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俺たちの青春に明るさはなかった  作者: あるば
糸佳徒相馬の夏休み
53/80

桐下和馬は彼女が笑うところを見てみたい

 「うはぁ~」

 温泉でだらしない声を出してしまった。それもこの長旅のせいだ。しかも明日には仕事を手伝うという。この温泉も給料に入るのだから、ゆっくり浸かろうと思う。そうだな、一泊1万だとして、朝と夜の食事代を3000円とし、、、布団の洗濯、人件費、温泉管理費を、やめたやめた。考えるだけ無駄だ。戸羽みたいにのぼせてしまう。どっちにしてもまあまあの旅館にタダで泊まれるのだ。普通の人だったら大喜びだろう。僕としてはこの夏布団から出たくなかったたからな。せめて今年分の疲れだけでも癒してもらわないと気がすまない。

 「どうかな、湯の方は」

······あまり話したくはないが、愛想のない奴と思われたら面倒だな。

 グッと親指を立て、和馬に向けた。すると彼は「それは良かった」と、笑って見せる。

「見た目ほどあまりいい旅館じゃないけどね。どっちかって言うと宿だし」

 それは感じていた。従業員は見当たらないし、部屋は少ない。『宿に温泉をくっ付けました』感があった。

「継ぐとか、そういうのは考えなくていいって言われてるけど、温泉に入る度考えてしまうんだ。継ぐべきなのか」

いや、初対面の僕に聞く?

「夢もあるんだ。一応だけど」

さいで。

「夢ですか。生憎僕にはなりたいものが見当たらず」

嘘である。が、初対面に『将来○○になりたい』と言うのも何か違う。


 「本題。というか、質問なんだけど」

「はい?」

やっとまともな会話が出来そうだ。

「成惠さんの笑顔、見たことある?」

······急だな。そして言いずらい。

「無いですけど」

「やっぱそうなんだ。うん、ありがとう参考になった」

参考か。

「そっちも教えてくださいよ、あるんですか?東雲の笑顔」

ザッパーン!

和馬が急に立ち上がり、水面がゆらゆらと揺れる。

「ないよ。一度も」

ありがとうございました。

 温泉に行きたいけど、陰キャコミュ症財産896円受験生にはキツイ。


「温泉饅頭って、ほぼ温泉関係ないよね」

           桐下(きりした) 和馬(かずま)



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