第三章12 『つかの間の休日』
一日置いての投稿になります。ではでは。
じぃー…………
一対三。比率はまるで集団いじめのようだ。しかし『一』のほうは肉体的な攻撃を受けているわけではなく、『三』の方々にじっと見つめられている。ゆえに少しのけぞる。
「本当の本当の、本当に大丈夫なんだな?」
「だ、だからそうだって言ってるじゃないですか」
あろうことか『愛弟子』として教えを説いたはずの存在に疑いをかけているので、さすがにちょっと怒りそうになる。
ただ、毘沙門天がこうも自分のことを信用できなくなってしまうのも、決して理解できないことではないのだ。
彼女──美王 愛絵は、つい昨日まで意識を乗っ取られていた。
文月 涼晴から救いの手が差し伸べられるまでのことは、何一つとして覚えていない。思い出そうとしても、頭の中にノイズが走ったように情景がかすんでしまうのだ。
ひと段落して涼晴に事情をうかがったところ、どうやら『闇企業』の力に心を汚染され、彼に襲い掛かったらしい。愛絵は自分の心の弱さを心底憎んだが、涼晴は彼女のことをなぐさめ、心を落ち着かせてくれた。今思えば、こうして記憶が欠けてしまったのも、『闇企業』の策略なのかもしれない。
そして今はどこにいるのかというと、『七福神』の住まい兼『裏社会』の中心部に位置する、『宝船』の大広間だ。愛絵と毘沙門天は鼻先が触れるくらいに顔を近づけて、にらめっこをしている。
が、それ以上はなにかと危険と察知したのか、何者かが武神を抱きかかえた。
「こ~ら、アイエさん嫌がってるじゃない。疑いすぎるのはめっ、よ。びーちゃん」
「お、降ろせ降ろせ!! 恥ずかしいからやめろ!! 私ちゃんは武神だぞ!! 超強い……むぎゅう!?」
子供のように抵抗する毘沙門天を、長身の女性は何の抵抗もなく自身の胸にうずめた。武神の小さな頭がまるごと谷間に飲み込まれてしまうくらいの、豊かな胸だ。あの依茉でさえ、彼女の隣に並ぶと小さいと思えてしまうほど。
だだをこね続ける幼女はなんとか脱出を試みるが、両腕で背をホールドされているので逃げ出したくてもできない。じたばたする武神をわが子のようにあしらう彼女は、名を『布袋尊』という。
百五十以上もある長身と、ウェーブがかかったミルクティー色の長髪が特徴的で、一番を目を引くのはやはりスタイルの良さ。まさに『ボン、キュッ、ボン』が当てはまる。
「ごめんなさいね~、アイエさん。びーちゃんったら、あなたが戻ってきてくれたことに大はしゃぎしちゃって~」
「そうなんですね」
「誰が子供だ!!」
「言ってないですけど……。ねぇ、涼晴。あんたは信じてくれるわよね?」
先程からメモ書きに没頭している様子の小説家。『言葉を紡ぐ者』を発動するためのキーアイテムであるメモ帳にネタを書き込んでいる。どうやら最近、原稿が予定より遅れているらしい。能力の発動が危惧されたが、自ら暴発を防ぐことはできるようだ。
「もちろん。なんせ私と新人くんの力で助けたんですからね」
「そうですよ。 一時はどうなることかと思いましたけど、こうして仮面もはがれましたし、大丈夫です」
「……ありがとう。ところでさっきから気になってたんだけど、あんた誰よ?」
愛絵の言う『あんた』は、間違いなく依茉に向けて言われた言葉だ。しかし指名──代名詞による──を受けた依茉は、自分のことだと分かっていなかったようで。
「あれ? もしかして私のことですか?」
「他に誰がいるのよ」
「……考えてみれば、自己紹介してないような気もしますね。初めまして、愛絵さん。私は金鞠 依茉と申します。現在文月先生の担当編集をしている者です」
「依茉、ね。オーケー、覚えたわ……って、担当編集!? ちょっと涼晴、どういうことよ!?」
椅子から立ち上がると、すぐさま白髪男の前に駆け寄る。改めて二人が近くにいるのを見ると、たしかに『相棒感』はある気がする。昨日まで殺しあっていた人同士だとは思えず、依茉は少しドキッとした。
「どういうこともなにも、言葉通りです」
「新しい担当編集って……あたしのことはもうどうでもいいってわけ!? 信じらんない!!」
浮気していた夫に問い詰める。「もうお前は過去の女だ」と言わんばかりの冷ややかな態度。一瞬昼ドラの世界に迷い込んでしまったのかと思ったが、幸いにも次に出た言葉は温かなものだった。
「……なーんて、冗談よ。代わりっていうのは言い方が悪いけど、あんたを支えてくれる人が見つかったのなら、あたしはそれでいいから。それにあたしはもう、自分の夢をかなえたんだから!!」
「『才能』から察するに……『絵』、でしょうか?」
依茉の推測と『才能』が示す力の通り、愛絵はどうやら『絵』で成功を収めたらしい。彼女の描いた絵の落札価格は本人いわく、『億もあったっけ』とのこと。
彼女も依茉と同じく、努力によって力を手に入れた。涼晴のとなりにいた時も、努力を惜しまなかった。彼の隣にいた時は一度も絵を見せたことはなかったが、「応援する」と言われたことが、素直にうれしかった。
和気あいあいとした時間が流れる中、突然大広間に大きな声が響き渡った。
「よぉ、ウツキぃ!! 今回もわれが解決したのかぁ!?」
「シタノカ!! シタノカ!!」
豪快な広島弁に続いて、ふよふよ浮かんでいる『鯛』が真顔で繰り返す。
声の主は『恵比寿天』。切り出した岩のようにごつごつとした筋肉、漁師のような見た目が特徴的。背にはあみかごと竹竿をひっさげていて、服装も甚兵衛と男らしい。
「おっす、えっさん!! 今回はオレじゃなくて、こいつらの手柄なんだ、祝ってやってくれよ!!」
恵比寿天とは相当仲がいいらしい打騎は、涼晴と依茉の方を見るようにうながす。恵比寿天は少し耳が遠いらしいので、打騎も彼に負けじと腹から声を出して伝えた。
すると豊漁の神は、日に焼けた大きな手で小説家たちの頭をつかんだ。
「グハハハハ!! それなら今日は宴じゃ!! 特上の酒を持ってこい!! グハハハハ!!」
「だめですよ、えーさん。あなたついつい飲みすぎちゃうんですから。お酒は体に悪いんですよ~」
「お? そうか? まぁ、ほーが言うなら仕方ないな」
二メートルはある巨体と大きな声によって、依茉は最初彼に威圧感を覚えたが、打騎と同じくフランクな性格だったので安心した。それとお酒好きに悪い人はいない。うん、絶対に。
ふと気になって布袋尊の方を見ると、やっとのことで毘沙門天は胸から脱出できたようだ。その様子を馬鹿にするように笑うのは、大黒天。
彼も毘沙門天と同じく小学生くらいの体型だが、身体の各所にまばらな黒い刺青が入っている。彼らは顔を合わせるとすぐに喧嘩をはじめ、布袋尊と恵比寿天がなだめに行くのだった。彼らを一言で表すのならば、『家族』という言葉が一番似合っている。
神様に家族事情があるのかは知らないが。
「すごい……わちゃわちゃしてますね」
「神も人も、力の差を除けば同じようなものですよ。面白ければ笑うし、悲しければ泣きます」
宝船では、毎日こんな風に時間が流れていくのだろうか。今この場面を見ただけで、依茉は物語が作れそうな気がして、心がなごんだ。
「ねぇ…………ちょっと…………いい…………?」
細々としたウィスパーボイスが耳元で聞こえ、依茉は飛び上がるのを通り越して体を凍りつかせて動かなくなってしまった。彼女の動きが止まったのをいいことに、声の主はさらに身を寄せてささやいてくる。
「君…………なんで『阿修羅の腕』を…………使えたの…………? 詳しく…………きかせて…………」
「おや、弁財天じゃないですか。最近見かけなかったですけど、元気でしたか?」
弁財天と呼ばれた神は、知らぬ間に依茉の座る椅子のわきに座り込んでいた。そこから細い手を伸ばし、赤い髪をなでていた。
白みの強い金髪を地に着くくらいまで伸ばし、眠たそうな半開きの目と天女のような装いが美しい。しかし涼晴は知っている。弁財天は『男』であるということを。以前どうして女性の姿にならないのかと聞いてみたところ、「女装することに意味があるんだよ」と返答されたことを覚えている。いまだに意味がよく分からない。
「び、びっくりしました……。えっと、なんで使えるのかっていうのはその……私もよくわかりません」
「そう…………残念…………よろしくね…………」
主語が登場しない言葉は久々に聞いた。「よろしく」と言われたので、ひとまずは敵視されてはいないようで安心した。弁財天は地を這ってどこかに行ってしまう。他のメンツに見つかりたくないのか、おびえた子犬のようで可愛らしかったが、着物のせいで時々滑って転んでいた。ドジというより、天然っぽい。
「個性豊かっていうよりは、個性が強すぎますね……。いっち、にー、さんしー、ごー……あれ? あと二人足りてませんよ?」
「あぁ、彼らならすぐに……ほら、来ましたよ」
向かって正面の扉がスライドし、残りの二神──つまり『福禄寿』と『寿老人』が現れる。寿老人については以前毘沙門天との会話のなかで知ったが、福禄寿についてはあまり名前を聞かなかった。先程の弁財天のように、『才能人』の前に姿を見せない神々もいるのだろうか。
セーラー服を着たチリチリ髪の福禄寿は、依茉の姿を見るや否や、高い声とともに飛びついてくるのだった。
「あっはー!! よう来てくれたなぁー!! お近づきのしるしに……ほい、アメちゃんどうぞ~!!」
「あ、ありがとうございま」
「にしても可愛い娘やわぁ~!! スズ君、今度借ってもええ!? いろんな服似合いそうやわ~!! そや、今からは!? アンタ胸でっかいから、下着困るやろ~!? ウチにまかしとき、めっちゃ似合うのコーディネートしたる!!」
聞く耳立てずとはまさにこのこと。一人で勝手に提案しておいて、依茉の手を握ってぶんぶんふるっている。かと思えば彼女を自分の部屋に連れ込もうと、ずるずるひきずっていく。
「思い立ったが吉日や~!! さささ、行くで~!!」
「うえぇ!? せ、先生助けてー!!」
なにがいってらっしゃーい、だ。それでも上司か。テーマパークのアトラクションじゃあるまいし、あと涼晴の前で胸の話はしないでもらいたい。顔から火が出そうになる。
扉がもう一度開き、見知らぬ廊下へと連れ出されてしまいそうになるが、その直前に福禄寿が道をはばまれて止まった。彼女の前には呆れた表情の、明治時代の学生服らしきものを着た青年が立ちすくんでいた。
「ふく、来客には丁寧に対応しろと、いつも言っているだろう」
「あっは、じぃじは頭かったいなぁ~。とりあえずえりつかまんといてくれる? シワになるとウチ泣いちゃう~」
「……だまれ老婆が」
「だ~れが老いぼれや、この腰痛持ち!! 他人のこと言える立場かいな!!」
……あちらこちらで騒ぎ立てるので、『宝船』のなかはお祭り騒ぎになるのだった。依茉のなかの『七福神』の、神々しく高潔なイメージが消え去った気がした。
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