第三章13 『未曽有の闇、主人公は君』
忙しいですが投稿し続けます。楽しいのでね。ではでは。
「何はともあれ、美王 愛絵。貴様が無事でよかった。文月 涼晴と金鞠 依茉も、ごくろうだったな」
「ほほぉ!! 依茉っちゅうんや!! ごくろうさまやなぁ!!」
「あ、ありがとうございます。……つかぬことをお聞きしますが、あなた方は誰ですか?」
少しも面識がない人間がこんなことを口にすれば、たちまち灰になるのは目に見える。依茉は自分が無意識のうちに寿命を縮めていたことに気づいていなかった。
彼ら最年長組も『才能人』でないにもかかわらず、今回の事案を解決に導いてくれた人間を消す気にはなれなかったため、親切に自己紹介をはじめる。
「はいはーい!! ウチから名乗らせてもらうで!! ウチは福禄寿や!! ふくでええよ、よろしくエマっち!!」
「そして、私が寿老人だ。一応、コイツらのまとめ役をしている。よろしく頼むぞ、金鞠 依茉」
「こちらこそ、よろしくお願いします!!」
「しっかし驚いたわ~。あの『暴れ馬』を扱うって、普通の人間にはでけへんのよ。装着したら死ぬ言われとるくらいやからな~」
依茉の『涼晴を支えたい、守りたい』という強い覚悟のよって、封印の鎖が解かれた『阿修羅の腕』。結果として、それは依茉に適合し、彼女の戦力になっている。初めて装着したときは全身が炎に包まれたため、このまま死ぬまでこんがり焼かれ続けてしまうのだろうかと思った。
しかし『腕』に宿った阿修羅の意識と同期することができたためか、途中からは紅色の炎に熱を感じなくなっていた。
福禄寿の言う『装着したら死ぬ』というのは、もしやあの炎によって体が焼き尽くされることを指しているのだろうか。だとすれば、耐えられた自分はいったい何者なのだろうと、先の見えない疑問の闇が、心を埋め尽くすのだった。
「寿老人様、私っていったい何なんでしょう?」
「私に聞かれてもな……。身体のほうは大丈夫なんだろう?」
「はい……。最初こそ炎にあぶられはしましたけど、それ以降は何も」
「ふむ。気になるところは山ほどあるが、われわれに味方をしてくれている以上、疑いをかけすぎるのもよくない。改めて、よろしく頼む。そしてようこそ、『宝船』へ」
明治時代風の学生服を着こなした寿老人は、礼儀正しく学生帽を脱いでから頭を下げる。まぶかにかぶっていた帽子のせいで顔がよく見えなかったが、ようやく青年らしい爽やかな笑顔がうかがえた。『寿老人』という名前に相反して、体つきも高校生くらいにしか見えない。これもおそらく、神が不定形の存在であるがゆえにできたことなのだろう。
しかし、セーラー服姿の福禄寿から指摘されていたように腰が悪いらしく、荒削りにされた木製の杖をついている。容姿とのギャップがすごい。
「皆の者、席につけ。会議を始める」
例の杖で床を軽くつくと、椅子や机が浮かび始め、次第に元通り整頓された状態になった。まるで逆再生の映像を見ているようだ。
『七福神』は彼の声を聴くとすぐに動きをとめ、陳列された椅子に座り始めて机を囲んだ。ご丁寧に涼晴達用のものまで用意されていたので、遠慮なく座らせてもらうことにする。
「ジジィ、議題は?」
ふんぞり返って姿勢悪く座っているのは、『大黒天』。主導者である寿老人を『ジジィ』呼ばわりしていることから、反抗期真っ最中のようだった。単に会議に参加することが面倒なだけなのかもしれないが、とにかく集合時も気だるそうにしていた。
「……皆も既知のことであるとは思うが、『闇企業』の力がここまで伸びてきた。これは由々しき事態だ、早急に手を打たねばならない」
『闇企業』と。その言葉が発せられた途端、今までのにぎやかな雰囲気が消え去った。『七福神』皆々のオーラがより濃くなったように感じられる。
彼らですら警戒しているということはつまり、涼晴達『才能人』がどうにかできる問題ではないということだろう。
「一方的に攻撃を仕掛けるっていうなぁ、やっぱりだめなのか?」
「えーくんの言う通りや!! って、うちも思ったんやけどな。よーく考えてみれば、ウチら『闇企業』のことをあんまり知らんやろ? じぃじが言うには、ウチら以上の力を持っとる奴もおるんやて」
「ふん。私ちゃんにかかれば、あんな連中一瞬でチリにできるがな。じーちゃんもそれができるはずだ、なのにどうして決行しないんだ」
『三叉槍』をコンコンと小突くと、取り付けられたわっかがチャラチャラと音を鳴らす。寿老人も、彼女の実力には一目置いている。だが場所が場所なので、どうしても安心して送り出すことはできない。
「びー。お前は『闇企業』の城が設立されている場所を知っているだろう」
「ここから北に約二十キロ、だろ。それくらい知っているわ、私ちゃんを舐めるな」
「ならば、そこが一体どんな場所なのか……分かるな?」
「どんなって……あぁ、そういえばそうだったな。私ちゃんとしたことが失念していた」
『闇企業』の本拠地は、これだけ危険視されている割に、意外と広く知られている。『宝船』から北上していくと、しだいに建物の群れが見えなくなる。現実世界に実在する世界遺産なども少なくなってくるその場所は、『負』が大量発生することで有名なのだ。
加えて『負』特有の『負の感情』のオーラが、『闇企業』の城から強く検知された。つまり城内から『負』が発生しているのではないかという仮説が立てられた。
「あのお城の中に、『負』が大量に内包されていてもおかしくはない……。たしかに、乗り込んだところで『負』が放出されてしまったら、『裏社会』の崩壊、および現実世界への悪影響は、間違いなく起こるでしょうね……」
『負』の湧出を日夜監視している布袋尊だからこそ、最悪の事態がたやすく想像できてしまうのだろう。不安になったのか、隣に座る毘沙門天の頭をなでて、心を落ち着かせている。
「なら、どうするっていうんだよ。いっそのことジジィの力で消せばいいんじゃねぇのか?」
「それができないからこうして議題に挙げているんだろう。たしかに、私の力はあのような城を消し飛ばすには十分すぎるほどだが、もしもそれが打ち消されたら? 私の力を上回る力が、われわれに牙をむいたら? 考えてもみろ、お前たちもただでは済まないぞ」
涼晴が何か解決策を提案してくれる。打騎がこの場を和ませてくれる。淡い期待はしょせん期待でしかなく、この絶望的な状況下では、かなうはずがなかった。
皆が頭をひねっている中、たった一人、『冷や汗』をかいている人物がいた。
なにか、左手で右の二の腕辺りをさすったかと思うと、お次は目にもとまらぬ速さで体のいたるところをまさぐり始めるのだった。
「ん? どうした、美王 愛絵。何か、意見でも?」
全員の視線が、立ち上がっておかしな動きをする女性に集まる。冷や汗はとどまることを知らぬように吹き出し、冷やされた彼女は顔を真っ青に染め上げていた。
「…………ない」
「……は?」
「なああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああい!!!!!!!!」
両手で頭を押さえ、へなへなと床にへたり込んでしまう。口はパクパクと動いているものの、今の絶叫以外には言葉が出てきていない。両目はぐるぐると、まるで漫画のように回り始めている。明らかに、困惑していることが見て取れた。
「な、ない? 何がないんだ、アイエ」
突元繰り広げられた弟子の奇行に驚愕しつつも、毘沙門天は彼女の身に何が起きたのかを、冷静に聞くことにした。すると愛絵は涙目になり、毘沙門天にしがみつくのだった。
「ないんです!! 『黒』の絵の具がないんですよ!!!!」
右肩辺りに取り付けられた金属製のスリットには、本来あるはずの『黒』絵の具のチューブの姿がなかった。見せつけられた毘沙門天は、一瞬現実が受け止められなかったのか目を白黒させていたが、数秒後に愛絵につかみかかるのだった。
「はぁ!? はぁ!?!? おま、お前ぇ!! なんてことをしてくれたんだ!! あれはお前の魔力の源だろ!! 私ちゃんでもあれを復元することは不可能だ!! このままじゃお前、自分の『才能』が使えなくなるぞ!! どこへやったっっ!?!?」
「お、お、おそらくですけど……『闇企業』に……」
夕方のカラスのようにギャーギャー騒ぎ立てる。寿老人は厳格な性格をしているそうなので、会議を中断させた者と、その行為に便乗したものに制裁を食らわせる──のかと思われた。
実際には福禄寿と顔を見合わせ、何かを思いついたように目を見開いていたのだ。そして……
「それだーッ!!!!」 「それやーッ!!!!」
最年長組の二神は、ビシッ!! と愛絵を指さした。
感じたこともない不安に襲われ目のふちに涙をためている彼女だが、自分が指名されていることに気づいたときは間抜けな声を漏らした。
「ふぇ……?」
「美王 愛絵、貴様に頼みがある。もう一度だけ、『闇企業』の一員として、城へ向かってほしい」
「アーちゃん、アンタ忘れ物してきたんやん? せやったら都合がええってもんや。まだ操られてるふりをして、城に乗り込んでまったらええやん!!」
『闇企業』に悪意を増幅させられ、狂気の操り人形と化していた、美王 愛絵。こうして彼女が『宝船』で騒げているのは、涼晴と依茉の助けがあったからこそだ。
それ以来、『闇企業』のもとへと足を運んだことはない。
『黒』絵の具の紛失に気付いたのも、実は偶然のことなのかもしれない。愛絵は依茉以上に几帳面なので、持ち物の確認などは決して怠らない。それは以前ともに仕事をしていた涼晴も知っている事実だ。
そんな愛絵が、今の今まで絵の具の中でも最も大切な存在を忘却していたのは、正直言って信じがたいことだ。これもおそらく、『闇企業』が自分たちに都合がいいように記憶を改ざんしたのだろう。
自分の力が失われることと、大切な仲間にこの身を救われたことを考慮すれば、彼女は寿老人の提案に、迷うことはなかった。
「……あたしにやらせてください。『黒』絵の具を取り返し、『闇企業』も必ず崩壊させます」
「あぁ、これは貴様にしかできないことだ。我々『七福神』も全力でバックアップさせてもらう。毘沙門天、来るべき時に備えて、美王 愛絵に稽古をつけてやってくれ。私は偽の仮面を作っておく」
「大体わかった。アイエ、絵の具を失くした罰として、みっちりしごいてやるから覚悟しておけ」
「はい!!」
自分が、動き出した。止まっていた時間が、再始動した。美王 愛絵が、もう一度生まれた瞬間だ。
面白かったらブックマーク、高評価や感想などよろしくお願いします!!マジで!!!!
Twitterアカウントもよろしく!! @kareha_henshin




