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第三章19 『即刻脱出、いつかの決着』

お楽しみに。ではでは。

 赤と黒の閃光が交差し、互いが衝突するたびに苛烈(かれつ)な火花を辺りに散らす。暗黒のごとく真っ暗な空間に、無数の星くずが流れているかのようだ。



 『三原色(トリニティ・カラーズ)』。


 愛絵(あいえ)が、文字通り『Levon』の封印を解き、真にドラゴンと心を交えることにより発現した力。通常彼女が武器として扱う絵筆の柄には、各色の絵の具を装填するためのパイプが備わっている。


 今までは随時一つずつしか使用できなかったが、『三原色(トリニティ・カラーズ)』はその名の通り、三つまで絵の具を同時に使用することが可能である。

 『赤』、『紅』、『橙』の力を混ぜ合わせてたてられた術式、『ヴォルカ・バルカン・ポルカ』は、『火炎乱舞(ファイア・カーニバル)』の火力の実に三倍もの威力をほこる。



 『赤』の炎、『紅』のマグマ、『橙』の爆破が合わさったことにより、手が付けられない攻撃力が生まれるのだ。



「は……あああっっ!!」


「せ……やァァっっ!!」



 天草(あまくさ) (やいば)も、よく愛絵(あいえ)の猛攻についてこられるなと思う。事実、(やいば)はこの戦闘において、一切能力を使用していない。

 というのも、彼の能力は『あってないようなもの』と例えられるくらいに、限定的で救いようのない小さな力。それが、『闇企業(ブラックきぎょう)』の力と『殺意』の感情を練り合わせて、『無から刀を生み出す』というだけの能力。



 擁護(ようご)できる点があるとすれば、精製された刀は常に持ち主の『殺意』を吸収して切れ味を研ぎ澄ますということ。つまり、どれだけ切ろうが刀身が折れてしまおうが、時間の経過とともに元通りになる。刀を扱うものにとってはこぼれは最大の敵なので、そう言った視点からは有用な能力なのかもしれない。


 しかし、文月(ふづき) 涼晴(すずはる)の『言葉を紡ぐ者(ノベリスト)』、投野(なぎの) 打騎(うつき)の『熱き血の戦士(ベースボーラー)』、美王(みおう) 愛絵(あいえ)の『彩色の魔導士(セブン・ウィザード)』と比べられたら立つ瀬がない。



 身体強化も優秀な飛び道具もない。それを自ら望んだ(やいば)は、己の力だけで『才能人(タレント)』を圧倒しているのだ。



「本当……しつこいわね!! さっさと負けなさいよ!!」


「こっちの台詞だ!! 裏切り者は、必ずこの手で殺す!!」


「誰があんたなんかに……殺されるもんですか!!」



 業火をまとった絵筆を横なぎにし、侍との距離をとる。衝撃を殺すようにして足に力を入れ、何とか体勢を保とうとする中で。

 愛絵(あいえ)はその間、迅速に絵の具を追加していくのだった。チューブをつけてははずし、つけてははずし。



 『赤』、『青』、『緑』、『黄』、『紅』、『群青』、『深緑』、『山吹』、『橙』、『空色』、『紫』、『白』そして──『黒』。



 手持ちのすべての絵の具の力を注ぎこむと、筆先は毎秒色を変えていく。何色にも定まらない 『彩色(セブン)』とは名ばかりの十二色発光。愛絵(あいえ)の背後には、大きく黒い翼を広げた、『全色王龍(オール・ドラゴン)』のオーラがある。



終幕(フィナーレ)よ!! 『インフィニット・レインボーフィナーレ』!!」



 柄を思いっきり地面に突き立てると、間欠泉のように虹の絵の具があふれ出す。その流れに飛び込むようにして、右足を突き出す。涼晴(すずはる)の『長音突蹴(ロング・ストライク)』のように、捕捉した侍に向かっていく。



 ──決めて見せろ、小娘!!


「はあああああああああああああああッッッ!!!!」



 虹の閃光をまとった飛び蹴りは、容赦なく黒刀を破壊した。勢いはとどまることを知らぬようで、加速をさらにつけてから天草(あまくさ) (やいば)に打ち込まれた。

 盾すら持っていない(やいば)は真正面から蹴りを食らい、後方の黒い岩へとたたきつけられた。地響きによって岩は崩れ落ち、彼はその中に埋もれてしまう。



 『やったか!?』といいうフラグチックな思考の通り、それでも(やいば)は立ち上がった。一体どんな体の鍛え方をしたらそんなことになるのか。今までよりも強く濃い『殺意』がにじみ出ている。ひたいからは血が静かに伝い、狂気をよく演出してくれている。



「殺す、殺す、殺すッッ!!!!」



 空中をなぐようにして左手を振ると、また新たに黒刀が精製された。特に外見は変わっていないものの、『インフィニット・レインボーフィナーレ』によって大きく体力を削られた愛絵(あいえ)には、大きすぎる絶望だ。


 蒸気のように呼気を漏らし、元々鋭い目つきもさらに磨きがかかったようだった。



 絶体絶命の彼女に、救いの手が差し伸べられた。いや、『()』というべきか。



「『阿修羅(あしゅら)(パンチ)』ー!!」



 間合いを詰めてくる(やいば)に、紅色の炎をまとった殴打が襲い来る。今度は確実にクリーンヒット、また大きな距離が開けられることとなった。


 『阿修羅(あしゅら)(かいな)』を装着できるのは、たった一人。涼晴(すずはる)の隣にいる、金鞠(かなまり) 依茉(えま)だ。血相を抱えてこちらに走り寄ってくる。



「大丈夫ですか、愛絵(あいえ)さん!?」


「え、ま……? なん……で……?」


打騎(うつき)さんから文月(ふづき)先生が『闇企業(ブラックきぎょう)』に向かったって聞いて、それに愛絵(あいえ)さんの帰りがいくらなんでも遅いって師匠が」



 二足で立つ力も残されていない画家を抱えて、大きくうがたれた穴に向かって助走をつけ、跳躍する。『阿修羅(あしゅら)(かいな)』は豪と炎を噴出し、ジェットパックのようにして依茉(えま)を宙に浮かばせる。前傾姿勢になると加速し、徐々に黒い空間から遠ざかっていくのだった。


~~~



「ハッハッハ!! こっぴどくやられたなぁ、(やいば)。手を貸そうか?」



 周囲の闇から生まれたような黒い男が、笑顔で手を差し伸べてくる。だが、(やいば)は彼の手を取りことはなかった。自ら起き上がると、呼吸を荒げて近寄っていく。



「お願いします、命令をください。必ず……必ず奴を殺します。首をここに持ってきます」


「駄目だ。今日はここまで、あとはおとなしく待つのみだよ」


「なぜですか!? 美王(みおう) 愛絵(あいえ)は我々を……須黒(すぐろ)様を裏切ったのですよ!? 生かしておくべきだとは到底思えません!!」


「まぁ、お前の言い分もわかる。でもまだ尻は青いな、(やいば)。俺たちに必要なのは『悪意』だ、むやみに殺生するものじゃない。愛絵(あいえ)ちゃんに関して言えばただのモルモットだったし、後々記憶を消して開放する予定だっただろ? それに、お前さんに下した命令は『殺してでも『黒』絵の具をとりかえせ』、だ。絵の具を奪うことより命を奪うことを優先してどうする。少し頭を冷やせ、アイスなら冷凍庫にあるからな」



 きびすを返して名もなき場所から去る。その背中に対してひざまずき、



「……はっ。天草(あまくさ) (やいば)、来るべき時までに力を蓄え、己を磨くことをここに誓います」


~~~



 愛絵(あいえ)依茉(えま)に運ばれている最中にも、『闇企業(ブラックきぎょう)』への警戒は怠らなかった。『インフィニット・レインボーフィナーレ』にも使用していた『白』絵の具の力、『無色透明(イレイズ・カラーズ)』。発動すると一定の時間姿を消すことができる。潜入任務などにはもってこいの代物だ。


 たとえ『阿修羅(あしゅら)(かいな)』が封印されし伝説の宝具だとして、『闇企業(ブラックきぎょう)』の力は計り知れない。それにもしも戦闘になったら、依茉(えま)愛絵(あいえ)を守りながら戦うことになるので、荷物になってしまう。



 やっとのことで城外へと脱出したとき、丁度『無色透明(イレイズ・カラーズ)』の効果が切れ、何もなかったはずの空間に女性二人が現れた。



「もう大丈夫ですよ。でも安心はできません、ちょっと休憩したらすぐに飛んで戻りましょう」


「そうね…………ん? あれって、まさか!!」



 お互い健闘を称えあっていると、吹き荒れる砂嵐の中から見覚えのある顔が現れ、聞き覚えのある声が聞こえてきた。



「おーい、二人ともー!! 無事でしたか!?」


「す、涼晴(すずはる)!? なんであんたがここにいるのよ!?」


「いやぁ、ちょっと『闇企業(ブラックきぎょう)』のトップに個人的な恨みを晴らすためにですね。そんなことはさておき、お目当ての物は取り返せましたか?」


「もちろんよ、あたしを舐めないでちょうだい」


愛絵(あいえ)さん……ボロボロじゃないですか……」



 ……その後、こんな感じの雰囲気を保ったまま、三人は無事(?)に『宝船』へと帰還した。



 問題は山積みだ。涼晴(すずはる)と完全に真反対の存在、須黒(すぐろ) 聖帝(せいてい)。彼が率いる『闇企業(ブラックきぎょう)』は、人数こそ少なかったが、どうやらひとりひとりの強さが(ひい)でているようだった。

 彼らの撲滅をせねば、おそらくだが『裏社会(バックヤード)』はおろか、現実世界にまで影響が及ぶだろう。



 そのために、涼晴(すずはる)須黒(すぐろ)から言われた言葉を思い起こすのだった。




 次に会う時までには──『()()』について、少しでも知識を深めておけ。




 ついに、『()()』が動き出す。拍動する。歯車が、(きし)み始める…………

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