第四章13 『ツイン・プログレッシブ ~禁忌の前奏曲~ 2』
凸凹コンビの勇士をご覧あれ!!
「おい……おいっ!! こんなところでくたばるつもりか、涼晴ッ!!」
『裏社会』において、『才能』をどうつかおうが、四家家のように能力を違法開発しようが、即時回復の手段は存在しないとされる。他人を消す力すか持っていない自分を、ハクは心底呪った。
彼の悲痛な呼びかけに応えるように、小説家はゆっくりと腕を持ち上げて、血だらけの手でハクの頭をなでた。
「やっと……名前で、呼んでくれましたね……。私たち……ここから友達に……なれるでしょうか……いてて……」
幸い致命傷には至らなかったらしい。持ち前の反射神経によって、たとえ攻撃が見えなかったとしても、体をひねっていたようだ。上体を起こしてこちらも斬撃によってボロボロになった万年筆をもう一度手に取り、杖にして立ち上がる。
「敵の敵は味方じゃなく……今の私たちは、昨日の敵は今日の友のほうが、あっていますね」
「……ボロボロのくせして、おめでたい野郎だ。嫌いじゃねェけどな」
二人は笑みを浮かべて顔を見合わせると、軽く、しかし確かに拳を打ち付けた。意識がつながっていくような感覚が、全身をほとばしっていく。万年筆に青い波動が宿り、小さな竜巻のようになる。
「貴様ら……どこまでも私の邪魔をするつもりかァァ!!」
「貴方には侮辱する気は起りません。なぜなら、殺しますから。これは私たちの『合作』、とでも言っておきましょうか」
「四家 条白……お前を、消すッッ!!」
一人は愛した人の仇をとるため。一人は悲しき愛情に心を打たれ、それを守り抜くため。最後の力を振り絞って、もう一度走り出した。
なぜだろう。先程よりも足が軽い。戦闘は激しく、もう五分も続いていて疲労がたまっているというのに。万年筆も、いつもの半分くらいの重量しか感じられなかった。
あぁ、そうか。これが答え。虚空をまとった両手両足が軽いのは、隣に信じられる仲間がいるからだ。何度も、何度も、何度も。重く素早く攻撃を打ち込んでいくたびに、それが鮮明になる。厚い氷が溶けて、心に涼晴の温度が直に届く。
──ねーちゃん……。俺、これでいいのかな……。
──ハクなら、大丈夫。お姉ちゃんはいつでも、見守ってるから。
「「ら……あああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!」」
喉が焼ける。腕が引きちぎれそうになる。体に大きな、比重がかかる。だが、磨白はすぐそばにいる。ハクをさらに遠くに飛翔させる翼となり、同時に彼を導くのだ。
正しき『虚空』を筆に宿した涼晴は、不思議と涙を流していた。つらいからじゃない、この悲しい物語の救済に、自分も加われたことを誇りに思ったからだ。
烈火のごとき勢いで、四家 条白の体に攻撃を打ち込んでいく。無効化なんて、されるわけがない。友情が芽生えたもう一つの『虚空』が、悪に屈するわけがないのだ。
「ぬ……ううああぁぁッッ!!」
条白の操る『虚空』はどす黒く、清純なきらめきは失われているかのようだった。彼もかつて『虚空』の継承者だったため、こうして微量ながらも力を扱えるのだ。
しかし、何度拳を突き出そうと、眼前の若者たちはそれを防ぎ、痛烈なカウンターを繰り出してくる。
おかしい。何かが間違っている。『虚空』の復活にすべてをささげ、『四家』としての使命を全うしようとしていただけだ。なぜ、自分のせがれに裏切られるッ!?
「なぜ私の思い通りにならんのだ、白秋ッ!!」
「子供が全部、親の言いなりになると思うなよ!! テメェはもう親じゃねェ!! なら、これで気兼ねなくぶち殺せるってモンだァァァ!!」
「親は子の成長を見守り、模範であるべき存在です!! 自分の理想を押し付けて、子の自由を奪うなど、到底許されるべきことではありません!!」
振り抜いた万年筆と竜巻をまとった拳が、立て続けにクリーンヒットする。一打ごとに、条白は血のあぶくを吹き出し、ゴム人形のように体をくねらせた。
血だまりに膝をついてもだえているところを見逃すほど、彼らも甘くない。この旅は、ここで終わりを迎える。
「セェ……アアアアアアァァァァァァァッッッ!!!!」
「ツェ……アアアアアアァァァァァァァッッッ!!!!」
すでに動けなくなっていたのは、ハクと涼晴もだ。彼らを突き動かしたのは、正義ゆえの『負の感情』。
悲しく切ない一人の少年の、長い長い物語が、ここでいったんのピリオドを打たれることになった。
大の字になって溺れんばかりに血を吐き出している条白は、自分の体が軽くなっていくのを感じ取っていた。『虚空』に選ばれたものが死ぬと──虚空に消えてしまう。全身が薄青色の粒子になりつつあり、すでに指先などの末端の感覚が失われている。
「し……らあきィィ……!!」
もう、声を発することすらままならず、力が入らないため自然と声がかすれてしまう。使い物にならなくなった手の代わりに肘で上体を支え、震える手で若者二人を指さす。
「お前たちがいくら奮闘しようと……『虚空』は……『四家』は、不滅だッ!! こうして……『四家』のために死ねるのなら……本望!! お前たちが地獄にやってくるのを……心待ちにしているぞォォォォ……!!」
グハハハハハハハハハ……。
消えゆく中で狂笑する四家 条白の顔を、涼晴は忘れられないだろう。忘れたいと思っても、脳裏にこびりついて消えそうになかった。
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「終わったな……」
口内で転がしている水色の飴は、いつもよりも甘ったるく感じられた。ただ、もう一度取り戻してみると、べっとりと血液が塗りたくられ、マーブル柄に変化していた。
ぽつり、とつぶやいた時も、気づいていないだけで、多少なりとも血を吐いていたらしい。こうして血の味が感じられなくなって、飴の甘さが増して感じられているのは、やりきったという達成感に心が震えているからかもしれない。
十年前の自分が今の自分を見たら、どう思うだろう。正直、こうはなりたくないと思われて、最悪泣かれるだろう。そう思うのも、今の自分が思っているからだ。
登るべき山の頂上に立って旗を立てたが、これからどうしたらいい? 復讐だけに十年もの歳月を費やした自分に、これからなにができるのだろう?
「貴方は、これからどうするつもりなんです?」
ハクの心を読みすかしたかのように、小説家は柔和なトーンで、デニムジャケットの背中に問いかける。彼も同じく血まみれになって、普通だったら今頃横になっている。だが、弱さを見せたくないのか、いつものようにふるまって亡霊を心配させまいとしているらしかった。
「……逆に訊こうか。俺は……これから何ができる?」
「そんなの、決まってるじゃないですか。何でも、できるんですよ。どこからでも、いつでも、やり直せますから」
「…………クシッ。お前は、そんな奴だったな……………………ありがとよ」
「む? むむむ!? 今、ありがとうって言いました!? 素直になると案外かわいらしいじゃないですか」
「うっせばーか!! ねーちゃんに教えてもらった最初のマナーなんだよ!!」
仲がいいのか悪いのか。亡霊と小説家の物語はここで──
「そうでした!! この機会に、女性の体になってみてどうでしたか? メモしておきたいんですよ」
「……なんか、今書いてるのに必要なのかよ」
「いいえ? 今後ネタに使えるかもしれないので」
「そんな不確定なものに賭けられっかよ!! あ゛ー、やっぱテメェとは気が合わねぇ!! 大っ嫌いだ!!」
ぴくり。その言葉を真正面から受けた小説家は、突然セクハラ染みた行動をやめた。あまりに突然だったので自分が放った言葉が傷つけたのではと、ハクは不安になった。
が、小説家はぬうっと手を伸ばし、亡霊の肩をつかんで。
「安心しろ、俺もだ」
ひゅるる。ひゅるる。ひゅる、る。
そよ風を受けながら、去り行く小説家の背をじっと見つめていたが、彼の言葉の違和感に気づいたときには、もうそこに人の姿はなかった。
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