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01-15


 ―――翌日、昼食時、オカ研部室。



 今日の昼食は部室で食べることにした。

 学食でも構わないのだが、室外でおっぴらに会話するのがはばかられるからだ。

 とはいえはたから見ればゲームやアニメの話をしていると思われるだろうが、此方側の人間に聞かれているとも限らない。


 「しっかし予想外ダッタネー、もっと時間かかるのかと思ったヨー」

 飛鳥は購買で買ってきたホットドックを食べながら、自販機のミックスジュースを飲んでいる。


 「あー、そんな事思ってたのね。スミスって共通の敵ができた以上、仲違いして場合じゃないでしょ。

 それに公務員とか言ってたけど、永守君……いや、永守家は組織内でも自治権があるんでしょ?」

 大月は購買で買ってきたサンドイッチを咥え、永守の方を見つめている。


 「あ……やはり想定内でしたか。お察しの通り僕の一存でもある程度の自由が効きます」

 永守は自作の弁当箱を広げている。


 「やっぱりねぇ……現代日本で魔術師を習うとしたら代々継承するのが多いでしょうしね。

 挙句、術者数が少なく秘匿が常である所から……神国守護課に所属するのは限られてる。

 ついでに永守家はお金持ちだし、永守君は未成年……と。

 これだけ揃えば所属する家々が地域を担当してると推測ができるもの。

 どう? 答え合わせお願いネ」

 わー、と飛鳥が拍手する中、大月は永守の卵焼きを一つ奪った。


 「お見事です。

 ほぼ推論通りですが一つ補足するならば、楠木先輩の能力を正当評価しているのがあります。

 自分は西洋魔術の専門家ではないので細かく説明する事はできませんが……先輩が鬼に使った爆裂火球エクスプロージョンファイアーボールは高位の火霊系魔法と存じております。

 おそらく楠木先輩が持つ紅い魔導書は火霊系魔法&プラスアルファを開放する能力であり、その限度は術者の魔法の素質に依存するのでしょう」

 永守が観念したかのように、目を逸らしながら解説をしていると、大月が割って入った。


 「ようはスミスが所属する星の知識?だったけ?

 まあそれと対抗する為に戦力が欲しかったんでしょ」


 「共闘するって事はそういう事になりますよね。

 ですが、援助もするのでお互い様です」

 永守は微笑みかける。普段の好青年の笑みではなく、少し嫌らしい。


 「そこでお二人にプレゼントがございます。

 お二人は防御がまるでなっていないので喜んでいただけると思います」

 なになに?と、二人が永守のリュックサックを覗き込むと、見慣れぬチョッキが入っていた。


 「なにこれ?」

 「アラミド繊維とケブラー繊維を複合し、理想的な防刃防弾能力を……あいや、凄いボディーアーマーといえば分かりますかね。

 制服の下にも着れるように軽量化をしてますのでご安心ください」

 「すっごーい、これくれるの!?」


 二人は昼食をそっちのけで、ブレザーを脱いでチョッキを着込もうとしている。

 インナーを着ているので下着を晒す訳ではないが、永守は顔を真っ赤にして下を向いた。

 天然と合理主義者……どうしてこの人達は年相応の羞恥心がないのだろうと困惑した。

 

 「こりゃ助かるわ。帰ったらフレイムさんに何か魔化エンチャントしてもらおうかしら」


 永守の脳内にクエスチョンが過る。

 そういえば大月零が神楽恭子と交戦した時に火炎噴射ファイアインジェクション魔化物品アーティファクトを用いたと聞いたが、もしやと思い質問を投げかけた。


 「大月先輩、先ほどの発言に違和感を感じたので一つお聞きしますが……。

 従者スレイブ魔化エンチャントされた羽がありますよね。

 それって使い捨てですか?それとも何の制限がついているのですか?」

 「えっ、何それ。何度も使ってるけど……」

 「えっ」


 永守は絶句した。

 無制限の魔化物品アーティファクトなど何週間の儀式魔術が必要になるか理解に苦しむ。

 初歩的な魔力探知どころか、一撃で異形化した人間を一撃で倒す火力の火炎噴射まで魔化するとは。

 従者スレイブの魔力が想像以上か、彼のいた世界の魔法が地球より発展しているのか……どちらにしてもフレイムと呼ばれる男を監視対象に入れざるを得ない。


 「先輩方……フレイム氏の魔化は我等の常識を遥かに凌駕します。

 今は従属しているようですが油断だけはしないで下さい」

 「ははは、インコに何ができるのヨー」



 /*/



 ガラガラガラ。

 急に部室の引き戸が開くと、金髪の学生が入室した。


 「ちわーす……おっと、今日は珍しいねぇ。全員集合じゃない」


 二人が制服下に着込み終えた後、聞き慣れた声と共に扉が開く。

 

 「あら烏丸君。こちらに顔を出すとは珍しいじゃない」

 「何を言ってますのん。お姫様のナイトがやってきましたよー」

 「うわキモ」


 大月は露骨に不快な顔を見せる。

 同学年であれば容姿端麗の彼に甘い言葉をかけられ、嫌な顔を見せる女性は皆無であろうが、彼女は別だった。

 ずけずけと絡んでくる烏丸の態度は後輩としては良しとするが、こと男性として見れば論外であった。


 「あんたね……もうちょっと永守君を見習って紳士的な態度を学んだらどう?」

 「あれー、零ちゃんって永守君みたいなのが好みナノー? 烏丸君と美男美女でお似合いナノニー」


 飛鳥から絡まれると思っていなかった大月は、僅か一呼吸ながら脳がフリーズする。

 はっ……と我に返った後、ニヤニヤを見つめる飛鳥に怒鳴り上げた。


 「アンタねぇ!なんでコイツと私がお似合いなのよ!!

 万が一にでもこんなのと引っ付いたら、一生何でも聞いてあげるわよ!!」

 「んーそんな約束して大丈夫なのカナー?」

 「あったりまえでしょ!!」


 二人の漫才を朗らかに眺める烏丸を、永守は視線を逸らさなかった。

 烏丸はそれを知るか否や、彼に意識を向ける素振りはない。


 「まあまあ先輩方、今日は話声が聞こえたので立ち寄っただけですんで、また来ますね~。

 寂しいでしょうけど我慢して下さいね、お姫様」

 「やめなさいっ!」


 大月が尻尾を踏まれた猫のように威嚇するも暖簾に腕押しである。

 まあまあと飛鳥がなだめる中、永守が呟いた。


 「以前から気にしていましたが、烏丸から微弱な魔力を感じています。

 先輩方、心に留めておいて下さい」

 「え、魔力探知の羽は何も反応しないよ」

 「隠匿魔法か魔化物品か……私も調査中です」


 永守が知らないとすれば県外の組織なのか、野良の魔術師なのか不明であるが、敵対はしたくない。

 そもそも此方側の人間なのかわからない以上、彼が語ってくれるまで待っていても問題はないだろう。

 永守が警戒するのは立場を察するに致し方ないとはいえ、これは彼個人の性分があるようにも感じる。

 それよりもスミスや星の知識の対策を講じよう。

 犯人捜しに取り寄せたフロッピーリストがまさか被害者捜しに使えるとは……どう転ぶか分からないものだ。

 幸運にも例の薬をフレイムが分析してくれているので、解毒法があれば被害を抑えられる。

 やられっぱなしは癪に障る……一歩ずつであれ攻勢に転じるよう努力しよう。

 動かぬ天秤を動かす為に。

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