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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

異世界で経験値を売買して世界を掌握した話

住宅ローンがずっと低利率であることをいつまで信じていたかなんてことはコロナ禍以前までだっただろうか。

自分がいつまで低金利政策が続くか信じていたかというと、本当は最初から信じてなどいなかった。


自分は変動金利ではなくて固定金利にしようと妻に言った。しかし金の援助をしてくれる妻側の親族の意向に逆らえず、そして最終的に自分でも25〜30年ぐらいで返せるだろうとたかをくくっていた。


どういうわけか、家を買ったあとで金利が上昇した。


最初は緩やかだった。失敗したなと妻と2人で笑いあっていた。それがだんだんと毎月の外食を諦めざるを得ない金額になった。インフレとともに訪れるコストカットにより、妻の仕事も失われ、自分がもっと働かなければいけないことになった。賃金は微増したが、インフレ率からすれば焼け石に水であった。


体力のない銀行はとうに破綻。住宅ローンの借り換えに成功することもなく、貯蓄を崩すことになった。会社の業績も給料もほぼ一定で変わらなかったが、インフレによるコスト増加で実質的な賃金は減った。払いきれぬ住宅ローンから、家を手放すことになった。借金だけが残った。


身の丈に合わない住宅を購入したことが祟ったのであろう。そうして体を壊した。入院することになった。借金は払えなくなった。自己破産はできなかった。妻は死んだ。自分には生きている価値がないと思った。


そして自殺した。



まばゆい光が目の前に現れた。


自分の状況を理解することができない。数瞬して、体にまとわりつく何らかの重みが気だるさをもたらしていることに気付いた。そして自分が何者かを思い出す。痛みを感じ始めて、全身が圧倒的な不快感に包まれる。痛みの知覚とともに、自分は死んだのではなかったかという疑問が湧いてくる。自分がなぜ生きているのかと考えようとした矢先、死ぬほどの痛みが体を襲う。そして、


「オギャー!オギャー!」


自分の口から出たとはとうてい思えない声があたりに鳴り響いた。


オギャーではなかろうよ。


痛みは消えた。冷静になり、まるで、どこかに置き忘れていたものを取りに来たかのように「自分とはどういう人間だったか」という情報が頭に流れ込んできた。自分の性格や人生がインストールされた。流れてくる情報をモニターしていると、あぁ、これは異世界なんじゃないかと感じた。


目は開かない。音しか聞こえていない。音しか聞こえていないのだが「ああ、異世界なんだろう」ということはなぜかわかった。それはどう言い表すべきなのだろうか、何もかも違うので、とにかく異世界なんだろうと感じた。


そして5年が経った。




異世界と言っても、結局人間らしき形だがやや違うような人間のような存在が、地球の人間と同じような生活を営んでいることは同じだった。貨幣があり、モノがあり、経済があり、動物がいて、それを糧にして生きており、唯一違うのは魔法とステータスという、誰かお偉い神様が、RPGを模して作ったかのような箱庭の世界だということだ。


自分は5歳になったが、1年が地球とは異なるので、地球換算すれば実際には4歳程度であると思う。1日の時間も1年の日数も違うので、実際どうなのかはわからない。「秒」のタイミングも違うからだ。


ステータスというものは大事なものだ。


それは地球でも変わらない。ハイステータスは、あの地獄のようなインフレの中でも、自分の持つ資産をそれほど手放すことなく、定期的に現金を手に入れて、そのキャッシュで更に資産を増やす好循環を作っていた。社会不安は増大したが、結局金持ちは金持ちのままで、一部の金持ちは憤怒から暗殺のようなことをされていたが、大勢を見るに、中流層以下が全員かなり損しただけであった。


自分はこの異世界ではステータスを上げることに専念した。


両親との会話はあまりすることがなくなった。あまりにも価値観が違いすぎることと、お互い相手の話に興味がなくなったことが原因である。気味の悪い忌み子のような存在として、嫌われてはいないものの、世間体のために一通りの優しさを与えてくれる存在でしかない。以前はそれでも騙し騙しやれていたが、先日弟が誕生したため、この状態には一層拍車がかかった。


5歳でLv20までたどり着くには、思いの外時間がかかった。


自分の村でのサンプルにすぎないので、実際のところどうなのかはわからないが、だいたい成人がLv20程度であり、5歳というのはせいぜいLv4くらいに過ぎない。しかしRPGでいうならばLv20というのは序盤であり、自分としてはまだまだ足りぬと思っていた。


そしてLv20になったときに同時に、<未来人: 能力【経験値譲渡】>という、能力つきの称号が現れた。


最初、あまり気にせず人に経験値を渡すことはないと普通にステータス上げをしていたのだが、ふと、経験値を通貨として流通させられないかということを思いついた。いやはや、そうして、自分は村の中で高利貸しのようなことをし始めた。


また、一時的に人に経験値譲渡権限を一部のみ付与するというようなことも、使っている間にできるようになっていた。


経験値譲渡スキルのよいところは、債権回収をしなくてもいいというところだ。ひとたび契約さえ結んでしまえば、それがいかに悪辣だろうが、またたく間に簡単に回収できてしまう点にある。足りない分の経験値は命まで取るからだ。


経験値譲渡は、最高月利40%。つまり年利にすると5600%。闇金もビックリの超高金利である。称号による能力であったため、競合すら存在しないし、独占禁止法という法律もない。もちろん、超高金利にするのは低属性の人であり、命を抵当につけた人であり、高属性はサスティナブルにしてLTV(顧客生涯価値)を高めることにもぬかりはなかった。


村から始まった、最初マイクロファイナンスだったようなこのビジネスはあっという間に他の村や都市にまで広がった。


大量の暗殺者が送り込まれてきた。しかしそれは自分のところまではおろか、自分の部下たちによって始末できており、大した脅威にはならなかった。世界でしのぎを削ると言われている勇者たちがLv200やLv300と言われているところで、自分の部下たちは最低Lv500以上で固まっているといえば、いくら武官でなくてももはやなんの敵にもならないことは明らかだった。


10歳でLv7000になった。


この異世界には、魔族という存在がいたが、そんなものも関係なかった。同じように『経済侵略』するだけでよかった。単に蹂躙することもできたが、「経験値に関する債務についての確認書」さえ書いてもらえればそれでよかった。あとはもう姿形がどれほど人間と違っても同じ存在である。


魔王という存在はLv2000だったようだが、Lv10億に到達していた自分には一般人も同然だった。歴然とした力の差に絶望した魔王は、そのまま身の丈を知ってサラリーマンとして暮らし始めた。


経済発展が続いて、異世界があからさまに地球の現代のようになってくると、虚しさが募ってきた。


ステータスという存在はいつしか、ただのスマートフォンに映る銀行口座や証券口座の残高の、単なる数字でしかなくなってしまった。実際にはステータスにはレベル以外にもいろいろあるのだが、いくら力が強かろうがなんだろうが犯罪をすれば裁くようなシステムにしたことで、レベルとは金であるという認識も共通認識になった。


モンスターは刈り取られており、養殖されている。野生で危険なモンスターが見えることはない。ドラゴンといえば絶滅危惧種となっており、ときおり動物園で見られる程度だ。


そんな経済発展を眺めていると、どこかから『クソゲー』という日本語が聞こえた。


やることもなくなって、テクノロジーも進化したため、前世に建てたものと瓜二つの家を一等地に建てた。


ふと、妻と初めてともに暮らし始めたときのことを思い出した。笑顔で笑いあっていたことを思い出した。気がつくといきなり涙を流していて、自分には生きている価値がないと思った。

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― 新着の感想 ―
[一言] 素晴らしい作品ですね! ☆5個つけさせて頂きました。 これからも頑張って下さい! 応援してます。
2021/11/14 07:38 退会済み
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