日常(始まり2)
本日のみ二時間毎に投稿しております。
現在は駅のホームで、電車が来るのを待っているところだ。
「まあ、それはそうとさ、この三年間、どんな感じだったんだ? まあ、黒とは離れてたみたいだからあいつの事はよく分からんかもしれんけど、教えてくれよ」
と、とりあえず知りたかったことを聞いてみた。
「いいよいいよ~。まずどこから話そうか? まず、ずっと同じクラスだったってのは言ったっけ?」
それは知っている。
「ああ、それは聞いた」
そう答えると、
「あ、そっか。じゃあ、ん~、黒君のご両親が襲われて二人とも死んじゃったっていうのは、話したっけ?」
え?
待て待て待て待て待て待て待て待て。
黒丸の両親が、何て言った? え?
「亡くなった? おい、マジか。は? いや、ちょっと待って、認識が追い付かないんだけど。つまりその、何? あいつ今一人暮らししてんの?」
というか、それ以外にも思うことはあるが、会話を繋ぐような、質問になるような言葉はこれくらいしか出ては来なかった。
「うん。そうだよ」
「は~。あのご両親がねぇ……」
口から出てくるのは、そんな感想だけだ。
ショックはショックなはずなのだが、やはり現実味がないからだろうか。
「じゃあ、まずはそこからかな。え~っとね……」
そう言って、紫月は語り始めた。
「あれはたしか……中二の六……あ、七月だ、そう終業式の日だ。その日、黒君学校休んだんだよね。それで、どうしたのかなって思ってたら、先生が、黒君の両親が亡くなったって言ったんだ」
その時の事を思い出したのか、紫月は一瞬目を閉じて俯いた。
「驚いたろ」
オレがそういうと、
「そりゃあね。もうビックリだったよ。で、その後、黒君のとこ行って、話を聞かせてもらったんだけど……あ、そうだ。その時、黒君が、「色々バタバタしてて、話せなかった、悪い」って言ったんだ。私はいいよ気にしないでって返して……ん~? それで、どうなったんだっけ。まあいいや。その後、黒君から連絡来なくなって、結局夏休みの間は話さなかったな~。あ、そう。それで、引っ越しちゃったんだよね。こんなに広いとこにすんでる必要はないって言って」
「あ、じゃあ、もうあそこに住んでないのかあいつ」
たしか、紫月とはかなり近所だった筈だ。オレも近くに住んでいたが、当然、同じ家には今は住んでいないので、三人の家はすべて離れてしまっていることになる。
「うん。そうそう、夏休み開けても、数日来なかったんだ。よっぽどショックだったんだろうなって思って、黒君の家行ったんだけど、空き家になってて驚いたんだ。で、たしかその翌日だったかな。うん。そう、モヤモヤしながら学校行ったら、黒君居たんだよね」
「なんだ、それ以来来なくなって距離開いたとかじゃないのか」
「そりゃそうだよ~。ていうか、その流れだともうつながり無いでしょ」
あははと笑って、紫月は続きを語り出した。
「それで、これまでどうしてたのか聞いてみたんだ。そしたら、引っ越したんだとか言い出して、質問には答えてくれなかったんだ。で、明日からは普通に来るって言って、今日一緒に帰ろうって言われてうんって答えて……で、そうだ。その日、帰る途中に襲われたんだよ」
「黒にか?」
驚いたオレがそう尋ねると、紫月は苦笑しながら言った。
「違う違う。知らない男の人にだよ。突然ナイフ持って襲いかかってきてさ。まあ、黒君がいたから、なんとか助かったんだけどね」
へへ、と笑いながらいう彼女に、オレは尋ねる。
「別に黒もそんな強い訳じゃねえだろ?」
「と思うじゃん? でもね、どうやら、夏休み中ずっと特訓してたらしくて、回復魔法が使えるようになってたんだよ。それと身体強化も。それで、それを使ってそのおじさんを捕まえて警察の人に突き出してから、喫茶店だったか、ファミレスだったかに入ったんだ。そこで、黒君は私に言ったんだよ」
ちょうどその時電車が来たので、話はいったん途切れて、オレたちは電車に乗り込んだ。
「それで? あいつは何を言ったんだ?」
「うん。たしか……そうだ「俺たちみたいに魔族の血が濃いやつらは、一部の人間に恨まれてる。なかにはさっきのやつみたいに、殺そうとして来るやつすらいるくらいだ。いつでも俺が守ってやれる訳じゃないから、護身術を何か身につけておけ。なんだったら教えてやるからさ」って」
「ん、ああ」
こんな曖昧な返事をしたのは、聞きにくかったからだ。
さっきもやってたが、台詞のなかに台詞いれてくんのやめてほしいな。
わかりづらい、物凄く。
「あ、そっか、だから、今、朱音ちゃんにそういう話をしてるんじゃない?」
話が飛んだ。女性の話は飛びやすいというからな。時々、前日の話の続きをし始めたりして、「は?」ってなることもあるしな。
まあ、そんな話は今はどうでもいい。
「まあ、いまはいっか。」
おお、奇跡的に意見が一致した。って、それこそどうでもいいな。
紫月は続きを語る。
「で、その後、私は黒君に魔法教えてもらったんだ。結構使えるようになったよ」
「ほ~。ならそのうちオレと手合わせしてみるか?」
「ん? いいけど、黒君立ち会いでね。危ないし。ていうか、小鳩って、魔法使える人だっけ?」
「いや、オレもお前らと同じく魔族の血濃いめなんだけど……」
「あ、そゆことじゃなくて、実力行使とかしない人だったよね」
「ああ、向こうの中学は結構荒れてたんだよ。だから身を守るためにも、強くなっとかなきゃならなかったんだよ。まあ、ここ入るために勉強もしてたけど」
実は番長を倒して絡まれないようにしようとしたのに、倒した翌日から絡まれる頻度が増えたのは内緒だ。
「この金髪のせいでめっちゃ絡まれて大変だったんだよな~」
生まれつきの金髪なのに、教師には文句を言われ、女子には怖がられ、さんざんだったのを思い出す。
「なんか懐かしそうな顔してるところ悪いけど、話続ける? やめる?」
「おお、悪い悪い。続けていこう」
「まあ、他に特別なことなんてなかったけどね」
「なんだよ。あれ、でも、それじゃあ、仲良いまんまだったんじゃないのか?」
ここまでの話を聞く限り、特に距離が空いてる印象はない。
さっきは少し距離が空いてて……って言ってたから何かあったのかと思ったが……。
「いやぁ、ずっとそのくらいだったんだよ。小学校の頃はもっと近かったでしょ?」
「まあ、いつも三人だけだったような気もするしな……」
確かに、あの頃に比べれば遠いっちゃ遠いが、そんなに遠くもない気がする。
「学校終わってからは高確率で一緒だったけど、学校ではほとんど話さなかったんだよ~。私は田中ちゃんみたいに中学からできた友達と一緒だったし、黒君はボッチだったからね」
「え? ボッチ? あいつが?」
「うん。結構ずっと一人で、勉強してたり本読んでたよ。夏休み以降はさらに人を寄せ付けないオーラを出す感じだったんだよ」
確かに、黒丸はオレたち以外とはあんまり友好的じゃなかった気がするな。
と、こんな調子で話しながら、オレたちは家へ帰った。
勿論のことだが、離れているので途中で別れた。
別れ際、紫月は言った。
「また明日ね。バイバイ」
「ん? おう、また明日な」
そういえば、また明日なんて言葉も、ずいぶんと久しぶりに使った気がする。
翌日から、授業が始まった。
とはいえ、長々と授業風景を語るのも尺の無駄遣いだ。
ある程度割愛させてもらう。
一応、一つ分かったこととして、この学校のレベルはオレより少し高い気がする。
頑張っていこう。
短編版も出していますので、先に読みたいというかたは、作者ページからお飛びください。