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黒迄現在夢現  作者: 朝霞ちさめ
第四章 体育祭の日と縁結びの人
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85 - 終幕・体育祭

「それで佳苗のことだから、実は今の点数も把握してたりしない?」

 と。

 全学年の棒倒しがなんだかんだと終了し、ついに代表リレーが始まったころ、昌くんにぽつりとそう聞かれた。

 どんな買い被りだ。

「僕もそこまで、点数計算できるわけじゃないし……っていうか全試合覚えてるわけでもないしね。だからわかんないよ。ただ、勝ってる回数からして……、まだ、三組は二位かな?」

「代表リレーの結果次第では優勝もあるのかな」

「二組が三位以下で三組が一位。三組が二位なら、一組が一位、四組が三位、二組が四位で射程圏……、かな?」

「…………。実は佳苗、計算できてるんじゃない?」

 あれ?

 いやでも、どうだろう。

「別に計算してるわけじゃないしなあ。どういうパターンだと勝ち、どういうパターンだと負け、って条件はわかるけど何点なのかは分からないし」

「相変わらず渡来は理不尽なところで理不尽な才能を持ってるよな……」

 そして涼太くんにまで呆れられた。

 というか前多くんや来島くんまでやれやれといった様相である。

 ちなみにこの全員リレー、三組の男子代表は園城くん。

 ここまで特にけがもなく、また特に派手なこともしていないので、変に他の子たちや先生から警戒されることはないだろう。

 自覚はしているのだ。

 棒倒しではちょっとやりすぎたと。

 そして僕がそんな自覚をしているのを察していて、洋輔もちょっと控えめ。

 家に帰ってから何か言われる程度で済むだろう。たぶん。

「ま、勝つにしろ負けるにしろ……」

 そこそこ満足はした。

 結構暇な時間も多かったけど、なんだかんだで競技は楽しかったし、今日知り合った人たちとのつながりはとても大事になるだろう。

 茱萸坂さん。演劇部における僕の前任者で、僕にとってはどうしようもない敵。だからこそ、僕にとっては頼り甲斐のある人物だ。

 江藤さん。茱萸坂さんの友人であり、猫屋敷という天国に一番近い場所で暮らす人物。ああ、今からでも行きたい……けど、お休みまで我慢我慢。

 美土代先輩。バレー部的な解釈における、僕のお手本になるであろう人物。彼の動きをものにできれば、きっと眼鏡もいらなくなるだろう。

 七五三先輩。美土代先輩の友人で、セッター。郁也くんは七五三先輩をお手本にしている以上、この人からの助言はきっと代えがたい。

 カミッロさん。サッカー的な意味での有名人。藍沢先輩のライバルだった人……今もそうなのかな。だとしたら、今後も接点はあるだろう。

 この五人とのつながりを今日持てたのは、とても大きいことだと思う――すぐに何が変わるわけじゃない。

 ただ、じわじわと効いてくるタイプの面識が一気に増えた気がする。

 それは人間関係的なものであったり、部活に関するものであったり、一概には言えないけど、ここまで都合よく都合のいい縁が集まることなんて人生に一度か、あっても二度くらいだろうし。

 僕の場合はそれが今日来たという訳で、これをきちんと使いこなさなければならないわけだ。

「なんかいいことあったの、渡来。すごい笑顔だけど」

「まあ、これからが楽しいかなって」

「これからって、代表リレー終わったら、あとはもう閉会式と片づけだけじゃん」

「ああ……ごめん、前多くん。そうじゃない。これからってのは、『ここから』のこと。今日の次、明日からのこと……なんか」

 漠然と、漫然と。

 それでもなんか、楽しみだ。

 初めて自転車に乗れるようになった時、世界が急激に広がるようなあの感覚が近いのだろうか。

 日が過ぎれば、何年もたてばきっと今日の感動も忘れちゃうんだろうなあ。

 もったいない。ああ、だから日記って文化があるのか……なるほど。

「よし。今日から日記書いてみよ」

「……なんか渡来って時々、奇妙な方向で迷子になるよな?」

「ちょっと、前多くん。それどういう意味?」

「そのままの意味だ」

 解せぬ。


 全員リレーの結果を踏まえ、閉会式で発表された最終成績は、一位は二組。僅差ながら追いつくことは叶わなかった。

 具体的に言うと一位と二位の点差が5点なので、この接戦具合は分かってもらえると思う。

 優勝旗は中央階段に飾られるとのこと。代表として三年二組の体育委員生徒がそれを受け取り、二年二組の体育委員生徒が優勝カップ、一年二組の体育委員は表彰状をそれぞれ受け取っていた。

 尚、校長先生のながーいお話は当然聞き流していたのは言うまでもない。

 で、そのまま後片付け。片付けまでが体育祭だ。

「ちぇ」

「まあ文句言ってる暇があったら終わらせようよ、佳苗」

「まあ、そうだけどね。僕たちは救護テント解除しておしまい?」

「うん」

 じゃあさっさと終わらせますか。

 救護テントは中に運び込んであったすべての椅子とテーブルを排除、ロープを外して屋根を取りポールも外してきちんと本数が足りていることを確認したら屋根の布でぐるりと巻いてきちんと袋に詰めて、はいおしまい。

 五分もかかってしまった。

「五分そこそこで終わるっけ、これ」

「急げばもっと早く終わった気もするけど」

「…………」

 頬を引きつらせる郁也くんはそれとして、あとはマット類とかも一応撤廃。

 最後にしまったテントは指定された場所まで運んで、今度こそおしまいである。

「渡来がいると準備と片づけがものすっごい早いな……手慣れてるし力持ちだし」

「そうかな……。曲直部くんたちがそこそこ僕が言った通りに動いてくれるから、だと思うけど」

 命令されて気分がいいもんでもあるまいし。

 そんなことを聞くと、曲直部くんは首を横に振った。

 で、これに答えたのは鷲塚くん。

「命令された方が楽って性質も多いだろ。曲直部はどっちかというとそれだからな」

 ちなみに俺もだ、と続けつつ、失笑を漏らしている。

 本音だけど、なんかな。そういう事にちょっとくらい文句も出ると思っていただけに意外だ。

「あ、そうだ。鷲塚、曲直部。比較的早い段階で、合同練習があるかもしれない」

「合同練習? どこ中と? この辺の公立で男子バレーって……」

 あったっけ、と鷲塚くんが曲直部くんにふると、曲直部くんは少し考えていくつか校名を出した。ふうん、結構あるんだな。

「で、どことだ」

「えっと、紫苑学園」

「ハァ!? 紫苑!?」

 なんで全国区の学校とやるんだよ、と鷲塚くんの真っ当な反応が返ってきた。

「というかよくそんなところと接点もてたなあ。村社があそこの七五三って人を目標にしているのは知ってたし、そのためにも本人に色々と聞ければ一番なんだろうけど、でも難しいと思うぜ?」

 そして事情を知らない曲直部くんが極一般論で攻めてきた。

 が、それはむしろ追い風になる。

「あはは。実はその七五三さんと、去年のベストリベロに選ばれてる美土代さんが今日、体育祭に来ていて。そこでお話させてもらって、合同練習の話が上がったんだよ」

「はァ!?」

「へっ!?」

 鷲塚くんと曲直部くんの声が見事に重なった。

「げ、幻覚かなにかじゃねえのか? そっくりさんとか。そうそう都合よく接点持てるわけねえし……」

「それについては佳苗からかな?」

「ああ、うん。えっと、美土代先輩のお姉さんが、この学校の出身、しかも演劇部の先輩でね。その流れで紹介してもらったんだよ」

「どんな人脈だよ!」

「友達の友達は総理大臣とか言うじゃない。そういうやつじゃない?」

 適当なことをいってごまかしつつ、おおむねこの二人の立ち位置は理解する。

 郁也くんがこの場で普通に切り出した。つまりこの二人は篭絡が簡単、『そういうことになった』と既成事実を突きつければついてくるタイプなのだろう。

 曲直部くんはやる気をだして、鷲塚くんは仕方なしにって感じで、微妙に方向性は違うけど。

 逆に言うと、この場に居ない一年生二人と三年生がネックと判断してるのかな。

 いや待てよ。

「まあ、いいよ。状況は分かった。残りの二人には俺から話す、それでいいんだな、村社」

「うん。お願い」

「おう」

 ……もしかして。

「ねえ、郁也くん。いや、郁也くん本人にきくのもなんだから鷲塚くんに聞く……のも大差ないか。曲直部くん?」

「なにかな?」

「ひょっとしなくても、郁也くんって曲直部くんと鷲塚くん以外にはまだ人見知りしてる感じ?」

「よくわかったね」

「あー、やっぱり」

「ねえ佳苗。全部聞こえてるよ?」

「陰口は良くないから、本人がいる前で聞いたんだよ」

「より悪くない……?」

 ま、冗談はこの辺にしておいて。

「ふうん。でもそういう理由なら納得かも。……あれ、曲直部くんも郁也くんと小学校同じ?」

「そうそう。だからオレとか鷲塚は、結構村社とも話せるんだけどな……基本的にこいつ人見知りだから」

「……他人の事を人見知り人見知りって。別にボクは人見知りなんじゃないよ。単に距離感がつかみかねるというか、他の子の普通がわからないだけというか」

「わかってるさ。村社は別に変な奴じゃない――まあちょっと世間知らずなところもあったけど、そりゃ昔の話だしな」

 世間知らず……ああ、あの家だもんなあ。そりゃまあ、そうもなるか……。

「そうだ、それで思い出したんだけど、郁也くん」

「うん?」

「えっと、二階に飾ってあった水墨画みたいなやつあったじゃない。あれ、誰が描いた絵なの?」

「そういえば来た時もちょっと気にしてたよね。ボクも詳しくは……ただ、お父さんが譲ってもらったって言ってたかな?」

 譲ってもらった……買ってきたわけじゃないのか。そりゃそうだよな。

 あの手の骨董品は高いのだ。

「渡来。たぶんお前は誤解しているだろうから言っておくが、あれだぞ。村社の言う『譲ってもらった』は『お金で買った』だからな」

「え? そうなの?」

「え、買ってきたときも譲ってもらうっていうよね?」

「いや言うか言わないかでいうと確かに言うけど……」

 ニュアンス的にはお金はあんまりかけてないって感じにならない?

 しかしこんなところでも微妙に認識のずれがあるとは。

 なんかいつか、この些細なずれが致命的になりそうな気がする……。

 気を付けよっと。

「具体的な金額は知らないけどね。銘もないし、箱もなかったみたいだし。そう考えると骨董品じゃなくて、誰かお父さんの知り合いが描いたとか、そんなところだと思うよ。だから、それこそ佳苗がこの前、ボクと買い物しに行ったときに使ったくらいじゃないかな」

 数万円程度……ね。

 骨董品じゃなくて、水墨画として考えればそんなものだろうか。

「でも、どうして佳苗はあれが気になるの?」

「なんか、既視感があってね……どっかで見たことがある、ような、でもそれがどこなのか全く思い出せないんだよ」

「ふうん……?」

 ただ、その見覚えはやっぱり強いのだ。

 ただの既視感とは何かが違う。

 描かれている絵が、何かひっかかっているのか……それとも、それ以外の何かなのか。

「今日にでも写真撮っておこうか? スマホ持ってないから、パソコンに転送する感じになるけど……それでいい?」

「いいの?」

「うん。別に構わないよ」

 よっしゃ。

 といっても、

「問題は僕も僕用のパソコン持ってるわけじゃないことかなあ」

「メールアドレスは?」

「一応、お父さんに設定してもらったのがあるけれど」

「じゃあ、それを教えて。一応そこに送っておくよ」

 ふむ。

「じゃ、お願いするね。メールアドレスはあとで、メモ渡すから」

「うん」

 と、一連のやり取りを終えたところで、曲直部くんが。

「けどまあ。あの村社がこうも心を開ける子がでてくるなんてな。想像もしなかった」

「ボク自身、ちょっと驚いてるんだよね。いまさら弓矢以外でこうも普通に接してくれる子がいるなんて、思いもしなかったから」

「そう? ……まあ確かに、郁也くんは変わり者って言うか、ちょっと環境が独特だけど。それだけじゃない?」

「それで済ませられる渡来は大物だな……いや、それとも渡来も大概なお坊ちゃんとか?」

「ないない。僕の家はまだしも普通だよ」

 郁也くんとは比べ物にならないし。

 うん。

「ただまあ、僕の場合はもっと妙な人と縁もあるから……そのせいかな」

「世界って狭いんだか広いんだかわかんねーもんだなあ」

 だんだんと話題がズレ始めているような。

 原因は僕の横入だからなんともな。

 それに、別に合同練習に反対とかはないみたいだし……うん。

「じゃあ、郁也くん。ちょっと部室来てくれる? アドレス教えるから」

「わかった。じゃ、鷲塚と曲直部もよろしくね」

 うん、と二人が頷いたのを確認してから、バレー部の部室へと向かった。

 体育祭は終わっても、今日はまだ終わっていない。

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