住良木高校文化祭(2)
始まった。学生達は今日この日の為に色々な事をしてきたのだろう。そして今、廊下には人が溢れ、奇声が響き渡り、俺の後ろにはどの学生よりも楽しそうな不審者が歩いている。そして視線は俺達に集まり、おれは顔を赤くすると共に苛立ちを覚える。
それにしてもこの不審者、楽しそうだな。俺よりもよっぽどこういうイベントに向いているのかもしれない。が、
「目立ってるんですけど」
俺は視線が苦手だ。特に同世代異性からの。
「良いじゃないか。いつも女子の数メートル後ろを歩く羽後くん」
そう言いながらそこら辺の女子生徒に向かって手をふる成人。
「不審者ジャーナリストさん登校の時も見張ってたんすね。ていうか軽々しく名前で呼ばないで下さい」
理由は簡単。俺が名前で呼ばれる時は、女子キャラに名前を呼ばれる時だ。
「じゃあ僕のこともハッシーで良いよ。ほら、僕の名前架橋からとって、」
「どこの湖出身だよ」
とまあ実りのない所か草も生えない会話をしていると、ジャーナリストが話しかけてくる。
「羽後くんは一体何処に向かっているんだい?」
着いてくるつもりなのか。
「科学準備室か図書準備室ですかね」
とりあえず本当のことを言っておく。別に着いてこられても構わないし、むしろ1人で好き勝手やられては困る。凌になんて会われたらおしまいだろう。
「そこでなにかやってるのかい?」
平然と質問してくることに少しの苛立ちを覚えながらも
「いえ、特には」
これも本当の事だ。ではまず科学準備室から行こう。
やっぱり科学準備室は危ないな。カーテンが閉めきられたこの部屋で電気を付けたらここに居ることが誰かにバレるかもしれないし、何より俺は太陽というこの場の有一の光源を受けない。おまけに薬品と人間模型が怖い。
「ここでなにかするのかい?」
まだいたのか。
「サボれる所を探してます。それも3日間」
少し気が乗らないような顔をしたのも関わらず、手伝おうと言ったのは何か理由があるのか。考えるつもりもないが。それでも彼は口を開き
「羽後くん、文化祭たのしい?」
と言った。それだけは言いたかったのだろう。
さてと。次は図書準備室だが、やはり文化祭で隣の図書室も閉館。廊下からも図書室からも入れないだろう。
諦めよう。そう言おうとした時だった。図書準備室の中の物陰が少し動いたのが見えた。
「うん。諦めて文化祭楽しもう」
ジャーナリストハッシーはそう言うが、俺は楽してこそ。何事にも巻き込まれないでいたいのだ。去年や中学の時みたく、めんどくさい他人の青春には巻き込まれたくない。しかし、目の前の扉を開けると何があるだろう。直下の時みたく告白でもしてるのだろうか。だとしたら去年と同じ過ちを繰り返すことになる。そんなことはさせない。ぼっちは同じ失敗をしないのだ。何故ならば、何事にも1人で、何にも頼らず生きてきたからだ。よし。いける。まずは中の人影を確認。見えない。中の人が電気を消したな。え?てことはこっちにくる?いやでも俺の影扉に写ってるだろ?外に誰か居たら開けずらくない?
そう思っていると
「羽後くん。中の人ドア開けるよ」
しまった。ハッシーには太陽光が見えていて、中の人の影も分かる。俺には見えていない事はハッシーは知らないが教えてくれたのだ。それと同時に中の人は俺の影が見えていない。俺には見えないが太陽はまだ昇っている。この階は文化祭には使われておらず、廊下の電気も点いていない。つまり中の人は、
「ハッシー、窓の外。ゆーふぉー」
下手な芝居だが、怪奇現象ジャーナリスト。ちょっとぐらい反応するだろう。その隙に扉を開け、中に入り鍵を掛ける!
ダンッ!素早くドアを閉め、鍵を掛け···
「誰?」
電気を点ける。
そこにいたのは、予想通り加賀美凌だった。
「戸羽くん······何で」
俺の陰が扉のガラスに映っていなかった。いや、映っていたけれど中にいた人には見えていなかった。つまり、この学校でそんな事が起こる人間は実際外から見えなかった俺と、中から見えていなかった凌くらいだ。
「いや、1人になれる場所を探してただけだ。加賀美もか?」
まあ十中八九そうだろう。
「人混みは苦手なの」
だもんな。
この時廊下では、羽後を見失うジャーナリストの姿があった。




