第五章7 『魂を叫ぶ者』
そんな戦い方するんかい!?
俺はずっと、一番だった。
学校の試験はずっと学年一位。好きじゃないけど、運動だって区のリレー選手に選出されるほど。学生時代はそんな調子だから、もちろん女子がすり寄ってきた。教師にも太鼓判を押されるような、優等生だったと言える。
そんな俺が恋したのは、ステージの上で野獣のごとく吠える、ロックシンガー。
心に決めたその日から、無理言って母親にギターを買ってもらった。コツコツやり続けるのは勉強と同じだったから、多分俺にはあっていたんだと思う。
なぜなら、俺は今オリコンランキングで一位を獲得するのが当たり前の歌手になったんだから。
「さぁ、今週はゲストに今ノリにノッてる天才シンガー!! 『Kasumi‐Sou』さんでーす!!」
これだよ。俺が受けるべきなのは、多大な賞賛と歓声。だってそうだろ、俺はずっと一位でいたんだから。こうじゃないと、居心地が悪いってもんだよな。
「どうも、『Kasumi‐Sou』です。あ、『Kasumi』で大丈夫ですよ」
「『Kasumi』さんね~。いやぁ、今超忙しいでしょ!? なんせ超絶人気のシンガーソングライターなんですからねぇ!!」
「ははは……。まぁ、生きてくうえでは忙しいのもアクセントになりますから」
「さすが!! 天才は言うことが違いますねぇ~!! 天才といえば……聞くところによると、『Kasumi』さんはあの人の──」
……その日の収録の記憶はない。あったとしても、おぼろげだ。
アイツのせいだ。俺のロックに、水を差すやつがいる。そもそもなんだ、バラードとかラブソングとかってよ。俺が目指すのはロックの頂点だ。アイツのせいで、イメージついてるだけじゃねぇかよ。
あぁマジで──殺してぇわ。
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「……おかしいと思わない?」
丈が長いとはいえスカートを履いているのに、あぐらをかいてふてくされている。手持無沙汰のようで相棒のホウキをなでるように、手入れをして時間をつぶしているようだ。
「おかしい……そうですか?」
OLは画家の言っている『おかしさ』というものが分かり兼ねるので、こちらは首を傾げた。あたりに『負』は見当たらないし、『才能人』もずっと眠っている。彼女らがやったことなので責任を持つ──というよりは、いつ起きるか不安なので見張っているという状況だ。
愛絵はどうやら、これがおかしいと思うのだという。
「たしかに、『負』と『才能人』の皆さんが共闘していたのはおかしいと思いますけど……」
「そうじゃないわ。増援よ、増援。涼晴の鬼気迫るような戦いぶり……『負』に向ける者としては正しい。でも数に見合ってないわ。それに、こんなに静かなのもおかしい。あいつらも戦闘終わってるはずでしょ?」
言われてみれば、たしかに静かだ。
男組と数十メートル離れているとはいえ、多少の戦闘音は聞こえてくるはずだ。今こうして耳を澄ましても何も聞こえてこないということは、あちらもひと段落ついたのだろう。
「また厄介ごとに首を突っ込んでないといいんですけどね……」
「あのバカ二人はあたし達がいないと、『無秩序』って言葉が似合いすぎるわ……」
それにしても『負』がやってこないことに驚いたが、二人は他愛のないことで笑いあった。だが、それも長くは続かなかった。
不意に耳に入ってきた音は、誰かの足音。
厚めのブーツで踏み歩くような音は、涼晴でも打騎でもない。それが分かった時、愛絵は依茉に近づいて、ホウキを構える。何か、嫌な予感がしたのだ。
「ギター、ケース……?」
特徴的な形をした、黒い革製の物は、愛絵がつぶやいた通りギターケースだった。背負われたそれにはジャラジャラと、太い鎖が巻き付けられている。
長い髪は金。ヘアカラー特有のひかりかたをしているので、地毛ではなさそうだ。シュッとした顔立ちから放たれる大人しさとは裏腹に、黒光りする革ジャンやベルトブーツといったファッションセンス。
虹色が支配する世界では、よりその黒さが際立って見えた。
「ロックが足りてねぇみてぇだな、お前ら」
「……あんた、何者?」
ぶっきらぼうに問いかける。すると革ジャン男はおもむろにギターを取り出し、
「Oh Yeah!! 俺の名は『Kasumi』!! 『魂を叫ぶ者』『Kasumi』だァァァァ!!」
轟雷のごとく響き渡るエレキギター。彼の演奏が始まる直前に現れたアンプから、鼓膜が破れんばかりの音が放たれる。衝撃波となって、周りの建物や岩などが砕けたり、爆発四散したりする。
あまりのうるささに耳を塞いだが、それでも幾分か鼓膜へダメージが与えられた。
「うるっさいわね!! 何がしたいのよあんた!?」
「そうだな……強いて言うなら、復讐?」
口元が歪んだのを確認したとき、依茉と愛絵はさらに嫌な気を感じ取った。
先程から続いていた静寂を切り裂くように、彼は現れた。その時点で、かなり不自然。誰の気配もしなかった岩陰から、突然ギタリストが出現したのだ。
何か──裏がある。そう思うに至るまでは、そうかからなかった。
「あなた……まさかこの騒ぎに関係あるの?」
「おぉ、察しがいいねぇ!! ただな、用があるのは文月 涼晴だけだ。悪いことは言わねぇ、大人しく道開けろ」
「せ、先生に用があるって……。この戦いを引き起こした人なんかに渡せません!!」
「そうかそうか!! じゃ、ロックに息の根止めてやるよ」
刹那、愛絵は自分の目を疑うようなものを視認した。いや、視認してしまったのだ。
『Kasumi』をとりまく、『紫のオーラ』。煙状になってまとわりつくその姿は、不定形ではあるものの人型のように見て取れた。一瞬だけ外界に姿を現すと、すぐさま『Kasumi』の体内へと吸い込まれていく。
愛絵だけじゃなく依茉も、これには見覚えがあった。仮面を無理矢理つけられて力を注ぎこまれ、命令に従って行動する操り人形。
『闇企業』の手先? ならば仮面をつけているはずだが……。
打騎の言っていたような、『赤い瞳』にもなっていない。これらから導かれる答えは、「この事案の首謀者」か、「『闇企業』の幹部」。
──どちらにせよ、ここで止める!!
「「は……ああああぁぁぁぁぁ!!」」
依茉は拳を引き絞り、炎をともす。愛絵は『青』を装填して水をしたたらせる。両者息を合わせて跳躍し、『Kasumi』に技を打ち出す。が……
ズガァァン!!
『Kasumi』はギター本体で攻撃を受け止めたのだ。いくらエレキギターとはいえ、彼女等の苛烈な攻撃の前にはただの物。受け止められるはずがなかった。
困惑する二人が見たものは、分厚い凶悪な刃。鼻につく、鉄の香り。
ギターのボディ側面から肉厚の刃が飛び出して、二人に勢いを殺してしまったのだ。彼の、ネックを両手で握りこむような持ち方。側面から顔を出した刃。
彼ギタリストではない。『両手斧使い』であるらしい。
「イィィヤハァァァァァッッ!!」
片手でぶん、とギターを振り回すと、軽く女性たちは引きはがされてしまう。彼女らの攻撃があたかも戦闘モードを呼び寄せるスイッチになったかのように。
『Kasumi』はギャンギャンと弦をほとばしらせ、あろうことか稲妻を発生させた。それを斧ではじき、野球のノックのようにして追撃をしてくる。
「依茉、飛ぶわよっ!!」
「はいっ!!」
「いいねいいねぇ!! ノッてきたぜBaby!! ヒャハアアアアァァァァァッッッ!!!!」
空をかけていく二人を追いかけるように、それこそ稲妻のごときスピードで疾走する。よくもまぁあのギターを担ぎながら走れるものだ。
それもそのはず、彼もまた『才能人』なのである。
彼は復讐と言う名目で、文月 涼晴の身柄を要求した。『憎悪』という、まさしく個人的な恨みを抱いた彼は、道を踏み外してしまったのだ。
今や復讐鬼となった『Kasumi』……いや、彼の本当の名は、『Kasumi』であって、『Kasumi』ではない。
いつも、いつも、いつも。彼の手にした栄光の目の前には、兄の名前が口にされる。自分だけのロックを兄の名で怪我されるのが、何よりも許せなかった。
「待ってろよぉ……文月 涼晴ゥ!! ガキの頃からの恨みぃ、ここで晴らさせてもらうぜェェェ!!」
彼の名は、文月 歌澄。文月 涼晴の──実の弟である。
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