日常(終兼始)
本日のみ二時間毎に投稿しております。
その日──正確には、少し前の日だが──、日本は魔王軍に攻撃をすることを決めた。と言っても、秘密裏に、各地へ情報が流されたので、それを知るものは関係者以外にはいなかった。
なら、なぜその情報をオレが持っているのかというと、オレにもその情報が回ってきたからだ。
そう。この情報は、国の管理するデータに載る、魔族の血の濃さがある程度以上のものに流されたらしい。届いた手紙には、そう書いてあった。
また、手紙には、学校には、同時に連絡が行くようになっていることと、集合場所も書かれていた。また、この召集に背けば、後日処罰を受けることも。そして、他言無用とのことだ。
「マジかよ。……まあ行くしかないか」
バッグには着替えを一応詰め、集合場所へと向かった。
途中で、例の倉庫へ寄り、剣を拾ってくることも忘れない。(サイズがサイズなので、完全に邪魔だったが、まあ、必要だと思ったので、手で持っていった)
集合の時間がけっこう遅めだったので、誰かに見られることも余りなく目的地まで行くことが出来た。
当然、紳士として──そこ、どこが? とか、いうんじゃない──、五分前行動だ。
現地へつくと、朱宮と紫月がいた。他にも数十人の人がいるが、黒丸は見当たらない。
何故だろう。あいつはオレたちよりも血は濃いはずだから、来てると思ったんだが……。
あと、ヘリが数台ある。この後移動するのだろうか。
まあ、気にしていてもしょうがない。手紙に書かれていた通り、番号にしたがって、並ぶ。と、黒丸があくびをしながらやって来るのが見えた。
おそらく、召集をかけられた側でない──つまりは、かけた側であろう──黒服のおっちゃんに叱られていた。
言い忘れていたが、銃を持った黒服のおっちゃんが、十人くらいいて、召集された人達を囲むようにして立っている。
時間になり、全員が揃っているようだった。
整列しているオレたちの正面にある壇の上に、黒服のおっちゃんたちとは違うスーツを着た男の人が上った。
マイクの調子を確かめると、口を開いた。
「え~、召集に応じてくれてありがとう。誰一人欠けることなく、全員が集まってくれたこと、嬉しく思う。これだけの若者が、我が国、いや、世界のために立ち上がってくれることは、非常に喜ばしい。まずは、お礼を言わせてもらう」
そう言って頭を下げる。
しかし、オレはその姿に、ボソッと声を漏らしてしまった。
「ほぼ脅迫だっただろうが」
前に立っているやつが小さく振り返った。唇に手を当てている。
やめておけということだろう。気遣ってくれるとは、ありがたい。
謝る感じで、手刀を切っておいた。
彼は、苦笑しつつ、前へ向き直った。
スーツの男は、顔をあげた。どうやら、話を続けるようだ。
「え~、これから、君達には、全国の君たちの仲間が集うところまで来てもらう。詳しい話は、そこで一斉にあるので、各自、そこのヘリに乗ってくれ。一台に十人ずつ程度だ」
そう言って、停まっていたヘリを指差す。
どうやら、ここでは番号はどうでも良いようで、適当に乗っていく。
オレは、黒丸や紫月、朱宮と合流した。
「いやぁ、大変だな、これから。で、どうするんだ、この後」
そう黒丸に尋ねると、
「さあな。でも、まあ、行きなり魔族と戦えとは言われないだろう。訓練とかあると思うぞ。まずは、全国から集められてるのがどの程度の人数なのかが気になるとこだな。俺が住んでるとことここはけっこう離れてたから、ここに召集されてる範囲はおそらく県三つって所だろ。だとすりゃ、面積的に見れば、ここに来てる人数の十倍は来てるんじゃないか?」
十倍だとすると、数百人といったところだ。
「え、でも、うちとそっちだけで四人はいたんだから、学生だけでもけっこういそうなもんだけど、そんなに少ないの?」
紫月がそんなことを言う。まあ、たしかにそうだけど、見た感じ、
「そもそもだ。ここにいんの、ほとんど学生だろ。たぶん、集められてんのは学生だけだ。これ、けっこう死ぬぞ」
「まあ、死なないようにはしたいな。ってか、死にたくない。頑張るぞ」
頷き合って、ヘリに乗り込んだ。
ポツリと呟いた黒丸の声を、オレは聞いた。
「嫌な感じだ。なんか、外れてそうだな」
「どういうことだ?」
「いや、気にすんな」
ヘリの中では、比較的自由に会話が許されていたので、同じ機体に乗ってるやつらとは、けっこう仲良くなった。全員同じ学校らしく、制服を着ていた。
五機ものヘリが同時に飛んでいるのはバレる危険性があるとのことで、他の機とは別行動をとっている。
そのため、こちらから他の機のことはわからない。
とりあえず、自分達の機が無事に目的地まで着けば良い。
「で、何でみんな制服のなかお前一人ジャージなんだ?」
オレは、とりあえず黒丸にそう聞いた。
「え、別によくね?」
「制服持ってくる感じに書いてなかった?」
紫月が言う。
「持ってきてるよ。バッグの中には入ってる」
そう言って、黒丸は自分のバッグを開く。中にはナイフと制服があった。
ナイフは見た感じ、オレの剣と同じ、オリハルコン製のようだ。
やはり例の工場跡にあったやつだろうか。
「このナイフも、勿論あそこのだ。まあ、俺の手で多少形を整えたり、グリップ変えたりはしてるけど」
「へ~、面倒なことしてんね」
紫月が言う。
「まあ、金無いしな」
小さく笑いが起きる。
今から人を殺すためのところに行くなんて、思えない。
「オレは、このバッグのなかにもう一着制服が入ってんだけど」
「制服多いと邪魔なんじゃない?」
「確かにね。私もこれとジャージしか持ってきてないし。あ、ジャージは複数あるけどね」
「あー、オレも二着ジャージ持ってくりゃよかった」
「俺の貸してやろうか? ジャージばっか持ってきてるし」
「おお、わりい。頼むわ」
等と不毛──でもないか?──な会話を続ける。
こうしていると、いくらか気が紛れる。
ずっと、こうしていたい。このまま、普段通り、ずっとだべっていたい。
ずっと、このまま。あり得ないとしても、望んでしまう。怖い。死ぬのが、戦うのが。殺すのが、奪うのが。すべてが、怖い。恐ろしい。嫌だ。
そう思いながら、オレは会話を続けた。
数時間後。
目的地に着いたようで、ヘリが地上に降りた。
オレたちも、荷物をまとめて外に出る。
黒服に連れられ、オレたちはホールのような所に来た。
中に入ると、人がたくさんいた。
だが、思っていたよりも少ない。とはいえ、目算では数えきれない。
キョロキョロしていると、黒服が手招きしながら言う。
「こっちだ。ここに並んでいてくれ」
オレたちは、おそらくさっきの集合場所にいた人間が並んでいるのであろう列に並ぶ。
そして、オレたちが最後だったのだろう。
正面の壇上に人が上り、一礼して、話し始めた。
「え~、謝辞は、省かせていただき、本題へ入らせてもらう。ここに集まることが出来たものは、約二百人いる。しかし、召集したのは約五百人だ。これは、ここへ来る途中で、魔人どもに襲撃を受けたということでもある。これからは、ここがバレ次第、襲撃される。だが、それよりも早く、彼らを叩きたい。しかし、現在の君達では実力不足だ。という訳で、これから、訓練に入っていくことになる。宿泊施設は、こちらで当然用意した。とりあえず、今日の訓練が終了次第、案内していくので、これから訓練に入ってほしい。以上だ」
それは、いくつかの場所の情報は漏れたということ。
その事実が、場をざわつかせた。
それは、もちろんオレたちも例外ではなかった。
しかし、今はそんな場合ではない。
ともかく、これから訓練のようだ。
顔も知らないが、最初の戦死者となってしまった者達のためにもこれから頑張っていかなければ。
薄情かもしれないが、一刻も早く強くなることが必要だ。
というより、そもそも顔も知らないやつが死んだところで、そこまで悲しくない。
こうして、オレたちの危険な日常は始まった。
短編版も出していますので、先に読みたいというかたは、作者ページからお飛びください。