第四章4 『超休日:一日目 友情と胸と酔っぱらい』
夏といえばスイカな枯葉 輪廻です。ではでは。
チャプ……
つま先からゆっくりと、少し熱めの湯に入る。じわじわと血流がよくなっていく気がして、ピリピリとした感覚が心地いい。ゆっくり、ゆっくりと息を吐きながら腰を下ろし、肩までつかる。
目の前には闇夜に輝く宝石のような夜景が広がっていいる。あの光が人々を表しているのだと思うと、何か神秘的なものを感じるのだった。
ビーチフラッグ、ビーチバレー、スイカわりなどなど。多少のハプニングはあれど、一日目を大層満喫した四人は、打騎が予約した旅館の露天風呂に体を休めている。
遊びによって生じた疲れだけでなく、元々体にへばりついていた鉛のような疲労までもがほどけていく気がする。この温泉には疲労回復の効果があるらしい。ここまで如実に表れるものなのだろうか。
「お前がそうやってつかってるのを後ろから見ると、女がいるように思われるぞ」
ザプン、と涼晴の隣に、一回り大きな体つきをした野球選手が腰を下ろした。
昼間のギャルたちといい、そんなに女に見えるだろうか。確かに頭髪は腰に届くくらい長いが──もちろん、マナーとして入浴中は結わえている──、骨格や体つきを見ていれば一目瞭然だろう。細いのは自負しているところがあるものの、女性特有の丸みを帯びた肉体ではない。
「……そんなにですか?」
「あぁ、そんなに。いっそのこと女装すれば、もっと人気出るかもだぜ?」
「ば、馬鹿なこと言わないでください。絶対やりませんからねっ」
「わかってるよ、お前は男だ」
……なんだかんだ言って、打騎とはもう二、三年の付き合いになる。初めて出会ったときは、確か目的もなく『裏社会』をさまよっていた。ただひたすらに『負』を殺し、どこにも向けようがない怒りのはけ口にしていた……ような気がする。
人は本当にショックなことがあると、トラウマだのなんだのが強く作用して、自発的に記憶を消してしまうことがあるらしい。今思い出そうとしても、打騎の剛速球が目の前の『負』を射抜いたところくらいしか思い出せない。
それまでの記憶は、ぽっかりと穴が開いたように抜け落ちている。
そんな涼晴にも、呆れることなく今まで接し続けてくれている打騎。口では「腐れ縁」と言っているものの、一番信頼できるのは彼なのかもしれない。依茉と愛絵が信頼できないのではなく、付き合った歳月が一番長いことから、大きな信頼が生まれているのだ。
「……打騎」
「ん? どした?」
「…………これからも、よろしくお願いしますね」
「……な、なんだ急に。お前らしくないなぁ。ま、こちらこそよろしくな。親友」
ゴツ、と拳を打ち付けると、より一層絆が深まったような気がした。きらり、星が流れていく──
~~~
「ふわぁ~……気持ちいい温泉に、綺麗な夜景。こんな贅沢があっていいんでしょうか」
「毘沙門天もいいって言ってくれてるんだし、思う存分満喫すればいいじゃない。それにしても……温泉って久しぶりだわ……」
漫画やアニメの世界ではこういう温泉が映るシーンでは、『混浴』なる文化が強く根付いている。しかし実際には、混浴がある温泉施設の方が少ない。
「男湯が改装中だから女湯の方で混浴に……」なんて展開はもはやテンプレだが、現実世界ではめったに起きることがない。
改装時は大方、時間ごとに男湯と女湯が入れ替わる。その際ハプニングが起きることはあるかもしれないが、最初から混浴はレアケース。今回はちゃんと分かれているようで安心した。
「そういえば……こうやって女子だけでいることも、今までなかったですよね~」
「言われてみればそうね。あいつらもいないことだし、男子禁制の女子トークでもしちゃう?」
女子トーク。つまりは女子会。学生時代、勉強と小説の趣味に没頭していた依茉にとっては、全くと言っていいほど無縁なものだ。男子禁制という接頭語が示すとおり、涼晴や打騎がいると話しづらい内容のおしゃべりなのだろう。多分。
「いいですね!! 女の子っぽい!!」
「あんたも女でしょ。そうね……定番はやっぱり恋バナじゃないかしら。依茉は社会人になってそろそろ二か月ぐらいたったころでしょ? どう、誰か気になる人とかいるの?」
「ふぇ!? き、気になる人……? えーと……パスは無しですか……?」
「初手でパスはないでしょ。誰にも言わないから、ね?」
ぐい、ぐい、と毎秒詰め寄ってくる。
気になる人と言われても。最近は同期に合うことも一週間に一回歩かないかぐらいになってしまったし、涼晴も忙しいので仕事のアシストがある。必然的に他人と関わる機会が少なくなってしまったが、その中で気になる人とな。突き詰めて考えていくとやはり……
「…………先生?」
自分の思考が一つの点にたどり着いたとき、敬称がぽつりとつぶやかれていた。まったくの意識外で、慣れ親しんだ形に口が動いていた。
「え!? も、もしかして……涼晴なの!?」
「ちちち、違います違います!! 全然そんなんじゃないです!! 先生と私はその……じょ、上司と部下みたいなものですから!? それ以上も以下もないですよ!? へ、変にからかわないでくださいよぉ!!」
いくらなんでもわかりやすすぎる。湯につかっているとはいえ、それ以上に赤面する依茉。それにからかうというより、自分の方から涼晴の名を呼んだので、愛絵は何もしていない。自分で言って自分で恥ずかしがっているのだ。
「あ、愛絵さんはどうなんです? 私よりずっと大人っぽいし、大人の恋愛とか……」
「そうね……。あたしにもいるわよ、好きな人。でもその人は鈍感だし、その人を好きな人がもう一人いるみたい。恋のライバルってやつかしら」
「へぇ……。わ、私応援しますね。愛絵さんの恋が実るように」
「…………ほんと、純粋ね。そうだ、前から思ってたんだけど、あんた何食べたらそんな大きくなるのよ。羨ましいわぁ……」
画家の言っている意味が分からず、依茉は彼女の顔を見る。目線がなんか、首の下あたりに向けられている。つまり、乳白色の湯に隠されている二つの果実──
「きゅ、急になんてこと言うんです!?」
「いやぁ……水着に着替える時からずっと思ってたけど、あんたもっとその巨乳を武器にした方がいいわよ。あたしはね……ははは……どうせね……いっても『B』なのよ……ははは……なんで年下のあんたは『E』なのよ……」
テンションが急に下がり、どんよりとした紫のオーラが愛絵を包んでいる……ような気がする。自分の胸と依茉の胸を見比べ、大きすぎる壁を感じたらしい。同期の蛇川といい、どうしてここまで胸に固執するのだろうか? そういえば毘沙門天にも嫉妬の目で見られていたような。
「あ、愛絵さんは、ほら!! スレンダーで脚も長くて綺麗ですし、なにより大人の余裕を感じさせますよ。それに『これ』、重くて結構邪魔なんですよ。師匠の修業をするときもブラ変えなきゃですし……いいことなんて何もないですよ。私は愛絵さんくらいのが羨ましいです」
「そういう気づかいは貧乳の敵ってママに教わらなかったのかしら!? こんのデカ乳め、あたしにも少し分けなさいよ!!」
「ひゃあああっ!? ちょ、ちょっと!! 触らないでくらひゃ……!?」
「女同士だから別にいじゃない…………ッッッッ!?!? な、なによ、この柔らかさ!?!? マシュマロなんかよりも全然柔らかい……!?!? すべすべだし、この胸は……一体何でできてるのよ!?!?」
「い、言わないでくださいよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」
これは確かに、『男子禁制』であると、愛絵に押し倒されながら思う依茉なのだった。
~~~
旅館を予約したとき、やはり国民が一斉に休日を迎えたことにより、空き部屋が残り少なかったらしい。男女で部屋を分けられたらよかったのだが、旅館側から『一組様一部屋まで』と伝えられたので、こうして四人は同じ部屋でくつろいでいる。
売店で缶ビールを見つけてしまった依茉はどうしても待ちきれなくなって、四人分のビールと肴を買ってきた。彼女の悪酔いに付き合わされた経験がある涼晴はやれやれと首を振っていたが、他の二人は喜んで缶を打ち合わせた。
温泉から上がり部屋に戻り、さらに一時間が経過した。
「あへぇ……愛絵しゃあん……♡」
「おー、よしよし。可愛いわねぇ。あたしのペットにしちゃおうかしら」
案の定べろべろに酔っ払った──缶ビール一本で酔う──依茉は、ビールを片手に愛絵にすり寄っていく。子猫のように甘えてくる彼女を受け入れた愛絵は、頭をなでてほおずりをするのだった。
彼女のアルコール耐性がいかほどのものかは完全な未知であるが、見たところ依茉より強そうではある。しかし表情がほどけていることから、男二人よりかは弱めらしい。
「これが俗に言う、百合ってやつかい?」
「いきなりなんてこと言うんですか貴方は……」
つまみのバターピーナッツをポリポリそしゃくしながら、彼女らのイチャイチャを実況する。打騎も涼晴と同じく、酒には強い。こうしてともに酒を交わすのは、案外初めてだった。一緒に飲むという機会がなかったものの、彼がハイボール好きであることは覚えている。
どうやらそん色なく飲めるらしいので、こうしてビールを飲み進めている。
なおもじゃれあっているOLと画家は、旅館で用意された浴衣に着替えている。が、もみくちゃになっているので胸元がはだけかけている。酔っていて気づかないことを利用して故意にのぞくのは変質者の手口。彼らは気をつかって窓の方を向いて晩酌するのだった。
「明日は旅館の周辺で遊べそうなところを回ってみるか。行きたいところはないか、親友?」
「楽しめればどこでも。まぁ、この四人ならいつでもどこでも楽しめそうではありますけどね」
「……変わったな、お前。親友として嬉しく思うぜ。ところでよ、天才小説家。……この状態でオレらはどこで寝ればいいんだい?」
背後が急に静かになったことが気になって振り向くと、先程まで抱き合ったり服を脱がしあっていた女性二人が静かに寝息を立てていた。どうやら疲れて眠ってしまったらしい。場所取りなどでもめるよりは、こっちのほうがいいなと、涼晴と打騎は顔を見合わせるのだった。
「雑魚寝決定、だな」
「そうですね」
部屋の暖色ライトが消え、夜が訪れる。明日はどんな物語が待っていることだろう。
面白かったらブックマーク、高評価や感想などよろしくお願いします!!マジで!!!!皆様の感想をお待ちしております!!
Twitterアカウントもよろしく!! @kareha_henshin




