2 ゴブリン退治
1と旧2の間を埋める話となります 時系列は1、2、2.5(次の話)の順になります
そうして冒険者として活動を始めて3年がたった。はじめのうちは街で暮らす平民の生活がわからず様々なトラブルがあったが、今は一応きちんとした冒険者になれたと思う。
そして現在は駆け出しを抜けた程度の腕前の冒険者になった。
今は街の北部の森の中でゴブリン退治に挑戦している。
時刻は夕方。夜行性のゴブリンが活動を始める時間帯で、洞窟や縦穴などの巣穴からゴブリン達が顔を出す時間帯だ。
そして私は近くの茂みの中でゴブリンを襲うタイミングを伺っていた。
腰には武器屋で買った長剣を帯び、丈夫な皮のコートを羽織り、懐には石を何個か用意している。
王女時代のドレスは高級品であったものの汎用の物だったので店に売り払い現金に変えてしまった。
髪もバッサリと短く切り、顔に泥を塗った今の私はどこからどう見てもかつての王女プリステアには見えないだろう。
今回の依頼は街の近くに巣穴を作ったゴブリンの掃討である。この巣穴は地面に掘られた縦穴のタイプで、中にいるゴブリンの数は七、八匹前後だと思われる。
このまま放置すれば数が増殖し、街の食料を奪ったり女子供を娯楽のために襲うかもしれない。それを未然に防ぐために冒険者ギルドから依頼が出されたのだ。
ゴブリンは人型の魔物で、身長は子供サイズ程度である。力も知恵も人間のそれと比べて劣っているが、繁殖力が強いのが特徴で巣穴にはだいたい十数匹がいると言われている。
単体では弱いが、群れると数の暴力を生かして襲いかかり、たまに新人の冒険者が殺されたり凌辱されたりする場合もある。
軽本だとよく人間やエルフの女を襲って孕ませるという設定のものが多いが、現実のゴブリンはゴブリンのメスがいるため子供を作る目的で襲うことはない。
反面残虐性が高く捕虜をいたぶり殺すことを好み、その一環で女子供を犯すことはあるらしい。
要はゴブリンとの戦いは初心者にとって一対一なら倒すのは容易ではあるが、一対多はそれなりに難しいと言われている。
そして万が一失敗すれば命か尊厳が失われるとも言われている。
私は一人でこの討伐依頼を受けている。
なぜ一人なのかというと理由の一つとして自分の実力を試したいからだ。
さすがに冒険者を3年やり続けていたのでゴブリン退治は何回かしたことがある。そのとき私は新人で実力も全然なかったので、同じパーティの別の冒険者にほとんどの戦果に取られてしまったのだ。
だから今回は一人でゴブリン退治をすることにした。
一応作戦は考えているがそれがうまくいくかどうかは分からない。
ゴブリンは見張りを一匹立てて、それ以外は一見したところ外にいるようには見えない。
もうそろそろいいタイミングだろうと、私は作戦を決行する。
私は事前にかき集めた石を一つ掴み、力一杯石を見張りに投げつける。
「グギィ?!」
豪速球で投げつけられた石はゴブリンの顔に大きくめり込み、ゴブリンは即死した。
よっし、当たった!と心の中でガッツポーズをする。
茂みの中から立ち上がって、地面に掘られた巣穴に向かう。そしてバッグの中から煙玉を出して、松明で煙玉に引火させる。
煙玉からもくもくと煙が出はじめたので、それを巣穴の中に放り込む。
その後急いで巣穴から離れて茂みに隠れて、煙に燻されたゴブリンが飛び出していくのを待ち続ける。
「グギィ?!ゴフッゴフッ」
しばらく待つと五匹のゴブリン達は咳き込みなからたまらず飛び出してきた。
それらに対してさっきと同じように石で一匹ずつ処理していく。
投げつけられた石はゴブリンの胴体や手足に命中し、当たった箇所の骨を砕く。
ゴブリンは奇襲によって一時的に混乱したが、茂みに隠れていた私を見つけるとこちらに駆け寄ってきた。
それまでに死んだのは二匹、怪我を負ったのは一匹でまだ生きている三匹が襲いかかってくる。
このタイミングで石の残りが少なくなったので、長剣を抜き構えを取る。
まず怪我を負っている一匹に対して剣をおおきく振りかぶって、全身の力で剣を振り下ろしてゴブリンを頭の上から真っ二つに断ち切る。
それを見た残りのゴブリン達は警戒をして私から距離を取る。二匹のゴブリンはそれぞれ石でできたナイフと短槍を装備していた。
最初に処理するべきは武器のリーチがある槍の方を狙うべきか。
私も二歩くらい後退して、槍持ちにまだ手持ちに残った石を一つ投げつける。
まだ石の手持ちがあるとは思わなかったのか、槍持ちは不意を突かれたがそれでも反射神経が良いのか体をひねってギリギリで回避する。
その瞬間、私は駆け出し剣を構え槍持ちに対して袈裟斬りに斬りかかる。
剣は槍ごとゴブリンの胴体を断ち切り、即死させた。
そして生きているゴブリンは残り一匹、ナイフを持ったそれは怯えたのかこの場所から逃げようとしている。
逃げようとしているゴブリンに近づいてトドメを刺そうと剣を構える。
そのとき、不意に焦げ臭いような匂いを鼻が感じ取った。
思わず振り返ると、そこには人の大きさ程度のゴブリンが棍棒を振りかぶって私に襲いかかろうとしていた。
それはゴブリンの上位種のホブゴブリンである。
おそらく夕暮れ前から外に出ていたのだろうが、今になって戻ってきたのだろう。
「?!」
私は思わぬことに体が一瞬すくんだが、殺らなければ殺られると思い体をひねり、回し蹴りをホブゴブリンの腹に叩き込む。
蹴りを食らったホブゴブリンの巨体は吹き飛び、地面に擦り付けながらゴロゴロと転がっていく。
そして横倒しになったその巨体を足で押さえつけ、心臓に剣を突き刺し止めを刺す。念のために首を切り飛ばして完全に殺しておく。
そして残った一匹も剣で処理する。
これでこの場にいるゴブリンは全て倒したことになる。
「危ないところだった……」
さっきのことを思うと冷や汗が出る。最後まで油断は禁物というところだろうか。
依頼は終わったので街に戻って冒険者ギルドに報告することにしよう。
冒険者ギルドは街の中心部にある。
すでに日が落ちて周りはすっかり暗くなっているが、ギルドの近くは店内の明かりが漏れていてそこだけほんのりと明るくなっている。
「ただいまー!」
樫の木でできたドアを開けると、中からまばゆい明かりと男達の活気のある声が飛び込んできた。
中では魔法のランタンが何個も吊るされていて、何十人の冒険者達がたむろしていた。
ぷんと漂う酒臭い匂いから推測するに、すでに彼らは飲み会をはじめているようだ。
冒険者ギルドは組合の一つで、討伐依頼などの仕事を依頼する依頼人とそれを受注する冒険者との間を受け持つ役割を持つ。
それ以外にも冒険者の養成や、冒険者間のいざこざを仲裁するなどの便宜を図ることもある。
依頼の報告をするために受付に向かう時に途中で知り合いの冒険者に声をかけられた。
「おうヒロちゃん、おかえり!ゴブリン狩りは大丈夫だったか?」
「まあなんとかなったかよ。ありがと」
冒険者達と軽く言葉を交わして受付のカウンターに向かった。
受付には恰幅のよい、40代の女将さんがいた。
かつてはこの酒場の看板娘だったらしく、この支部のギルドマスターと結婚してからはギルドでも働くようになったらしい。
「女将さん、依頼が終わったから報酬ちょうだい」
「あいよ、ヒロさんお疲れ様」
「あと今日の依頼の報酬とギルドに預けた預金を貨幣と交換してくれない?」
「あいよ」
依頼終了の報告のサインを記し、女将さんに渡す。女将さんからは金、銀貨が詰まった袋を受け取る。
「さてとゴブリンを一人で退治したし、次のステップに行きたいんだけど……」
依頼掲示板の前に立ちそこに貼られた張り紙を見てみる。
「んん……っと、北の森の奥で5メートル級の巨人を見つけた。万が一こちらの街に被害が及ばないように退治してほしい……と。報酬もかなり高いな」
騎士道物語定番の敵、巨人の討伐の依頼を見つけてしまった。