭を悩ませているのには、彼女がつけ足した条件が原因だ。その内容が──
「私の心臓を……?」
「そうよ。悪魔が人間と契約を結ぶには、両者が共存するための器が必要なの。昔は魂を触媒にしていたのだけれど……それだと人間側に負担がかかりすぎちゃうのよ。ワタシの友達も、それで主人を何人も亡くしているわ。契約した主人が死ぬと、ワタシたち悪魔も力が弱まっちゃうの。だから時代の変化とともに、両者をつなぐ者を心臓にしたってワケ」
「契約した場合、私の心臓はどうなるんですか……」
「説明した通り、共有物になるわ。最初の方は大丈夫なんだけど、心臓がワタシの体になじんでくると、存在が限りなく人間に近づくの。契約者と悪魔、そのどちらかが死ねば、もう片方も死ぬ」
結局、進める道が増えただけで、リスクは同等。雑な言葉でまとめれば、『人々の未来か、自分の未来か、どちらかを失う天秤』ということである。
自己を犠牲にして人々の未来を守るのか、周りのことは考えず、自分の正義を貫くのか。契約をするということは、そのどちらの可能性も秘めているということである。
グレモリーが人間の近づくのなら、涼晴が悪魔に近づくことだってあり得る。悪魔に魂を売った時、この手で大切な人を殺めてしまうのではないか。
涼晴は、奥歯を割れんばかりに噛みしめて、一人葛藤していた。
「大丈夫よ……ゆっくり、考えればいいじゃない……。《現在》を見つめてごらんなさい……」
彼のとげの生えた心をなだめるように、グレモリーは抱き着いたまま頭をなでる。暖かな対応に騙されるな。この選択を迫ったのも、すべてはグレモリーの仕組んだことである。
温かな手は本来、冷たくあるべきなのだ。
「無理に『禁忌全英書』を持ち出そうとしたら、貴女の封印ごと解かれてしまう……。貴女は『禁忌全英書』の力を飲み込んでいますから、その力で対抗できるとは限らない……。ならばこの身を削れと。この期に及んで、悪魔らしいじゃないですか」
「うふふ、それほどでも~」
「別にほめてませんけど」
いらついたようにグレモリーを振り払うと、立ちっぱなしで疲れたのかあぐらをかいて座る。すると、もう契約したかのようにグレモリーは這い寄ってくるのだった。
人が頭痛を患うほど悩んでいるというのに、よくもまぁリラックスできるものだ。ごろんと猫のように体を伸ばすと、無駄に上体をそらせる。手でつかんでもあふれでるほどだった、たわわに実った果実を故意に見せつけてくる。
「…………何してるんです?」
「ハニートラップって知らない?」
「興味ないですもん……。それに今興味があるのは……!!」
とたん、涼晴は地面をたたいて加速しながら立ち上がり、油断しきっていたグレモリーにとびかかった。
彼女の腰に備わっていた『禁忌全英書』を奪取することに成功。ずしりと響く重量のせいでその後の動きはかなり遅くなったが、これで目的は果たした。
彼は悩んでいるふりをして、一つの策を立てていたのだ。
「私の『言葉を紡ぐ者』に『禁忌全英書』の一部が使われているのなら、貴女と同じように力を吸収できるはずです。私がこれと一体化すれば、貴女と契約を結ばずとも『禁忌全英書』を私の物にできる!!」
今までの仕返しと言わんばかりに、キッとグレモリーをにらみつける。
しかし、グレモリーは焦る様子を見せるどころか、くすっと吹き出してから、爆笑するのだった。
「あっははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!! アナタってほんと、可愛いけどお馬鹿さんね♡」
パチン……。
それが絶望の音色だとも知らずに、涼晴は腹を抑えて転げまわる悪魔を、怪訝な表情で見つめていた。こわれた玩具のように、笑い続けるグレモリー。彼女の狂ったような笑い声が、体中に反響して。
「かっ…………!?」
突如、涼晴は胸をおさえて苦しみ始めた。自分の身に何が起きたのかわからない様子で、断続的に襲い掛かる『心臓の痛み』に悶えながら膝を地につけてしまった。
『禁忌全英書』が手から滑り、重い音を立てて落ちる。
その後を追うように──涼晴の口からは、鮮血が零れ落ちた。苺ジャムような粘性を持つ血塊が、ドポドポとあふれ出てくる。すぐに彼の前には血だまりができた。
「なに……を……!!」
「『禁忌全英書』の力を逆流させたのよ。所有権は今ワタシにあるもの、勝手に奪うことは許さないわ。それにしても、『七福神』もお馬鹿さんよね~、ワタシが『禁忌全英書』に吸収されるとでも思ったのかしら。残念だけど、ワタシの力にさせてもらったわ」
じ ゅ る り
唾液をたっぷりとまとわせた舌を出しながら、涼晴のあごを軽く持ち上げる。今にもキスをしそうだが、彼女は小説家のくちびるには目もくれなかった。
グレモリーが恍惚な表情で舐めたのは──吐き出された『血』だった。
じゅるじゅる、じゅるじゅる。
ずず、ずず、ずずず。
ぐちゃ、ぐちゃ、ぐちゃぐちゃ。
ごきゅ、ごきゅ。ごっくん…………。
ごくり……。
「んくっ……はぁ~……♡ すっごくおいしいわぁ……♡ もっと、もぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっと、飲ませて頂戴。いいでしょ、ご・しゅ・じ・ん・さ・ま♡」
主人の容態を気にすることなく、彼らの下にできた血だまりを両手ですくいあげる再び汚らしい音をわざと立てながら、すすり始めた。
血で顔を洗うようにして、べっとりと顔を赤く染め上げる。顔面の半分が血に染まった彼女の悦に入るような笑みは、トラウマのごとく涼晴の脳裏に焼き付いた。
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