表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/300

第五章6 『ロックンロールなヤツが来る』

また新キャラかよ!!

 『救命せし刃(セイヴ・セイバー)猪切(いのぎり) 蓮司(れんじ)はが立ち去ってから、涼晴(すずはる)は神妙な顔つきで、元居た場所へと引き換えしていた。


 だれしも仕事を楽しいと思っているとは限らない。外科医の言葉は、小説家の足取りを重くしていくのだった。



 たしかに彼の言う通りかもしれないと、頭の片隅で思考している自分がいる。『才能人(タレント)』はさておき、一般人ならばなおさら、蓮司(れんじ)の言葉に当てはまる人が多くいると思う。

 『社会の音』は総じて良質なメロディーだが、その音色は誰かの努力によって奏でられている。



 それが楽しかろうがつらかろうが、聞くものには判別がつかない。



 上司からの叱責は絶えず、それを改善しようとして他のことに手がつかなくなる。ノルマを達成しようにも、時間は刻一刻と過ぎていく。サービス残業待ったなし。



 そんな生活をしていたらいずれ倒れてしまうのは、涼晴(すずはる)でもわかる。だがそんな中でも『才能人(タレント)』として覚醒した彼らだからこそ、果たすべき使命があるのではないか。

 考えれば考えるほど、猪切(いのぎり) 蓮司(れんじ)は遠ざかっていく。



 細い道を抜けると、一気に荒野が広がった。戻ってきたのだ、戦場へ。先人に、なにかこの世の黒さを教え説かれた後だと、心持も大きく変わって──



「……何してるんです?」



 じとー。小説家が見つめる先には、上裸になってドラゴンフラッグをしている筋肉バカがいる。ただでさえ鍛え上げられた屈強なに期待を、さらに鍛えようとしているらしい。



「いつの間にここはトレーニング施設になったんでしょうね?」


「いやなに、待ちくたびれたからよ。試合も近ぇんだ、一秒たりとも無駄にはできねぇよ」



 ストイックなのか単なる馬鹿か。汗を吹き出す野球選手にあきれる中で、涼晴(すずはる)は少し、不思議なことに気づいた。




 なぜ、誰も襲撃に来ない? 来ないなら来ないに越したことはないのだが、いくらなんでも静かすぎやしないだろうか。依茉(えま)愛絵(あいえ)の女性組も数十メートル離れたところで戦っていたはずだが、音沙汰がない。


 愛絵(あいえ)の召喚した『グレイト・ベノム・ゴーレム』の巨体も、見えなくなっていた。



 もっと大勢いたはず。それをすべて、あの猪切(いのぎり) 蓮司(れんじ)が抹殺したのなら話は別だが。涼晴(すずはる)の聴覚が、一つの音をキャッチしたとき、彼は血相を変えて立ち上がった。



「まずい……打騎(うつき)!! 『光』です!! 『光』の方へ走ってください!! おそらく奴らは……!!」


~~~



 小説家の予想は、やはり的を射ていた。それと同時に、大きく外れていたともいえる。



 峠を一つ越えるくらいの距離を全力ダッシュして、ひらけた平野にたどり着いた時。ライブ会場のごとく歓声が沸き上がり、同じく鋼と鋼が打ち付けられる、まさしく戦の音が聞こえてきた。



 だが涼晴(すずはる)が予想していたその先は、意外にも問題として起こっていなかったのである。



「まさか……『七福神』!!」



 『才能人(タレント)』を鍛え上げ、守護し、『裏社会(バックヤード)』および現実世界に安寧(あんねい)をもたらすもの。あふれかえるような黒の中、ひときわ神々しい光を放つ彼らが、まさか降りてくるとは思わなかった。



 壱──黄金の三叉槍をふるう者あり。()ねと獄炎を合わせれば、黒はやがて光へと帰る。



 弐──打ち出の小づちが黒を砕く。指ではじくは大判小判。きらめく弾丸の前には、黒は浄化されていく。


 参──剛力、豪快。両刃の大剣が戦を制す。彼女の一撃の前には、どんな黒も膝を折る。



 肆──釣り糸が舞う。釣り竿がしなる。寄せては引く、波のごとく。鯛は場をかき乱し、黒を薙ぎ払っていく。


 伍──一つ、一つ、また一つ。琵琶を鳴らせば黒が爆ぜる。彼は一人、音楽を極めているだけだ。



 陸──拳と足。彼女に武器は必要ない。竜のごとく苛烈な連撃、力の波が黒を吹き飛ばす。



 漆──彼は歩みを止めない。彼の周りだけ時の流れが遅い。木杖が振るわれ、たちまち黒は無に帰す。



 毘沙門天(びしゃもんてん)大黒天(だいこくてん)布袋尊(ほていそん)恵比寿天(えびすてん)弁財天(べんざいてん)福禄寿(ふくろくじゅ)寿老人(じゅろうじん)



 『裏社会(バックヤード)』には強力な『才能人(タレント)』はごまんといる。だが、それより強いやつらがいる。彼らに任せれば、数千の軍団も軽くあしらえるのだ。



「スズ!! ウツキ!! ようやく来たな!!」


「遅れました!! ですが、増援は来ないかと!!」



 蓮司(れんじ)の助太刀もあって、遠方から来る『(ルーズ)』や『才能人(タレント)』はもう見えなくなっていた。第一依茉(えま)愛絵(あいえ)の尽力あってこその結果である。



 やはり『七福神』、強い。

 打たれ強さと勢いの強さもそうだが、一番は余裕の立ち振る舞い。この数を前にして、動じる者は一人としていない。



 いつもは親しみやすく、もう一つの実家のように感じさせる雰囲気ではなく、今ではこの身を任せても大丈夫なくらい、頼もしい。



「スズ君、エマっちはどないした?」



 片手間に発勁(はっけい)で『上級』を吹き飛ばした福禄寿(ふくろくじゅ)が、あの赤髪OLはどこかときょろきょろ見渡す。



「大丈夫ですよ、死んではいません。この場に彼女を出向かせるほど、私も鬼ではないので。あえてここに来るときに呼ばなかったんですよ」


「さっすが、デキる男は違うわ~。エマっちのこと大好きなんやね~」


「えぇ、もちろん。……おっと、第二波が来ますよ!!」



 ギャアギャアと、カラスのようにうるさくわめきたてながら、人と『(ルーズ)』がおしよせる。『才能』を与えた親が子を殺すことなど、あってはならない。なので、寿老人が力をふるうのだ。



 彼は目立たないものの、あの巨大船型家屋『宝船』を、たった一人の神通力で浮かばせているのだ。『宝船』を常時浮遊させているのは、『(ルーズ)』の侵入を防ぐためであり、永続的に神通力を放出しなければならない。



 なのでいつも力は抑えられており──それでも『七福神』の中で一番の実力を持つ──、大人しくしているのだ。



「久方ぶりの大仕事だ。腕が鳴る」



 カンッ、といい音を立てて、杖をうつ。すると、あろうことか前方の『才能人(タレント)』たちが、宙に浮かび始めたのだ。彼の重力操作により、倒すべき相手と無害なものとで分別されたようだ。



「行くぞ、スズ!!」


「はい!!」


「燃えてきたァッ!!」



 居ても立っても居られない戦闘狂に続いて、前衛が疾走する。ちなみに前衛は涼晴(すずはる)打騎(うつき)毘沙門天(びしゃもんてん)布袋尊(ほていそん)福禄寿(ふくろくじゅ)。後衛は大黒天(だいこくてん)恵比寿天(えびすてん)弁財天(べんざいてん)寿老人(じゅろうじん)


 後衛に関しては接近戦向きではない──できないわけではない──代わりに、優秀な飛び道具を持っている。前衛がいくらパワー・スピードに長けているとはいえ、狩り漏らしはある。そこをちょいとついてやれば、完璧な布陣の完成だ。



 そしてもう一人。去ったと思われていた男がやってくる。



「『解剖(スラッシュ)』」



 ヒュパパパパッ!!


 心地のいい切断音と風切り音。こんな芸当ができるのは、涼晴(すずはる)が知る限り二人しかいない。

 一人は『闇企業(ブラックきぎょう)』のメンバーであり、幹部の『右手の殺意』天草(あまくさ) (やいば)。そしてもう一人が、歩きながらメスをふるい、たったそれだけの動作で何十もの『(ルーズ)』を斬り倒している、猪切(いのぎり) 蓮司(れんじ)



「お……? おー!! おれっち史上最強の弟子が来たぞー!!」



 近接格闘も特異な大黒天(だいこくてん)は今までふてくされていたが、外科医の登場で一気に表情が明るくなった。しかし当の蓮司(れんじ)はポーカーフェイスを崩さず、辺りを黒い海へと変えていった。



「流石、天才外科医ですね」


「……俺は天才じゃない。そこに『(ルーズ)』がいる……俺がメスを握る理由は、それだけだ」



 『救命せし刃(セイヴ・セイバー)』の基本術式、『解剖(スラッシュ)』。その名の通り、メスを一振りするだけの技だ。だが、『絶抗衰(マキシマムフルメタル)超加工(・コーティング)』が施されている。彼のメスは、一体を斬り倒してもなお斬撃の威力を残す。


 一体を斬った衝撃で生まれた風に触れても、切り刻まれる。つまり、それがとめどなく続くのだ。だから一体だけを斬っても、周りの取り巻きも死んでいく。



猪切(いのぎり) 蓮司(れんじ)!! 地面をうがて、『才能人(タレント)』を外に送り込む!!」


「……はぁ。できることならやりたくなかったが。おい、若造……離れてろ」



 涼晴(すずはる)は彼から、とたんに殺気を感じ、言われるとおり数歩下がる。周囲に誰もいないことを確認し、蓮司(れんじ)はメスを地面に突き立てる。その時点で、十センチくらいの亀裂が入る。




 次の瞬間。




 彼の右手がスライドされると、地割れが起こった。その距離、約二百メートル。これはもはや、強いとかそういう次元じゃない。



 寿老人が浮かばせていた『才能人(タレント)』はそのまま降下していき、彼の力によって展開された二百メートル級の『(ゲート)』へと吸い込まれてしまった。



「俺も帰らせてもらう。定期健診の患者が来るんでな」



 自然に飛び降りて、彼も虹の渦へと吸い込まれていくのだった。


~~~



「ヒュウ♪ マジでロックだな、アイツら」



 長い金髪が風に揺れる。猪切(いのぎり) 蓮司(れんじ)の『一閃(ストラッシュ)』によって発生したものだろう。彼が見下ろす光景は確かに心揺さぶられるものだ。だが──



「足りねぇ!! 足りねぇなァ!! もっとロックを見せてみろォ!!」



 背負っているギターケースを乱暴に開け、人生の相棒を両手で支える。ピックで弦をはじくと、どこからともなく飛来したアンプから、エレキギターの旋律が奏でられる。



「見せてやるよ……俺様のロックをよォォォォ!! Yeeeeeeeeeah!!!!」



 稲妻のようにしびれる演奏は、涼晴(すずはる)にはまだ届かない……。

面白かったらブックマーク、高評価や感想などよろしくお願いします!!マジで!!!!

Twitterアカウントもよろしく!! @kareha_henshin

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ