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3 銀髪の魔術師と赤毛の錬金術師

「お初にお目にかかります。(わたくし)はカテーナ・アイツベルグと申します。放浪修行(ヴァルツ)をしている魔法使いです」

 

 ウェイターに連れられた彼女は優雅な仕草でお辞儀をした。喧騒な酒場で明らかに場違いな雰囲気を持っていた。


 えーと、エルフのアイツベルグ家は聞き覚えがある。確かここの国デーニッツ王国の特別自治区エルフランドの公爵家だったかな。あくまで自治区の公爵家なのでたいした影響力はないが、なにせ数千年以上の歴史を持つ家なので国内の公爵家にも劣らない権威はある。


「あ、どうもオレはヒロといいます。でこいつがヴァッツで……」

「カイト・バスタードと申します。初めまして、美しいお嬢さん」


 ヴァッツは席を立ち、カテーナの前に(ひざまず)いて手の甲にキスをする騎士の礼をした。

 一見すれば美男美女の組み合わせで絵が映えるが、いやなにやってんのヴァッツ。


 私とヴァッツの婚約関係はプリステアが世間的に死亡したことで解消されている。だから別にヴァッツが何しようと勝手ではあるし、別に私も気にはしていない。

 ただヴァッツは王女時代からハーレム宣言をしている下半身に正直な男だ。


 おまけに度あるごと私にセクハラをしてくる最低な男だ。

 こいつルックスと家柄はいいから、それに惹かれた少女たちが将来不幸な目にあうかも、と思うと黙って見ているわけにはいかない。


 というわけでヴァッツの耳を引っ張る。


「いてて!耳がちぎれる!」

「すみませんカテーナさん、ヴァッツは美人を見つけると声をかけたくなる男なんですよ」

「なんだ嫉妬しているのか?」

「ちがう」


 ちょっとむくれるが別に嫉妬ではない。


「ふふ、仲がよろしいのですね。ヒロさん、ヴァッツさんよろしくお願いしますね」

 

 カテーナはうふふと微笑むと席に着席した。

 着席した瞬間バラのような匂いがした。帽子にバラの造花らしきものが飾られているがもしかしてあれからだろうか?本当は造花ではなく、枯れないだけの本物のバラ?


「巨人討伐の依頼を見かけて、こちらで仲間を募集していると聞きましたがこちらでよろしいでしょうか?」

「ああ、俺がリーダーだ。ランク8の依頼だからできればランク8であることが望ましいが、ギルドカードはあるか?」

「ええ。さっき登録した時に渡されましたが、これですかね?」


 カテーナはギルドカートをヴァッツに渡した。


「ああ、今日登録したのか……ってはぁ?!ランク10?!」


 周囲が急にどよめき出した。ランク11以上に昇格するときは複数のギルドの支部が承認する必要があるため、ランク10というのは最初に登録する時の最高ランクに当たる。軍に例えるならば、ランク1が一兵卒で、カテーナはいきなり百人隊長に任命されたに等しい。



「嬢ちゃんは一体どの学校の卒業なんだべ?おいらは10年以上冒険者しているが、ランク10は初めて見たべ!」


 隣で聞いていた冒険者のおっちゃんが急に話しかけてきた。


「エルフランドのマギカリッジ大学魔法科の首席卒業です」

「マギカリッジ大学魔法科……確か初等科から含めて卒業までに30年はかかると聞いたことがあるな。となるとカテーナは少なくとも50歳はこえ……」

「あら、短命種である人間の年齢の基準に当てはめないでくだざいね?私は全然若いですわよ?」


 カテーナは端正な顔に青筋を浮かべる。


「ああ、すまん。とはいえランク10相当、それに主席なら実力としては十分だ。俺としてはあなたをパーティーに受け入れるには異存はない。それでいいか?」

「ええ、放浪修行(ヴァルツ)中の魔法使いはそこで様々な体験をし、経験を積むことを義務付けられています。よろこん」


 カテーナがいうには放浪修行(ヴァルツ)とは学校を卒業した魔法使いが各地を放浪して経験を積む修行の一環で、魔法使いが魔導師になるための方法の1つとのことだ。

 修行の期間中は規定の服装に身を包み、金銭や一晩の宿と引き換えに放浪先の住人の頼みを叶える。

 魔術師と住人との関係を繋げる仲介業者が魔術師ギルドであり、のちに聞いた話だがこれが冒険者ギルドの前身とのことらしい。



「んならオレも……」

「だからお前はランクが足りないだろ。足手まといになるだけだからやめろ」

「ヴァッツ、冷たくない?」

「ヒロさん、どうしてこの依頼にこだわるのですか?」

「やっぱ冒険といえばドラゴン退治や巨人討伐でしょ!今は修行中の身だけどそういう冒険は心踊らない?」

「なら戻って修行でもしとけ。足手まといはいらん。これで4人集まったしこのあと別室で作戦会議をしてから、問題がなければ明日早朝に向かうことにする」


 ヴァッツは両手をパチンと叩き話を切り替えようとする。


「何その対応、ひどくない?オレ荷物持ちとか森の案内とかできるよ?」

「あのな、俺とお前の付き合いも短くないからわかるけどさ、お前そういうとき何も考えずに突撃するだろ。どうせ敵見つけた瞬間仕事放棄して敵に斬りかかるのが目に見えるわ!」

「まあまあ喧嘩なさらずに……」

「もういい、帰る」

「おう帰れ帰れ」


 ヴァッツはしっしと手を振り私を追い払う。去り際にあっかんべーをしてギルドを出た。


 外に出るとすっかり暗くなっていた。午後8時を過ぎると冒険者ギルド以外の店はほとんどしまっているので、ギルドからもれる明かりだけが夜道を照らしていた。


 冷たい風が怒りで火照った頰をなでる。別にヴァッツもあそこまですげない態度を取らなくていいのに。

 婚約者は置いておいてヴァッツは私の幼馴染ではある。久しぶりに会えたのは少しは嬉しいが、あんな態度をすれば私は怒るに決まっている。

 昔は二人でこっそり裏山に行って、野犬やゴブリンを退治していたんだけどなあ。

 

 もう外に出てしまったし、帰って寝ることにするか。





「あのーすみません」


 帰り道を歩いている途中に不意に声をかけられた。

 ふりかえるとそこにはフードを被った少女がぼろぼろのシートの上に商品らしきものを並べて座っていた。

 どうやら露店のつもりらしい。夜間に開いているのは普通ではないが。

 こういう時は大抵訳ありである。


「ポーションいりませんか?」

「ギルドで売っているので間に合っているのでいらないです」

「いえいえそう言わずに話だけ聞いていくださいよ。このポーションは市販とは比べ物にならないくらい効力が強くて、腕がもげそうなほどの傷でも回復できるのです」


 そういってカバンからガラス容器に入ったポーションをを取り出した。私はちょっと興味を覚えた。


「確かにそのくらい強力なのはなかなか見ないな」

「それだけではなく教会で販売している聖水と同じ効果も含まれているのです。つまりこれ1本で致命傷や呪いの類を解除できるのですよ!」


 たしかにここまで強力なポーションは聞いたことがない。というかここまで強力だというと本当か怪しい。


「どこから仕入れたんだ?」

「いえ、あたしが作りました。あたしは錬金術師ですのでこのくらいなら簡単にできます」


 だったらありうる、かもしれない。

 錬金術は魔法と異なる体系の学問で、おもにポーションや非魔法魔道具を生産する。中にはお金持ちが不老不死の薬を求めて自ら錬金術を始めたり、錬金術師と呼ばれる錬金術に長けた人を雇うらしい。確かにそれなら錬金術師がギルドに流通していないポーションを生産していてもおかしくはない。


「なるほど確かに有用そうだな。で、いくらだ?」

「1本6万G、6本まとめて30万Gでどうです?お得ですよ?」

「ぼったくりじゃねえか!」


 ギルドで市販されているポーションは安いもので1本1000G、上質なもので5000Gが相場だ。30万Gあれば平民の5人家族が一月は暮らせる額で、到底消耗品に出せる額ではない。

 ただ実はお金がないわけではない。ここ1ヶ月私の師匠が依頼で遠方に出かけているため、その間依頼をこなし続けいたのだ。

 今日報酬を受け取るついでにギルドの口座に預けていた預金もまとめて下ろしててまとまった額のお金を持っている。ただこれはあくまで武具と趣味の軽本(ラノベ)に充てるためで、無駄に高いポーションを買うためのお金ではない。


 帰ろう。帰って寝よう。


「えーと、ん、じゃ、さよなら。次はいいお客さん見つけなよ」


 その場を去ろうとすると、彼女が私の足をしがみつき止めた。


「お願いです!あたし仕事に失敗して、借金たくさん作って……。このままだと、あたしの大事なものを売らないといけなるんです!」


 足にしがみついたまま私の体を大きく揺さぶり、泣きつかれてしまった。その時に少女のフードが外れて、そこから猫の耳らしきものが現れた。よくみると彼女に尾もついている。

 彼女はおそらく獣人の一種で、主に隣国アルキミアに生息している種族である。そして人間の割合が高い獣人は性奴隷として高く取引されていて……私も一応同じ女性としてこれ以上はあまり考えたくはない。


「わかったから!わかったから!はい!これでいい?」

「あ、はい!お買い上げありがとうございます!」


 ……結局30万G分買わされた。私の1ヶ月の収入のほとんどが持って行かれたことになる。


 はあ、物語の英雄ってお人好しの人が多いけど、お人好しって大変だなあ。

カテーナは人間換算で大体20前後です。

エルフは結婚適齢期が100歳くらいでそれ以降ゆっくり老化していって寿命は1000歳くらいです。


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