第四章5 『超休日:二日目 コスプレ大会、宿敵再来!?』
休日のストック作業のおかげで気持ちが楽になりました。ではでは。
記憶がない……。
なぜだらしなく浴衣がはだけているのか。なぜ布団も敷かずに畳に寝転んでいるのか。なぜ愛絵の目根に抱かれ、自分もそれを受け入れるようにして顔をうずめているのか。なぜ打騎が隣で寝ているのか。
昨日は確か、『七福神』たちが『神風邪』なる奇病にかかって、日本の軸がずれてしまったと言われた。働かなくてもいい──働くことができなくなった──世界線に切り替わったことを利用して、疲れた体を休めるために海水浴に来た。
あぁ、そうだ、思い出した。温泉ですったもんだがあった後、お酒を買って部屋で飲んだんだった。テーブルには飲み終えたビールの缶が無造作に置かれていた。自分一人で飲んだわけではなさそうだが、それでもそこそこの量飲んでしまったらしい。
依茉はゆっくりと体を起こして、皆が寝ている部屋を見渡す。と、あることに気づいて、はっと目が覚めた。
「あれ……。先生は……?」
時計を見ると、時刻は午前六時半。ハードスケジュールをこなすうちにすっかり早起きが体に染みついてしまったようだ。
しかし、涼晴はどうやら彼女よりも早く起床して、部屋を出て行ってしまったらしい。彼のことだからどうせ、近辺を散歩してネタを集めてくるとか、そんなとこだろう。
「…………お水飲も」
起床したての身体と脳を覚ますため、洗面台へと向かう。飲みすぎるってわかっているのに、どうしてこうも飲みすぎてしまうのだろう。二十歳になってからはあまりアルコールには手を出していなかったのだが、仕事による疲労がたまるにつれて、飲酒の機会が増えた。
節度を守っているとはいえ、この酔いやすさはいい加減直せるものなら直したい。
ガチャ、と洗面所の扉を開けると、ほんわかとした空気が顔に当たった。昨日は温泉に入ったので部屋のふろ場は使っていないはずだが。
「おはようございます、新人くん。まだ皆さん寝ていますよね?」
なんと。そこには裸で鏡に向かっている小説家がいた。どうやら朝風呂をしていたらしく、白髪がぬれている。白いタオルでわしゃわしゃと吹いている最中に、依茉は遭遇してしまったようだ。
幸い下半身の方はタオルを巻いていて、秘部が見えるなんてことはなかったが、こういうことにうとい依茉を赤面させるには、十分すぎる材料だった。
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「なぁ、涼晴。さっきから思ってたんだが、その顔どうしたんだ?」
「私に訊かれても……」
四人は起床したのち私服に着替えて、昨日たてた予定通り、旅館の周りで遊べそうなところを散策している。
打騎は起床したときから、なぜか顔面の右だけが赤くなっている小説家が気になっていた。いったい起床するまでに何があったのやら。涼晴も「どうしてこんなことに」と延々つぶやいているので、一向に理由がわからない。
だが依茉のほうをみると頬を若干膨らませて怒っているらしかったので、どうやらそういうことらしい。あまり深く掘り下げない方がよさそうだ。
「そういえば、依茉の私服姿って意外と見たことなかったわね。いつもスーツ姿でいることが多いからかしら」
「たしかにそうかもです……。先生のところに泊まり込みするようになってからは、めっきり着なくなっちゃいましたからね」
依茉の私服は赤と白を基調としており、差し色に黒を入れている。赤のミニスカートに赤黒チェックのシャツ、いつものとはまた違ったおしゃれな肩掛けバッグ。色合いといい動きやすさといい、依茉にぴったりである。
そんな愛絵は基本は黒のみで構成されているが、それでも彼女らしい。すらっとした体型によくマッチしているので、大人の魅力があふれている。
「うっし!! なんかうまいものでも食べ歩きするか!!」
「さんせーい!!」
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昼食は中華で済ませ、午後からは景色を満喫しようと、さらに北上していくことに決定。
その道中で、一行は『面白そうな店』を発見するのだった。
「い、衣装の試着ですか?」
「着物にメイド服に甲冑に……ほんとにいろいろありますね」
店先に設置されている立て看板には、涼晴が読み上げた以外にも様々な種類の衣装があるようだ。店主いわく一日レンタル可能で、着たまま観光が楽しめるらしい。
「おもしろそうじゃない。依茉、何か着てみない?」
「え、私がですか? こういうの似合わないと思うんですけど……」
「そんなことないわよ、女性は何でも似合うものなんだから」
根も葉もない説明を受けて、依茉は愛絵に店内へと連れられて行ってしまった。流石にのぞくことはできないので、涼晴と打騎はベンチに腰掛けて彼女らを待つのだった。
隣に座る野球選手は、どこか思い出にふけるような表情で、店の前のもみじを眺めていた。
「なにか、考え事ですか」
「あぁ。……アイツらのことだよ。『才能』を失ったアイツらは、同時に『裏社会』で出会ったオレのことも忘却していた。今も友達でいれたのなら、こうしてお前たちみたいにふざけあっていれたのかなってさ」
「打騎らしくないですね」
「おいおい、オレも人間なんだぞ? 昔を懐かしむことだってあるわ」
『裏社会』の亡霊、四家 白秋。彼は第128代『自由主義者』であり、『虚空』という全く新しい力で打騎の仲間を三人も『裏社会』から永久追放にした。『虚空』にはどうやら『才能』を消し飛ばす力があるらしく、『才能』を抜き取られた『才能人』は戦士の資格を失うという特性を利用した。
涼晴が仇をとったとはいえ、彼のした行為は到底許されるべきものではない。『才能』を消すということはつまり、一種殺人のようなものなのだ。
手をかけられた者の未来が奪われるだけではない。打騎のように友好関係に幅を利かせている者には、大きすぎる負担になる。友人は数えるほどしかいない涼晴にも、彼の抱えるつらさは分かるものがある。小説を書いていて、主人公なりヒロインなりに、そう言った境遇を用意することがあるからだ。
まぁ、当初は「友との別れ」のつらさが分からなかったため、構成の大半を依茉に頼っていたことは否めないが。それでもわかることはある。
「私は学びましたからね。そういうときは、助け合いでしょう? 頼ってくださいね」
「お前に頼るのはちと不安だが、よろしく頼むぜ親友」
「腐れ縁の間違いでは?」
「お前は仲良くしたいのか遠ざけたいのかどっちなんだよ」
打騎の顔に笑顔が戻った時、店ののれんがふわっと動いて、彼女たちが戻ってきた。いや、依茉に関しては、逃げてきたようだ。
「おや、メイド服ですか」
「み、見ちゃらめぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
スカートのすそをぐっと抑えて、涙ぐむ。白黒のメイド服はホワイトブリムなどとあわせてかなり本格的。彼女はみないでくれと喚いているが、結構似合っていると思う。
と、ひょっこりと顔を出した愛絵は、どうやら男装しているようでタキシードを身にまとっていた。長身で足も長いので、某劇団員だと言っても疑われないくらいマッチしている。
「依茉~!! 次はバニーガールとかどうって、店長さんが言ってるけどー!!」
「そ、それは流石にできませんって!! 勘弁してください!!」
「…………あと、その恰好で観光すんのは隣にいるオレ達がはずいんだよなぁ」
……ということで、なぜかノリノリな愛絵を振り切るように、和服でとどめることに成功した。周りの雰囲気的に、メイド服よりも圧倒的にこっちのほうがあっている。メイド服でいることがあたりまえって、秋葉原じゃないんだから。毘沙門天がここにいたら危なかったと思う。
──依茉の同期も仕事ができなくなったということで、今は遊びに行っているらしい。彼らも彼らで楽しんでいるのだろうが、せっかくなのでお土産も買っていくことにする。
昨日ビールを買って今朝がた缶が消えていなかったことから、この連休が終わる三日後でも購入したものは消えないことは確認済み。作り上げたものだけが消え去るなんて、本当仕事人殺しの世界だ。
「先生は何か買いませんか? 編集長とか、親御さんとかに」
「むぅ……。こういう時何買えばいいかわからなくなるんですよね……。新人くんがいいと思ったものを買いましょう」
「せ、責任重大ですね……!!」
思えば、こうやってのんびりと買い物をすることもやってこなかった。特に仕事についてからは鳴れるのに精いっぱいだったので、買い物に時間を回す暇がなかった。涼晴と出会ってからも、毎日が仕事尽くしで大変だ。仕事は楽しいが。
のんびりするのも悪くない。そう思っていた時、急に腕をつかまれた。どうやら近くにいた愛絵も被害にあっているらしい。俗にいうナンパだろう。
「かわいい子みっけ~。ねえねえ、君一人? よかったら俺らと遊んでかない?」
「あ、あの……私、友人ときているのであなた達とは行けません。他をあたってください」
「えーノリ悪いなぁ。ま、拒否権ないけどねー」
「え!? ちょ、ちょっと、やめてください!!」
着慣れない着物のせいで、抵抗しようにもうまくできない。金髪のいかにもガラが悪そうな男に引きずられるように、土産屋の外へ連れ出される。同じく愛絵も連れてこられたようで、彼らをにらみつけていた。
「おぉ~、こわいこわい。ねーちゃん、可愛い顔が台無しだよぉ~?」
「黙りなさい、あんたたちみたいなのに褒められていいほど安い顔じゃないのよ。わかったら離しなさい」
「へぇ、そんなこといっちゃう? じゃ、力ずくで黙らせちゃおっかなぁ!!」
不意に男が拳を掲げ、なおもにらみ続けている愛絵の顔めがけて振り下ろす。
だが、拳と顔が十センチの距離で、誰かの手によって静止された。男の物に比べて大分色が白く、骨のように細い。まちがいなく、そこにいるのは文月 涼晴だった。
「あ? お前誰だよ。そんなにボコられたい?」
「それはそれとして……。このまま止まっていてくださいね。いいですねぇ、いい絵になります!!」
「「「…………は?」」」
絡んできた男だけでなく、つい依茉と愛絵も、彼の奇行にぽかんとしてしまった。
止めに来てくれたわけではないのか? なぜこのまま止まれなどと……
「いやぁ、助かりましたよ。あまり近辺で『ナンパしようとしてる男』がいませんでしたので、ネタにしづらかったんですよねぇ。今後の作品に、貴方みたいなおかしな人を出そうと思っていたので」
「……なにこいつ、気持ち悪っ」
これにはさすがに、依茉も愛絵も同情した。ナンパ男を止めるのかと思いきや、『自分の作品のネタにしたいから』という意味不明な理由で、その場面を静止させたのだ。彼女らに絡んできた不躾な男たちも顔をひきつらせ、居心地悪そうに去っていった。
「あぁ、ざんね……あだぁ!? あ、愛絵!? いきなりなにするんですか!! 痛いですよ!!」
「なにしてるって聞きたいのはこっちのほうよバカチン!! 普通あの場面は助けるところでしょ!? なにナンパを続行させようとしてんのよ!! あとどこまで仕事に未練あるのよ!?」
「先生らしいと言えばそうなんですけどね……。ま、まぁ何事も無くて安心しました」
どうしても仕事をしたいらしい未練たらたらの小説家にヘッドロックをかける愛絵。
そんななか、人ごみにまぎれた男たちは、とある男に行き先をはばまれていた。
「なんだ、お前? 通せんぼして何が楽しいんだ?」
男三人組はすごんで、目の前の黒髪ポニテ男をにらみつける。だが男は全く動じていない。むしろ彼らを押し返すくらいの、ただならぬオーラを放っている。
「ならばお前たちに問おうか。なぜあのような醜い行動をするに至ったのだ? 世間的には『なんぱ』、というらしいな」
「は? それお前に教えて何の得があるの?」
「この世が清くなる……とでも言っておこうか」
「さっきの白髪ヤローといいお前と言い、気持ちわりぃ奴らしかいねぇのかよここは……!! うぜぇんだよ、失せろ!!」
おそらく軍団のリーダー的ポジションである男は、苛立ちを抑えきれなくなったようで無様に突進していく。だが──拳は止められ、流れるような動きで腕を固められた。
「……っつ!! お、おい、離せよ!!」
「お前たちのような人間が、社会を汚染しているのだ。身をもってわからせてやろう。全ては、須黒様の理想郷のために……!!」
「や、やべぇよこいつ!! 逃げるぞ!!」
すたこらさっさと、尻尾を巻いて逃げていく。その後ろ姿はなさけない以外の言葉に似合うものはないだろう。
「やれやれ。須黒様も物好きだな、こんな腐った世界ならば、いっそのこと壊して……」
「なんで……なんであんたがここにいるのよ!?」
『彩色の魔導士』と右手の『殺意』は、現実世界でも相まみえる。
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