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23 悪役令嬢、初めてのデート


 ――運命は変えられる。


 それを知ってから、シルヴィアの聖女試験への熱の入れようは更に加速した。積極的に属性騎士エレメンタルナイトと意見を交わし、奇跡の成功率を上げるための練習を重ね、魔物の動きに不穏な兆候があればすぐさま討伐の時間を作る……


 そこにあるのは、押し付けられた役割をまっとうしようとする切迫した必死さではない。自分の夢を実現させようという、活き活きとした明るい熱意がみなぎっていた。

 そんなシルヴィアの前向きな姿勢は、周囲からも段々と評価されていく。属性騎士エレメンタルナイトともハルカとも、少しずつ良好な関係が築かれていった。

 今なら、ハルカとのこの関係も立派な「お友達」と言って良いだろう。二人でお茶会をしたり、属性騎士エレメンタルナイトも交えた大人数でピクニックに出かけたり……シナリオを基本にしながらも、ゲームでは決して見られなかった光景。聖女試験に本気で取り組みつつも、シルヴィアの胸には今まで味わうことのなかった楽しさが溢れていた。




 そうして、日々は飛ぶように過ぎていく。


 ――気がつけば、聖女試験が始まった頃に咲いていた桜はいつの間にか緑の葉を茂らせ、そして徐々にそれを紅葉させる季節へと移り変わっていた。




 そんは季節の移り変わりを実感しながら、シルヴィアはソワソワと落ち着かない様子でカレンダーを眺めため息を漏らした。――もうすぐ、大事なイベントが起きる日が近づいているのだ。

「休暇……ですか?」

「ええ。一日だけだけれど、その日は聖女試験は丸々お休みにするそうなの。アースガルドに出向くのも自由とのことだったわ」

 机に向かいながら、何気ない風を装ってシルヴィアはクレイに告げる。


 ――休暇イベント。

 久々の、強制シナリオだ。


 最近のシルヴィアは敢えて、シナリオと現実を比べることをしないように心がけている。未来は自分で切り開くものだと、当たり前のことに気がついたからだ。


 それでも、このイベントには心が騒ぐのを止められない。

 何故ならこのイベントは、唯一の街中デートの機会チャンス。そして、それまでに好感度を上げていないと、デートを断られる可能性もあるという、シビアな選定のタイミングなのだから。


 もちろん、シナリオ上で本来そのデートの相手となるのは、攻略対象である属性騎士エレメンタルナイトであるのだが……


「それで……クレイ。私、アースガルドに居たときも街へ出ることなんて無かったでしょう? もし良かったら、そのタイミングで……私に街を案内してもらえないかしら」

 誰よりもデートを共にしたいクレイに、シルヴィアは覚悟を決めて誘いの言葉を述べる。

 さすがに面と向かって声を掛ける勇気はなかったので、姿勢は机に向かったままだ。背中をじっと固くして、クレイの返答を待つ。


 ――断られる可能性が高いのは、重々承知していた。

 そもそもシナリオの強制力でクレイをデート相手に選ぶことが不可能になっているかもしれないし、そんな力が働かなくてもクレイの好感度が低くて断られることもありえる。

 だからこそ、断られた場合はシナリオの強制力の所為にしよう、とシルヴィアは後ろ向きな保険を考えていた。好感度が低いからなんて、考えたくもない。


「俺は構わないですけど……おじょーさまは、他の人から誘われているのでは?」

 クレイの返事は、思ったよりも前向きだ。

「良いの? ええ、まぁ属性騎士エレメンタルナイトの方からもお誘いはいただいたのだけれど……」


 具体的には、アクアとフォーリアから声を掛けられている。どうやら現時点で属性騎士エレメンタルナイトの中ではその二人の好感度が一番高いらしい。

 一瞬言い淀んでから、シルヴィアは本音を言おうと腹を括る。

「私は、貴方と行きたいの。自分から誘うなんてはしたないとは思ったけど、初めての街をクレイと回ってみたくて……」




「あ〜〜っ、もうっ……!」

 思いがけない声に、シルヴィアは思わず振り返る。

 そこには何故か、顔を覆ってしゃがみ込むクレイの姿があった。顔を隠している所為で表情は見えないが、手の隙間から覗く耳は何故か真っ赤に染まっている。


「ごめんなさい、もしかして困らせてしまったかしら……?」

「いえ、違います。おじょーさまが可愛らし過ぎて……じゃなくて! そこまで言っていただけるのなら、俺も頑張らせてもらいましょう。おじょーさまは、どんな過ごし方をお望みで?」


 誘いを受けてもらえた喜びにのぼせるシルヴィア。そんな彼女に、クレイの焦った言葉を疑問に思う余裕はない。ただ何も考えず、投げられた質問に対する答えを考える。

「私、普通の街歩きというものを体験してみたいわ。街の人たちに混ざって食事をしたり、買い物をしたり……貴方にとってはつまらないかもしれないけど」


「いーえ、光栄です。ていうか、そんな内容を他の属性騎士エレメンタルナイトとしていたら、俺がつきっきりで護衛するところでした」

「もうっ! クレイったら、過保護なんだから!」

 シルヴィアはそれを冗談と受け取り、明るく笑う。目の前のクレイがにこりともせずにそれを口にしたことには、全く気づかない。

 デートの誘いに頷いてもらえたシルヴィアにとっては、その瞬間、それ以外の全てのことが最早どうでも良いことになり下がっていたのである。


「貴方に承諾してもらえて、嬉しいわ。当日、楽しみにしているわね」

 ウキウキと声を弾ませるシルヴィアに、クレイは任せろとばかりに深く頷いた。

「ええ、おじょーさま。ご満足いただけるように、俺が全力でおもてなし致しましょう」


 ――クレイの細い目の奥が、キラーンと光った。



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