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01-16

 ―――早朝、学生寮。



 「はーいピースケオハヨー。今日はオヤツもあるヨー」


 籠から厚い布が剥ぎ取られ、室内灯が差し込んでくる。

 朝食とはいえ与えられるのは雑穀と小松菜であり、さながら配給を待つ捕虜の気分である。

 しかし先程のオヤツとは嗜好品の事であろうか。環境改善に取り組むとは殊勝な心がけと言える。

 以前陳情したワインと肉料理を即座に却下入れた事を私は忘れない。

 そうこうしているうちに雑穀皿の横に新たな小皿が設置された。

 中には……なんだこれは、白やグレーの薄い板状のものが大量に入っている。

 未知の食料に思わず私は問いかけた。


 「主よ、これは?」

 「んー? これはボレー粉ヨー」

 「いやだから、ソレは何かと聞いている」

 「牡蠣かきの殻ネー」

 「身は」

 「カルシウム不足に良いのヨー」


 そうか……貝殻か。

 確かに鳥類は空を飛ぶ為に体重を極限にまで軽くしており、何かしらの衝撃を受けると簡単に骨折もしよう。

 楠木飛鳥の配慮は間違ってはいないのだが、私の胸に何か熱いものが込み上げる。

 まあ良い。悶々とした想念が喉元に纏わりつくが、少女の献身的な配慮に因縁をつけるのは美しくはない。


 「ボレー粉はお気に召さないカシラ? んじゃコレはどうカナ?」


 私の顔色を察してか、健気にも新たな用意を始めだした。

 今度は予想に反して妙に大きい……何だ、これも私の記憶にはないぞ。

 “てれび”なるもので見た波乗りに使うサーフボードに似た形状した、白い板を金網に固定している。

 どう見ても食料に見えないが、硬質化したアレを食べろと言うのか?


 「主よ、ソレは?」

 「カットルボーンだヨー」

 「いやだから」

 「これは烏賊イカの甲ネー」

 「身は」

 「ピースケは喜んで食べてたワヨー」


 それは微笑ましい話だ。

 なお、昨日は塩土えんどという盛り土を食べろと仰った。

 捕虜でもここまで冷遇すると国際条約に抵触する事をどうお考えなのだろうか。


 次に始まるのは毎朝恒例の日光浴である。

 彼女曰くカルシウムを体に吸収させる為にはビタミンDが必要であり、それには日光浴が効果的なのだそうだ。

 悪意はないのは重々承知ではあるが、私はこれが好きではない。むしろ苦手と言える。

 力を得るには代償というものが必要であり、私の場合は太陽光が該当した。

 無論説明はしたが、結果は火を見るより明らかであった。

 多少魔力が落ちるが死ぬ事はないので、宿主の保護を優先すべきと自分に言い聞かせよう。

 ピースケカワイー、インコインコ、チョーインコ、ギョヘ。



 /*/



 ……第一印象は最悪だった。


 ピースケもといフレイムさんの食事を済ませ、寮から学内に向かう通学路でのこと。

 急に上の方から危ないぞと私を呼ぶ声が聞こえた。

 咄嗟に反応したものの、足元がお留守になったお陰で歩道際の溝に足を突っ込んだ。


 「なんて鈍臭いんだ」

 「急に呼びかけるからでしょー!」


 しまった、つい怒鳴ってしまった。

 あちゃーと思いながら溝から汚れた片足を持ち上げる。

 相手はフェンスの上に腰を掛けていたようで、ひょいと飛び降りた。

 風貌は七星高校の学生服を着た男子のようで、乱雑に切りそろえた黒い短髪は、まるで狼を彷彿とさせる印象を受ける。

 上着のブレザーを脱いでネクタイを緩めており、袖を捲り上げた右腕には包帯が巻かれていた。


 「心の構えができていない証拠だ。怪我は……していないな。

 俺もお嬢さんと長話する気はない」


 なんだこいつ。温和な私でもイラっと来た。

 気心知れた零ちゃんとかに言われるならさておき、初対面の相手にこんな事を言われにゃダメなのか。


 「ねえねえ、少し失礼じゃないカナー? 物は言いようがあると思うの」

 「事実を言ったまでの事だ。お前こそ不注意を棚に上げて因縁と付けるとは恐れ入った。

 注意喚起を促して逆恨みを受けるとは想定外だったぞ」

 「そ……それはそうだけど、うーん」


 何も言い返せなくてモヤモヤする。ただ、なんかムカつく。

 これ、私ではなく零ちゃんだったら大喧嘩になってる、間違いない。

 しかし、ここまで馴れ馴れしいと、もしかしたら何処かで会った事がある人なのか。

 確かに正論には違いないので、とりあえず頭を下げようとした時、学内から予鈴のチャイムが鳴り響いた。


 「遅れると困るのだろう? 行くぞ」

 「ちょ、ちょっと待って! ってい痛たたた」


 彼は私の腕を掴み走り出した。慌てて駆け足になるも、付いていくのがやっとの事である。

 足が速い……のもあるが、この人は相手と合わせる気がない。協調性が感じられない。

 っていうか、私が言うのもアレだけど何かズレてる。


 「さて、これで朝のホームルームには間に合うだろう。

 まったく……任務とはいえお嬢様の子守りは好きではないのだがな」

 「は? 今なんて?」

 「状況が一変した以上、警護を強化するしかないだろう」


 彼は包帯に巻かれた腕を撫でながらそう言った。

 警護?私を?誰が?……思い当たる節は永守君しかないのだけど、そんな事は聞いていない。

 ぽへーと思考の渦に耽る中、本鈴のチャイムが鳴り響く。

 ハッとして周囲を見渡すと、既に彼の姿は消えていた……どうやら置いて行かれたようだ。

 慌てて走って教室に入るものの、教員とクラスメイトの視線が突き刺さる。

 言い訳もできず、朝から説教を甘んじて受けるしかなかった。

 今の私にできる事は、口の悪い男子学生の顔を思い出す事と、後で零ちゃんに愚痴ろうと心に決める事ぐらい。


 だが、彼との再会は予想よりも早く、説教の後に現れたのは転校生として紹介を受ける彼の姿であった。

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