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第三章6 『神とOLのアキバめぐり』

頼むから垢BANだけはしないでくださいおねげぇしますだ。

 どうしてこんなことになってしまったのだろう……。



 自分が置かれている状況の意味が分からなさすぎて、依茉(えま)はそれしか頭の中に浮かばなくなってしまった。涼晴(すずはる)を探し出すという大切な任務は忘れてはいないが。


 彼女が見上げているのは、ビルの壁面につるされ、民衆の目にとまりやすくなっている巨大なポスター。ファンシーな字体のわりに高額すぎる希望小売価格を見て、とてつもないギャップを感じた。




 ──『魔法少女マルム プレミアムフィギュア予約受付開始!! 初回限定版には表情交換パーツ付き!!  15,500円(税込)』 「みんなー!! 買ってくれなきゃ、魔法かけちゃうぞ♡」




 精神的におかしくなりかけている依茉(えま)は頭を押さえる。が、彼女の横にいる幼女はというと、同じものを見ているのにこうも反応が違うのかというくらいにはしゃいでいた。

 つい守ってあげたくなるような、可愛らしい笑顔を振りまいてぴょんぴょん跳ね回っているが、彼女はあの『毘沙門天(びしゃもんてん)』。依茉(えま)のイメージとは、遠くかけ離れていくような気がした。



「私ちゃん、アキバに参上ー!!!!」


「あのぅ、毘沙門天(びしゃもんてん)様? なんで私たち秋葉原にいるんでしょうか?」


「なんでもヘチマもないだろ。買い出しだと、そう言ったはずだぞ。あと私ちゃんのことは『師匠』と呼ぶんだな。そっちのほうが、私ちゃんもお前も気が引き締められるだろう」


「は、はい!! 師匠!!」



 あたかも秋葉原に来ることが当たり前かのような言いふるまい。さらには自分を師匠呼びすることを強要する。今に分かったことではないが、毘沙門天(びしゃもんてん)傲慢(ごうまん)で自己中心的な正確なようだ。そういうところは、見た目にそうように『子供らしい』。



「ぬふふ……ようやくだ。ようやくこの『楽園(エデン)』へと来ることが叶った!! エマ、行くぞ」


「行くって、どこへです? なにか欲しいものでもぐへぇ!?」



 突如、毘沙門天(びしゃもんてん)|は依茉(えま)の右わき腹に手刀を突き刺した。この技は相当指を鍛えていないと、逆に自分の指を負傷してしまうと聞いたことがあるが、彼女のそれは間違いなく達人級。小さな心づかいか、幸いにも指が突き刺さることはなかった。



「私ちゃんの言葉には『はい』か『いいえ』で答えろ。それと私ちゃんに質問をするな。いいな?」


「り、理不尽じゃないでおぎゃあっ!?」



 ……これにはさすがに依茉(えま)に同情せざるを得ない。いくら何でも理不尽すぎる。まるで部下を道具としか思っていないパワハラ上司のようだ。



 理不尽にまみれたやり取りは、目的地に到着するまで絶え間なく続けられた。


~~~



「みろ、みろ!! どうだ、私ちゃんかっこいいか!?」


「は、はい。とってもかっこいいですよー!!」




 ……あぁ、恥ずかしい。今すぐ帰りたい。こんなことに付き合わされるより、涼晴(すずはる)崇高(すうこう)な文章の赤入れに手を焼いている方が百億倍マシだ。いやそれはご褒美か。




 依茉(えま)が苦笑いしながら見つめる先には、得意げにキレッキレの『変身ポーズ』なるものを決めて妄想上で変身し終えた鬼畜幼女がいる。腰には先程無理矢理購入させられた、ヒーローものの『変身ベルト』が装着されている。



 『最先端の技術で、変身の言葉を読み取りパーツが自動展開!! 光る!! 鳴る!!』と記載された、内容物のわりに大きすぎる紙箱に視線を落とす。この時代では言うほど最先端ではないと思うが、こうして書くことで購買意欲をかき立てるのだろう。


 うまいことできている……気がする。ちなみに価格は6,740円と、依茉(えま)には決して安いとは言えない値段だった。



 「変身!!」と通行人の冷たい視線を気にすることなくはしゃぐ姿からして、どうやら彼女はこれが欲しくて秋葉原もとい現実世界へと来たらしい。またもや『最先端の技術』をうたうパーツの自動展開ギミックに興奮して走り回っている。



「やったやった!! これで私ちゃんの夢が一つ叶ったぞー!! ありがとうな、エマ!!」



 ありがとうといわれても。依茉(えま)にはその価値がよくわからないし、なぜ『七福神』ともあろうお方がこうも人間の文化にはしゃいでいるのか理解ができなかった。



「あの、一つだけ質問いいですか……?」


「私ちゃんに質問するな……と言いたいところだが、今の私ちゃんは気分がいい。特別に質問を受け付けてやらんこともないぞ!!」


「あ、ありがとうございます!! えーとですね、どうして師匠は人間界の文化に詳しいのでしょうか? やはり、たびたびこうして視察に来ているからなんでしょうか?」



 そのままの勢いで二回目の質問をしてしまったことに遅まきながら気づいたが、幸い毘沙門天(びしゃもんてん)は気分が浮かれているようで気づかれなかった。



「実はだな。今となってはよく働いてくれている『才能人(タレント)』だが、当初はやはりうまく回ってくれなかったんだ。それで、『(ルーズ)』が湧いたら私ちゃんが出撃して、その都度戦っていたわけだ。こっちが不景気になった時は大変だったよ……一気に四千匹くらいが湧いて出たこともあったなぁ」


「よ、よんせん!? それでどうなったんですか!?」


「舐めるんじゃない。いくら雑魚が束になったところで、雑魚に変わりないわ。三分くらいで殺してやったよ、まったく張り合いのない連中だ」



 さすがは『武神』と言われるだけのことはある。飛び出てくる武勇伝(ぶゆうでん)の質が、打騎(うつき)なんか比にならないくらい凄まじい。



「んで、じーちゃん……『寿老人(じゅろうじん)』が私ちゃんの体をいたわって、長期休暇をくれたんだ。その時に日本のアニメとか漫画とか、ゲームとかヒーローとかに興味を持ったというわけだ」



 神をも魅了する日本のサブカルチャーは、やはり計り知れない力がある。涼晴(すずはる)もライトノベルに着手し始めたりと、需要があることは彼の隣にいる依茉(えま)だからこそ実感している。


 ということは、毘沙門天(びしゃもんてん)涼晴(すずはる)の小説を読んでいたりするのだろうか? 今会話に彼の名を出すと雰囲気が暗くなりそうなので控えておくが、いずれ聞いてみたくなった。



「なるほど……。それじゃあ、次は……って、あれ!? 師匠!?」



 今さっきまで目の前にいた、態度の大きい幼女が姿を消した。周りをきょろきょろ見渡して探そうとしたが、その瞬間に依茉(えま)を呼ぶ声が聞こえてきた。……毘沙門天(びしゃもんてん)は、同じようなパッケージの玩具を三つも抱えている。なんか嫌な予感がする。



「エマー!! これも買うぞー!! 専用武器の『ダイナミックソードガン』だー!! ほら、かっこいいぞー!!」


「は、はいいいいいぃぃぃ!?」


~~~



 買い物によって増えに増えた荷物は、抱えている依茉(えま)の視界をすべて覆い隠してしまうくらいに積み重なっている。一つでも持ってもらえればかなり負担が減るのだが、彼女の師はあろうことか問答無用に購入物を積み重ねていくのだった。


 ところで、この状況を見て周囲の人々はどう思っているのだろう。いたってシンプルなスーツを着たOLが、わがままな幼女を連れてお買い物中? 

 いや、もしかしたらシングルマザーだともとらえられてしまうかもしれない。ちょっと嫌だ。



「やはり人間界は格別だ!! 久方ぶりに来てみたが、いい意味で変わっていないようで私ちゃんはうれしいぞ!!」


「も、もうだめです……腕がちぎれちゃいます……」


「なんだ、弱っちいなぁ。そのざまじゃ、スズの手助けはできないぞ~?」



 いたずらっ子のようにニタニタとした笑みを浮かべる師は、ふいに何かを思い出したように(まゆ)を持ち上げた。ぺち、とおでこを軽くたたいてから、



「私ちゃんとしていたことが、もう一つ行かねばならない店を忘れていた!! ……おっと、丁度この通りの先にあるようだぞ。ついてこいエマ、最後の戦いだ!! これは聖戦(せいせん)だ!! わっはっは!!」


「待ってくださ……ちょ、ホントのホントに待ってくださいってば!!」



 荷物を全て抱えているため普通に歩くことすらままならない依茉(えま)を置いて、毘沙門天(びしゃもんてん)は少々暗めで人気のない通りへと突き進んでいくのだった。

 

 前方に人がいないことをなんとか確認し、足腰と両腕に重い負荷がかかっているのを確かに感じ取りながら、毘沙門天(びしゃもんてん)の後を追う。それで精いっぱいだった彼女は、自分が『どんな店』に足を踏み入れたのかを分かっていなかった。





 店員の作業の邪魔にならないようなところに大量の荷物を置き、腰をそらせてストレッチをする。多分明日は筋肉痛だ、しんどい。そんなことを考えていると、毘沙門天(びしゃもんてん)は満面の笑みで彼女のもとへと帰還してきた。


 

 両手には『()()()()()()()』と『()()()()()()()()()()()()()()()()()()』が、五つくらい抱えられている。



「エマ、これも買ってくれ!! 私ちゃんの命令だぞ!!」




 なんとなく受け取った商品たちは、次の瞬間に依茉(えま)の顔を真っ赤に染め上げる染料になった。




 ……毘沙門天(びしゃもんてん)が笑顔で持ってきたそれらは、とても言葉では言い表せないくらいに、『性的な意味で』いかがわしいイラストが描かれた品々だった。



 赤面する少女、何かの液体にまみれた乳房、この世のものとは思えないくらいなまめかしい触手。自分が手にしているものが『アダルト』的な、『R‐18』的な、『大人の階段』的なものだと分かった途端、依茉(えま)はぐるぐる目を回すのだった。



「しししし、師匠!?!? こここ、これは流石に、かかか買えませんってば!?!?!?!?」



 暑くもないのに、不思議と汗が噴き出す。店内はなかなかに強めの冷房が効いているはずだ。


 トマトのように顔を真っ赤にする弟子とは正反対に、師は冷静な態度でものを言うのだった。



「私ちゃんはこの姿だと、どうあがいても未成年者にしか見えないだろ? だから私ちゃん一人では買えないんだよ。エマ、お前はもう成人済みだろう? なにも恥ずかしがることはないじゃないか」


「そそそ、そういう問題じゃなくてですね!? わ、私その……『こういう』のは、かか、買ったことなんか一度もないですし!! なんかその……とにかくエッチです!! 不純ですよ!!」


「なんで最後風紀委員長みたいになってるんだ……。ええい、何をぐずぐずしてる!! こんんんなにでっかいものぶら下げといて度胸なしとは、見損なったぞ!! 胸だけに!!!!」


「い、意味わかんないこと言わないでくださいよ!! 私だって好きで大きくなったわけじゃないんですよ!! あとなんか論点ずれてきてません!?」




 そんなこんなで。




 覚悟を決めた依茉(えま)は、毘沙門天(びしゃもんてん)が見守る中いかがわしさ全開の商品を泣く泣く購入したのだった。店員に「こんな人が……」的な目で見られているかもしれないというのと、他人のためとはいえ自分の金を支払って購入している恥ずかしさゆえに、プルプル震えていた。



 実際、店員はそんなこと思ってはいなかったし、『一言もしゃべらず涙目で震えている赤毛の可愛い子ちゃん』ということの方に意識が向いていたようだ。





 ──『依茉(えま)は財布と精神に尋常じゃないダメージを負った!! 涙で目の前が見えなくなってしまった!!』

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Twitterアカウントもよろしく!! @kareha_henshin

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