第一章 15
灰色なのは
曇っているからだけではない
昨日に続き
今日も隣に姉のいない登校
出そうになる溜め息を抑えて
玄関の鍵を閉める——一瞬だけ
明るい閃光のような色と、どす黒い血のような色が見える
やはり、漏れてしまう溜め息
手にした透明なビニール傘さえ灰色をして
何か——
言葉にも色にもできない
気持ちの悪い予感がする
「よお、おはよう」
色がすっと立つのが見え
振り返ると、桐登がいた
「今日も朝練は休み?」
「まあ、たまにはいいだろ」
柔軟に変化する色のなかに——それでも
今日も変わらず桐登の、確固とした色がある
「今日も潤子さんは先に行ったのか?」
「そうだよ
先輩と別れ話をしにね」
間髪入れず
湿った空間に響く桐登の大きな声
同時に腕が行き場をなくしたように動き
それに合わせて
自分の色まで思い出せないような
色の混乱をきたす桐登
「そんなに驚くこと?」
「あ、いや
てっきり、瞬が言いに行くのかと思って」
桐登の力が抜けていく
脱色された布地のように
色がさらさらと透明な空間のなかへと消えていく
「思惑が外れたって顔だね」
そう、言うのは
瞬なりの意地悪
ちょっとだけ、桐登の色のなかへと
自分の白色を侵入させる
すると桐登は
落ち込むような笑うような
あらゆるものが緩んだ色となって
瞬の白色と戯れ始める
「いやあ、ねえ
もう少し二人に時間をやってほしいなって思ったんだけど
まあ、潤子さんにその気がないならしょうがないな」
自然と、瞬の白色も緩んでいく
「桐登の思いやりだけ受け取っておくよ」
桐登が笑い、瞬も笑う
少しだけ景色に色が戻ってきて
それらを取り込むように、瞬は深呼吸をする——それから
空を
見上げる
「雨が降りそう」
ぽつん、と
白い画用紙に灰色を落とすように
瞬は呟く
「今年はちょっと雨が少ないって思ってたけど
やっぱり降るよなあ
また町が浸かるかねえ」
桐登の言葉が
じめじめとした色になって画用紙に塗りつけられる
湿度が上がれば
色は薄まりながら膨張していく
あらゆるものの存在が自分を忘れていき
そのなかで
瞬はいつも
流れ出していく姉の色を自分の白さのなかで感じ取る
それは
嬉しいと同時に、今は——
どこまでも辛い
色と同じようには
体が溶け合うことはできない
重そうな鈍色が景色に落ちる
ぼたっ——と、音を立てて
その力に押されるように溜め息が漏れる
「もし町が浸かったら
様子でも見に行こうかな」
「一緒に流されるからやめとけ」
笑い飛ばしてくれる桐登の言葉が
蒸気のように景色を軽くしてくれる
だが——
「流されるのは嫌だね」
と、笑い返しながら——それでも
洪水の激流が
自分と姉のなかから荒神の血を流していってくれないだろうかと
瞬は本気で考える
見上げる空は灰色の雲に覆われていて——
なぜかやはり色が見えず、ただ
得も言われぬ予感だけが満ちていた