第五章9 『小説家の消失』
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わあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ……
侍は気の毒そうに思って、目をつむってから顔をそらす。ニット姿の少女は、聞こえてきた悲痛な叫びに顔をしかめ、思わず両耳を塞ぐ。
『右手の殺意』天草 刃と『左手の強欲』今富 嘉銭は、共に崖から見下ろすようにして戦況の確認をしていた。『魂を叫ぶ者』文月 歌澄はどうやら、個人的な恨みでこの事態を引き起こしたらしい。
しかし壮大だ。仮に刃であったとしても、一人ではできないだろう。なぜ彼が、これほどまでに大規模な復讐劇ができているのかは、大方予想がついている。
「ねー、ちょっとかわいそーじゃない? 赤い子、泣いてるよ」
「……仕方のないことだ。これもすべて、須黒様のためだ」
彼らの雇い主である須黒 聖帝は、今の今まで横になって昼寝をしていた。よくもまぁ、これだけ戦火が飛び散る場所で安眠できるものだ。とは言うものの、彼の力は『禁忌全英書』と同等である。
超人的な力を持つ刃にしてみても、寝ていようが殺せる気が起きないくらい、威圧感があるのだ。自他ともに認める、絶対的な力だ。
そんな悪の帝王は、絹を裂くような悲鳴でようやく上体を起こした。ゆったりと場違いなあくびをかますと、
「あれ? もしかして一番いいシーン見逃しちゃったか?」
「おはようございます、須黒様。たった今、文月 涼晴が光に飲み込まれていきました」
「ちぇっ。昼寝するんじゃなかった……。それで? 涼晴は『禁忌全英書』の力を手に入れたかぁ?」
ニヤニヤと笑みを浮かべ、分かりやすく気分を高揚させる。だが、刃も嘉銭も、主人の言っていることの意味と、なぜ彼がこんなにも心を躍らせているのか理解できなかった。
「それが……未だ文月 涼晴は、光の中にいます。光も黒く変色して……」
そこまで言いかけて、刃は須黒がいぶかしげに黒いドームを見つめていることに気づいた。慣れた手つきでタバコに火をつけると、ようやく立ち上がって崖の端による。
「須黒様? どーしたの?」
「…………計画の成功率は、三十パーセントだ」
嘉銭のなめらかな金髪をなでながら、衝撃的な発言をする須黒。
三十パーセント。五十にも成功の可能性が達していないことに、『両手』は目を丸く、息をのんだ。いつもはフランクな態度の須黒が真面目なトーンになった時は、決まって本当に大切なことを話す時である。
「三十、パーセント……? 今まで、そのようなことは伝えられていませんでしたが……」
「そりゃな、伝えてないからな。今まではほぼ百パーセント、成功すると思われていた。だがこの状況は、俺の未来予想図にはない光景だ」
「それはどーゆー……」
「文月 歌澄が暴動を起こす。いや、誰であったとしても、『禁忌全英書』を狙うものが現れることは想像にたやすかった。そういう輩が出没したときは、お前たちに働いてもらうつもりだったよ。だが……まさか涼晴が、即座に力を手にできないとは思わなかった。説明したとおり、文月 涼晴の『才能』──『言葉を紡ぐ者』は、力の半分が『禁忌全英書』でできている」
それも大層な話だと。もう一度黒く濁ったドームを見下ろす。うじゅる、うじゅ、うじゅると、まるで生きているかのようにグロテスクな音を立てている。
涼晴が飲み込まれてしまっても、彼の仲間と『七福神』は、ドームを破壊しようとしている。
「素質はあった。器もあった。それでも、『禁忌』には届かなかったらしい」
「……七十パーセントが失われても、残りの三十パーセントにかけるしかないと」
「つまりは、そういうことだな。お前たちも一服つけろ。いつ涼晴が戻ってきてもいいように準備しておけ」
白い煙を吐き出して、元いた岩へと腰掛ける。彼に言われたとおり、二人も休憩を取ろうとしたその時、
「さっきから何をコソコソ覗き見てる」
幼い声が聞こえてきた途端、刃は能力を発動して黒刀を形成、すぐに中段に構える。嘉銭はアタッシュケースを左手にぶら下げ、止め具に手をかける。
いつの間にかそこには、長いピンク髪をツインテールにして、巨大を三叉槍をたずさえた武神が立っていた。
「貴様……ッ!! いつからそこに……!!」
「盗み聞きのほーがタチ悪いと思うんだけど~?」
臨戦態勢に入る『両手』。だが、須黒は余裕をもって彼らを制止するのだった。
「やめとけ、相手は神だ。……こうやって顔を合わせるのは、あの時以来かぁ? なぁ、毘沙門天」
タバコを足元に落とすと、思い切りかかとで押しつぶす。ぐりぐりと追い打ちをかけるように動かしていることから、そこそこ腹が立っているらしい。
「らしくないな、須黒 聖帝。さて、単刀直入に訊こうか。あれを引き起こしたのは、お前か?」
「そうだと言ったら?」
「『七福神』の名のもとに、お前たち『闇企業』を消す」
毘沙門天の声は非常にドスが利いていて、普段のわがまま幼女の雰囲気は完全に消滅していた。タカの目のように鋭くにらむと、力が入ったのか槍の柄頭が地面を割った。
肌から感じる殺気。だがそれをもろともせず、須黒は緊張を突き破った。
「残念!! 俺たちの計画は、奴に『禁忌全英書』の力を持たせることだ。こんな遅延行為、する意味ないだろぉ?」
「そうか。じゃあ、あれはどうして起こった? お前はかつて──『禁忌全英書』を手にする手前まで行ったんだろ。何が原因か、分かるんじゃないのか?」
『両手』も、須黒がそんなステージにまで上り詰めていたことを初めて知った。
それもそのはず、彼が昔話を嫌うので、『闇企業』結成以前のことを話してはくれないのだ。ただ、一つだけ教えられたことがある。それが、絶大な力を手に入れた結果、『老いなくなった』ということだ。
見た目年齢は二十代後半くらいだが、実年齢は五十歳らしい。彼が不老になったのも、『禁忌全英書』と何か関係があるようだ。
「はぁ……昔の話はやめてくれ。もう二度と後戻りができないのは、俺が一番わかってる。あの時の『声』に導かれるがまま、俺はここまで来たんだ」
「『声』……? 誰のだ、比喩じゃないな?」
「俺は……『禁忌』の声を聞いたんだ。『正義も悪意も、貴方次第』……。なら、俺は身に刷り込まれた『悪意』を信じる。『悪意』こそが『正義』なんだよ」
「そうか……やはり、お前はいずれ消さねばならない存在だ。しかし、それはどうやら私ちゃんじゃないらしい。私ちゃんの一番弟子は、必ず『正義』をとるさ。そしてお前を滅ぼす
パチン、と指を鳴らすと、まばたきをするかのように一瞬で姿を消してしまった。
黒いドームの付近には、毘沙門天の姿があって、こちらと目が合ったような気がした。
武神と須黒の会話を注意深く聞いていた天草 刃は、『過去』という言葉に肩を動かした。
『闇企業』結成時のこと、最も弱い能力を授かったこと、そして──すべてを手放し、剣士として己を鍛刀し続けた五年間のことを。
今富 嘉銭も同じく、須黒と出会ったときのことを思い出していた。人の醜悪さに享楽を感じていた時のこと、醜さがこびりついた汚い金に埋もれていた時のことを。
『右手の殺意』、『左手の強欲』が覚醒するまで。そこにはあのドームのような黒が似合う、壮絶な物語がある。
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