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日常(新2)

本日のみ二時間毎に投稿しております。

 オレたちの食事も終わって、この後どうしようかという話になった。


「まあ、訓練開始まで後一時間位だし、各自部屋に戻って用意か?」


「そうだな。あ、俺は気になるから朱雀のとこ行ってくるわ」


「りょーかい。そっちはどうする?」


「私たちもそんな感じかな」


「よし、じゃあ、また後で」


「おけー」


「じゃね~」


 口々に別れの言葉を言い、手を振って別れる。


 気になって、黒丸に聞いてみた。


「なあ、あいつの部屋、何処かわかってんのか?」


「ん? ああ。たぶん……。この辺。ほら、あった」


 そう言って立ち止まったのは、オレたちの部屋の三つ隣だった。


「お~すげ、よくわかったな」


「ちょこちょこ見かけるしな」


 言われてみれば、確かにちょこちょこ見かけていたような気もする。


 なにしろ、あの赤い髪だ。目立つ。


 まあ、魔族の血が混じっていれば、髪色が黒じゃないこともしばしばある。


 とはいえ、赤というのは、その中でも目立つ色だ。


 だから、そこにいれば気にしていなかったとしてもわかる。


 そういうわけだから、どうやら気になっていたらしい黒丸は部屋まで覚えていたということなのだろう。


「オレはどうすればいい? 部屋で待ってた方がいいか?」


 朱雀の部屋の前で立ち止まり、ノックをしようとする黒丸に、オレは聞いてみた。


「いや、別にいいんじゃないか? 向こうが嫌だというのならやめた方がいいかもしれないけど、俺としてはお前がいた方が楽だ」


「そっか。じゃあ一緒にいくわ。どうせ一人で部屋にいても暇だし」




 ノックをすると、すぐに扉が開いた。


「やあ、待ってたよ。あれ、そっちの……確か、尾白君だっけ? 君も一緒かい?」


 出てきた朱雀は、そんなことを言った。


 まあ、黒丸だけを呼んだのにもう一人いたら、そうなるよな。


「ああ、邪魔ならオレは部屋に戻ってるけど……」


 オレがそう言うと、


「いや、別にいいよ。誰かに聞かれて困る話でもない。いや、上の人たちには聞かれたくないかな。出来れば。だから、できるだけ他言無用で頼むよ?」


 そう言いながら、朱雀はにこりと笑って、人差し指を口の前で立てた。




 部屋の中には、他に人はいなかった。


「あれ、二人部屋じゃないのか?」


 黒丸が聞く。オレも同じ疑問を持ったところだった。


 今いないだけという感じではなく、荷物が一人分しかないのだ。二人部屋なので、スペースが余っている。


「なんか、部屋が余ってたみたいだよ。言ったら一人部屋にしてくれた。別に親しい友達とかもいないしね。ああ、立ち話もなんだし、適当に座ってよ」


 空いているスペースに腰かけつつ、黒丸が言った。


「寝坊でもしたら大変だな」


「いや、一人部屋希望するやつが寝坊するわけないだろ。お前じゃあるまいし」


「あはは、そうだね。目覚ましもあるし、寝坊はしないよ」


 朱雀がそう答えると、黒丸は軽く相槌を打ちつつ、いきなり確信に踏みこんだ。


「そうか。で、話ってのは?」


「ああ、そうそう。話、だったね。早速始めよう」


「ああ。そうしてくれ」


 そうして、会話が始まった。




「まず、ここがどこなのか知りたい。どこかの島なのか、それとも、本州なのか。はたまた、どこか別の大陸なのか」


「確かに、それは気になってはいた。ケータイで調べようにも、没収されちまってて使えないし、聞いてもどうせ答えちゃくれない。たぶんだけど、こっちに情報を渡す気はほとんど無いだろうしな」


「だろうね。でも、最低限、自分のいる場所くらいは知っておきたい。それは君もだろ?」


「ああ。だが、具体的になにか策でもあるのか? さすがに、脱走なんてさせてくれないだろ。いや、するだけなら出来るかもしれんが、その後がどうにもならない。所詮俺達はガキだし、貴重品をなにも持っちゃいない。現在の保護者であるここのやつらの元から離れたら、頼れるもんは自分だけだ。野生に戻るような生活をするくらいなら、ここがどこかわからなくても、いた方がましだ」


「だろうね。僕も脱走なんてするつもりはないよ」


「じゃあ、どうやる?」


「簡単さ。空から見ればいい」


「はあ? 空なんて、上れたとしても、急に飛んだりしたら怪しまれるだろ。スパイかなんかかと怪しまれるぞ」


「まあ、そうかもしれないね。普通に飛べば、ね」


「?」


 ずっと話に入れてないオレだが、もはや完全にわからなくなってきた。


 まず普通に空を飛ぶってなんだ? で、普通じゃなく空を飛ぼうとしてんのか、朱雀は。もうわけわからん。


「どういうことだ?」


 ほら。さっきまで朱雀と同水準で喋ってた黒丸も、疑問符を浮かべている。


 と、朱雀は人差し指を立て、言った。


「簡単なことさ。飛んでも怪しまれないようにすればいい。例えば、模擬戦でもするとか」




 その後、朱雀との会話を終えたオレと黒丸は、自室に戻り、ベッドに横になっていた。


 娯楽的なものがほとんど無いので、こういう空き時間が暇だ。


 まあ、勉強用具は言えば借りられるのだが、この後使うかもわからない知識を仕入れたところで、意味はない。


 ということで、暇をもて余したオレたちは、少し体を休めようと、ベッドに横になっているわけだった。


 とはいっても、だ。


 そもそも起きてからやったことなんて、着替えと食事と会話だけだ。たいして疲れちゃいない。


 だから、オレは先程の話を思い出して、頭に詰めておこうと思った。


 きっと、黒丸なんかはもうすでに詰めているんだろう。


 ええと、たしか……。




「集合、集合!」


 廊下の方から、そんな声が響き渡った。


 訓練開始のようだ。


「おい、黒、おきろ。行くぞ」


 黒丸に声をかけ、剣を手にとって廊下へ出る。


「ん、おお。行くわ行くわ」


 大きめのナイフが一つと小さめのものが四つほど着いたベルトをジャージの内側の体に巻き、上からジャージを羽織ると、前のチャックを閉めながら出てくる。


 続々と出てきた他の連中に混じって、オレたちは訓練場へ向かった。




 整列して待っていると、指揮官的な存在の人が前に立った。


 その人物は、話し始める。


「ええ、今日は、希望もあり、最初に模擬戦を見てもらう。今君たちが修練している魔法というものが、高水準ではどんな力になるのかを見てもらうためだ。では、朱宮朱雀、烏丸黒丸、前に出たまえ」


 すっと、前に出る二人。二人とも、軽く浮かび上がっている。


 黒丸は空を蹴って、朱雀は炎の翼を広げて、だ。


 あの近くのやつは熱くないのか? いや、熱が届かないように何らかの工夫はしているのか。よくわからないが、彼の付近の者も熱くはなさそうだ。


 まあどうでもいいか。とにかく、二人は前へ出た。指揮官(?)の両横に立つ。


「彼らに、模擬戦をしてもらう。二人とも、君たちよりかなり強い。今回の争いでは、主格的な役割を果たしてくれるだろう。では、真ん中を開けてくれ。十分なスペースがあるはずだから、広がってくれて構わない」


 元々、五百人が運動できるように作られた場所だ。その半分もいないのだから、かなり余裕がある。オレたちは広がり、各々立ったり座ったり、観戦できるよう体勢を整えた。


 と、二人の女子がこちらへやってきた。


 言わずもがな、紫月と朱宮(妹)だ。


「ちょっと? 聞いてないんだけど、なんなの、あれ?」


 紫月がオレに聞いてくる。


 当然、オレはあいつらの目的を知っているわけだが、他言無用と言われている。


 言わない方がいいだろう。だが、この二人には言ってもいいような気がする。どうしたものか。悩むが、答えは出そうにない。あと、悩んでる時間もないだろう。質問から、すでに一秒以上がたっている。会話で二秒も間が開くと、結構異質に感じるものだ。さっさと答えた方がいい。だが、言っていいものか困る。


 だから、


「や、オレもよくわからん。後で聞いてみたら?」


 オレは、説明責任を放棄し、彼らに擦り付けることにした。


 めんどくさい。


 どのくらいの人に話していいのか事前に言っといてくれないと、オレみたいな頭のあんまりよくないやつにはわからないぜ?


「ふうん……。わかった。後で聞いてみる」


 若干疑いの目を向けてきてはいたが、穏便に受け流せたかな……?


「とりあえずは、模擬戦見ようぜ。せっかくだし」


 オレは、とりあえずそう提案する。注意をそらしてしまおうという考えだ。


「それもそうだね」


「だね~」


 同意があって、三人共の視線は、中央へ向けられた。




 中央では、黒丸と朱雀による模擬戦が行われている。


 激しく動きまわり、攻撃を仕掛けているのは黒丸で、それを迎え撃つように朱雀が炎弾を発射し、それを黒丸が避けたり弾いたりしてなんとか捌いている様子で、どちらが優勢とも言いがたい。


 今も、胸元に打ち込まれた炎弾を、ジャージの袖を燃やしつつ弾き、火傷を瞬時に治しながら、接近、今度は迫る炎弾を避け、朱雀に肉薄した。


 しかし、朱雀の方は慌てる風でもなく、さっと飛び退きつつ黒丸に連続で炎弾を打ち込む。


 それを黒丸が避けたり弾いたりして処理し終えた頃には、朱雀は先程と同じ距離感を保って立っているというわけだ。


 これと似たようなことを、ここまでで数度繰り返している。


 将棋でいえば千日手、攻めかたを変えるところだ。


 黒丸は、先程前に出るときにやって見せたように、跳び上がり、空を蹴って移動する。手に持っていたナイフをしまい、右手に火花を散らせている。移動しながらその火花は大きくなり、まるで、右手に雷を纏っているかのようになった。


 炎弾を朱雀が撃ち込むが、そのことごとくを避け、今度は斜め上から、右手でもって攻撃を仕掛けた。




 攻撃は最大の防御とはよく言ったもので、立体的な機動を用いて接近、攻撃を仕掛ける黒丸に、朱雀は反撃の糸口をつかめていないようだ。


 と、何も知らずに見ていれば、そう見えただろう。しかし、実は違う。


 ここで、地上戦では勝てないと見た朱雀は飛び上がる。それを追って、黒丸も跳び上がり、空中戦をしつつ、周囲の状況を見て情報を得る、というのが計画だ。


 まあ、計画を考えたのはオレではないし、オレはただ聞いていただけだ。


 正直、あの場にオレが必要だったのかと問われれば、否と答えざるを得ないだろう。


 まあ、別にいいか。正直、オレが知っていようといまいと、何も変わらないし。


 さて、計画通りに、朱雀が飛び上がり、追随するように黒丸も跳び上がる。


 空中戦が始まった。


 先程から流れ弾にビクビクしていた連中がほっと息をつく。


 考えて戦闘して欲しいものだ。ふつう、流れ弾なんて飛んできたら、怖いんだよ?


 それはともかくとして、二人の戦闘は、ある程度は周囲の状況を確認するという目的の完遂のために軽めの衝突になっているが、それでも結構ガチだ。あれは怖い。どっちの攻撃も、当たったら普通に死ぬんだが。


 流れ弾とか来ないよな……?


 というか、目的を完遂できたのなら、なぜすぐに決着をつけないのだろう。そう考えて、すぐに思い至った。


 模擬戦の結末を考えていなかった。


 

短編版も出しています。先に読みたいというかたは、作者ページからお飛びください。

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