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黒迄現在夢現  作者: 朝霞ちさめ
第三章 体育イベント二点盛り
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74 - 疑心を遠ざける初期投資

 土曜日、お昼過ぎ。

 洋輔に一応もう一度声は掛けたけど特についてくる様子はなかったので、まあいいか、と待ち合わせ場所の学校前へと移動。

 すると、既に村社くんは校門の傍に置かれたベンチに座って待っていた。

「ごめん。遅かったかな?」

「そんなことないよ。ボクが早すぎただけ」

 ちらり、と時計をみて村社くんは言った。

 ちなみに約束した時間は一時ちょうど、現時刻は十二時五十分。

 まあ、遅刻はしていない。

「弓矢にも声は掛けたんだけど、剣道部としてやることがあるんだって。ごめんね」

「特に謝ることでもないんじゃない?」

「それもそうか」

 うん。

 それじゃあ行こうか、と話になり、お店の場所もついでに聞いてみたら、案外近いところにあるらしい。

 変に遠いと面倒だったからよかったな。

 で。

「そういえば、動画はもう見たの?」

「見たよ。結構参考にはなった、かな……」

 主に中学生のレベルがどの程度なのか、という意味で。

 さすがに僕のアレはやりすぎだったようだ。

 既に切った手札はもう使っていくけど、あれ以上のことはやらないように気を付けなければ。

「買い物が終わったらうちで色々と見せるけど。そっちは、参考になるかどうか……。ボクたちの世代においてのトッププレイヤー、のリベロ、なんだよね」

「へえ。でも、トッププレイヤーがどんな動きなのかはやっぱり見たいかな」

「その意気、その意気」

 村社くんは心底嬉しそうにそう頷いた。

 で、移動中にせっかくだったので話を聞いてみると、そのトッププレイヤーのリベロというのは美土代(みとしろ)朝撮(あさと)という子らしい。

 去年の全国大会でベストリベロ賞を獲得した、今年で二年生……つまり、去年その賞を手にした段階ではなんと一年生である。

 もちろんそれは異例の受賞だったけど、実際には文句が無かったそうだ。

 満場一致とまではいかずとも、『まあ美土代朝撮ならばしかたがない』といった空気があったのだという。

「ボクもさほどバレーに詳しいわけじゃないからね。断言はできないんだけど……。でもその美土代朝撮って人は、小学生のころからリベロとしての訓練を続けてたんだって。だから、ある程度真剣にバレーをやってる子なら、その名前は全国的に知られてるんだとか」

「小学生のころから大会に出たりしてたのかな?」

「そうみたいだね――あ、ここだよ。この店」

 と、お店に到着したようだ。

 スポーツ用品専門店、と看板にも書かれている。

 村社くんが扉を開けて中に入って行ったので、僕もついていくことに。

 野球用品、サッカー用品、卓球用品、バド用品なども置いてあるし、当然僕たちが買いに来ているバレー用品も大きなブースが用意されていて、結構充実しているように見える。いや、他の店知らないからどうかわかんないけど。

 やっぱりバレーボール専門店みたいなのもあるのかな?

 ネットとか売ってたりして。いやそれは関係ないか。

「おや、村社くんか。いらっしゃい」

「お邪魔します」

 そして村社くんはこの店の店主さんと知り合いのようだ。

「そっちの子は初めてかな。初めまして」

「初めまして。渡来です」

「店主さん。今日は渡来の道具を買いに来たんだけど……えっと、バレーボール用品。一式出してくれる?」

「わかった。とりあえずじゃあ、こっちにおいで」

 はい、と村社くんが向かったのを見て、僕もついていく。

 悪い人じゃなさそうだし。念のための色別も緑だしな。

「えっと、渡来だったな。身長は?」

「…………」

 そしてコンプレックスを一言目で聞いてくるのはどうかと思う。

「いや、渡来。身長がわからないとさ、下着のサイズもわかんないよ」

「あ、そっか」

 むしろ被害妄想だった。いけないいけない。

「ごめんなさい。141.2センチです。靴は22センチのを履いてます」

「よろしい。で、一式とは言ってたけど、具体的にはどこからどこまでかな?」

「えっと、頭の先から足の先まで?」

「ああうん。全部ってことね」

 よかった、通じた。

「バレー歴はどのくらいかな」

「数日です」

「ふむ。サポーターはいるよね。パッド入りのやつがいいかな」

「どうなんだろう……正直わかんないんですよね。村社くん、どうすればいい?」

「ああ、こうなるのか……。えっと、じゃあボクなりに見てきた感じで注文付けちゃっていいのかな?」

「うん。村社くんなら大丈夫だろうし」

「わかった。えっと、まず渡来はリベロになります。パッドは現状不要です。体操着に体育館履きって状況でもどこも傷めずに拾いきってるので」

「……バレー歴数日でかい?」

 信じがたいですよね、と村社くん。

 そしてそれに同調する店長さん。ちょっと、二人とも?

「ふうむ。……まあ、村社くんが言うなら本当なんだろうけれど」

 で、店長さんがまず取り出してきたのは腕、足用のサポーター。

 衝撃を吸収する、というより、摩擦の軽減の意味が強いらしい。

 思いっきりフライングで捕球をするときとか、床とこすれてやけどをしかねないから、その予防だそうだ。

 ちなみにパッド入りかどうかというのは、当然パッド入りであれば衝撃を吸収するの意図を強くできるから、レシーブが苦手ならばつけたほうが良いとのこと。

 痛くない、までは言わずとも、無いよりマシ程度らしい。

「指サポーターは……いるかい?」

「指サポーター?」

「いらないんじゃないかな。とりあえずは」

 村社くんのアドバイスもあって、そっちは遠慮することに。

 というわけで次はシューズ。

 どれも似たようなもんかなと思ったら、そこそこ分類があるらしい。

 かかと部分のグリップの強さとか、あとはくるぶしまで隠れるタイプか隠れないタイプかとか、多少重くても安定できる者かとにかく軽量化を目指すか。

 もちろん、オールラウンドに使えるものもあるそうだけど、

「渡来のスタイルからすると、ボクのと同じのがいいかなあ……」

「というと、これか」

 店主さんが出してきたのは踝が隠れるほう。ミドルカット、というらしい。

 全体的に動きやすさを重視したタイプなんだとか。

 特に異論はなかったし試しに履いてみて、と。

「ちょっと動いてみて。ジャンプとか。そっちにスペースがあるから」

「はあい」

 というわけで両足履いて、そのスペースでとんとん、と飛んでみる。

 うん……さすがに現状では履き心地に違和感があるけど、不思議と動きやすい。

 あっちの世界で言うところの戦闘靴みたいな?

 さすがにつま先とかに鉄板は入ってないけど。

「うん。動きやすいし、これにします」

「そうかい。じゃあ、箱に一度しまうね」

 で、靴を選んだら次は靴下。そこそこ長めのものを使うのが良いらしいので、村社くんに一任。

 なんというか『よきにはからえ』状態だよなあこれ。

 実際素人だから、それくらいしか方法が無いんだけど。

「バッグは……どうする? 別に絶対に必要ってわけじゃないし、部活では指定もないけど」

「うーん。シューズとかサポーターとかを運ぶって考えると、結局必要なのかなって」

「まあね。じゃあ、この辺がいいかな」

 店主さんが靴とかをしまっている間に、村社くんがスポーツバッグのあたりを指さしてゆく。

 村社くんが使っているものと同じやつもあった。見た目よりかは内容量は結構大きいようだ。

 でもなんかしっくりこない。

「あとは、いっそバックパック系。リュックみたいに背負っちゃうやつもあるよ。漁火先輩とかが使ってる」

「おお。こっちのほうが良いかも……うん。これにする」

「そう? 渡来だったらあっちの、エナメルバッグ選ぶかと思ったんだけど」

「あれはあれで悪くないんだけどね。入れるものとか考えると、こっちでいいやってなるし」

 というわけでバックパック、も何種類かあったけど、村社くんのアドバイスをもらいつつ、普通に持つこともできるタイプをチョイス。

 気に入らなかったらちょこちょこ改良すればよい。

「あとは、練習着か……」

「うん。実際、村社くんたちってどうしてんの?」

「普通の練習なら体操着で済ませちゃうことが多いね。ただ、外部の人……練習試合とか合同練習だと、一応練習着を着ることになってる。部として何着かあるから、絶対にかわなきゃダメってわけじゃないけど。それに、練習試合だとユニフォーム着ることも多いし」

「なるほど」

 ないと困りそうだ。

 というわけでシャツとかゲームパンツとか、そのあたりを三着ず……、あれ。

「何色がいいのかな、これ」

「えっと、ボクたちみたいな普通のポジションは、上がクリーム色で下が深緑だから、それ以外」

「んー……と。じゃあ上にえんじ色、下は……白?」

「アリじゃない?」

 というわけでその組み合わせでレジに持ってい……、っと。

「合宿、夏休みとか冬休みにやるんだよね」

「うん。四泊五日くらい」

 となると……途中で洗濯ができるにしても、練習中に着替えも必要で……ふむ。

「四セットは必要か」

「……結構、渡来って最初にどかって買うんだね」

「中途半端に始めると、なんか中途半端に終わりそうだからね。願掛けみたいなものだよ」

「やる気を出してくれるのはとても嬉しいけど、なんか悪い気がしてきた……」

「自分の道具だもの。自分で揃えるのは当然だよ」

 それに最初の一回さえやっておけばあとは増やせるし。

 要するにここでの購入は一種のアリバイ作りなのだ。

 後々の不信を買わずに済むならば、先行投資と割り切れないこともない。

「これで全部かな」

「いや、まだもう一つ。重要なのが残ってるんだよね」

「え……? なにかあったかな?」

 村社くんが首をかしげて聞いてくる。

「いや、パンツ。下着の方ね。あれ、スパッツがいいんでしょ? 僕、スパッツなんて持ってないし……」

「あー。……えっと、スパッツにするなら直穿きになるよ。大丈夫? ボクサーとか、普通のブリーフとかでも代用はきくけど。トランクスはお勧めしないかな……リベロだと特に危険だから」

「うん……」

 まあ、村社くんはスパッツを使っているようだし、部員の皆に聞いたところ半数ほどはスパッツを着用していた。

 残りの半数はボクサーと普通のブリーフ。ボクサーが優勢なのは、やっぱり普通のやつは恥ずかしいってことなのかもしれない。

「じゃあ、スパッツも。スパッツは丈の短いやつじゃないとだめだから、気を付けて」

「えっと、じゃあこの辺はダメか」

「そうだね。ボクが使ってるのはこっち」

「じゃあ同じのでいいや」

 サイズ的にはさほど変わんないし。

 下着としてのスパッツも四枚購入。足りなくなったら増やそう。

「じゃあ、今度こそこれでオッケーかな……」

「そうだね。消耗品とかはこまごまと増やさないとだけど、最初にしては揃えすぎなくらいだよ」

 それでよし。

 準備が足りないよりかは多少無駄になってもたくさん持っていくべきだ。

 消耗品と違って、どこでも買えるもんでもなし。

「じゃあ、全部で……、結構な金額になるけれど。親御さんの許可は取ってるんだね?」

「もちろんです。念のために電話で確認してもらってもいいですよ」

「ふむ……」

 店主さんは少し考えるようなそぶりを見せて、まあいいだろう、と大人しくレジを打った。

 合計金額は……うん。

 まあ、覚悟はしてたけど、お年玉は余裕で吹き飛ぶ金額だなあ。

 お父さんにもお母さんにも感謝しないと。

 その後、商品を受け取って、と。

「それじゃあ、ボクの家はこっち。一通りおやつとかジュースはあるけど……、何かついでに買っていく?」

「んー。お邪魔するなら何か持ってきたらよかったかな?」

「いいよ、そんなの」

「そう? ……まあ、だとしたら、特にいいかなって」

 うん、と頷き、村社くんが歩き始める。

 方角からして……ふうん、こっちの方か。

 僕の家とは少しズレている。小学校が違うのも当然だって感じ。

 歩きつつも道具の手入れとかについては説明を受け、ついでだったので、

「ちなみに村社くんって、下着はどのくらい消耗する?」

「うーん。まだ部活に入ってからそんなにしてないから、なんとも。でも、もう一枚はダメになったかなあ」

 あ、結構なハイペース……。

 気を付けないとな。

 直穿きしているものが破けてるのに気づかず着替えとか、ちょっと危ない。

 まあお尻くらいなら見られても特に問題はないか……。

「ボクがどうだったから、どう。とは、渡来の場合は言えないんだよね。やっぱり、リベロは専門的にすぎるから」

「それもそうだね……」

 途中、野良猫をみつけては撫でるいつもの儀式をしつつ。

 そして、村社くんの家に到着し……、え?

 ここ?

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