第五章6 『ロックンロールなヤツが来る』
また新キャラかよ!!
『救命せし刃』猪切 蓮司はが立ち去ってから、涼晴は神妙な顔つきで、元居た場所へと引き換えしていた。
だれしも仕事を楽しいと思っているとは限らない。外科医の言葉は、小説家の足取りを重くしていくのだった。
たしかに彼の言う通りかもしれないと、頭の片隅で思考している自分がいる。『才能人』はさておき、一般人ならばなおさら、蓮司の言葉に当てはまる人が多くいると思う。
『社会の音』は総じて良質なメロディーだが、その音色は誰かの努力によって奏でられている。
それが楽しかろうがつらかろうが、聞くものには判別がつかない。
上司からの叱責は絶えず、それを改善しようとして他のことに手がつかなくなる。ノルマを達成しようにも、時間は刻一刻と過ぎていく。サービス残業待ったなし。
そんな生活をしていたらいずれ倒れてしまうのは、涼晴でもわかる。だがそんな中でも『才能人』として覚醒した彼らだからこそ、果たすべき使命があるのではないか。
考えれば考えるほど、猪切 蓮司は遠ざかっていく。
細い道を抜けると、一気に荒野が広がった。戻ってきたのだ、戦場へ。先人に、なにかこの世の黒さを教え説かれた後だと、心持も大きく変わって──
「……何してるんです?」
じとー。小説家が見つめる先には、上裸になってドラゴンフラッグをしている筋肉バカがいる。ただでさえ鍛え上げられた屈強なに期待を、さらに鍛えようとしているらしい。
「いつの間にここはトレーニング施設になったんでしょうね?」
「いやなに、待ちくたびれたからよ。試合も近ぇんだ、一秒たりとも無駄にはできねぇよ」
ストイックなのか単なる馬鹿か。汗を吹き出す野球選手にあきれる中で、涼晴は少し、不思議なことに気づいた。
なぜ、誰も襲撃に来ない? 来ないなら来ないに越したことはないのだが、いくらなんでも静かすぎやしないだろうか。依茉と愛絵の女性組も数十メートル離れたところで戦っていたはずだが、音沙汰がない。
愛絵の召喚した『グレイト・ベノム・ゴーレム』の巨体も、見えなくなっていた。
もっと大勢いたはず。それをすべて、あの猪切 蓮司が抹殺したのなら話は別だが。涼晴の聴覚が、一つの音をキャッチしたとき、彼は血相を変えて立ち上がった。
「まずい……打騎!! 『光』です!! 『光』の方へ走ってください!! おそらく奴らは……!!」
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小説家の予想は、やはり的を射ていた。それと同時に、大きく外れていたともいえる。
峠を一つ越えるくらいの距離を全力ダッシュして、ひらけた平野にたどり着いた時。ライブ会場のごとく歓声が沸き上がり、同じく鋼と鋼が打ち付けられる、まさしく戦の音が聞こえてきた。
だが涼晴が予想していたその先は、意外にも問題として起こっていなかったのである。
「まさか……『七福神』!!」
『才能人』を鍛え上げ、守護し、『裏社会』および現実世界に安寧をもたらすもの。あふれかえるような黒の中、ひときわ神々しい光を放つ彼らが、まさか降りてくるとは思わなかった。
壱──黄金の三叉槍をふるう者あり。去ねと獄炎を合わせれば、黒はやがて光へと帰る。
弐──打ち出の小づちが黒を砕く。指ではじくは大判小判。きらめく弾丸の前には、黒は浄化されていく。
参──剛力、豪快。両刃の大剣が戦を制す。彼女の一撃の前には、どんな黒も膝を折る。
肆──釣り糸が舞う。釣り竿がしなる。寄せては引く、波のごとく。鯛は場をかき乱し、黒を薙ぎ払っていく。
伍──一つ、一つ、また一つ。琵琶を鳴らせば黒が爆ぜる。彼は一人、音楽を極めているだけだ。
陸──拳と足。彼女に武器は必要ない。竜のごとく苛烈な連撃、力の波が黒を吹き飛ばす。
漆──彼は歩みを止めない。彼の周りだけ時の流れが遅い。木杖が振るわれ、たちまち黒は無に帰す。
毘沙門天、大黒天、布袋尊、恵比寿天、弁財天、福禄寿、寿老人。
『裏社会』には強力な『才能人』はごまんといる。だが、それより強いやつらがいる。彼らに任せれば、数千の軍団も軽くあしらえるのだ。
「スズ!! ウツキ!! ようやく来たな!!」
「遅れました!! ですが、増援は来ないかと!!」
蓮司の助太刀もあって、遠方から来る『負』や『才能人』はもう見えなくなっていた。第一依茉と愛絵の尽力あってこその結果である。
やはり『七福神』、強い。
打たれ強さと勢いの強さもそうだが、一番は余裕の立ち振る舞い。この数を前にして、動じる者は一人としていない。
いつもは親しみやすく、もう一つの実家のように感じさせる雰囲気ではなく、今ではこの身を任せても大丈夫なくらい、頼もしい。
「スズ君、エマっちはどないした?」
片手間に発勁で『上級』を吹き飛ばした福禄寿が、あの赤髪OLはどこかときょろきょろ見渡す。
「大丈夫ですよ、死んではいません。この場に彼女を出向かせるほど、私も鬼ではないので。あえてここに来るときに呼ばなかったんですよ」
「さっすが、デキる男は違うわ~。エマっちのこと大好きなんやね~」
「えぇ、もちろん。……おっと、第二波が来ますよ!!」
ギャアギャアと、カラスのようにうるさくわめきたてながら、人と『負』がおしよせる。『才能』を与えた親が子を殺すことなど、あってはならない。なので、寿老人が力をふるうのだ。
彼は目立たないものの、あの巨大船型家屋『宝船』を、たった一人の神通力で浮かばせているのだ。『宝船』を常時浮遊させているのは、『負』の侵入を防ぐためであり、永続的に神通力を放出しなければならない。
なのでいつも力は抑えられており──それでも『七福神』の中で一番の実力を持つ──、大人しくしているのだ。
「久方ぶりの大仕事だ。腕が鳴る」
カンッ、といい音を立てて、杖をうつ。すると、あろうことか前方の『才能人』たちが、宙に浮かび始めたのだ。彼の重力操作により、倒すべき相手と無害なものとで分別されたようだ。
「行くぞ、スズ!!」
「はい!!」
「燃えてきたァッ!!」
居ても立っても居られない戦闘狂に続いて、前衛が疾走する。ちなみに前衛は涼晴、打騎、毘沙門天、布袋尊、福禄寿。後衛は大黒天、恵比寿天、弁財天、寿老人。
後衛に関しては接近戦向きではない──できないわけではない──代わりに、優秀な飛び道具を持っている。前衛がいくらパワー・スピードに長けているとはいえ、狩り漏らしはある。そこをちょいとついてやれば、完璧な布陣の完成だ。
そしてもう一人。去ったと思われていた男がやってくる。
「『解剖』」
ヒュパパパパッ!!
心地のいい切断音と風切り音。こんな芸当ができるのは、涼晴が知る限り二人しかいない。
一人は『闇企業』のメンバーであり、幹部の『右手の殺意』天草 刃。そしてもう一人が、歩きながらメスをふるい、たったそれだけの動作で何十もの『負』を斬り倒している、猪切 蓮司。
「お……? おー!! おれっち史上最強の弟子が来たぞー!!」
近接格闘も特異な大黒天は今までふてくされていたが、外科医の登場で一気に表情が明るくなった。しかし当の蓮司はポーカーフェイスを崩さず、辺りを黒い海へと変えていった。
「流石、天才外科医ですね」
「……俺は天才じゃない。そこに『負』がいる……俺がメスを握る理由は、それだけだ」
『救命せし刃』の基本術式、『解剖』。その名の通り、メスを一振りするだけの技だ。だが、『絶抗衰超加工』が施されている。彼のメスは、一体を斬り倒してもなお斬撃の威力を残す。
一体を斬った衝撃で生まれた風に触れても、切り刻まれる。つまり、それがとめどなく続くのだ。だから一体だけを斬っても、周りの取り巻きも死んでいく。
「猪切 蓮司!! 地面をうがて、『才能人』を外に送り込む!!」
「……はぁ。できることならやりたくなかったが。おい、若造……離れてろ」
涼晴は彼から、とたんに殺気を感じ、言われるとおり数歩下がる。周囲に誰もいないことを確認し、蓮司はメスを地面に突き立てる。その時点で、十センチくらいの亀裂が入る。
次の瞬間。
彼の右手がスライドされると、地割れが起こった。その距離、約二百メートル。これはもはや、強いとかそういう次元じゃない。
寿老人が浮かばせていた『才能人』はそのまま降下していき、彼の力によって展開された二百メートル級の『扉』へと吸い込まれてしまった。
「俺も帰らせてもらう。定期健診の患者が来るんでな」
自然に飛び降りて、彼も虹の渦へと吸い込まれていくのだった。
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「ヒュウ♪ マジでロックだな、アイツら」
長い金髪が風に揺れる。猪切 蓮司の『一閃』によって発生したものだろう。彼が見下ろす光景は確かに心揺さぶられるものだ。だが──
「足りねぇ!! 足りねぇなァ!! もっとロックを見せてみろォ!!」
背負っているギターケースを乱暴に開け、人生の相棒を両手で支える。ピックで弦をはじくと、どこからともなく飛来したアンプから、エレキギターの旋律が奏でられる。
「見せてやるよ……俺様のロックをよォォォォ!! Yeeeeeeeeeah!!!!」
稲妻のようにしびれる演奏は、涼晴にはまだ届かない……。
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