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俺たちの青春に明るさはなかった  作者: あるば
それぞれの夏の終わり
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昼に咲く火の花

 ここの公園には小さい頃一度か二度来たくらいで、大した思い出も無い。以前と風景が変わっているというのは記憶のすみに残っていた。

 陰キャとは言うものの、女子高生と夏の公園で二人。もうこれは神によって仕組まれたイベントではないかと疑う。

「そういえばさっき谷崎さんが聞いていたけれど、あなたは何を買ったのよ」

おっと強制イベント発生。ここで「花火いっぱい」なんて答えた時には、引きぎみの声で「へ、へー良いよね、花火」なんて冷たい目を浴びるに決まっている。ここは

「妹に頼まれたんだよ」

と、言って花火を渡す。頼む。察してくれ。

「······こんなに沢山?」

空気を読めない加賀美(インキャ)さんだった。まあ仕方ないが。

「や、やるか?」

俺は何を言っているんだ。その場しのぎでも誘ってしまっては意味がないだろう。

「わりい。なんでもな······」

「うん。やりたい」

え?


 夏休み最終日。小学生は宿題に追い込まれ、中学生はテスト勉強に追い込まれるこの日に、俺は常識に追い込まれていた。そもそも昼間に花火をするなんて、他人から見れば無駄の三乗だ。お金と時間と資源。だが、

俺達(ふたり)は違う。


 加賀美はそこら辺に落ちていたというがいかにも新品で、やはり誰かが用意したかのようなバケツを拾い、

「これ、使えるわよ」

と、笑顔で言う。

 バケツに水をくむ。ここの公園にはそれなりの大きさの水道があったので、やはりやるしかなさそうだ。水をくんでいる途中で、加賀美がこんなことを聞いてくる。

「まだお昼に花火した事ないでしょう」

当たり前だ。と言いたかったが、

「そりゃ、まあ」

と、答えておいた。

 手持ち花火の先端に火を点ける。この瞬間はどんな年代の人でも揃ってワクワクするという不思議な時間だ。今の俺は昼間にそれを実行するという事で流石のめんどくさがりも好奇心で満たされた。

「見てて」

彼女がそう言うと、花火の先端に火が灯る。と同時に、オレンジ色の光がそこからひどい雨のように降っていく。ただ、今まで見た手持ち花火の中で、一番明るく、鮮明に、何よりも綺麗に見えた。

「綺麗だ」

ついつい言葉として出してしまった。それも俺に一番似合わない言葉で。しかし彼女は、

「でしょ?」

と、笑顔で得意気に答える。彼女のその笑顔は、何というか、その、普通に可愛かった。


 かたずけ。花火は1袋使用したので、まだ4袋残っている。バケツは加賀美が「戸羽君が警察に届けておいて」などと言うので一旦家に持ち帰り、明日届けることにした。新品を使用したのでせめて綺麗に洗って届けなければならないんだとか。

「じゃあね戸羽君。また明日」

「おう」

軽い挨拶を交わし、それぞれの家に帰る。


 「ただいまー」

「兄さんおかえり」

珍しい。出迎えてくれるとは。

「兄さん。花火は?」

「ほい。適当に四袋」

妹は「ふーん」と言いながら花火をうけとる。

「兄さん。ここの値札に400円(税込)って書いてあるんだけど、これじゃあ4つだと1600円できりが悪いよね?」

察しがいい妹は嫌いだよ。うそうそ嫌いじゃないよ。

「ま、まあ適当に取ってレジ行ったからな」

セーフセーフ。


 翌日朝。妹は先に起きて学校に行ったようで、靴とカバンとバケツが無くなっていた。待て、バケツ?何でバケツ?

俺は全てを思い返し、珍しく考えた。すると、ある1つの結論へとたどり着いた。

 一に、妹の突然の花火を買ってきて。

 二に、タイミングの良い加賀美の散歩。

 三に、落ちていた新品のバケツ。

これを全て細かく推測しよう。

 一は妹。つまり音琴が花火をしたい訳ではなく、加賀美と花火をさせるための言い訳。その証拠に、音琴は『花火を何個か買ってきて』と言っていた。つまりこれは『1個くらい使っても私にはわからないから』ということだ。

 二は元々加賀美とメールか何かでやりとりをしていたのだろう。偶然ではなく必然だ。

 三は俺が買い物をしている間に音琴が用意した物だろう。落ちている場所は加賀美に伝えておいて。

 そう。つまり、つまり?音琴がそんな事をして、何の得がある?

結論。考えすぎ。


 俺はいつもここのコンビニで昼飯を買っている。作っても良いのだが、一人分だと中途半端になってしまうのだ。

 いつも通りサンドウィッチと野菜ジュースを手に取りレジへ向かう。

 先程は結論付けたが、やはりバケツが無くなっているのはおかしいと思うのだ。まあ、俺が考えることじゃない。家に帰ったら音琴に聞けば、、、

 レジ前にはこのように書いてあった。

夏の定番、花火コーナー

 あれは昨日の朝の会話。音琴にコンビニで花火は買えるかと聞いたとき、調べもせずに買えないと答えていたが、あれは俺がここで買ってしまうと、加賀美の所まで俺が向かわなくなってしまうからではなかったのだろうか。そもそもひきもこもりがちの音琴に花火なんて必要ないのでは?そう。神の仕業で加賀美やバケツが現れたのではなく、妹の仕業だったのだ。

再結論。音琴は神。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 音琴さん、すごいですね。 うちの玲亜(参考:林間妹(3))とも仲良く慣れそうだと思います(期待)。
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