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第三章3 『悪化の戦況、最強参上!!』

戦え、涼晴……。なんか天井裏から強化アイテム落ちてきそう。ではでは。

 かつてこんなにも歓声を浴びたことは、記憶に残る限り少ないと思う。一番新しい記憶は、『芥川賞』を受賞したときか。正直メディアに顔を出しことはあまりしたくない性分なので、気が乗らなかったのを覚えている。記者会見とかどうでもいいから、とにかく小説が書きたかった。


 あれ以来何か喜ばしいことがあっても、感謝の言葉は文字通り『文』でしか出していない。そのため涼晴(すずはる)の顔を知る人は、知名度のわりに知られていないのだ。それはそれで、彼にとってありがたいことだ。



 さて、話を戻そうか。

 絵の具を操る魔法使い、『Levon』との決闘に見事勝利した小説家は、多少の疑問を抱いていた。




 「なぜ、『Levon』は涼晴(すずはる)と戦いたがっていたのか」




 久々の『才能人(タレント)』との戦闘だったために、戦闘時は緊張感や高揚感が心を支配していた。なので戦闘時は気にならなかったが、こうして冷静になってみると不思議に思うのだった。

 どうして二人は戦わなければならなかったのだろう。どうして彼女は、あそこまで戦闘することを望んだのだろう。



 『Levon』に放った『長音突蹴(ロング・ストライク)』は、必殺級の威力を持っているとはいえ術者の力加減に依存するところがある。無論彼女が死なないくらいの丁度良いところで調節したので、魔法使いは生きているはずだ。『才能人(タレント)』もそこまでやわじゃない。


 戦闘をすることで何を得ようとしていたのか、聞くことにしよう。思い立ったが吉日と、歩き出した彼の(えり)を仲間の声が引き留めた。



「ナイスファイトです、文月(ふづき)先生!!」


「よくあの空中攻撃を潜り抜けたな」


「ふふ、ありがとうございます。しかし……彼女はなにゆえ、私と戦うことを望んだ──」




 その時、小説家の視界の端に、砂塵(さじん)が舞ったのが見えた。この人の多さに便乗して『(ルーズ)』が群れを成して襲来した? いや、()()()()()……!!




「皆さんッッ!! 逃げ」




 喉が焼き切れんばかりに叫び、危険を知らせる。しかし彼の警告が届くよりも早く、上空からあの女が落下してきた。絵筆の柄を地面に突き立てると、亀裂が入って衝撃波が目に見える形で襲い掛かってくる。

 悲鳴や絶叫が飛び交う中、三人は喧噪(けんそう)を脱出する。涼晴(すずはる)は逃げ遅れかけていた相棒をお姫様抱っこして、ともに移動するのだった。



「あ、ありがとうございますとは言いますけど、恥ずかし……!!」


「死にたくなかったらお口閉じてください!! これは……ただ事じゃなくなってきました!!」



 結婚していなのに、しかも上司にお姫様抱っこされている。背中や太ももあたりを触られ、彼にやましい気持ちがないとしても恥じらいが生じる。

 身もだえる彼女とは裏腹に、小説家の表情は苦くけわしいものになっていくのだった。



「マジでレッツパーティーしてんじゃねぇかよ……!! なんだありゃ、画家でもなんでもねぇぞ!!兵器じゃねぇか!!」



 打騎(うつき)の例えは、現在の彼女にベストマッチするものだ。



 憤怒(ふんぬ)の念に駆られ、逃げ惑うものや立ち向かうものも見境(みさかい)なく蹴散らしていく。どうやら彼女に手加減という言葉はないらしく、一つ一つの挙動にかなり力が入っている。


 ついに活路を見出した『Levon』は、あくまで涼晴(すずはる)を標的として襲い掛かってくる。走行速度は、小説家はおろか野球選手である打騎(うつき)よりも速い。次第に追い抜かれ、道を塞がれる。



「……なにか、私に用があるのですか?」


「まだ……まだ……終わって、いないぞ」



 力強い戦士のイメージはがらりと変わり、異様な雰囲気を醸し出す。絵筆を小説家に向け、もう一度決闘することを催促しているようだ。

 小説家は依茉(えま)をそっと下ろし、耳打ちして逃げるように伝える。



重版(じゅうはん)はうれしい限りですが、こういうのはあまり好きじゃないですねぇ。……打騎(うつき)、新人くんを頼みましたよ」


「あぁ。……死ぬなよ」


貴方(あなた)に仲間が消えていくのを見せることは、もうありませんよ」



 再び万年筆を『誇張表現(こちょうひょうげん)』により巨大化させ、中段に構える。両者筆の先を静止させ、隙を作らせないようにしている。依茉(えま)は凍り付くような緊張感を感じ、頬に汗をつたらせた。ダイヤモンドのような汗の雫が、





 ぽつ…………






「せやぁぁぁぁっっ!!」


「はぁぁぁぁぁっっ!!」



 戦闘が、再び巻き起こる。先程とは打って変わって、一歩間違えたら死ぬかもしれないといった、そんな馬鹿げた臨場感が両者の心をなでる。


 大地を踏み鳴らす音。筆と筆がぶつかり合う音。気迫の乗った、勇ましい声。全てをぶつけあい、すべてが拮抗(きっこう)する。一歩も引けを取らない攻防は、当人たちも含め後方に身を引いていた二人をも釘付けにするのだった。

 どちらが……どちらが……



「どうしたっていうんですか!! もう戦う必要はないはずでしょう!? 何か恨みを買うようなことをしましたか!?」



 『Levon』は涼晴(すずはる)への攻撃の手を止めようとしない。不屈といえば聞こえはいいが、この場合は諦めが悪いといった方がよさそうだ。つばぜり合いに持ち込み必死に訴えかけるも、彼女は聞く耳を持たないようで押し返そうとしてくる。まるで何かに操られているかのように、動作が機械的だった。



「私はお前を殺すために、ここに呼んだ。それ以外に、理由などない」



 突き飛ばした小説家に追い打ちをかけるように、絵筆を掲げて突進する。



「やべぇ!! 『大噴火(ヴォルカニック)直球(・ストレート)』……」


「『水彩(ボルテックス)砲撃(・ブラスト)』!!」



 手負いの小説家を援護(えんご)するために放った必殺球は、『Levon』の『青』絵の具による高圧水流によって鎮火されてしまった。しかしそのひと手間のおかげで、涼晴(すずはる)は助かった。依然不利な状況に置かれていることに変わりはないが。



「決闘に、水を差すな」


「へっ……水系魔法使ったやつがよく言うぜ。よぉ、もうやめたらどうだ。満足したろ」




 ──刹那、彼女の体を『黒いモヤ』が包み込んだ。

 天から降り注いだのではなく、あろうことか彼女が自らモヤを生み出したように見えた。これは明らかに『才能』の力では──



文月 涼晴(ふづき すずはる)……お前を、殺す」



 次の瞬間、彼女の体は異常な加速を見せ、体勢を立て直したばかりの涼晴(すずはる)に襲い掛かる。速度はハイスピードカメラですら追えないくらいで、残像が幾層にも重なって見えるほど。そして……





 バキ…………ン………………………………





 儚い。悲しい。悲痛。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。


 その音があらわすのは、『悲鳴』だ。



 小説家の永遠の相棒ともいえる万年筆が、ぺっきりと折られてしまったのだ。

 『誇張表現(こちょうひょうげん)』によって巨大化されているのは、大きさだけではない。筆先の鋭さや本体の耐久性など、限りなくきちんとした『武器』に近い性能へと進化している。だというのに、()()()()()()のだ。いかに『Levon』の攻撃がすさまじかったのかが分かる。


 ラピスラズリカラーの破片がステンドグラスのように舞い散り、その奥には『殺意』にまみれた画家の顔があった。同胞が自分の名を呼ぶ声すらも遠のき、その代わりに鮮明に聞こえる『死の足音』を、スローモーションの世界で聞き入っていた。

 自分の『才能』が撃ち負けたという、悲しい現実を受け止めながら……。










 やれやれ……。相変わらず、世話のかかる弟子だ。










 脳に直接語りかけてくるような、ぼんやりとした声。それは幼い少女の声。小学生くらいだと思われる幼稚な声色だというのに、涼晴(すずはる)はその声が聞こえたことに、これ以上ない喜びと安心感を感じていた。



 ズドン!! と容赦ない轟音が、二人の『才能人(タレント)』を分かつ。『Levon』は爆風と突如現れた来訪者の攻撃によって、一瞬にしてはるか彼方へと姿を消してしまった。



 ……座り込む小説家の目の前には、『Levon』の絵筆を上回る大きさの『三叉槍(さんさそう)』をたずさえた、百三十センチくらいの幼女が仁王立ちしていた。



 静まり返った『裏社会(バックヤード)』に、彼女の元気な声が響き渡る。




「私ちゃん、参上!!!!」




 彼女の名は、『毘沙門天(びしゃもんてん)』。『七福神』の一席にして、涼晴(すずはる)の師である存在。


 『どこかで見たことあるポーズ』と『どこかで聞いたことある決め台詞』は、一層の沈黙を生むのだった。

面白かったらブックマーク、評価や感想などよろしくお願いします!!マジで!!!!

Twitterアカウントもよろしく!! @kareha_henshin

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