第二章4 『虚空の恐るべき力』
超お久しぶりです。これからもぼちぼち投稿していきます。ではでは。
四家は独特な笑い声とともに、かつて愚かな『才能人』三人がくつろいでいた、カフェの跡地まで足を運んだ。改装もされていないようで、瓦礫の山がいくつも出来上がっていた。この惨状を引き起こしたのは、紛れもない四家自身。
店を一瞬にして瓦礫の山に変えたのも、今月からようやく店を開けた店主の出鼻をくじいたのも。そして投野 打騎の取り巻き三人の人生を狂わせたことも、文月 涼晴に絶望を与えたことも。
すべては、自分がやったこと。自分が。自分の意思で。やりたいように。壊した。
「クシッ……!! あぁ、良い、気持ちだ、ぁ……!! 奴らからすべてを奪い、文月 涼晴から『鍵』もうば、う……!! まさに『絶望』!! 歯車が……軋んで、止まって、錆びて、風化し……崩れ落ちていく、う、うっっ……!! ク、シ……俺、みてぇじゃ、ねぇかよ」
言葉の最後は儚く、か弱く。まるで過去を思い出してしまったかのように、ぽつりとつぶやいた。
「…………ぁ」
高性能のマイクさえ拾ってくれなさそうなほど、か細い声であえぐ。震える手で咥えていた飴の棒を、口から引き抜いてみる。どうやら、舐めきってしまったようだ。
それが、『タブー』。
「あ……ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!」
駆け巡り、全身をかきむしり、転がり、地面に爪を立てる。身体はこの世のものではないというぐらいに折れ曲がり、湾曲し。言葉にならない『虚無』を表現していた。
禁断症状のごとく震える手で新しい飴を取り出し、乱暴に咥えこむ。甘い甘い、ラムネの味。
「は、あぁ……!! はあ、ぁ……!! ひぐっ……ク、シャ、シャシャ……。消して、やるよ。跡形もなく、魂すらも残らず。たの、た、のし、楽しみ、だ、あ。ああ。あ、あああ、クシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャ」
自傷行為によって流れ出た血液を飴に塗りたくり、笑いながら舐め始め……。
~~~
ドタッ!!
静寂を切り裂くように、重苦しい音が事務所内に響く。音がした方向に目をやると、そこにはぐったりと力なく横たわる涼晴の姿があった。
「先生ッ!!」 「涼晴ッ!!」
彼の担当編集者は、そわそわしすぎて抑えられなくなっていた仕事した意欲を発散させるためにしていた業務を放り出し、野球選手は自分も弱っているのにも関わらず、親友のもとに駆け寄る。
「お前、まさか……」
「だい、じょうぶですよ……。『死んで』はいません。その代わりに、全身が痛みますが……これで済んでいるのなら安いものです……」
「喋らないでください先生!! 早くベッドまで……!!」
依茉は涼晴が帰ってくるまでに、打騎の看病をしつつ、彼らの身に何が起きたのかを真摯に聞いていた。ゆえに彼がボロボロの姿で帰還することは、予想はできていた。できていたものの、いざ目の前で大切な人が倒れているのを見ると、怖気が背筋を伝った。
小説家は、彼の編集者を悲しませまいと無理に笑顔を保っていたが、依茉の言葉を聞いてから一気に顔色が悪くなった。打騎におぶられ、狭い廊下へと消えていく。
彼らは、負けた。
厳密にいえば『勝ち逃げ』されたのだが、どっちにせよ意味は同じだ。
全身を包む疲労感に悶えながら、涼晴は不甲斐なさを感じていた。それは打騎も同じで、友の仇をとれなかったことと、目の前の親友のピンチに駆けつけてやれなかった悔しさを噛みしめていた。
涼晴は四家 白秋との戦闘に敗れたのち、折れた骨の痛みに耐えながらもなんとか『扉』までたどり着き、事なきを得た。
四家の奇妙な力によって吹き飛ばされた打騎は、あろうことかそのまま『扉』まで空を飛び、事務所の裏口へと転がり出たのだった。
二人の戦士が脳内で考えているのは、全く同じこと。あの狂人は、なぜあのような芸当ができたのか。真正面、零距離から『見えない攻撃』を喰らった打騎だからこそわかるのが、四家の能力は『才能』によって与えられたものではないということだ。
しかし、聞いたことがない。心当たりは……
ふと、在りし日の思い出が、脳内のスクリーンに映し出される。それは『才能』を直々にもらい受けた、大黒天が喋っているシーンのようだ。
「涼晴。訊いてもいいか。奴は、自分のことをなんて言っていた」
まぶたは力なく持ち上げられ、黒の瞳が彼を見つめる。できれば寝かせて安静にしてやりたいところだが、今回ばかりは迅速に手を打たなければまずいことになるかもしれない。
細い声で、小説家は言葉を紡ぎ始める。
「たしか…………第128代『自由主義者』、四家 白秋……と。そう言っていたと……記憶していますが…………」
そこで力尽きたようで、再びまぶたを閉じてしまった。だが、打騎の表情は、覚悟したときと同じようになっていた。どうやら記憶とリンクするところがあるらしい。
「……すぅ」
小さな、可愛らしい寝息を立てる小説家に背を向け、彼の部屋を後にする。
「う、打騎さん!! 先生は、大丈夫なんですか……?」
「あぁ。あれだけ壊れかけていた身体を庇って歩いてきてたんだ、『才能』のおかげで骨折なんかは治るとはいえ、代わりに疲労感が全身を蝕むからな。寝かせておいてやってくれ」
肩にポンと手を置き、玄関のドアに手をかける。通り過ぎる際に見えた彼の表情は、決して明るいとは言えなかった。
「どうするつもりなんですか……?」
「どうするもなにも、問題の解決に向けて努力するだけだ。……涼晴に、今夜電話するって伝えておいてくれ。んじゃな」
彼が出ていった外は、太陽の光はどこにも見当たらない、暗々とした曇りの景色が広がっていた。
~~~
「もしもし? 新人くんから聞きましたよ。貴方、何をしに行ったんです?」
時刻は丑三つ時。自分の部屋に置かれた机で頬杖を突きながら、打騎からの電話を対応する。
『安心しろ、別に奴のところに乗り込むなんて無謀な真似はしてねぇよ。……オレはあの後、『宝船』に行ったんだ』
「はぁ……。しかし、なぜゆえに?」
『奴の名前……いや、苗字に聞き覚えがあってな。それと、『自由主義者』とかいうふざけた通り名もな。案の定資料庫に記録があった、ビンゴだぜアミーゴ』
病み上がりというか、あれだけ疲れ切っていた涼晴には鬱陶しく思えるノリを無視しつつも、彼の話を催促する。
「それで、彼のことは何かわかったのですか?」
『いや、奴個人の情報は、まだ記載がされてなかった。だが『四家家』に関する情報にはありつけた。『四家』という人物は、奴が言っていた通り代々力を受け継いで『裏社会』に姿を現しているらしい。四家 白秋が128代目だから、百年以上前から『四家家』は『才能人』の敵としてみなされていることになるな』
「能力を受け継ぐって……まるで歌舞伎の襲名のようですね。そんな『才能』、今までに聞いたことありませんでした」
窓の外は夜の闇に包まれている。これから寝るというのに、優雅にコーヒーを飲みながら電話越しの会話を進める。だが、打騎の次の言葉によって、一気に暗雲が立ち込めるようだった。
『……奴の力は、『才能』によるものじゃねぇ。『四家家』は、どうやら独自に能力開発を行っているらしい。幾年もの実験の末に『虚空』という名の能力が生み出され、初代『四家』から『自由主義者』として『裏社会』を荒らしているらしい』
「……『四家家』の目的は?」
『あいにくそれも、記載がなかった。んで、こっからが重要なんだが……『四家家』独自の能力『虚空』の概要だ。……『才能によるあらゆる打撃の無効化及び、才能人からの才能の剥奪』、とのことだ。ちなみに、原文ママだ』
――三日後に、『ラ・カルデラ』で待ってるから、な。
青髪の悪魔の狂った笑顔が、脳裏にフラッシュバックするのだった。
面白かったらブックマーク、評価や感想などよろしくお願いします!!マジで!!!!
Twitterアカウントもよろしく!! @kareha_henshin




