第四章1 『加減は神の体調次第』
もう四章です。お早いですね。ではでは。
「へぷちっ!! へぇーぷちっ!! あ゛ー…………私ちゃんとしたことが、やってしまった」
視界が波打つ。足取りがおぼつかない。頭が割れそうなくらい痛い。寒い寒い寒い。
幼女の姿をした武神、毘沙門天が満身創痍で歩いている。白い廊下いっぱいに可愛らしいくしゃみが響き渡る。朝目が覚めてからずっとこの調子で、体が水分を欲してやまない。咳もコンコンと止まらないし、鼻詰まりもひどい。自然と口呼吸になるので、呼吸に違和感がある。おちおちギャルゲーもやってられない。
自室から飛び出して台所に行こうとしたとき、同じタイミングで向かいの部屋の扉が開いた。その部屋から出てきたのは、大黒天。よりによって彼に見つかるとは面倒だと思っていたのだが……
「へっくし!! はっはっはー!! ざまぁねぇな、びー!! なんとかは風邪ひかないっていうんじゃなかったけなぁゲホゲホ!! あーあったまいってぇ!!!!」
「……ついに頭ぶっ壊れたみたいだな」
同じく廊下の壁にもたれながら足を引きずるようにして歩いているというのに、なぜこうも得意げにふるまえるのだろう。あとバカはお前だ。一周回って尊敬できる。
毘沙門天と大黒天は長い間しょうもないケンカを繰り返してきているが、基本大黒天から売られることが多い。まさか今日のような体調不良時にも突っかかってくるとは、思いもよらなかった。なおかつうっとうしい。余計に熱が出そうだ。
「ふざけたこと言ってないで、さっさと水飲んで寝るぞ」
「おれっちはまだいけるけど、お前がどうしてもって言うのならそうしてやらんこともないな」
「プライドがお高いことで」
「それはお互い様だぜ」
この日ばかりはケンカしている場合じゃない。無駄に体力を裂くよりは手を取り合った方が得策とみた。
しばらくして。
くしゃみや咳を連発しながら大広間へたどり着くと、ミルクティー色のゆるふわカールがかけられた髪が見えた。『宝船』のママこと、布袋尊が椅子に座っている。
「む? ほー、どうした? 指令室にいないなんて珍しいな」
「び、びーちゃん!! それにダイくんも!! 近づいては駄目よ、風邪うつしちゃうから……っくしゅ!!」
「ほーもかよ……」
テーブルに顔を伏せていたので気が付かなかったが、彼女も体調を崩しているらしい。頬を赤く染め、汗もかいている。くしゃみや咳など、幼児組二人と比べても症状に大差はないようだった。
「もしかして私から移しちゃった!? ごめんねびーちゃん、ダイくん!!」
「ぐええっ!? やめ、やめろ、ほー!! 余計に体調悪くなるわ!!」
体調の良し悪しも関係なくハグしてくる布袋尊は、どうやら自分のせいかもしれないと気負っているようだ。しかし、昨日はアニメ干渉や依茉に買ってもらったアダルトゲームを一日中たしなんでいただけなので、布袋尊の顔は見ていない。
なので、同時に大黒天ともほかの『七福神』とも接触していないことになる。
と、なにやらごちゃごちゃと騒いでいると、その騒動よりも大きな、爆発音のような声が響き渡った。
「ぶえっくしょああああいこん畜生オオオオォォォォ!!!!」
「うるっっせえな!! くしゃみのクセ強すぎだろ!!」
どこからか現れた恵比寿天は、いつもの数倍も大きいと思われる声量で、大きなくしゃみを炸裂させた。あろうことかあの屈強な恵比寿天までもが風邪をひいたらしい。
「ずっと前から思ってたんだけど、えーさんの『こん畜生』って、なんなのかしら……?」
「日本では古くからくしゃみをすると魂が抜ける言われとる。でも、こん畜生って言うと抜けん言われとるんじゃ。……ぶえっくしょああああいこん畜生オオオオォォォォ!!!!」
「…………わざとらしい…………ちゅん!!」
そうつぶやいたのは、毘沙門天でも大黒天でも布袋尊でもなかった。いつの間にか大広間の大理石製の床に寝そべっていた、弁財天だった。小鳥のような、意外にも可愛らしいくしゃみをしている。
「べ、べっくん? なんでそんなところで寝転んでるのかしら? ……っくしゅ!!」
「…………多分、風邪…………ひいた。体…………熱い。体…………冷やす…………ひんやり…………気持ちいい…………」
ふつうそう言った場合には頭やわきの下に氷のうを当てるものではないのか? という弁財天の天然さにあきれる一方で、「あれ? なんかこの展開マズくない?」と思う四体の神。
弁財天は『七福神』のなかでも随一の引きこもりで、こうして自室を出歩いているのを見ることができるのは珍しい。そんな男の娘すらも風邪をひくとは。
「…………この展開、なんか嫌な予感がするんだが。……ぺくちっ!!」
「…………珍しく気が合うじゃねぇか。実はおれっちもしてる。……へっくし!!」
「しかも、よりのよってあのお二人だから、ご老体に響くなんてことがないといいけど……っくしゅ!!」
「お、噂をすればなんとやら。……ぶえっくしょああああいこん畜生オオオォォォォ!!!!」
スライド式の自動ドアが静かに開くと、カラカラカラという車輪の音が聞こえてきた。チリチリ髪のそばかす少女が、担架に乗せられてぐったりとしている青年を笑顔で運んできた。
「「「ええええええええぇぇぇぇぇぇぇ!?!?」」」
想像の斜め上を浮くほど容態が悪いようで、弁財天を除いた四神は驚愕した。いつものように荒削りの木杖をつきながら、よぼよぼと現れるのかと思っていたので、言葉が見つからなかった。
「コホコホ……いやぁ、かんにん。うちもじぃじも風邪ひいてもうたわ。珍しいこともあるもんやなぁ」
「……んで、なんでジジィはそんなになってんの? ついに死んだか?」
「勝手に殺すな、バカモン!! ああいたたたた……」
「なんでも、くしゃみしたら腰いわしたんやって。なっさけない話やわ~。……へっぷしょん!!」
『七福神』ともあろうものたちが、皆体調不良でダウンとはこれいかに。しかし寿老人は腰をさすりながらも、この異常事態について解説するのだった。
「おそらくこれは、『神風邪』によるものだろう……。神々にしか感染しないウィルスが、どうやら我々のところに来てしまったようだ。しかし安心しろ、三日もすれば回復する。それまで大人しく寝てろ……し、しまった。またくしゃみが……!!」
その時、少しだけ上半身をそらせたのは、寿老人だけではなかった。『七福神』皆々が目を細め、同時にくしゃみを炸裂させた。
「へぷちっ!!」
「へっくし!!」
「……っくしゅ!!」
「ぶえっくしょああああいこん畜生オオオォォォォァァァァァァ!!!!」
「ちゅん!!」
「へっぷしょん!!」
「ぶえっくし……!!」
ガ……………………コ……………………ン……………………
ギシ、ギシ、ギシギシギシギシギシギシギシギシ
「「「あ」」」
顔面蒼白になった神々は、『世界の軸』が大きくずれていくのを感じ取りながら顔を見合わせるのだった。
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