第四章8 『傷だらけのスカイブルー』
遅くなりますた!! すいません!! ではでは!!
なんでこんなことをしているんだろう?
考えれば考えるほど、自分がしている行動の意味が分からなくなってくる。他人に喜ばれることをするのが『才能人』である者の使命だが、それとこれとは話が違う気がする。涼晴の目の前でぴょんぴょん飛び跳ねて、全身で喜びを表しているのは毘沙門天だ。
他人、と言っていいのかわからない。こんななりをしているが、一応神である。
「なんで私がこんなことを……」
「そりゃお前、エマにじゃんけんで負けたからだろ」
さかのぼること三十分前。天門 萌として事務所に現れた毘沙門天は、「新作のアダルトゲームが欲しい」とかいう、常軌を逸した要望を突き出してきた。涼晴も依茉も、勢い良くコーヒーを吹き出したのは言うまでもない。
いい加減布袋尊あたりに一緒についてきてもらって買えばいいのにと伝えたのだが、どうやら彼女にバレるともれなくお説教を受けることになるらしい。分かっているなら巻き込まないでほしいと、口には出さなかったが切実に願う小説家たちだった。
結果どちらがゲームを買いに行くのかをじゃんけんで決めることになり、見事に涼晴は敗北したのだった。いわく勝利したOLからは、「こういう場面でじゃんけん負けたことない」という。羨ましいようなそうでもないような。
『才能』を剥奪されるのはなんだかんだ嫌なので、大人しく従っておいたが、精神的ダメージが物凄い。自分の娯楽のためにも買ったことがないのに、誰かのために購入するとは。そりゃため息も出る。
「ぬへへへ……。アイちゃんのあられもない姿がまたみられるぞー!! あ、スズはもう帰っていいからな。それともアイちゃんとおにーさんのちょめちょめを」
「帰りますそうします失礼します!!」
すぐさま踵を返して、アダルトゲームに没頭する幼女から離れていく。勢いのまま扉を閉めようとしたとき、やわらかくゆったりとした声が聞こえてきた。
「あら~、涼晴く~ん。びーちゃんと遊んでくれてたの~? お仕事中なのにありがとね~」
布袋尊は両手をぐいーとのばして、涼晴をハグしようとしてくる。このままではスイカサイズの爆乳に包まれてしまうと思い、彼女を制止する。
「ハグはまたの機会に……。遊んでいたというよりは遊ばれたと言いますか……」
「あら、そうなの?」
「見てもらえば、ご理解いただけるかと」
どうぞどうぞと頭を下げながら、閉めかけていいた扉を全開にする。薄闇につつまれた部屋の隅っこには、ヘッドセットをつけてニヤニヤしている幼女がいる。絵面がとんでもない。
「こら~!! びーちゃんまたエッチなゲームしてる~!!」
「ほ、ほー!? な、なんでここに……!? まさか……スズ、お前ー!! 恩を仇で返すつもりかー!!」
「私は何もしてませんけど? 自業自得じゃないですかね?」
槍で一突きされないうちに、すたこらさっさと走り去る。その後も長い廊下には、ママの説教と幼女の絶叫が響き渡るのだった。
「これで何回目なの? ちっちゃい子がこんなゲームしちゃいけません!! 教育に悪いでしょ!? PTAが黙っちゃいないわよ!?」
「いだだだ!! 胸を押し付けるな、苦しい!! あと誰がちっちゃい子だ、私ちゃんは武神だぞ!? 戦の神を愚弄するのぶへぇ!?」
「ふーん……びーちゃんこういうのが好きなんだ~♡ そんなにおっぱいが好きなら、アイちゃんよりもおっきなおっぱいでおしおきしてあげる~!!」
「やめ……むひゅう!? わ、我が魂はエロゲーと共にありィィィィ!!!!」
……もうちょっとマシな断末魔を上げてほしいと思う涼晴だった。
~~~
最近は少し、考え事をする時間が長くなった。
帰路に立った小説家は、習慣化してきている長く深い考え事にふけっていた。そうなるのも無理はない。近日はいろいろありすぎた。
彼を一段と悩ませているのは、須黒 聖帝という男。須黒の目指す理想郷は、見方によってはいい世界なのかもしれないと、最近は思うのだ。涼晴はその理想を目の当たりにしたときは、彼のやり方では平穏は訪れないと直感的に感じ取った。須黒のもとにだけ『悪意』が集まる。これだけ聞けば、他の人には迷惑被らないため平和だと思うのかもしれないが、『悪意』が消滅しているわけではないのだ。
いつ須黒が集めた『悪意』を使って、世界を崩壊させるのかわかったものじゃない。悲しいかな、未来予想図というのは存在しても、そのとおりにすべてがうまくいくとは限らないのがこの世の摂理なのだ。上手くいくのかわからないし、失敗するとも言えない。須黒の思考回路も、同じくらい読めない。
『悪意』はなければないほどいいが、はたしてどちらが世界的には平和ととらえられるのだろう。
この問題に答えを出すべきなのかさえ、分からない。ただ一つだけわかるのが、須黒とはいずれぶつかり合うことになるということだ。
そのためには彼も言っていた『禁忌』とやらに触れる必要があるらしい。天草 刃が須黒からの伝言として教えてくれたように、『禁忌』はすでに涼晴の中に存在しているという。
しかしそれが何なのか、考えてみてもわからない。かつて四家 白秋が言っていた『禁忌の鍵』と何か関係が──
「グギョルッ!! グギョ、グギョルッッ!!」
物思いから彼を呼び覚ましたのは、汚らしい『負』の声だった。涼晴の個人事務所の裏口に常設されている『扉』付近にたむろっているらしい。『負』が現実世界に出現すれば一大事だ。こうして食い止めるのが、『才能人』の仕事。
発見してすぐに『言葉を紡ぐ者』を発動し、『誇張表現』によって万年筆を巨大化させる。体勢を低くし、風と共に虹の大地を疾駆する。
「『閃光執筆撃・斬』!!」
空間が歪んで見えるほどの速さで、目の前の怪物を切り倒していく。瞬時に『負』の頭は飛び、黒い粘液となって消滅した。
「原稿お疲れさまでした…………ん?」
ぱたり、とメモ帳を閉じ、光の文字たちが集約されていく中で、涼晴は不思議なシルエットを視認したのだった。
涼晴と同じくらい長い髪い。青空をそのまま映し出したかのような、爽やかで美しいスカイブルーをしている。服装は黒っぽいインナーにデニム素材のジャケット、白のフレアスカート。身長はあまり高くなく、依茉と同じくらい。
横たわる彼女の身体には、無数の傷やあざができていた。首元には何かひも状のもので縛られたような跡があり、見ていて痛々しい。どうやら、先程『負』がたかっていたのは、この少女が倒れていたかららしい。
「だ、大丈夫ですか……?」
傷だらけの体になるべく響かないように、優しく肩をゆする。『裏社会』で『才能人』が命を落とすと、『才能』が消えるのと同時に現実世界へと強制送還される。女性がすでに亡くなっているのだとしたら、彼女は一般人だ。
「少し失礼して……。脈はあるみたいですね、よかった……」
よかったと言い切るには、少し尚早な気がする。第一発見者である彼が、介抱してあげないといけないのだ。
「誰かさんのお人よしが移りましたかね……っと」
飲みすぎてべろんべろんになった依茉をおぶるのにはもう慣れてしまったので、その要領で見知らぬ女性を運ぶ。『扉』をくぐって外に出ると、幸い出てくる瞬間は見られなかったものの、その後の目線が痛かった。
恥じることはない、今自分は傷だらけで倒れていた女性を助けているんだと、自分に言い聞かせるので精いっぱいだった。
やっとのことで事務所に運んで、自室のベッドに寝かせることに成功し、タオルなりを用意しようとドアを開けると。
「うわおビックリした!? せ、先生帰ってたんですね、おかえりなさい」
「ただいまです。すいませんが、あまり大声を出さないでくださいね。起きてしまいますから……」
「お、起きる? 何が起き……る……………………」
本や資料などの紙でごったがえす小説家の部屋をのぞいた依茉は、思いがけない光景に絶句してしまった。見知らぬ美女が、ボロボロになってベッドで寝ているではないか。
ここまでの認識は何一つ間違っていない。だが、その次に飛び出した思考は、涼晴のものよりもトリプルアクセルくらいにねじ曲げられていた。
「先生…………女の子を連れ込んで、あげく…………引きました…………」
「いい精神科紹介しましょうか?」
その後きちんと説明を受けた依茉は、自分がありもしないような想像に至っていたことを思い知らされ、恥ずかしさのあまり鼻血を出したのだった。
面白かったらブックマーク、高評価や感想などよろしくお願いします!!マジで!!!!
Twitterアカウントもよろしく!! @kareha_henshin




