第四章10 『ホワイティブ・パレヱド』
ストックなくなった。やばい。ではでは。
いわく、『四家家』が独自かつ秘密裏に開発した能力『虚空』は、現実世界での使用が可能らしい。
理由は至極単純、能力開発が現実世界で施行されたからだ。能力の大部分を形成しているのは『裏社会』由来の感情の力だが、それも『負の感情』により近いものが使用されているという。
現在『虚空』を継承しているのは、第128代目である四家 白秋。彼──今の姿では彼女と言った方が適切だが、中身はそのまま白秋なので彼とする──は、その力を受け継ぐために幾多もの試練を潜り抜けてきたらしい。
「遠足じゃねェんだぞ、バカ小説家が。いくらでも『虚空送り』できるとは言ったが、なんでも入れろと言った覚えはねェ」
「そんなケチくさいこと言っていると、女の子にもてませんよーっと。器は大きく深く、です」
「お前にだけは言われたくねぇな、バカ小説家」
文月 涼晴と四家 白秋は、『禁忌』の力を悪用しようともくろむ『四家家』を崩壊させるため、身支度といった準備を始めた。白秋は虚空にものを転送し、好きな時に取り出せる通称『虚空送り』という芸当ができるため、不本意ながらも涼晴の荷物も入れることにした。
しかしこの小説家、遠慮を知らないらしい。財布、携帯電話など戦闘時に邪魔になるものを預けるのは分かるが、なぜ一週間分物着替えを詰め込んでいるのだろうか。しかも詰め込めるのは白秋なので、割とつかれたし傷が痛んだ。
「髪も青いし、某国民的アニメの猫型ロボットみたいですね~」
これから醜い復讐の旅に出かけるというのに、なんてのんきなのだろう。一周回って尊敬したい。たとい東京スカイツリーを『虚空送り』にしたとしても──限界は一般家屋程度──体にかかる負担は皆無なので、その点に関しては文句ない。
「オイ、赤毛の女。コイツ、いっつもこんなカンジなのか?」
「へ、平常運転です……」
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決戦は今日を含めて二日後。千葉県千葉市美浜区の海沿いにある、五階建ての白い建物が終着点だ。四家家は表向きではIT企業として名をはせているのだが、裏では『虚空』の開発を行っているトンデモ組織らしい。言い方は悪いが、その実験体になったのが、白秋というわけだ。
事務所を出てから歩いていく中で、涼晴は度々、隣を歩く少女を見ていた。
彼女──四家 磨白という少女の姿をした四家 白秋は、今何を思っているのだろう。『虚空』に適合するために人生を狂わされ、その道中で最も愛した存在を亡くした。彼はそう説明してくれたが、まだ不透明なところはある。
「オイ、何じろじろ見てんだ。お前から消されたいか?」
どうやら、知らぬ間に視線が彼へと固定されてしまっていたらしい。彼はキッと涼晴をにらみつけ、あろうことか右手に『虚空』特有の青い波動をちらつかせている。幸い昼の交通量の多さであっても、不審に思われることはなかった。
「いえ、遠慮しておきます。……思ったんですよ。私は、貴方のことを完全に理解したわけじゃないと」
「テメェに俺の昔話をして、何になるっていうんだ?」
「言ったでしょう? 不本意ですが、私と貴方は今協力体制にあるんです。私は貴方を知りたい。知れば手を伸ばすことができるかもしれません」
服装がいつもと違うせいだろう。白秋はフードを被ろうとうなじの辺りをまさぐったが、そこには何もなく、つかめたのは長い青髪だった。気恥ずかしさと複雑な心を紛らわせるために、いつもより手荒く飴を咥えた。すると彼は、よりアンニュイな表情になり──
「『四家家』は『虚空』を開発して初代が『自由主義者』になってから、掟が定められた。能力を継承することができるのは、男だけだと。男尊女卑が、今の時代まで能力と共に受け継がれてんだよ。本当なら、俺は能力者になる必要はなかった。なぜなら……姉の磨白がいたからだ。だが、掟が優先されて、おふくろは無理矢理孕ませられた。女の扱いなんてな、四家じゃそんなもんだ」
「……磨白さんは、殺されたと聞きましたが。そこまで非人道的な……」
「いや。男が上位に立っていると言っても、なにも女を殺すまではいかない。せいぜい二十歳になったら強制的に家を追い出されるってだけだ」
白秋が語る『四家』は、まるで別の世界を生きているように感じられた。2065年では完全に撤退した男尊女卑が、今でも残留しているという。同性カップル及び結婚すらも認められているというのに、『四家』は古い時代に取り残されているらしい。
「じゃあ……なんで磨白さんは……」
「…………掟を、破ったからだ。これ以上ないほど、簡単で下らねぇ理由だ。掟は決して一つじゃねぇ。星の数ほどある中での一つ……『能力適合の邪魔』をしたからだ。『虚空』を体に適合させるためには、最低限努力をしないことが必須条件。ゆえに俺みたいに能力者となる使命を持った人間は、こちらがどれだけこばんでも隔離されて生活することになる」
一層、白秋の表情が険しく変化する。犬歯と水色の飴がこすれあい、耳障りな音が小説家の耳にまで届く。咥えたばかりだというのに、軽快な音と共にかみ砕いてしまう。ガラス片のようになった雨は風にまかれ、空しくアスファルトに散らばってしまう。
「磨白は掟を無視して、俺を外に連れ出した。そりゃ楽しかったさ、なにせ生まれてからその日まで、全力で走ったことなんてなかったからな。草原でずっこけてできた傷も、なんだか誇らしかった。その時まで、自分を人間だと思ったことはなかった。俺が人間だってことを教えてくれたのは、間違いなく磨白だった……。でも、そんな生活は一週間と続かなかった。ある日俺は体中に電極を貼り付けられ、『虚空』との適合数値が割り出された。それが、地獄の宣告だった。たった五日だ、たった五日俺が遊んだだけで、数値は正常値の10倍に引き上げられていた。クソ親父は怒り狂って俺を閉じ込め、ねーちゃんを縛り上げて……なぶり殺しにした」
──やめてよっっ!! ねーちゃんが死んじゃうっっ!! あけてよぉぉぉっっ!! あけてよぉぉぉぉぉぉぉ……!!
ぐちゃ。 ぐちゃ。 ぐちゃ。 ぐちゃ。 ぐちゃ。 ぐちゃ。
「…………俺は助けられなかった。二十センチの厚みもない扉すら、蹴破れなかったんだ。そして俺は心に決めた。たとえこの憎い力を利用してでも、最も憎い男を殺すと。お前の『禁忌の鍵』を奪おうとしたのも、すべては復讐のためだ」
心の支えになってやれるかもしれない。
そんな程度の淡い覚悟では、手に負えないと確信した。しかし同時に彼に悲惨すぎる過去を知らされ、『四家』に対する怨嗟が巻き起こった。濃度は違えど、並行して歩いている二人の気持ちは限りいなく同じ答えに近づく。『四家』の負の連鎖を止めると。
一つの物語を読破し終えたような、心の躍動と疲労感がずしりとのしかかる。電車などの公共交通機関も利用し、やっとのことで千葉県入りを果たした。
涼晴は何度か足を運んだことがあるので、変に迷ったりはしなかった。
だが、なぜか白秋の方は落ち着かない様子で、頻繁にスカートのすそを直したり、前髪をいじったりしている。
「お手洗いならあちらにありますが?」
「急に何言ってんだ、お前。今はいい」
「そうですか。なんだか落ち着かない様子でしたので、女性の身体でやりなれていないからはずかしいのかと思っていましたけど、大丈夫みたいですね」
「頭おかしいんじゃねェのか、お前。天才小説家が聞いてあきれるぜ。あのな、よく考えろ。決戦地が千葉にあんなら、クソ親父が目ェ光らせてる可能性だってあるだろうが。幸いっつーかなんつうか、この姿だしよ。できるだけ女っぽくしてたんだよ」
女性っぽくふるまいたいのなら、まずはその口調から変えたらどうかと言いたいのを、涼晴はぐっとこらえた。苦笑する中で、彼の言っていることが本当に起こりえることならば、どうしたものかと頭をひねっていた。
見つからないようにする=身を隠すことなので、ひとまずはどこか宿泊施設に身を置くことにしようか。
なおもぎこちなく彼なりの女性らしさを続けている白秋の肩をたたき、今後についての相談を始める。人流の多い駅なので、立ち止まっている最中に見つかる心配はなさそうだ。
「見つからないためにも、やっぱりホテルにいた方がよさそうですね」
「珍しいな、お前と気が合うなんてよ。そうと決まったら、さっさと行くぞ」
見張りや偵察がいないことを確認し終え、亡霊と小説家は街に溶けていく……
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