この人の名前を初めて知った
くじ引き。それは、運命を掛けた運だめし。運命とは元々決まっているものであり運ではないのだが、それでも自分が『受付』くじを引き当てる事を願って。いや、受付は
本来ハズレだから引き外れるになるのか。ともかく、三日間ある文化祭で、1日でも1時間でも休めるのならば、喜んでハズレを引き当てよう。
くじといっても、クラス委員長が名簿の名前を切って混ぜて引くだけだが。
「ええと、白守さん河星さん巡さん戸羽さん······」
よし。俺の名前言った。
偶然いいことがあった人は決まってこう言う。
『俺、今日運良いから』
俺の場合、心の中でだが。
休み時間。勿論話す相手もいないので、寝たふりに専念している。これはぼっち特有のスキルというか、自然に身に付く反応というか。他にも、3割だけだが心が読めたり、休日外へ出歩いても知り合いの居ないところへ自然と向かっていったり、相手が話すより先に謝ったり。どれも社会では何の役にも立たないが、不倫した時なんかには全て役立つ。
『不倫できる度胸がお前にあればな』
という視線が廊下から俺に向けられている気がする。廊下を見ると、糸佳徒が立っていた。彼はクラスでボッチでも乗り切ることができる逸材なので、わざわざ俺に顔を出すと言うことは陽キャに絡まれでもしたんだろう。
『バカを言うな。絡まれる前に逃げたんだ』
仕方ないから廊下へ向かう。
「で、なんだ?」
「そろそろ先輩をどうにかしたい」
考えてなかったのか。
「俺文化祭展示受付係ニナッタンダヨネー」
あのめんどくさい先輩の話は聞きたくない。話を剃らせないのは分かっているが、無理矢理でも話を反らさなければ。
「話を反らすんだったら、今相手が話している事より話題性の大きいものを話すといい」
「あのめんどくさい先輩の話を聞きたがる奴はここにはいない」
それはそれは必死だった。
「あいつの話じゃない。東雲だ」
「なんで東雲?」
まあ何となく分かるが。東雲は糸佳徒に好意を寄せている。恐らく。
「察しただろ。だから先輩をどうにかしたい。できれば荒めの振り方で」
それを俺に言うか。
「まあ、文化祭だし、その勢いに乗じてみたいなことは出来なくはないな」
はい。閃きました。
「お前、何部だ?」
「ちょっと戸羽」
そう後ろから声がする。俺を呼んでいるようだが、女子の声だ。ここで振り向いてはいけないととっさに思う。一度はあるだろう、『自分が呼ばれていると思って振り返ったら(もしくは返事をしたら)全然違う人を呼んでいただけだった』事。あれ凄い恥ずかしいからね。ああいうのは「ごめん戸羽じゃない」も禁句だからね。よけい恥ずかしくなるからそっとしとくのが一番だよ。
ともかく、このクラスにおいて俺が生徒に、ましてや女子に呼ばれるなんて滅多にない事だ。呼ばれたとしても、「先生呼んでる」くらいだ。せめて「先生が呼んでる」にしてほしい。そんなに俺と喋る時間は無駄なのか?
「戸羽、聞いてんの?」
いや、俺に話しかけている?
「戸羽!」
肩を捕まれる。カツアゲか?すみません。生憎今お金所かこのクラスに友人を持っていないんです。あ、だから目をつけられるんだ。
「なんすか?」
振り替えるとそこには本当に女子がいた。え、女子?このクラスに俺に話しかける女子がいるのか。でもこの人どこかで、
「前世で会ったこと有ります?」
「は?何いってんの」
·····違った。前世じゃなかった。あ、思い出した。一年の頃、直下に告られた人だ。林間学校前にも話しかけられたような。この人名乗んないから名前分かんないんだよね。ツンデレさんかな。
「受付、ペアらしいから組もう」
おーーーーっと!やはりツンデレ!デレの部分が姿を表した!
「お前確か陽キャだよな?他に組むやついるだろ」
こいつはクラスのクイーン。クラスカースト最上位の人間。のはずだ。
「女子で仲いい人はみんな部活組で、私はやってないから」
確かに陽キャ女子はみんなテニス部、サッカー部マネージャーだろうな。
「他の男子に頼めよ」
「みんなオドオドして、キョドるんだもん」
さすが女王様。
名簿に名前を書く。戸羽羽後まで書いて、クイーンの名前を思い出す。······そういや名前知らないな。だからといって名前をすんなり聞けないのが陰キャ。仲のいい友人に訪ねようと思ってもいないのがぼっち。まああいつとは何回か話してるし、流石に俺の性格も理解しているだろう。
「なあ、お前名前なんだっけ?」
「······はぁ?喧嘩売ってんの?」
もちろんこうなることはわかってた。今思えば、『お前の漢字教えて』と言えば何気に聞くことが出来たとそう思った。
「ごめんなさい」
結局分かったのは巡櫻香という、お上品な名前だった。




