飢餓
「ごちそうさま……」男が静かに言った。
「たったそれだけ?」その妻がおどろいて声をかける。なにしろ、男は茶碗一杯ぶんの飯を食っただけ。
「なんだか食欲がなくて」とだけ言い残し、男は自分の部屋へと戻った。
次の日もそうだった。今度はもっと少なく、男はただ二回飯を口に運んだだけで箸を置いた。
こんなことがひと月前から続いていた。妻も、男自身も、そろそろ体が心配になってきた。
「明日、病院へ行くよ」男は妻に言った。
翌日、病院。
「先生、ぼくはどんどんご飯が食べられなくなっていくんです。これはなにかとても悪い病気なんじゃないでしょうか。心配で心配で」
「わかりました。くわしく調べてみましょう」
男はあらゆる検査にかけられた。レントゲンを撮り、血も採られた。
後日、男は再び病院へおもむいた。
「先生、検査の結果は」男は緊張の面持ちで尋ねる。
「ええ、原因がわかりました」そう言って、医師は一枚の紙を男に渡した。それには数値やグラフがいっぱいにしきつめられていた。
「ここ、ここ。この数値が高いでしょう」医師に指をさされても、その数値の意味するところを男は理解できなかった。じれったくなり、男は言った。
「先生! 原因はなんですか!」
「原因はね」医師は息を吸った。
「お菓子の食べ過ぎですよ」