日常(新1)
本日のみ二時間毎に投稿しております。
召集から一週間が経った。
訓練続きの毎日だ。着実に強くなっている気がする。
ただ、だんだんと、訓練が楽に感じてくるようになった。
慣れてきたというのもあるだろうが、レベルが低いのだ。
初心者向けのものばかりなので、ある程度身に付けてくると、とても楽に感じる。
疲れるような訓練は、筋トレくらいのものだ。あれはどれだけやっても疲れる。
さて、オレたちが今いるのが日本のどこなのか、もしくは日本ですらないのか、それは全くわからないのだが、何とかやっていけてる。
とはいえ、基本的には食事と訓練以外にやることもない。
携帯端末内のゲームで遊ぼうにも、端末はそもそも没収されてしまっている。
他に出来ることと言えば、言えば借りられる教科書を使って勉強するくらいだ。
まあ、そんなことをするやつはそういないが。
オレたちが現在寝泊まりしているのは、寮だ。二人一部屋になっていて、俺は黒丸と同室になっている。紫月は朱宮と同室だ。
実は部屋は余っていて、一人部屋状態のやつもいるらしいが、オレは別に望まない。
建物は三階建てで、二、三階が住居、一階に大浴場と食堂、その他のスペースがある。
オレは今、自室、ベッドの中にいる。
時刻は午後九時だが、最近はやることもないので就寝時間が早くなり、睡眠時間は長くなっている。
訓練で体は疲弊しているので、ぐっすりと眠れる。
「おやすみ」
ベッドの下の段から、声がした。
言い忘れていたが、ベッドは二段だ。
「おやすみ」
オレもそう呟いて、目を閉じた。
朝、起きると、黒丸はまだ寝ていた。
「おい、朝だぞ。起きろ」
オレがそう言っても、起きる様子はない。
とりあえず、オレは着替えた。
シャツは支給されたので、この一週間は制服で動いている。
当然汗をかくので、毎日洗っている。二着持ってきておいてよかった。
さてさて、着替え終わると、黒丸の様子を見てみる。
やはり、起きる様子はない。揺すってみるが、やはり目を開ける感じではない。
だが、起きてはいるようで、意識はあるのがわかった。
そこでオレは、
「早く起きないと、飯なくなるぞ」
と言ってみた。
すると、黒丸は飛び起きた。
「うっそだろ、もうそんな時間か!」
「いや。うそ。おい、寝るな。さっさと起きろ。ほんとに飯食えなくなるぞ」
ここまで言って、ようやく黒丸はベットから這い出てきた。
黒丸は着ていたジャージを脱いで、別のジャージを着た。
いつもジャージ一枚だ。
黒丸が着替え終わると、オレたちは食堂へ向かった。
食堂に着くと、先に来ていた姿月たちを見つけ、合流した。
「はよーっす」
「はよー」
オレたちが声をかけると、むこうも気づいて、返してくる。
「おはよう、黒丸くん、小鳩くん」
「今日も遅いなあ、どうせ、また黒君が起きてこなかったんでしょ」
紫月にそう言われると、黒丸はばつが悪そうに頭に手をやりつつ言う。
「そうなんだよ、こいつ、俺起こすの下手なんだよ」
「自分で起きろ。マジで起こさねーぞ」
「それはやめといた方がいいな」
「はあ、何で?」
「俺の機嫌が悪くなる。するとだ、……、えーと……」
「何もなさそうだな。ってか、マジで起きろよ。毎回飯食えなくなるってオレが言うまで起きてこないじゃねーかよ」
「あはは、黒君らしいね」
「黒丸くん、朝は起きた方がいいよ」
「仕方ないな、起きてやるとするか」
「ったく、できそうなら最初からやれよ……」
そんな会話をしつつ、オレたちはは食事を受け取りに進む。
すぐに、オレたちの番が来た。
四人の中で最初に受け取ったので、空いている席を探す。
ある程度席は埋まっているものの、空いているところも多い。適当な席に座ると、残りの面子が揃うのを待つ。
しばらくすると、黒丸が、続いて紫月、朱宮が来て、揃ったところで食べ始める。
食事は一日三食貰える上、メニューは選べないが、毎回美味い。
恐らくは国から金が出ているのであろう事を考えると、少し申し訳ないような気にもなるが、将来的に命を張るのであろう事を考えると、これくらいされて当たり前という気にもなる。
まあ、上手いこと折り合いをつけていくのがいいだろう。
さて、オレは、食事を受けとる列の中にある人物を見つけ、三人に声をかけた。
「なあ、あの赤い髪のやつ、気にならねえ?」
「ん? どれ?」
「あれだよ、あの、今ちょうど飯受け取ったやつ」
すると、朱宮が少しビクッとしたような気がした。
「ああ、あいつか、あれはたぶん強いぞ」
「へぇ~。そんなのわかるの?」
黒丸に紫月が尋ねる。
「ああ、訓練の時毎回退屈そうにしてんだよ」
「そうそう。それでオレも気になってたんだよ。いつも一人だしな。あと目立つし」
「確かにあの赤い髪は目立つよね」
そんなことを話していると、なんと件の赤髪はこちらへ向かってきた。
オレの隣の席に座ると、朱宮に話しかけた。
「朱音、母さんは元気?」
驚くオレたちだが、朱宮はなんともなさそうに返す。
「うん。元気。私が知ってる限りは楽しそうだった」
「そうかい、それは良かった」
普通に会話をする二人だが、オレには彼らの関係がよくわからない。
「え? 知り合いなの?」
オレが聞くと、朱宮はなんだか申し訳なさそうに答えた。
「あ、はい。……ええと……」
「兄の朱雀です。よろしく」
オレたちが驚いたのは言うまでもないだろう。
名前にも、兄だということにも。
さて、食事を進めていき、終盤に差し掛かってきた頃だった。
隣に座った、朱宮のお兄さんは、実はオレたちと同学年らしい。
これは留年したとかではなく、彼が四月、そして朱宮が三月の生まれなのだそうだ。
色々あって朱雀の方は離れた寮制の学校に通っていたらしい。
理由は教えてもらえなかったが、魔法がかなり使えるらしい。
その朱雀は、食べるのがまあまあ早く、オレたちの誰よりも早く食べきった。
そして席を立とうとして、思い出したように言った。
「あ、そうだ。そっちの……、たしか、烏丸君だったよね、後で僕のとこに来てもらえるかな。話があるんだ」
どうやら黒丸に話があるようだった。
それだけいうと、彼はさっさと歩いていってしまった。
短編版も出しています。先に読みたいというかたは、作者ページからお飛びください。