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第五章3 『モノクローム』

オーバー・ザ・エボリューション!! ではでは。

 白と黒。違うところにいるようで、同じステージにいるもの。


 白は光の三原色において、『Red(レッド)』、『Green(グリーン)』、『Blue(ブルー)』を混ぜ合わせてできる。黒は色の三原色において、『Cyan(シアン)』、『Magenta(マゼンタ)』、『Yellow(イエロー)』を混ぜ合わせてできている。

 光と色で差別化されているが、両者色の頂点に君臨していることは間違いないだろう。



 だからこそ、彼らは対立している。混ぜ合わせたら、灰色になる。白ともとれるし、黒ともとれる。決着は絶対につけることができない。



 コートをマントのようにたなびかせる小説家と、黒一色で全身を包み込んでいる闇の王。彼らも白と黒として、相容(あいい)れない対立関係にあるのだ。



「こうして顔を合わせるのは久しぶりだなぁ。元気にしてたかぁ?」


御託(ごたく)は結構ですッ!! 『あれ』は……あの『光』は!! 貴方(あなた)が引き起こしたものなんですかッ!?」



 二十メートルは離れている両者の、ちょうど真ん中あたり。遠方に、まるでもう一つの太陽のごとく、まばゆい光を放つドームが見える。何百という距離があるはずなのに、直視ができないくらい眩しい。まるでマグネシウムリボンを燃焼させたときのようだ。


 毘沙門天(びしゃもんてん)が言うには、あのドームの中に、件の『禁忌全英書(きんきぜんえいしょ)』が封印されているという。本来ははるか上空、人間が視認できないところにあるらしいが、今はこの通り。何者かによって堕とされた。そう考えるのはたやすく、スーツ男を疑うのも仕方なかった。



「せーいかーい!! いやぁ、お前さんが力を手に入れるまでおじさん待ちくたびれたからさ。苦労したんだぞ~? なにせあんなデカいのは、今までにおろしたことなかったからなぁ」


貴方(あなた)の目的は……いったい何なんです!? 肩を持つ気は毛頭ありませんが、私が強くなったら、貴方(あなた)の目的は達成しづらくなるんですよ!?」


「ハッハッハッ……!! 相っ変わらず面白い人間だなぁ、お前さんは!! もしや『禁忌全英書(きんきぜんえいしょ)』の力を手に入れたら、俺を止められるとでも思ってるのかぁ? だとしたら甘い、思い込みという砂糖を入れすぎだな」


「何が言いたい……!!」


()()()()()()。お前がどれだけ力をつけようが、たとえ『禁忌』に手を染めようが、()()()()()()()。俺の目的は、すべての人間の『悪意』を手中に収めることだ。『禁忌全英書(きんきぜんえいしょ)』を手に入れたお前を、他の連中はヒーローだの救世主だのと(あが)(たた)えることだろうなぁ。せいぜい期待を背負って俺に挑んで来い。お前に乗せられた希望はあっという間に砕け散る!! お前が死んだ途端、連中は絶望する、泣きわめく、巨大な『悪意』の前に震撼(しんかん)するッッ!! ……ってことだ。つまり、お前さんは俺の計画の主人公であり、必要な犠牲ってワケだ。Do you understand?」



 須黒(すぐろ)が言い終わる前に、涼晴(すずはる)は姿勢を低くして大地を駆けていた。


 『禁忌全英書(きんきぜんえいしょ)』の力が練りこまれている『才能』を発動し、万年筆を引き伸ばす。吹き荒れる旋風に劣らぬ咆哮(ほうこう)とともに、巨悪を討ち滅ぼさんとする。だが、須黒(すぐろ)は一歩も退かない。それで、十分だから。




 グシャアッ!!




 耳を塞ぎたくなるような音は、涼晴(すずはる)が引き起こしたものではない。須黒(すぐろ)の水月まで、筆先はあと五センチのところで静止している。悪の帝王はほくそ笑み、分厚い刃の形に変態した『()』により、串刺しにされた小説家の肩をつかむ。突き飛ばすようにして引き離すと、バラの花弁が舞うかのように、鮮血が辺りに飛び散った。



「ぐ……あああぁぁッ!!!!」



 須黒(すぐろ)は意図して致命傷を与えなかった。それでも傷は大きく、深いことに変わりないのだが。


 今の彼にとって、涼晴(すずはる)を殺してしまうのは都合が悪い。計画の主人公がここで死んだら、元も子もないのだ。



「悲しいねぇ。いくら力をつけても、こうやって地に這いつくばることしかできないんだから」



 剣山のように鋭い針となった影は、どろりと融解(ゆうかい)して須黒(すぐろ)の足元に集まっていく。どうやら彼の影を操っていたらしい。

 涼晴(すずはる)とこうして相まみえることは、二回目になる。最初は時間を止められて──おそらく──、今回は影を武器にしての斬撃。いくら考えても、彼が身に宿している能力が分からなかった。



貴方(あなた)……その力は、いったい……!!」


「教えると思うかぁ? 若いんだから自分で考えろぉ。オーソドックスに闇を操る力? 不正解。最初に会った時椅子を作ったから家具を作る力? 不正解。じゃ、必然的に物を作る力も不正解だな。時間を止める力? 不正解!! さぁ、面白くなってきたぞぉ!!」


「あ……あアアァァッッ!!」



 残留する鈍い痛みなどそっちのけで、再度ダッシュする。遅くなるどころかさらに速度が上がっており、『才能』によって放出された光の文字も、渦のように激しく動き回っている。



 ここで止める。彼の思い通りにさせてはならない。ここで相打ちになって死んだとしても、周りの大切な人は生き続ける。それでいい。皆が自分の戦うする姿を見て絶望するくらいなら、今この場で、人知れず消えてしまった方がマシだ。


 空間が歪んでしまうほどの連撃を、須黒(すぐろ)はいとも簡単に避け続ける。ひらりひらりと軽い身のこなしで、あらゆる角度からの攻撃も防いでくる。



「血の気が多くていいなぁ、さすが若人といったところかぁ!! だが……!!」




 パチン。



 戦いのさなか、須黒(すぐろ)余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)といった調子でふるまっていた。このフィンガースナップも、涼晴(すずはる)の流れるような連撃をさばいているときになされたものだ。



 それが、すべてを終わらせた。




「な、ぜ……!!」




 喉から、あえぐような声を漏らす小説家。黒い瞳には、にやりと笑う須黒(すぐろ) 聖帝(せいてい)と、()()()()()()()()()()()()()()()()()()が映っていた。



 毒づいたとおり、なぜこんなことが起きたのか、理解できなかった。ただでさえ戦いの最中で集中しているというのに、目の前に立て続けに移り変わっていく情景にいら立ちを覚えた。おそらくは須黒(すぐろ)の仕業。



 『闇を操る』、『物を作る力』、『時間を止める力』に加え、『()()()()()()()()()()()()』とは。そんな反則級の力が、許されるわけがない。だが、彼は言っていた。「俺には勝てない」と。


 つまりはこういうことなのだろう。今に分かったことではないが、彼と小説家の間には、大きすぎる壁がそびえたっているのだ。



「な? これで気が済んだだろ? そして理解しろ。俺に挑んでくることが、どれだけ無様で無謀で滑稽なことなのかを」



 力強く胸ぐらをつかまれ、白は黒に引き寄せられる。あざけるような表情の黒、反抗するような表情の白。同じ人間でこうも印象が違うことも、なかなか珍しいことだと感じる。



「私は邪悪に屈することはありません。たとえ、先の見えない暗闇でも突き進んでいきます」


「ハッハッハ……!! いいぞ、これが『ヒーロー』ってヤツかぁ!! ところでヒーローさんよ。『あれ』はどうするつもりだぁ?」



 告げられ、一気に集中力が切れる。全身が脱力して、肺から古い空気が抜けていく。が、須黒(すぐろ)が『光』の方を見るようにうながしてくるので、意図は読めなかったが横目に確認すると──




 信じがたい光景が広がっていた。言葉ではまるで表すことができないような、大いなる絶望が全身に杭を打ち込んだ。



 半球状の『光』に向けて、()が移動してきている。ただ、その波は水ではない。人と、『(ルーズ)』だ。スポーツ観戦をしているような大ボリュームの雄叫びが、こちらの方まで届いてくる。



 彼らは……いったい何をしている? いや、もう分かっている。答えから目を背けているだけだ。





 『禁忌全英書(きんきぜんえいしょ)』を、我が物にしようとしている──。





須黒(すぐろ)……ッ!! 貴方(あなた)はどこまでも……ッ!!」


「おっとっと。この状況で俺を疑うのは分かるが、この騒ぎに関しては、俺は何の関与もしてないぞ。もちろん、『闇企業(ブラックきぎょう)』もな」


「じゃあ……あれは、いったい……」


「さ~ぁな。ここで俺を止めてもいいが、そうしたら『禁忌全英書(きんきぜんえいしょ)』は連中の手の中だ。この状況で俺と『禁忌全英書(きんきぜんえいしょ)』、どちらを選ぶのが得策か。お前さんならわかるはずだ」


「…………首を洗って待ってることですね。必ず、私は貴方(あなた)を止めます」


「楽しみにしてるよ。Ciao~♡」




 小説家は即座にきびすを返し、白髪(はくはつ)をたなびかせて疾走する。崖から飛び降りてから、『感動詞(かんどうし)』の爆発を利用して大きく空を駆けていった。

 その様子を須黒(すぐろ)は、一人タバコをふかしながら眺めていた。




「しかし妙だな……。『才能人(タレント)』と『負』が手を組むとはねぇ……。いがみ合う二つの勢力が、一つの『正義』となる、か。さてさて、ヒーローさん。大いなる『悪意』の前にどう立ち向かうか、拝見させてもらおうじゃないか」





 薄灰色の煙が、風に流れて消えていく。まるで、今後の未来を暗示しているかのような──

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