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第四章12 『ツイン・プログレッシブ ~禁忌の前奏曲~ 1』

サブタイキバっぽくね?ではでは。

 自動ドアが静かに開き、冷たい空気が全身に降りかかる。夏場の外回りは日光が激しく肌に突き刺さるので、苦痛でしかない。なのでこうして相手企業についた瞬間に浴びる冷気は格別。


 コツコツコツと、ヒールのかかとを鳴らして受付に向かう。彼女にとってこの商談は、若くして出世できるかもしれない大きなチャンス。そう思うと緊張したが、思い切って受付係にあいさつする。



「こんにちは。十三時からの商談の件で参りました」


「……商談? それなら先程いらしたの思うのですが……」


「…………え?」




 一時間前。


 四家家の周辺に到着した文月(ふづき) 涼晴(すずはる)四家(よつや) 白秋(しらあき)ことハクは、建物への侵入方法を相談していた。

 ハクは言わずもがな、四家(よつや) 条白(じょうはく)が血眼で彼を探しているため、たとえ四家(よつや) 磨白(ましろ)の姿であったとしても、間違いなく捕縛されるだろう。男尊女卑(だんそんじょひ)が激しい四家家ならば、なおさらだ。



 そこで便利なのが、『虚空(ホロウ)』の力の一つ、透明化だ。『虚空(ホロウ)』の開発者である四家家でも透明化を見やぶる技術はない──はずだ。


 最悪というかそうせざるを得ないハクはさておき、問題は涼晴(すずはる)。彼も透明化できればいいのだが、現実世界で『言葉を紡ぐ者(ノベリスト)』はあいにく使えない。



「どうしたものですかねぇ……。最悪、貴方(あなた)だけが乗り込んで片付けるっていう手もありますが」


「じゃ、今から俺らは敵同士だ。天国と地獄、どっちに行きたい? 特別に選ばせてやるよ」


「寂しいならそういえばいいのに……という冗談は置いておくとして。どこか裏口のような場所はないんですか? 腐っても貴方(あなた)、四家の人間でしょう?」


「あの監獄で二十年間生きてきた俺でも、そんなものは知らねぇ。だが、隙はある。特に今日の予定は把握済みだ」



 にやりと口角を吊り上げると、ハクはおもむろに右手を振って空間を歪ませた。意気揚々と手を突っ込むと、何かを勢いよく引っ張り出す。実は先刻『虚空送り』を利用すれば、涼晴(すずはる)も透明化できるのではないかという提案をしたのだが、恐ろしいことに生物が『虚空(ホロウ)』に入ると、問答無用で即死してしまうらしい。



 ──ハクが虚空から取り出したのは、涼晴(すずはる)も日常的に目にしている、とある服装だった。



「さっさと着ろ。商談相手に変装するんだ」



 ぐいぐいと衣装を押し付けてくるが、流石にこれは着れない。せっかく出してもらったのにすまないが、『O()L()()()』は無理だ、いくら涼晴(すずはる)と言えど恥ずかしすぎる。



「なぁーんでOLなんです!? 私が女性に見えますか!? これなら貴方(あなた)が着ればいいじゃないですか!!」


「馬鹿言うな。お前最初に行ったよな、困ってんなら手ェ貸すってよ」


「ぐっ……。た、たしかに言いましたけれども……!!」


「わかってんならつべこべ言わずに着ろ!! 早くしねぇと本物が来るだろうが!!」




 ……紆余曲折(うよきょくせつ)を経て、『()()()()()O()L()』に変装した涼晴(すずはる)は、男としての沽券(こけん)を失う代わりに、四家家への侵入に成功した。建物内は表向きではIT企業というだけあって、ちゃんとした会社だった。



 防犯カメラの話題の通り、廊下にはよろしく最新技術のカメラが取り付けられていた。カモフラージュ性が高いのが魅力で、怪しまれることなく設置ができる。今の彼らにとっては、その利点がかえって厄介な点になっていた。そのため着替える暇がなかったので、三階につくまで女装しっぱなし。

 顔から火が出るというのは、多分こういうことを言うのだろう。



「ここからは本来、四家の名を持つものしか入れない場所だ。気ィ引き締めろ」


「この恰好のせいでずっと引き締めっぱなしですよ……。っていうか胸パッド入れる必要ありました!?」


「よーく見れば男に見えるだろうからな。多少なりとも胸があった方が、やからの目も騙せるってもんだ」


「ヒールは歩きづらいですし、タイトスカートはスース―して落ち着かないですし……。もう脱いでいいですか?」


「はやくしろ、死にたくなけりゃな」



 改めて女性の大変さや苦労を身をもって体験した涼晴(すずはる)は、待ってましたと言わんばかりにいつものコート姿に戻るのだった。

 ハクはカードキーを取り出し、重厚な扉の非接触型カードリーダに読み込ませる。すると重々しい開錠音とともに扉が開いた。



「行くぞ」


「はい!!」



 小説家と亡霊は閃光のごとく、一気に雰囲気が変わった三階を駆け抜けていく。この度の終着点はである四家(よつや) 条白(じょうはく)はいつも最上階にいるということは事前に聞いていた。案内はハクにまかせ、心の準備だけしておく。

 青白の嵐が最上階に到着するまでにに、人は見当たらなかった。何か違和を感じるところはあるが、ハクは構わず扉を蹴破る。



 豪華絢爛(ごうかけんらん)。その一言で表すことができないほど、ゴージャスな装飾。走ってきた通路のお化け屋敷感がある薄暗さなど、一切感じさせないくらい。


 大広間というよりは、集会ホール。力強く圧力をかけてくるような広い空間いっぱいに、パイプオルガンが奏でる荘厳(そうごん)な旋律が響き渡る。




「ク……ソ親父ィィィィアアアァァァァァッッッッ!!!!」




 野獣の咆哮のような裏返った絶叫が、音色をかき消して静まり返らせる。パイプオルガンを弾いているターコイズ色をした髪の男が、どうやら四家(よつや) 条白(じょうはく)らしい。亡霊の怨念が込められた方向を背に受けると、演奏をやめて身をひるがえした。



「飛んで火にいる夏の虫とはまさにこのことだな。あの醜い女の姿になってまで、ここに来るとは。わざわざ死にに来たのか」


「死ぬのはテメェの方だ、四家(よつや) 条白(じょうはく)!! 四家家は俺が潰すッ!!」



 臆することなどなかった。過去の恨みをこめるだけで、クズ男に反抗する力は自然と湧いてくる。今の自分は四家であって、四家じゃない。負の連鎖は、自分だけで止める。



「できもしないことを言うな。……ほう? (かも)(ねぎ)を背負って来るとはまさにこのことだ。まさか『禁忌の鍵』自ら出向いてくれるとは!!」


「残念ですが、私は貴方(あなた)に協力するつもりはありません。貴方を……倒します!!」


「ク……ハハハハッッ!! 出来損ないの能力者と『才能人(タレント)』ふぜいが、私を止められるわけがない!!」



 ガツン!! とかかとを踏み鳴らすと、幕が上がった。ステージに立ち並ぶは、両手足にかせをつけられ、身動きが取れなくなっている女性たち。条白によってつけられたと思われる傷が目立つ体で、今まで歌っていたようだ。



「『()()()()()()』ッッ!!」



 もう一度ステージへ振り向くと、彼女らに向けて両手を突き出す。すると空間が大きくゆがみ、計十名に女性は一瞬にして消えてしまった。これが、『虚空送り』を人間に使用したときにおこる現象だ。



 刹那、ホールが白い光に包まれていき、見覚えのある世界が目の前に広がった。その速度はわずか三秒。『(ゲート)』をくぐるように、『裏社会(バックヤード)』へと転送されたようだ。


 しかしなぜ。四家家周辺には『(ゲート)』の反応はなかったはず。『裏社会(バックヤード)』経由で最上階まで行けないかと提案したが、出口になる『(ゲート)』がないことから却下されたのだ。条白(じょうはく)との間には二十メートル以上の距離があったはずだ。小説家が知る限り、そんな大きさの『(ゲート)』は見たことも聞いたこともない。



「素晴らしい技術だとは思わないか? 人間の感情をエネルギーとして活用し、『裏社会(バックヤード)』に限りなく次元が近い虚空を接続することで、どこにいても『裏社会(バックヤード)』へと入ることが可能になった。まぁ、代償として十人くらいの生命ごと消し飛ばす必要があるが、幸い使える人材は有り余ってるからな、困ることはない」




 男の発言が、戦いの火ぶたを切った。割れんばかりに奥歯を噛みしめ、なおも愚かな行為を繰り返す男に対する怒りで震えていた。それが、ついに解き放たれた。人の命を軽んじる男に、負けるわけにはいかない。


 煮える怒りはなるべく口から漏らさずに、ガソリンとして全身に駆け巡らせる。大地を蹴り飛ばす力で虹が抉れ、並走する青と白の閃光は、まさしく悪を討つ矢となって襲い来る。

 条白(じょうはく)が展開した不可視の盾は、無情にも苛烈な勢力を弱めていく。だが──



「ク……ソがあああッッッ!!!!」



 もう一度、体重をかけて押し返す。虚空と虚空が触れ合い、見えないガラス片となって崩壊する。すかさず小説家は万年筆を突き出し、魔の王を討ち滅ぼさんとする。しかし失念していたことがある。

 『虚空(ホロウ)』は、『才能』の力をかき消すということだ。



「ぐっ……!!」



 バリアはないはずなのに、涼晴(すずはる)の刺突はまるで鋼鉄を相手にしているかのように突き刺さることはなかった。



「お前を消せば、『禁忌』は私のものとなるッ!! 全ては『虚空(ホロウ)』復活のためにィィ!!」



 万年筆が弾き飛ばされて体勢が崩れたところに、条白(じょうはく)は容赦のない虚空の斬撃を打ち込んでいく。


 瞬時に血の雨が降り注ぎ、真っ赤になった小説家は空に弧を描いて飛んでいく。受け身をとれるはずもなく、背中から着地する。ゴキ、と嫌な音が聞こえ、ハクは思わず彼に駆け寄った。

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Twitterアカウントもよろしく!! @kareha_henshin

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