第四章6 『超休日:二日目 不安定な正義、戻る世界線』
まったり終わり。ではでは。
風にたなびく黒髪と、紺色を主とした和装。普通にしていても、まるで狩人のような鋭い目つき。彼女は、この男を知っている。つい最近、筆と刀を交えたことがある。まるで歯が立たなかった、『闇企業』のメンバーの一人。
たしか名前を、天草 刃といった。右手の『殺意』を名乗る、須黒 聖帝の側近。打騎との情報交換により、彼のほかにももう一人、左手の『強欲』という二つ名を持つ今富 嘉銭がいるらしい。
一度『裏社会』にて殺しあった、いわば宿敵と現実世界で再開することになろうとは思いもしなかった。できれば、もう二度と会いたくないと思っていたところはある。
「なんで……あんたがここにいるのよ!?」
「お前は……美王 愛絵か? 久しい、というほど時間は空いていないか。しかし奇遇だな、こんなところで再会するとは」
「奇遇って……ふざけないで!! あんたたちのことよ、どうせ須黒 聖帝の命令で、あたしたちに干渉するように言われてるんでしょ!! とぼけたって無駄よ!!」
今富 嘉銭は、したっているとはいえ須黒に対する従順さでいえば彼の方が上であることは、既知の事実。
そのこともあって、愛絵はここ数日ずっと警戒していた。彼らの狙いが愛絵ではなく、あの『黒』絵の具に眠る『ドラゴン』の力であったとしても。絵の具を奪取するには、彼女に干渉するしか方法はない……はずだ。
しかし、刃は至って冷静に彼女の立った神経をなだめるのだった。
「落ち着け。お前たち『才能人』が、こちらの世界で力を使えないことは把握済みだ。無論、俺もこちらでは力を使えない。刀を作るという、たったそれだけの能力であってもだ」
「じゃあ、なんであんたはここにいるのよ」
「ただの観光だが? まさか、俺が娯楽を知らない人間だとでも思っていたのか?」
「…………そうならそうと最初から言いなさいよね。変に身構えちゃったじゃないっ」
「早とちりしたのはお前の方だろう」
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「まさか、『闇企業』の幹部と、こうして話す時が来るとはねぇ……。よぉ、天草 刃。お前、本当に俺たちを襲わないんだな?」
「何度も言わせるな、鳥頭かお前は……。これが最後だ、俺はお前たちを襲わない。もとより、須黒様もできる限り戦闘は避けて通るおつもりなのだ」
にわかに信じがたいことが起きている。
本来ならばいがみ合う関係であるはずの『闇企業』のメンバーと、こうして喫茶店で会話を交わしてるなんて。一週間前の彼らに、こんなことが想像できただろうか?
さらに驚いたのは、『闇企業』の創設者である須黒 聖帝が、争いを避けて通ろうとしていることだ。一体どういう風の吹き回しだ? 別に彼らの心配をしたり肩を持つつもりは毛頭ないが、理想郷がどうとかはどうなったのだ?
……そのような旨の質問をしてから、こうして打騎と刃はガンを飛ばしあっている。周りの客の目が痛い。
「天草 刃、でよかったですか?」
「あぁ。どう呼んでもらっても構わない」
「まぁ、別に親しくするつもりはないんですけど。もう一度聞きますよ? 須黒の目指す理想郷というのは、『正義と平和で満ち溢れる世界』だったはずです。今貴方がしていることは、確かにそれに合っていると言えます。ならば、私たちとはもう戦わないととらえてもよいのですね?」
「お前もくどいな。そうといっているだろう。須黒様は俺にそう伝え、それをそのままお前たちに伝えただけだ。それ以上もそれ以下もない」
いよいよ、あのスーツ男の狙いが分からなくなってきた。
彼の言うことは物騒なことこの上ないのだが、どうしても憎めない。平和を望むのは、『負』を撲滅することを目標としている『才能人』も同じだからだ。目指しているところは同じなのだろうか。
いや、違う。須黒は確かに言っていた。『悪意をすべて手中に収める』と。
涼晴達の望む平和の理想像と、須黒達『闇企業』が望む理想像は、似ているようで全く似ていない。『悪意』が完全にない平和と、『悪意』はあるが、目立つことのない平和。
これに関しては、今答えを出すべきではないと思う。出すべきではないが、根底は変わらない。
「そういえば、須黒様から伝言を預かっているのを失念していた」
「で、伝言? 会えるかどうかもわからないのに、ですか?」
「あぁ。……『今回、世界線が大きく切り替わったことに、我々『闇企業』はまったく関与していない。おそらくだが、これは誰かに仕組まれた意図的な犯行だ。問題を取り上げて追いかけるかどうかは、お前が判断しろ。それと最後に……『禁忌』はすでに、お前の中にある。あとはそれに気付けるかどうかだ。また会う日を楽しみにしているよ、Ciao』、とのことだ」
「…………絶妙にむかつきますね」
伝言を終えた侍は、抹茶オレを一気飲みしてから立ち上がった。
「俺はこれで失礼する。お題は置いていくぞ」
「そうですか、お気をつけて。須黒にもよろしく伝えておいてください。貴方の理想郷と私たちとの理想郷とは、やはり分かり合えないとね」
「……伝えておくよ、命知らずが」
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「……何かと疲れましたね。休日って何だったんでしょうか」
結局は文明の利器に甘えるのが人間なのかと突っ込まれんばかりに、エアコンの前に座って思い出にふける担当編集。その姿を見ながら、仕事ができないことを歯がゆく感じている涼晴。
目の前に原稿用紙があるのに。震える右手には万年筆が握られているというのに。頭のなかでは一話分の原稿が完成しているというのに。仕事ができないのだ。
「早くこのふざけた世界を変えてください……!! 新人くん!! なんとかしてください!!」
「そんな無茶な……。じゃあ……私のメイド服姿見たので、先生もメイド服着てください」
「ちょ、ちょっと待ってください? 言ってることが大分おかしかったんですけど!?」
「先生絶対女装似合いますって。あ、今から衣装注文しますね。えーとサイズは……」
「ゴメンナサイオトナシクマチマスダカラジョソウダケハユルシテクダサイ」
「わかればよろしい」
と、二人だけなのに大人数ではしゃいでいるようなテンションの会話が繰り広げられる。
依茉は自分の提案で出た『涼晴の女装姿』を思い浮かべて、ちょっと見てみたくなった。
フリルを贅沢にあしらった、定番の白黒メイド服。白の二―ハイソックスとガーターベルトを着けて。眼鏡をかけさせてもかわいいかも? 赤面しながら猫耳と尻尾をつけさせて、にゃんにゃん言わせるのもあり? 定番台詞はやっぱり、『お帰りにゃさいませ、ご主人様♡』? いやお嬢様になるのか。
「…………し、新人くん? 面白い顔になってますけど? なにかいいアイディアが出たんですか?」
「な、なんでもないですよー? 別に先生のメイド服姿を想像してたわけじゃないですからねー?」
あからさますぎる動揺をしていると。思いっきり事務所のドアが開かれて、聞き覚えのある声と共にピンク髪ツインテール幼女が現れた。
「私ちゃん、参上ー!!!! ふっふっふ、待たせたなお前たち!! 世界の軸が戻ったぞ!! もちろん、私ちゃんたちもな!!」
「し、師匠!! もう大丈夫なんですか?」
「あぁ。スズ、もう仕事しても……」
……なんかさっきから紙のこすれる音がしていると思ったら。師匠である毘沙門天がやってきたというのに、涼晴は一心不乱に筆を走らせている。それはそれはうれしそうで、嬉々とした表情は一周回って怖かった。彼らしいといえば彼らしい。依茉も依茉で、これから仕事が始まりと思うと、心が躍るのだった。
「やれやれ……。そうだエマ。この期間……といっても二日程度だが、どんなことがあったのか聞かせてくれるか?」
「はい、もちろんです。まずは先生が女装したりー」
「ななな、なに言ってるんですかあああああああああああああ!?!?」
『超休日』は予定よりも早く終わりを迎え、ちょっと忙しくて楽しい毎日が始まるのだった。
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