24 悪役令嬢、初めてのデート②
――そして訪れた、デート当日。
シナリオ通り、よく晴れた美しい一日だった。シルヴィアは眩しそうに空を見上げる。
街歩きデートは、それぞれの属性騎士ごとにオリジナルストーリーが設定されている。当然ながらシルヴィアは前世でその全てのシナリオをプレイしているし、その内容についても完全に把握済みだ。
しかし、今回は今まで成し得なかった初めてのクレイとのデート。見たことのない最推しのイベントに、シルヴィアは気持ちが否応なく高揚するのをひしひしと感じている。
(わかるわ……私の中の「田丸りさ」が、気絶寸前の興奮状態でこのデートに臨んでいるのが……)
実際、シルヴィア自身も心臓がこれ以上ないほどにドキドキ言っている。
彼女自身は知るよしもないが、頬を紅潮させ潤んだ瞳で唇を綻ばせているシルヴィアは、普段以上に人を惹きつける、はっとするような輝いた魅力を放っていた。
やがて、待ち合わせの転移陣の前にクレイが現れる。現れたクレイを前に、シルヴィアの心臓はより一層ときめいた。
一度この、「約束の時間に落ち合う」というシチュエーションを体験してみたいと、シルヴィアがねだった通りの状況をクレイは再現してくれているのだ。
「お待たせしました。それじゃ行きましょうか、おじょーさま」
「っ! ええ、よろしくね、クレイ。それから、今日の私は街娘なんだから、お嬢様呼びは禁止よ? 敬語もダメだからね?」
「あ……それじゃ、なんとお呼び、いや呼べば……?」
改めて訊かれて、シルヴィアも指を頬に当てて少しの間考える。
呼び捨て……はクレイが気にしそうだし、なによりも自分の心臓が保ちそうにない。愛称であっても、同じだろう。クレイの唇から自分の名前がこぼれるなんて、想像しただけでも顔から火を吹きそうだ。
だからと言って、全く違う偽名で呼ばれても面白くないし……
「そうね! 今日の私はシリーと呼んで。街娘のシリー。……ねぇクレイ。私の格好、どうかしら? 変じゃない……?」
良いことを思いついたと少しはしゃいだ様子を見せながらも、シルヴィアは不安げに自身の格好を眺めた。
「一般的な街娘」という設定のため、彼女の自慢の一つである硝子細工のような銀の髪はくすんだ茶色に染められ、ざっくりと三つ編みでまとめてられている。化粧もほとんどされていない。服装だって普段より質素で、地味なものとなっている。
貧相なこの姿が彼を幻滅させないだろうかと、心もとなさにシルヴィアは小さく手を握り締めた。
「ええ。いつもと変わらず、お美し……いや、可愛らしいよ、シリー」
さらりと答えるクレイの表情はいつもと変わらず、涼しげな微笑を浮かべている。
「もうっ、クレイはいっつもそうなんだから……」
変わらないクレイの答えに、シルヴィアは不満げに頬を膨らませた。……が、実のところいつも通りの答えであっても、それが敬語でなくなるだけで破壊力がすごい。
現金なものでその言葉一つで、シルヴィアの機嫌はたちまち高揚した。
最高潮へと真っ直ぐ昇り詰めていく自身のテンションを自覚しながら、シルヴィアは改めてクレイの姿を鑑賞する。
(私服姿のクレイ、新鮮……! そして、なんて素敵なの……!)
普段の彼は護衛騎士としての装備をしっかり調え、軽装ながらも帯剣しているのが傍から見てもわかるような装備に身を包んでいる。しかし今回は「普通の街歩き」をするために、クレイはその格好をがらりと変えて来ていた。
見てわかるような武器の装備はしていないし、無骨なベルトも外し、足を通しているのは柔らかな素材のズボンだ。普段より身体のラインが目立つその布地は、クレイのすらりと長い足をさりげなく引き立てている。
そして何よりも、彼の着ているチュニックが……
(鎖骨が! ちらりと覗くその鎖骨が、目に毒……!)
少し大きく開いた胸元から、ちらりと浮き出る骨の形。男性のそんなところに目が行くなんて厭らしいと己を叱咤するが、視線はどうしてもチラチラとそちらを向いてしまう。
束ねた髪から数本落ほつれた栗色の髪が、細めの首に掛かる。ただそれだけの光景すら、妙に魅惑的だ。
普段は気にならない喉仏の陰影も、異性であることを意識させられるようで思わず赤面する。
(……ああ、もうっ! こんな状態でデートなんてできるのかしら……⁉︎)
思わず胸の内で叫ぶ。
彼女の偽らざるその本音は、魂の叫びとなって脳内で反響を繰り返していたのだった……
敬語キャラから敬語取っ払うことに、かなりの悩みを抱えました。
丁寧語のままデートを重ねるのも、それはそれで萌えたかも……皆さんの意見も聞かせていただけたら嬉しいです。




