第四章3 『超休日:一日目 眩しい水着、危うくKiss me!?』
やったやった!! 水着回だ!!!!
わいわい、ざわざわ。キャーキャー、ガヤガヤ。
「……打騎?」
「……んー?」
「……海ですねぇ」
「……そうだなぁ」
ザザーン……ザザーン……。ポスポス、キャッキャ。
「……打騎?」
「……んー?」
「…………なんじゃこりゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?!?」
「……うるさ」
突き刺すような、鋭い日光。白い砂浜、青い海。カラフルな水着を身にまとい、若者男女がいちゃこらさっさ。
夏だ。今年もこの季節がやってきた。最近は気温の上昇が尋常ではなく、事務所内はエアコンが効きっぱなしだった。ゆえにこうして真夏の太陽を、直に肌で受けるのは久しぶりだ。外出の食事も控えてなるべく自炊をするようにしていたため、屋外を出歩くことすら久しぶり。『裏社会』を除いて。
涼晴と依茉は打騎と愛絵の提案に乗り、この異常事態を利用して海水浴に来ている。なお女性陣はお着替え中なので、男二人で椅子やパラソルを設置して場所取りをしている。そこまではよかったはずだ。
周りを見ると、携帯電話やカメラを向けて、黄色い歓声を上げている人々が彼らを取り囲んでいる。特に打騎に注目が集まっているようだ。
「こ、これは一体どういう状況なんです……!?」
「あぁー…………しまった、変装するの忘れてたわ。流石にサングラスだけじゃ隠しきれんみたいだな……」
言葉から察するに、二人を取り囲んでいるのはどうやら、世界で活躍するプロ野球選手を撮影している人たちらしい。普段のおちゃらけた雰囲気のせいで忘れかけるが、隣で笑顔を振りまいて手を振っている男は、超がいくつもつくほどの有名人だ。
たしかに、涼晴とは違う。文月 涼晴という名前は世間に露出させているが、この顔はほとんど見せていない。注目のほとんどが打騎に向けられているのは、うれしいような悲しいような。こうしてみてみると、有名すぎるのも大変だ。あとなんでビーチに来てるのにサインペンを持っているのかが気になった。
「わかったわかった、みんなにやるよ。オレは逃げないから落ち着け、な?」
「ありがとうございますー!! ところで……お隣の女性は誰です? もしかして彼女さん!?」
「お・と・こ・で・すっ!!!!」
かけていたサングラスを乱雑に外し、できる限りの低音ボイスとともににらみつけてやる。この際有名人がどうとか関係ない。なにより人々は、彼があの文月 涼晴だということを知らないのだから。それとどうして女だと思ったのか、一人ずつ尋問していきたいところではある。
「えーマジで!? てっきり女の子かと思ってたわ~!! おにーさんめっちゃ美形じゃーん!!」
小麦色に肌が焼けた、いわゆる黒ギャルたちが羨ましそうな目でこちらを見てくる。ついに耐えきれなくなって、人だかりを脱出するのだった。
ちら、と振り返ると、慣れた手つきで素早くサインを書いていく友人の姿があった。大変そうだとは思うのだが、流石に人のサインの手伝いはできない。それと、そろそろ女性二人も着替え終わったころだろう。合流するために、砂浜を歩いていく。
砂浜はよく沈むので足腰のトレーニングになると聞いたことがあるが、たしかにこれはいいかもしれない。もしもここに毘沙門天が『神人牽崇』で天門 萌の姿でここに来れば、地獄のトレーニングが始まることだろう。
そんなことに気を取られていた涼晴は、前方から歩いてくる二人に気づくのに少し遅れた。
「なにボーっとしてるのよ。あれ? 打騎は一緒じゃないの?」
スタイルのいい愛絵に水着は、華やかな柄のパレオだった。潮風にたなびく、腰に巻かれた布が美しい。普段のポニーテールとはまた違った髪の留め方をしており、雰囲気ががらっと変わったような気がする。
「打騎ならあそこでサイン会を……って、そっちこそ新人くんとは一緒じゃないんですか?」
「…………呼ばれてるわよ。ほら、なに恥ずかしがってんのよ。たかが水着じゃない」
「うぅ……されど水着ですよぉ……。隠してるところがほとんど下着と同じじゃないですかぁ……」
愛絵を盾にするように、依茉は後ろに隠れていた。恥ずかしそうにちらりと顔を出してから、ゆっくりと姿を現した。
フリル付きのビキニの上からパーカーを着用している。なんだ、別に恥ずかしがることないじゃないか。しかし彼女は威勢の前で水着姿をさらすことがどうも落ち着かないようで、腕をこうさせて胸元を押さえている。言っちゃ悪いが、そのポーズの方がいかがわしい気がする。
それと、彼女も毘沙門天のもとで修業するようになってからというもの、やはり少しスリムになった気がする。ほどよく筋肉もついていて、健康的なボディーラインが美しい。
「似合ってるじゃないですか、新人くんらしいですよ。それと、愛絵も」
「な、なんであたしの方はそんなさらっとしてるのよ」
「え? 愛絵が綺麗なことは、もっと前から知ってますけど……」
口元に手を当て、何かまずいことでも言ったか? と首をかしげると、愛絵は頬に紅をさしてそっぽを向いてしまった。その後呼びかけても若干声が高くなったりと、不自然な振る舞いになっていた。
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打騎の握手、写真、サインのラッシュはいったんの収束を迎え、なんとか四人は合流に成功した。時計台を確認すると、もう十二時を回ってしまっていた。そろそろ腹の虫が鳴るころだろう。というか、さっきからとなりの野球選手の腹の虫がうるさいだけだが。
海の家がある海水浴場は、イメージのわりに少ないという。少し心配だったが、四人が足を運んだ場所にはちゃんとした海の家があった。潮の香りと定番の焼きそばの香りが混ざり合って、独特な海の香りを演出している。不思議と腹がすいてくるのはなぜだろう。
「うっし!! 焼きそば四つ、おまちどう!!」
プラスチックパックに豪快に盛られた焼きそばを、我が物顔で打騎が運んできた。他の三人がどうかは知らないが、依茉は焼きそばを食べるのはかなり久しぶりだった。ここ最近食べた麺類は、四家の件で忙しかった時のものと、一人暮らし時代の自炊で作った簡素なペペロンチーノ。
芳醇なソースの香りと味を楽しみながら、四人は今後の予定について会議を始めるのだった。
「一応遊べそうなものは大体持ってきてるぞ。やっぱビーチバレーはやりたいよな」
「そうね、男女ペアに分かれてやりましょ。あと、近くの八百屋にスイカ売ってたわね、もしかしたらスイカわりもできるかもしれないわ」
「私、今まで海に来たことなかったのでなんでもやってみたいです!!」
「流石の新人くんですね……。あとはビーチフラッグなんかもできそうですね。人が少ないところを狙えば迷惑も掛かりませんし」
「おー、お前にしてはなかなかいい案だすじゃん? なぁ涼晴よ、男ならかき氷早食い対決しようや」
「なんで上から目線なんでしょうかね。いいですよ、受けて立ちます。ちなみに私、一時期氷しか食べてなかったことがありますのでかーなーり、強いですよ」
……なお、この後馬鹿二人は頭がかち割れんほどの頭痛に襲われるのだった。それを見て女性陣は、とにかく大笑いしていた。
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「えー、今からビーチフラッグ選手権を開催しまーす。選手は手前から順に文月 涼晴、金鞠 依茉、そして美王 愛絵となっております。実況およびスタートの合図は、足が速すぎるという謎の理由でいったん休みにされた、投野 打騎がお送りいたしますー。いやぁ今年もやってまいりましたねぇ!! 果たして栄冠は誰に輝くのか、まばたき厳禁です!! そういえば最近……」
「あのさ!! 一人二役で実況と合図係やるのやめてくれない!? 頭おかしくなりそう!! あとなんでそんなに物真似うまいのよ!!」
砂浜に寝転ぶ三人の選手が思っていることを、愛絵が代弁する。
悪乗りで「実況と合図どっちもやって」といったのが間違いだったかもしれない。声のトーンや抑揚まで忠実に再現されていて、一周回って面白かった。
じりじりと、水着越しにも伝わる太陽光を感じながら、打騎の合図を待つ。
まだ……まだ……まだ……まだ……………………
「スタートオオオオォォォォォォ!!!!」
三人はほぼ同時に砂浜を突き飛ばすようにして立ち上がると、鬼気迫るような表情で一心不乱にフラッグに向かって走っていく。彼らはみな毘沙門天の弟子なので、見かけによらず走力はそこそこある方だ。白い砂ぼこりが辺りに舞い、走行速度のすさまじさを物語っている。
「さぁ誰だ!? 誰だ!? 誰が一着だあああああ!?!?」
マシンガントークの本格的な実況に耳を傾けている暇などない。並走していた三人は、飛び前転の要領でフラッグに向かってとびかかる。大分距離は離れていたはずだが、案外早く決着がついた。
……多少のハプニング付きで。
「いたたた……だ、大丈夫ですか二人と……も…………」
左手には、棒切れを握る感触がたしかにある。盛大にこけた衝撃でちかちかする視界のせいで、涼晴は自分がいかにとんでもない状況に陥っているのかに気づけなかった。
「ちょ、ちょっと!! あんたなにやってるのよ!!」
愛絵は、その光景を眺めていたが、次第に見てるこっちが恥ずかしくなってきて、顔をひきつらせた。
……三人が一斉にこけたことにより、予期せぬ事故が起こっていた。
涼晴が両手をつくようにしていなかったら、下に寝転んでいる依茉の顔にぶつかっていただろう。そうならなかっただけましだと言えるが、依然二人の距離が近いことには変わりない。その間、わずか五センチ。
危うくくちびるが合わさりそうになったと思うと、依茉は一気に顔を真っ赤に染め上げた。涼晴も涼晴で、目をぐるぐる回し始める
「ごごご、ごめんなさい!! わざとやったわけじゃ……!!」
「だだだ、大丈夫ですよー!? あのーえっとーそのっ!! せせ、先生が無事でよよよ、よかったですっ……!!」
口ではそう言いつつも、二人の心の中は羞恥の炎に焼き尽くされていた。素早く二人は離れると、顔を合わせづらくなってしまって、パタパタ顔を仰ぎながら青空を見上げた。いつもより、青色が目に染みた気がする。
「「ほんと、仲がよろしいことで」」
「「そんなんじゃありませんからっっ!?!?」」
──夏はまだ、始まったばかり。
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