彼女、東雲成惠は笑わない
東雲成惠が笑ったところを、見たことがない。
田舎。もうどこまで来たかわからないほど、周りは山だらけだった。僕としては人が多い都会よりも、人が少なくて穏やかな田舎の方が好きではあった。が、電車は二時間に一本。スマホは圏外。おまけに駅から歩いて一時間半という低スペック旅は、この夏引きこもっていた僕にとって地獄だった。まだまだ若い女子高生2人は、そこの自販機の隣のベンチに座ってお茶タイムだ。······ベンチ壊れそうだな。
「おい、東雲。ここに何の用で来たんだ?」
花火大会なら一人で良いだろ。
「祭り中の店の手伝い」
なるほど······おい、今手伝いって言ったか?
「東雲さん。あなた一人暮らしだったわよね?親戚か何かかしら?」
そこじゃないよ加賀美!手伝いって聞いてないぞ!
「うん。叔父さんの宿。あれ、旅館?」
「どっちでもいいし、僕手伝いって聞いてないんだが」
「あら、戸羽君から聞いてない?」
アイツだったか。帰ったらただじゃおかねえ。あいつのスマホのパスワード破って、やりこんでそうなゲームアプリ消してやる。
「バイト代は、旅費と、宿代とご飯で0だよ」
しかもタダ働きじゃねぇか。
「わざわざ遠いところからどうも」
「おねえちゃんおかえりー」
「おねえちゃん元気だった?」
「やあ、久しぶり」
一通り向こうの自己紹介が終わった。叔父は出掛けていて、今は叔母の桐下和恵さん、成惠のいとこにあたる末っ子の和美。その姉の沙惠。長男の和也と、三兄弟だ。
「叔母さん、久しぶり。みんな元気そう。こちらは、」
「加賀美凌です。東雲さんとは、と、友達です」
おお、いつの間にこいつ友達作った。戸羽、負けてるぞ。
「糸佳徒相馬です。よろしくお願いします」
「まあ、ご丁寧に。さあさあ上がって。疲れてるでしょう」
しっかりとした、これは旅館だな。
「温泉ありますよ」
おお!
部屋に入り、荷物を投げる。中から洗面用具を取りだし、
「おんせんへちょっこー」
襖を開け、廊下へ出る。
さあ、疲れを癒そう。なにせここ1ヶ月、動いてなかったからな。急に身体に負担をかけてしまった。
「そういや、明日は働くのか」
何てことを、歩きながら考えていると、
「あ、今から温泉かい?」
わ、びっくりしたー。急に話しかけんなよ、コミュ症なんだから。
「ええ、そうですが」
「君、何歳?俺18」
「高二です。高三ですか」
「まあ一応先輩だけど、敬語は無しで。俺も今から温泉だから案内するよ」
先輩だったのか。
「ありがとうございます」
廊下をひたすら歩き、階段を降りる。あれ、ここ二階だったっけ?
「温泉は、一度庭に出た方が速いんだ」
庭?
更に歩き、ガラスでできたドアを開ける。
「おお、凄いな」
そこにはそのままの意味の庭があった。池と、木と、石。
上を見ると、
「なるほど、傾斜になっていたのか」
玄関は二階にあり、傾斜を降りる階段で一階に行けるらしい。
「温泉は庭を横切った向こうだよ」
あの建物か。
ありがとうございました。最近評価して下さる方が増えてきたので、生まれて初めて感謝の気持ちが芽生えました。(大嘘)
感謝しているのは本当ですよ//
「ありがとうございます」
by作者




