ふと、彼はつい先日のことを振り返り、彼女は答える
ほんの少しだ、あの時の話をしようと思う。
そう。まだそれほど暑くもなく、でも目の前の炎は見るからに熱く。その頃は彼女と俺との壁も、今よりもっと厚かっただろう。
だが、今も俺は高校生活に対して篤い気持ちなど少しも持っていないのだ。
今日も残り10時間となり、その内の3時間を睡眠、今から2時間をボランティアと考えると、自由な時間は5時間程しかない。だがいつまでもこうしてだらけた気持ちでいては、ボランティアに綻びが出てしまう。
俺が変に思われるのは構わないが、加賀美や施設の皆さんに迷惑をかけるわけにはいかない。残り時間、しっかりと働いて評価を...おっとボランティアボランティア。
「ふぅ」
ついため息をついてしまう。奥でテキパキ働いている加賀美を尊敬した。
「少年、やはり過去に何かあったのか?奥の娘と」
「えーっとおじいさん」
やべえ、名前覚えてねえ。最初に教えてもらったが、人の名前を覚えるのは苦手だ。未だクラスの奴らを覚えていないしな。
「アドバイスいいっすか」
俺は、取り合えずこう言う。
「えーっと、彼女が抱える問題に首突っ込んだら巻き込まれて、その、何て言うんすかね。彼女を心配させないために巻き込まれたことを黙っていたら、バレて、みたいな」
······うん。間違ってはいない。
「そういう時はな、彼女を安心させることが重要だろうな」
「つまり?」
「つまりだな」
ここで言われた事を実際に出来るかはわからなかったが、このおじいさんはかっこいいことがわかった。
「おじいさん、名前、なんてったっけ?」
それっぽく言ってみる。
「若院照夫だよ。」
かっけえ。
ボランティアが終わりホームからも離れ、大通りを二人で歩いている。何気に学ぶことが多く、来て良かったと思った。
「戸羽君、あなたはあの時、笑ったのよね」
そう。何故か笑ってしまった。燃え盛る炎の前で隠していた現実を見抜かれ。
「ああ。呆気ないなと思って。嘘をつくのは上手い方だと思っていた」
「表情とかでは惑わされたけど、仕草でわかるのよ。夜歴10年をなめないで貰えるかしら色々と試したし」
成る程。キャンプファイアー場に向かう途中、暗くて地図が見えないと言ったのは嘘だったのか。暗くても見えていたが俺を試し、リアクションをしてしまった。
「ねえ、なんで笑ったの?」
それは
「私が巻き込んだのに」
違う!とは言えなかった。無責任なことは言えない。
「あなたは、」
「俺は!」
叫ぶ。そして一旦落落ち着き、
「大丈夫だ」
と、主張する。
先ほど若院のじいさんに『自分がいかに大丈夫かを伝え、安心させることが重要だ』といわれ、思わず大丈夫という単語が出てきてしまった。
凌は口を開け、悲しげな表情でこう言う。
「何でそんなに、優しいの?」
「関係者じゃ、ないと思うから」
若院のじいさんが言っていた事には続きがある。それは、
『自分がいかに大丈夫かを伝え、安心させることが重要だ。但し、行動でな』
この場合の『行動』とは何なのだろう。俺が明るい毎日を取り戻す事だろうか。いや、恐らく違う。つまりは、
「手始めに、友達にでもなってみるか」
こういう事なのだ。
なんというか、これで一旦落ち着くという感じです。今後とも羽後の高校生としての毎日をよろしくお願いします。
台詞
「自分がいかに大丈夫かを伝え、安心させることが重要だ。但し、行動でな」
by 若院 照夫




