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日常(終)

本日のみ二時間毎に投稿しております。

 これ、やばくね……?


 そう思ったときだった。


 黒丸の放った蹴りが、朱雀に直撃した。


 翼でバランスを制御できる朱雀とは違い、黒丸は足で空を蹴って跳んでいるだけだ。そのため、蹴りを放てばバランスが崩れることは必至だ。


 オレにでも予測できるほどだ。


 朱雀は当然わかっていただろうし、それ故に蹴りを放つとは思っていなかったのだろう。だからだろう。


 朱雀はもろにその蹴りを受け、あからさまに姿勢を崩した。


 そこへ、手でバランスでもとったのか、姿勢を直した黒丸が、拳を叩き込む。


 魔法の雷を纏ったり、ナイフを握ったりはしていない、素の右拳。




 それは、目に見えた殺傷能力を持っていないがゆえに、この模擬戦の決着を表していた。




 朱雀はさらにバランスを崩し、地面へと落下する。


 黒丸はそれを追って急降下し、先に地面へ到着すると、朱雀を受け止めた。




「や~、負けた負けた。黒丸くん、思ってた以上に強かったね!」


「や、最後の方はわざとだろ? さすがに蹴りを読めない訳ないだろ」


「あ、さすがにばれてたか~」


 訓練も終了し、夕食も食べ終わり、自由時間になり、オレたちは集まっていた。


 メンバーはもちろん朱雀と黒丸とオレだけだ。


「まあ、手の内を明かしすぎるのも不味いだろうし、正解だったと思うよ。スパイがいるだろうって話だったしな」


 ああ、そういえばそんな話を最初にしてたな。


 完全に失念していた。


 てか、あれ全力じゃなかったんだな。気づかなかった。


「あれ、じゃあ、本気出して戦ったらどうなるんだ?」


 ふと疑問に思い、オレは二人に尋ねた。


「う~ん、まあ、僕かな」


「や、俺が勝つだろ。同程度に力抜いてて俺の勝ちだったんだから」


 ん?


「いやいや、わからないよ? そもそも、僕はわざと負けたって言ったでしょ?」


「ふん、どうせ俺が勝ってた。あれは単に決着を早めただけだ」


 あれあれ?


「い~や、僕が勝ってたね。殺してもいいのなら」


「はっ! 殺してもいいんなら、もっと早く勝ててたね!」


 うん。これは止めた方が良さそうだ。


「待て待て、こんな質問したオレが悪かったから。さっさと本題に移ろうぜ? 日が暮れちまう」


「もう外は真っ暗だけどね」


 そりゃそうだ。もう六時なんだから。


 ん? 六時?


「気づいたのかい?」


「ああ。ここは、もう日本じゃないな? 六時なんて、この季節まだ暗くなるような時間じゃない。今は夏だぞ?」


「ご名答。そう、たぶんここは日本じゃない。太平洋上のどこかだ。それも……」


「恐らくはこれ、今俺達がいるこの島みたいなのは、島じゃなくて、船かなんかなんだろうな。俺達が空中戦をしてた時間だけで、そこそこ進んでたはずだ」


 え、ちょっと待て。


「島じゃない? ここが?」


「うん。たぶんだけどね。遠くの島が、若干動いていたように見えたし、それに、島の周囲に取り付けられた壁と言えばいいのかわかんないけど、あれはきっと」


「十中八九、魔獣の侵入を防ぐためだけのものじゃなくて、推進力をあげるためのものだろうな。島自体の形も、どこか縦長で船っぽかった」


「そして、決定的なのは」


「海面が明らかに低かった。どう見ても、島の土は、海面からある程度の高さにあったと思うしな」


「だね。さっきから台詞をもってかれてる気がするけど」


 まずい。またケンカが始まってしまう。


「まあまあ、そんだけ仲良いってことで」


「まあ、大体そんな感じだ。小鳩からはなんかあるか?」


「いや、何もない。ああ、強いて言うなら、紫月が少し気にしてたってくらいか」


「ああ、だからさっき質問されたのか」


 昼食の時に聞かれて、黒丸が適当にごまかしていたのを思い出す。


「悪かったな。丸投げしちゃって」


「や、まあいいさ」


 そうオレたち二人が喋っていると、朱雀が気づいたように言った。


「ああ、そうか。いま、これがどこかに向かっているとすれば、十中八九、いや、確実に例の島、魔族のすんでるあそこなのか」


「ああ、だろうな」


「どれくらいかかるのかな?」


「さあ。まあ、こいつの速度にもよるけど、一ヶ月もかからないんじゃないか?」


「とすると、後二週間かそこらか」


「だろうな。まあ、もっと早いかもしれないが」


「後二週間。それ、結構きつくないか? 魔法、ちゃんと身に付かないだろ」


「物量で押しきる気なんだろ。たいした人数いる訳じゃないが、向こうの、純血の魔人の数はもう五十人とかだろ? 年々減少傾向にあるって聞いた。まあ、混血のやつらもいるはずなんだから、たかだか二百人の訓練もろくにできてない連中が突っ込んでってもどうなんだって気はするけどな」


「そんな人数なのか。でも、そこは日本とは違って魔獣もいるんじゃないのか? それとも戦わなきゃいけないなんてなったらもう勝ち目ない気がするんだが」


「さすがに魔獣のいないとこに上陸する気なんじゃないのか? 範囲攻撃がつかえるやつでもいないと、さすがに魔獣の群れを倒すのは疲れると思う。森を焼き払うとかしないとな」


「範囲攻撃なら、僕ができるし大丈夫なんじゃない? 疲れるからあんまやりたくないけどね」


「だとしても、接近したら気づかれるに決まってるんだから、思惑通りに戦えるはずもないと思うぞ。まあ、俺等よりずっと賢いはずの人がしきってるはずなんだ。さすがにその辺の心配をする必要はないだろ」


「そうかな。僕らの計略すら見抜けないような人たちだよ? それに、現状を下に伝えることもしてない人たちだ。そんなに信頼しない方がいいような気もするよね」


「その点については同感」


「だな」


「まあ、なるようになるさ。鍛練だけは怠らないように、けれど、突然の襲撃にも対応できるように、だね」


 聞きつつ、オレは伸びをする。難しい話は肩が凝る。


「そうだな。まあ、就寝中に襲撃されたりしたら一巻の終わりな気もするけど」


「そういう場合にも対応できるようにしておくべき、だよ」


「気を付けとく」


 とりあえず、剣はすぐ手に取れるところに置いておこう。


「その、襲撃の話なんだけどさ──、」


「なんだよ?」


「あ、いや、やっぱいいや。やめとく。や、一つだけ言っとくか。殺されそうになったら、死ぬ前に殺せよ?」


「あ、ああ」


 さっきまでよりも真剣な声の調子で言う黒丸に、俺は少しうろたえながらも肯定を示す。


「そろそろ帰るか」


「そ、そうだな」


 オレたちは朱雀の部屋を後にした。




 それから一週間、平々凡々な毎日が続いた。


 まあ、訓練続きなので、一般的な学生の平凡とはだいぶ毛色が違う日々ではあったが、それなりに楽しく、充実した日々だったように思う。


 事件が起きたのは、こんな日々が日常になってから二週間ほど経った日だった。

短編版も出しています。先に読みたいというかたは、作者ページからお飛びください。

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