日常(学校)
本日のみ二時間毎に投稿しております。
全授業が終了し、帰路に着く。
紫月は友達と帰るらしく、今日は一人だ。
と、黒丸と朱宮さんが出てくるのを発見した。
声をかけようかと思ったが、二人にしておこうと思い直し、後を付けてみる事にする。
駅の近くで黒丸達は道を逸れ、横道に入った。
そのまま後をつけると、二人は廃工場へ入っていった。
こんなところに廃工場があるとは驚きだ。
というか、いったい何をするつもりなのか。
昨日の紫月は確か、魔法の練習じゃないかと言っていたが……。ってか、どうでもいいけど汚ぇな。
そのまま見ていると、中から、黒丸の声が聞こえてきた。
「ちょっときれいにするか」
それと同時に廃工場は光に包まれた。
「おお、すげえな」
思わず、そう呟いていた。
そこには、さっきまでの廃工場とは似ても似つかないほどきれいになった工場跡があったからだ。
中からも、朱宮の「わぁ、すごぉい」という声が聞こえてくる。
その直後、照れたような不機嫌なような黒丸の声で、
「まあ、これくらいはできる」
という言葉も聞こえてきた。
「っと、まあ、それはそれでいいとして、始めるか」
黒丸の声が言う。
「え、何を?」
朱宮の声は、不思議そうだ。
「魔法の練習だろ。そろそろやろう。っと、その前に、──」
そう声がして、足音が外へ向かってくる。
バッとオレは身を隠したが、遅かったようだ。
「なあ、こそこそ隠れながらさっきからつけてきてるやつ。大方、紫月か小鳩のどっちかだろうけど……いや、小鳩かな、紫月は友達がいるはずだし、ボッチで帰ることにはならない」
ばれてた。
「なんだよ、ばれてたのか」
オレはさっさと姿を現して、黒丸に近づきつつ、そう言った。
「当たり前だ。道をそれた時に足音消したりもせずついてきたらばれるだろ。俺ら以外の足音がするんだから」
なるほど、と、オレは思った。
確かに、誰も入ってこないような道に、自分達以外の足音がすれば気づくか……?
いや、普通そんなに気づかない気がするが。
「まあ、それはそれとして、ちょうどいいし、ちょっと手伝ってくれ」
と、黒丸は言った。
「え? 何を?」
とりあえず、面倒なことに巻き込まれたくはない。とぼけておく。
「とぼけんなよ。聞いてたんだろ? 魔法の練習だよ。話はどうせ紫月から聞いてんだろ。よろしくな」
まあ、やることも特にないので、うなずいて、練習に付き合うことにした。
「小鳩、まさかお前、魔法の使い方よくわかってないんじゃないのか?」
数分後、オレは黒丸にそんな言葉を受けていた。
確かに、俺は魔力を使った身体強化のすべは独学で身に着けているが、魔法はよくわかっていない。
こくりとうなずき、俺は言った。
「というわけで、俺にも教えてくれよ。魔法」
すると、結構気軽に黒丸は答えた。
「まあいいぞ。一人教えるのも二人教えんのも変わんねーし。ただ一つ思うんだが、お前、魔力自体はわかるんだよな?」
「ああ、一応、体の中で魔力を回したり、物に通したりはできる」
オレがそう答えると、
「なら剣でも使ったほうがいいんじゃねえの? そのほうが、一から魔法覚えるより早いだろ。強くなんの」
「あ~、木剣なら家にあるけど……」
「いや、それじゃあ身を守るには不十分、……でもないか、まあ、唯一の欠点としてはいつも持ち歩いたりもできないことかな。まあ、これでも持っとけ」
そう言って、黒丸は何か棒状のものを放ってきた。
それは、くるくると回転しながら俺のもとへ飛来し、俺の手元へ収まった。
「なんだこれ?」
「警棒?」
は? 警棒? あ、ほんとだ。振ったら長くなった。
「いや待て、これどっから出した?」
「え、普通にここの箱から」
そう言って黒丸は足元を指さす。
「まあ、中にいろいろ入ってるんだけど……。ロクなもん入ってねぇんだよな。あ、これなんていいんじゃねーか? オリハルコン製の剣。よいしょっと」
そう言いながら、黒丸は両手で、一本の黒い剣を取り出し、床へ横たえた。
オリハルコンは、確か世界一硬い金属だったはずだ。加工方法は知らないが、それでできた剣なのだろう。とても重そうだ。
てか、一体ここは何なんだ? そんなものが置いてあるのって、明らかにおかしいだろ。
「てか、黒、ここは何なんだよ」
そう俺が尋ねると、黒丸は普通に答えた。
「ここ、前は武器とか作ってた工場みたいでさ、もう機材は動かねーみたいなんだけど、いくつかものが置き忘れられてたんだよ。で、それ拾ってここに詰めた。まあ、がらくたばっかだけどな」
どうやら、剣などの近距離用の武器を作っていたところのようで、銃とかはなかった。
それにしても、なぜこんな剣なんて置いてあるんだろう。普通忘れないだろう。こんなにでかいの。
そう聞かれることを予想したのか、オレが尋ねる前に黒丸は話し出した。
「それ、たぶん、不良品なんだよ。一応、刃の部分はきちんと作られてる。っていうか、俺が直したんだけど……、柄の部分あるだろ。そこが両手剣かってくらい長いんだよな」
確かに、刃のサイズ的にはおかしいくらい柄が長い。
「俺的には、出てくときに、ちょうどいいやって思って捨ててったんじゃないかと思ってる」
「へ~」
「ああ、だからがらくたばかりなんですね」
「ああ、たぶんな。直すのも面倒な不良品を置いてったんだと思う」
黒丸は、朱宮に答えると、オレたち二人に振り向いて、言った。
「ってわけで、これからここが俺等の秘密の場所だ」
そう得意そうに言った後、黒丸は真顔に戻って言う。
「それはそうと、魔法の練習、そろそろしよう。朱宮も、待たせたな」
「ううん、全然いいよ~。魔力の操作に慣れるのに必死で、周りかまってる暇ないし」
「まあ、今日は朱宮は魔力に慣れるだけかな。魔法を実際に使ってくのは明日からってことで。小鳩はこれ振れるか試してみてくれ」
そう言って、顎で先ほどの剣を示す。
その日は、身体強化を使えばその件を片手で振れるくらいにはなった。コツがつかめてきたので、そのうち普通に振り回せるようになると思う。勿論、身体強化を使ってだが。
朱宮は、魔力の感じがつかめてきたと言っていた。
翌日は、紫月も来て、紫月は教える側に回ることとなった。
黒丸が話し出した。
「まず、魔法っていうのは、イメージの具現化だっていうことを覚えてくれ。そもそも、魔法って何なのかっていうと、思い浮かべた事象を起こすために魔力が働いて、イメージ通りの現象が起きることを魔法っていうんだ。つまり魔力っていうのは、物理法則を無視するための力な訳だ。例えば、ここにこう、手があるだろ」
そう言って、黒丸は右の手のひらを上にして手を差し出した。
「ああ、あるな」
「うん。あるね」
そう言って、オレと朱宮は頷いた。
「で、ここに火の玉を生み出すイメージを持つ。大きさとかも合わせて、結果をイメージする。んで、右手に魔力を流してやる。すると、ほれ」
ボッ、と、黒丸の手のひらの上に火の玉が現れた。
「おお」
驚きで声が漏れる。
黒丸は苦笑しつつ、
「俺もこれくらいなら出来るんだけどな、火の魔法はあんま練習してないから、これ以上は難しい。明確なイメージがなくちゃ魔法は成功しないから。でも、慣れてくると紫月みたいにでかいのも出せたり、応用が利くようになってくる。」
そう言って、黒丸は紫月を指差す。
「え? 私? ああ、うん。よしょっ」
そう言って、紫月は、火の輪っかを作り出して見せた。
「あとは、こんな感じ?」
床から火と水の柱を一本ずつ立たせ、移動させて隣り合わせにすると、お互いに巻き付けるようにしてぐるぐるさせ、一本の柱状のものにした。
「わあ、すごぉい!」
朱宮ははしゃいだ様子でそう言った。
すると、黒丸が言う。
「こんなことが出来るようになるには、けっこう練習が必要だぞ」
「黒君は治癒魔法ばっか磨いてたから他の魔法が全然なんだよね~」
意外なことを聞いたので、つい尋ねた。
「え、でも、黒の方が長いんだろ。なんで紫月は二つ使えんのに黒は一つなんだ?」
「治癒魔法は特別なんだ。魔法が直接他人にかかわる。だから、イメージがとてもしづらい。他の、他人に干渉するタイプのやつも一緒だ。一応覚えとけ。まあ、俺はもうかなりマスターしたから、今は雷系の魔法を練習してる。ほれ」
黒丸の右手に今度はバチバチと火花が集まっていく。勢いはだんだんと強くなって、結構大きいものとなった。
それを手を振りつつ消すと、黒丸は言う。
「まあ、今日はそういうことで、イメージとその具現化だ。出来るようになったらスピードを早くしてく。これからはそれを繰り返す感じだ。まあ、頑張れ」
そういうことで各自自主練習に励んだ。
オレは、黒丸に言われて、剣に風刃を纏わせる練習をした。
なかなか難しかったが、重ねるうちに、なんとなくできるようになった。
それからも、魔法の練習はかなり頻繁に行った。
時々、立ち会いをしたりして、誰かが怪我をすると、黒丸が治した。
また、みんなで遊んだり、勉強会を行ったりもした。みんな意外と勉強が出来る。オレは教えられてばかりだった。
そんな風に過ごして、三ヶ月くらいが過ぎた。
短編版も出していますので、先に読みたいというかたは、作者ページからお飛びください。