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お気に入り小説1

王国の恥さらし公爵令嬢達は女帝の怒りを買い、騎士団へ入団する。

作者: ユミヨシ

ギリギリギリギリ。

これは何の音かというと、カロリーヌ・ハーツ公爵令嬢の歯ぎしりの音である。


カロリーヌ・ハーツ公爵令嬢はそれはもう、顔がきつめで、鼻は高く金髪碧眼の美しき高貴な令嬢であった。


だから、当然、この国のレオンハッド王太子に婚約者に選ばれて、将来は王妃になると、本人は当然のように思い込み公言していた。


ミリーナ・アルデリン公爵令嬢は黒髪を長く伸ばして、口元に黒子があり、色気のあるこれまた美人であった。

彼女もレオンハッド王太子に婚約者に選ばれて、将来は王妃になると、これもまた思っていたのである。


しかし、二人はあくまでも婚約者候補でとどまっており、しまいには、レオンハッド王太子は、真っ白な髪を長く伸ばして、白い肌の冴えないレディーナ・マリリストン公爵令嬢とあっけなく婚約してしまった。


悔しい悔しい悔しい。


こんなにわたくしは美しく、何もかも完璧なのに、あんな馬の骨に負けて悔しい。


カロリーヌは歯ぎしりして悔しがったのである。


それは、ミリーナも同じであった。


わたくしのような魅力的な女性を振るなんて、王太子殿下も見る目がありませんわ。



悔しがった二人の令嬢。

しかしだ。

王太子が駄目でも、是非とも高貴な方の妻になり、権勢を振るいたい。


物語では外国の皇太子殿下が美しき公爵令嬢に惚れ込んで、是非とも妻にと言うのが流行っているわ。

わたくし程、完璧な令嬢にふさわしい嫁ぎ先ね。

これはもう、隣国の皇太子にアタックするしかないわ。


カロリーヌはそう思い、さっそく隣国へと旅立ったのであった。


カロリーヌが隣国へ皇太子を狙いに旅だったと聞いて、ミリーナだって黙ってはいない。


わたくしのような、魅力的な女性こそ、皇太子殿下の妻にふさわしいわ。


とばかり、ミリーナも隣国へ旅立ったのである。



隣国のロドミール皇太子殿下と言えば、

まだ12歳の美少年で。


それこそ、婚約者選びの真っ最中であった。


そこへ、飢えた狼の如く、二人の令嬢がやってきたのである。


夜会では、カロリーヌは黄金薔薇をあしらった金色のドレスを着て、ミリーナは真っ赤な胸元の開いているキラキラ光るドレスを着て、二人は皇太子殿下に迫ったのである。


「ロドミール様。わたくしと一曲踊りませんか?」


カロリーヌが迫れば、ミリーナがロドミールの頭に豊満な胸を押し付けながら、


「皇太子殿下はわたくしと踊りたいとおっしゃっていますわ。」



ロドミールはミリーナの胸で窒息しそうになりながら、かろうじて顔を放して。


「こ、これは、隣国の御令嬢方。僕などではとてもとてもお相手出来ませんっ。」


カロリーヌがロドミールを奪い取るように抱き締めながら、


「なんて遠慮深い。」


ミリーナがロドミールを引っ張り、再び胸にその顔を押し付けながら、


「遠慮なさならくてもよろしくてよ。ロドミール様。わたくしの胸を堪能なさって。」



周りの夜会に来ていた帝国の貴族達はドン引きしていて、


「王国の令嬢達はあんなにもはしたないものなのか?」


「まったく。王国の恥さらしですな。」


口々に悪口をこそこそと言っている。



そこへ、この国の女帝。アリスティーヌ二世が、カロリーヌとミリーナに近づき睨みつけて。


「ロドミール。こちらへ。」


ロドミール皇太子は慌てて、アリスティーヌ二世の後ろへ隠れる。


口元を歪めながら、


「なんてはしたない。お前達はそれでも高位貴族の令嬢か?」


カロリーヌがアリスティーヌ二世に向かって、


「わたくしは、皇妃になりたいのです。」


「何故に皇妃にこだわる。」


「社交界で一番の華になりたいからですわ。」



ミリーナも、


「わたくしも、皇妃になりたいのですわ。勿論、皆にちやほやされて、このわたくしの美しさを見せびらかしたいのです。」



アリスティーヌ二世は怒りまくり、


「なんて幼稚な。こんなのが王国の高位貴族の令嬢とは笑わせる。

お前達は皇宮への出入りを禁じる。これ、騎士団長。この二人を預ける故、しっかりと性根を鍛え直せ。」


「はっ。かしこまりました。」


グレーシア・クルトコフ騎士団長は女性だ。


「何でわたくしが騎士団へっ??」


「いやだわ。ドレス着て、贅沢したいっーーーーー。」


騎士団員達に拘束されて、二人の令嬢達は騎士団へ連れていかれたのであった。



時は真夏。太陽がじりじりと照り付ける中、

騎士団の制服を着た二人は、腕立て伏せをしていた。


「ああ、もう、お化粧がとれてしまうわ。」


カロリーヌがぼやけば、ミリーナが、


「わたくしなんて、眉が無いわっ。きっとっ。」


「あ、ほんとうだわ。貴方、眉を書いていたのねっ。」



グレーシア騎士団長は二人に向かって、


「無駄口を叩くな。」


「ああっ、もう駄目っ。」


「わたくしもっ。」


二人の令嬢は地に伸びてしまった。


騎士団のほとんどは男性である。


隣国の公爵令嬢が、女帝の怒りを買って、騎士団に預けられていると聞いて、面白がって見物していた。グレーシア騎士団長は、


「この程度で伸びるとはだらしがない。しかし、倒れたらまずいからな。水分を取って休憩するがいい。」


化粧も汗で取れて、とんでもない顔になってしまった二人の令嬢達は、ふらふらになりながら、地面にへたりこんだ。


「王国に帰りたいっ。」


「わたくしもっ。」


グレーシア騎士団長は、二人を睨みつけて、


「王国では国の恥さらしは帰って来なくていいと言っているぞ。」


カロリーヌが泣きながら、


「国の恥さらしだなんてっ。」


ミリーナも涙を流して、


「わたくしは、ただただ幸せになりたかっただけなのにっー。」


グレーシア騎士団長が二人を叱りつける。


「お前達、本当に公爵家の令嬢なのか。王国の公爵令嬢は下賤なのだな。もっと志を高く持て。」


「だから、皇妃になりたかったのですわっ。」


「志だけは高く持っておりますのよっ。」


グレーシア騎士団長は頭を抱える。


「皇太子殿下はまだ、12歳だぞ。まったく。お前達はもっと常識を持て。私が叩きこんでやるわ。」


二人の令嬢達はグレーシア騎士団長の元、嫌って程、鍛えられる事となった。

ただ、騎士団の男性達は皆、紳士であり、二人が何か困っていると助けてくれたりした。

数少ない女性騎士は他に3人おり、女性騎士達も二人に親切にしてくれた。


とある日、数人の騎士達とカロリーヌとミリーナは騎士団の皆の服を洗濯していた。

秋の空が高く、鱗雲が綺麗である。


カロリーヌはポツリと、


「わたくし、一生、騎士団で過ごそうかしら。」


ミリーナが驚いて、


「ええ?国に帰りたくはないの?わたくしは嫌だわ。このまま、ここで朽ち果てるのは。」


「そうなの?わたくし、生きているって最近、実感するようになりましたわ。

結婚もしなくてもいい…ここで生きていきたいわ。」


「カロリーヌっ??大丈夫っ?わたくしは嫌。ここから早く出たいわ。」



カロリーヌは長い金髪を縛っていたのだが、その日を境にばっさりと短く切ってしまった。


ここで生きるのもいいかもしれない。



アレック・ディストリア副団長が、そんなカロリーヌを見て、


「何だ。カロリーヌ。髪を切ったのか?」


「はい。副団長。わたくし、ここで一生を終えたいと思えるようになりましたわ。」


「騎士団の良さが解るとは、成長したな。以前の王国の恥さらし公爵令嬢とは思えん程だ。」


「有難うございます。」



アレック副団長も、カロリーヌやミリーナに色々と教えてくれた。

とても厳しく優しい副団長だ。


そして、季節は冬に入り、雪が降る頃、

カロリーヌは風邪を引いて寝込んでしまった。


心配していち早く見舞いに来てくれたのが、アレック副団長だったのである。


「具合はどうだ?ああっ。失礼。女性の部屋に入ってしまった。」


「ちょっと熱が出ただけですから。御心配頂きありがとうございます。」


「すぐに出て行くからっ…。医者には見せたのか?」


「はい。数日寝てれば治るとの事でしたわ。」


「何か必要な物はないか?ミリーナに言付けしておいてやるから。」


「それでは、お水と果物を…」


「解った。すぐに伝えよう。」


ミリーナは水と果物を持ってきてくれて、グレーシア騎士団長、他にも沢山の騎士団員が心配してくれた。

ただ、風邪をうつすといけないので、ミリーナとグレーシア騎士団長以外は部屋に入らないで貰った。


アレック副団長は、特に心配してくれて。

ああ、アレック副団長が自分の事を好きだったらどんなに幸せか、ふとカロリーヌは思うようになった。


いつしか、カロリーヌはアレック副団長に恋をしていた。


精悍な顔立ち。茶髪で口ひげを生やしているこの騎士団長はカロリーヌよりかなり年上だ。

だが、いまだ独身であった。


「アレック副団長…素敵だわ。」


カロリーヌの言葉にミリーナが目を丸くして、


「ああいう男性が趣味だったの?知らなかったわ。わたくしは、騎士団出入りの商人、ジュレームが好き。彼と話をしていると楽しいの。国に帰りたい気持ちは変わらないけど、彼の事が好きだわ。」


二人の令嬢はいつの間にかそれぞれ恋をしていた。


カロリーヌは、胸を押さえて。


「ああ、王国の恥さらし公爵令嬢に好かれたって副団長、嬉しくはないわね。きっと。」


「でも、告白してみなさいよ。解らないわよ。」


騎士団は恋をするところではない。解ってはいるけれども。


グレーシア騎士団長は厳しい人だ。


アレック副団長に告白なんてした事が知れたら、厳しく処罰されるかもしれない。


でも…



「わたくし、貴方の事が好きです。アレック副団長。どんな処罰でも受けます。でも、この気持ちを伝えたかったのですわ。」


とある夜、カロリーヌは副団長室へ一人行き、アレック副団長へ告白した。


アレック副団長はソファに座っていたが、一瞬赤くなってから、驚いた顔をして。


「熱はないか?カロリーヌ。」


「熱はありませんわ。わたくしはアレック副団長の事を尊敬し、そして愛しております。」


「しかしだな。」


「わたくしの気持ちは伝えましたわ。」



その時、扉を開けて、グレーシア騎士団長が入って来た。


「立ち聞きしてしまった。アレック。良いではないか。この告白。お前も気があるのなら、受けたらどうだ。」


「グレーシア騎士団長。風紀を乱す事にもなりますから。」


「いつまでも王国の公爵令嬢をここへ置く訳にもいくまい。」


カロリーヌは慌てて、


「わたくしは、騎士団にずっといても構わないと思いました。」


「カロリーヌ。アレックに恋する気持ちがあるのなら、今度はアレックの妻となって、影からアレックを支えてやって欲しい。それは私からのお願いだ。」


「騎士団長。」


アレックはカロリーヌに近づいて。


「俺もカロリーヌの事が好きだ。どうか、俺の伴侶になって欲しい。」


「嬉しいですわ。副団長。」




カロリーヌはアレックに抱き締められて幸せだった。



王国の恥さらしとまで言われた公爵令嬢カロリーヌ、そしてミリーナは、見事に改心した。


色々とあったが、カロリーヌは帝国のアレック副団長と結婚し、副団長の妻として暮らすことになった。二人の子にも恵まれ、帝国で幸せに暮らした。


一方、ミリーナは出入りの商人ジュレームと結婚し、彼を連れて王国へ帰って、商売をしながら沢山の子に恵まれ幸せに暮らしたと言う。




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