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黒迄現在夢現  作者: 朝霞ちさめ
第三章 体育イベント二点盛り
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76 - 体育祭前日談

 日曜日は何事もなく、あっさりと月曜日。

 普段通りに登校しつつも、今日は体育祭前日というわけで体育祭予行、及びその準備となっていて、ジャージ登校日だ。

 部活も原則無しとはいえ、部室に色々と置きたいものがあったので、普通に持っていくものは持っていくことに。

「で、その大荷物と」

「これでも減らしたんだけどね」

 呆れる洋輔はそうとして、登校するなりまずは部室へ。

 そして持ってきた荷物を自分のロッカーに入れて、と。

「ああ、そうだ。洋輔、ここが僕のロッカーだから。場合によっては使っていいよ」

「どんな場合だよ」

「洋輔のロッカーにものが入らなくなったときとか?」

「そういう事ならありがてえけど、すでにお前のロッカーが目一杯じゃねえか」

 ごもっとも。

「まあその辺は冗談として。洋輔」

「ん?」

『防衛魔法に連想で太陽を追加。それだけ』

 あちらの言葉で告げると、それだけで理解したらしい。

「つまり俺たちの部屋の逆か」

「そう」

 コーティングハルによる防音・防振動措置。

 具体的な使いみちがあるわけじゃない。ただ、あれば使える類のものである。

「洋輔の場合は物理的なカギ要らないでしょ」

「ああ。その辺はバッチリ」

「ここは電子ロックでもないからね」

 ま、そういうわけで使う時は使ってね、というと、洋輔はおう、と短く答えた。

 なんか気分が散ってる感じ?

「どうしたの、洋輔」

「……いや。土曜日に買い物に行ってたのは知ってたけど、あれだな。お前、さすがに多すぎねえか?」 

「え? ……ああ、これのこと?」

 これ、と僕が指さしたのはハンガーなどの便利道具。

 確かに少し多めに持ってきてはいる。

「言っとくけど。今日は練習着さえ持ってきてないから、買ってきたものはシューズくらいだよ、持ち込んだの」

「は? じゃあ何だ、このハンガーとかタオルとか、その箱とかは」

「作ったやつ。箱は救急箱だね」

「ああそう」

 心底どうでもよさそうに洋輔は頷く。

 ま、実際問題……。

「アリバイ作りって意味が強いかな」

「アリバイねえ」

 何もないところから突然いろいろ出てくると、さすがに怪しまれてしまう。

 だからこそ、あらかじめある程度物を入れておく。

 救急箱はたしかに救急箱として、包帯とかも入れてあるけど、それは既にコーティングハルで防音済み。

 ようするに、この部室のこの場所を学校における錬金術の拠点とするという宣言である。

「領域制御は?」

「お願いしていい?」

 僕が植木鉢をカバンから取り出すと、洋輔はあきれた様子で、しかしきちんとやることはやってくれた。

 うん。そこそこ話が通じ合っている。

「あんまり派手なことはやるなよ」

「もちろん。ちなみにこの薬草の後ろにあるこの石ね」

「ああ。陰陽凝固体だな。効果は?」

「消臭」

「おい、それと同じの俺にもくれ」

 そういうと思ったよ、と予備を取り出して洋輔に渡すと、洋輔はくすっと笑う。

「耐久値型だけど、1時間で耐久値が1減る。で、それの初期耐久値は二万」

「大体二年ってところか。サンキュ」

 どういたしまして。


 さて、体育祭予行といってもやることはほとんどない。

 最低限のリハーサル、そんな感じだった。

 実際入場とか退場の行進もないし……。

 ただ、準備体操の練習とか、実際に競技はやらないけど競技順の集合確認とか、実際の集合場所だとかの説明は一気に行われ、あっという間に給食、お昼休み。

 今日の給食はミートソーススパゲッティ。

 麺が人気でソースが余りがちなのはいつもの事。小学校の時もよく見た光景である。

 で、そのまま午後の部。

 表彰式とかの予行も一通りやって、あとはそれぞれの部や委員会ごとに割り振られた作業をして解散という運びである。

 僕は演劇部としてはとくにないが、バレー部に入ったので、そっちのお手伝い。

 洋輔とはまた適当なところで待ち合わせをしておいて、と。

「そんなわけで、テント設営。渡来以外は球技大会の時もやってたし大丈夫だろう。ちなみに渡来はこの手のことに経験は?」

「テントくらいならしょっちゅう」

「へえ。意外な経験だな」

 渡来佳苗としてはほぼ経験無いんだけどね。

 あっちの世界でたくさんやっただけで。

「動きにくい恰好での設営が多かったんで。それと比べればすごく楽ですよ。ちなみにテントってこの一組だけなんですか?」

「うん。そこそこ重いから、」

「じゃあ持っていくので皆でさっさと終わらせましょうか」

 よいしょと担ぎ上げ、校庭へ。

 やっぱりそこそこ重たいなー。持てないことはないけど。

「……えっと。重くないか?」

「そこそこ重いですよ?」

「そうか……」

 筋力強化ありきで考えれば大したことはないって程度だ。

 運び終えたところで展開。

 設営手順は先生たちが教えてくれたので、さほど問題もなくクリア。

「おかしい。渡来、いくらなんでも力持ちすぎないか」

 と、突っ込みを入れてきたのは風間先輩。

「そうですか? 風間先輩くらいなら持てますけど」

「……いやあさすがにそりゃあ無理だろ?」

 またまた御冗談を、そんな感じの表情を浮かべたので、風間先輩に近づいて腰のあたりを持ち、そのままひょいと持ち上げる。

 文句ないよね?

 と視線で問いかけたら、風間先輩は「ひ、ぇえ……」と微妙に男子らしからぬ声をあげた。

「風間って結構体格いいんだけどな……。やっぱり渡来は力持ちなんじゃない?」

「あんまりそんな気はしないんですけどね」

「そうか」

「いや自覚してないだけですごいと思うよ。土曜日に佳苗と買い物一緒に行ったけど、すっごい大荷物を平然と片手で持ってたし……」

「そんなに重くなかったよ?」

「…………」

 風間先輩は下ろしてあげて、準備の続き。

 テーブルと椅子の準備だ。

 尚、テーブルはちゃんと地面に固定。まさかパイクで打ち込むわけにもいかないので、紐で固定する形だけどね。

 そして紐が剥き出しだとそれはそれで危険なので、その上からシートを敷いて、はい完了。

 当然、医療品とかは当日に運び出されることになる。

「っていうか村社、いつから渡来の事名前呼びし始めたんだ」

「土曜日」

「ふうん」

 鷲塚くんは興味深げに僕を見てくる。それどころか、「ってことは」と続けた。

「渡来は村社の家に行ったのか」

「うん。すごい家だよね」

「ドン引きするだろ?」

「んー。驚いたけど、でもそれくらいかな?」

 大したものだとは思ったけど、それくらいだ。

 じいやとかばあやとか、ちょっとうらやましい。

「ん……、そうだ。郁也くん」

「うん?」

「答えにくいことなら、別に答えなくてもいいんだけど。郁也くんってなんで昌くんのこと苗字で呼んでるの?」

「あー……。それは、ボクが昔から使ってた愛称、子供っぽいからって理由で嫌がるんだよね、弓矢。逆も大概だから、じゃあ苗字でいっか……ってなってるだけ」

「ふうん……? 仲が悪いわけ、じゃないんだよね」

「うん。今でも結構一緒に遊ぶしね。そういう時は昔からの呼び方が出ることもあるよ」

 なるほど。

 つまり……うん、前多くんみたいなものか。

 前多くんも部室では『葵』って涼太くんに呼ばれていて、だけどそれに怒るようなそぶりもなかったんだよね。

 僕もそうだけど、このあたりの年代は結構そのあたりに敏感だったりする。

 その敏感なところを叩き伏せてくる皆方部長の恐ろしさがわかってもらえるだろうか。

「……ちなみに、差し支えなければなんて呼んでるのかおしえてくれない?」

「別にいいけど、本人にはボクが教えたってのは内緒にしてよね。弓矢の奴、怒るかもしれないし」

「うん」

「『あきちゃん』だよ」

 あー。そりゃ嫌がるか。

 昌くんって僕や郁也くんと比べればまだマシだけど、それでも結構小さい体格にコンプレックスもってるっぽいし……。

 さて、雑談はさておいて作業の続きだ。

 設営は終わった、ならばそのあと、明日の体育祭の後、片づけをいかに素早く終わらせるかという点である。

 まあ邪魔にならないような、しかしそんなに遠くない場所に一通り荷物を置くだけだけど。

 これで今度こそ、おしまいっと。

「はい、お疲れ様」

 鳩原部長が声を挙げてそう宣言し、そのまま解散することになった。

 すぐに帰ろうとするのは二年生の半数くらいだけで、他の子たちは別のところに視線がいっている。

「郁也くん、あの事はいつ話す?」

「それとなくもう話し始めてる」

「さすがに行動が早いね……」

「佳苗はまだ動けないでしょ。今週末まではちょっと様子見しといて」

「オッケー」

 さらりとそんな合意を土壇場で交わしつつ、解散されてはいるので洋輔を探す。

 えーと……あ、いた。

 もう待ち合わせ場所に居る。

「じゃあ、僕は帰るか……」

「ん。気を付けてね、佳苗」

「ありがと。郁也くんもね」

 そんなわけで準備場から離脱、洋輔に近づく……あれ?

「洋輔、具合悪い?」

「んーや? 眠いだけ……」

 ああ、眠いのか。確かに眠そう、のほうが近いかも。

「……少し昼寝して帰ったほうが良いんじゃない?」

「いやあ。眠ぃんだけど寝れねえんだよな……このところ急に夢見が悪くて」

「夢見ねえ」

 あっちでの出来事でも思い出してるんだろうか。

 僕は僕で結構そこに思うところがあるし、洋輔は殊更なのだろう。

「あんまり怠いようなら、おんぶしてあげようか」

「冗談きついぜ」

 笑いながら洋輔は立ち上がる。まあ、大丈夫か。

「家に帰ったら、横になるだけでもしておけば」

「だから、夢見が悪ぃんだって」

「具体的にはどんな悪夢なのさ」

「んー」

 会話をしながら歩き出し始め、しかし会話がそこで途切れて。

 結局洋輔が続きをしゃべったのは、学校が見えなくなったところだった。

「なんつーのかな。ふと気が付いたら一人になってる、みたいな……」

「…………」

 あっちでの思い出、というより、あっちで抱いてた不安がぶり返してる……とか?

 うーむ。分からん。

「それ、昨日今日の話?」

「実は先週の頭ごろから、ちょっと。だんだんひどくなっててな」

「あー……」

 もしかしたらもしかするかもな……。

 試してもらうのもいいかもしれない。

「洋輔。このまま家に戻ったら部屋着に着替えて、そのまま僕の部屋に来てよ」

「別にいいけど。なんもやる気はしねえぞ。ゲームすんのも怠いし」

「ベッドで寝てもらうだけ」

「……お前、話聞いてた?」

「うん。その上でちょっとお願いがある」

「何を」

「いくつか意識して寝てほしいんだよね。もしかしたら、洋輔、それで何とかなるかもよ」

 何ともならない可能性も八割くらいあるけど。

 病は気からともいうし。

「で、何を意識して寝ればいいんだ」

「うん。『今知りたいこと』を強く意識して寝ればいい」

「今知りたいことねえ……」

「たとえば、なんでそんな夢見が悪いんだろう、とかいう疑問でもいいし、その疑問に回答があるなら、それを思い浮かべればいい」

「簡単に言ってくれるな……ま、やるだけはやってみるか」

 そうそう。

 寝るだけなら特に何か使う訳でもない。

 どうしてもだめならエルエッセンシアを材料とする陰陽凝固体に精神状況をハイテンションに維持するという、若干ながら薬物(ドラッグ)じみている効果をもつやつがあるからそれを使おう。

「絶対使わねえからな」

「今、僕口に出してた?」

「いいや何にも言ってねえ。けど何を考えてるのかは分かったぞ」

 ううむ……。

 その後は雑談をしつつ、普通に帰宅。

 遭遇した野良猫は二匹。でも今日は洋輔の心配もあるので、撫でるのは五分で我慢だ。

 結構待たせてる感じもあるけど……まあ、これが無いと僕が持たないし。うん。


 で、その日の夜。

 お昼寝ならぬ夕寝を終えた洋輔は、目を覚ますとがばっとベッドに上半身を起こし、何事かと振り返った僕に言ったのだった。

「ノルちゃんがニムにノルちゃんブラストキャノンをぶっ放して、それをニムが跳ね返してた……」

「……洋輔さ、何の夢見たの?」

「俺が聞きてえよ。何この状況」

 まったくだ。

 それでも夢の内容はともかくとして、結構ぐっすり寝ていたように見える。

「ちなみにその夢見はどうだった?」

「悪くはねえけど超妙な感じになったぜ。え? なんでこんな夢見たんだ俺」

「知らないよ。そんなの」

 大体猫又となっていたとはいえ猫のノルちゃんがブラストキャノンってどういうことなのだろう。

 変にアニメかゲームの内容でも混ざったのかな?

 ううむ、分からん。

「……それでどーするの、よーすけ。とりあえず様子見で、今日は泊まってく?」

「んー。いや、大丈夫だろ。昨日までと比べりゃ、目覚めもいいし」

 ならば重畳。

 ということにしておこう。

こぼれ話:

ノルちゃん→あちらの世界において一時期一緒に暮らしていた猫(猫又。魔物。大分強い子)。ブラストキャノンは打てません。

ニム→あちらの世界において彼らの隣の部屋で生活をしていた猫のような少年。戦闘能力は皆無に近い反面、ゴーレム作って戦わせるとかでごまかしていたとかどうとか。

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