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黒迄現在夢現  作者: 朝霞ちさめ
第三章 体育イベント二点盛り
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71 - 事後承諾でも

 家に着いたころには洋輔の機嫌も戻っていて、一安心。

 とはいえ色々と決めなければならないことも増えたわけで。

「もしそのままバレー部に根付くなら、集合場所とかも考えないといけねえな」

「集合場所は、まあ、あそこでいいと思うけど。時間が読めないんだよね」

「なんか手は?」

「バレー部の部室の窓から例のベンチが見えてるってところかな?」

 僕は僕の、洋輔は洋輔の部屋に戻ったところで、窓越しにそんな会話をする。

 すでに学ランとワイシャツは脱いだので、とりあえず部屋着……あー、お気に入りの部屋着が無い……。

 まあいいや。これにしよ、っと選んだのは普通のシャツと普通のズボン。

 どちらも猫のキャラクターつき。これはこれでお気に入りなんだけど、ちょっと子供っぽいんだよね。

「僕がバレー部に出てるときは、部室の窓……の外にでも、なんか出しておけば目印にならないかな」

「目印にはなるだろうが、目立つようじゃだめだろ」

「透明化したピュアキネシスとかなら気づかれないよ」

「それ、俺も見れねえんだけど」

 それもそうか。

 んー。

「じゃあ、部室の窓の手前に猫の縫いぐるみを置いておくとかは?」

 これ、と適当に棚から持ってきたのは、十五センチほどの高さの猫の置物。

 結構可愛いトラ猫である。

「その辺なら無難だな」

「じゃ、そうしよう」

 というわけで明日からこの猫のぬいぐるみを学校に持っていくことに。

 荷物検査があったとしても演劇部で使うと言えば通れるだろうし、別に授業中に使うわけでもない。

 先生に預けておいて放課後に取りに行ってもいいしね。

「そういや佳苗、今日の夜、おまえんちの親は何時帰りになってた?」

「二人とも八時予定だって」

「俺のよりかは早いか」

「一緒にご飯食べる? どうせ作る時間も手間も変わんないし。お詫びもかねてね」

「じゃ、任せるか。何作んの?」

「豚肉とニラがたくさんあったから、豚の角煮にニラタマとか? 中華スープ付き」

「ご飯がチャーハンだと最高だな」

「じゃあそうしよう」

「…………」

 いやだって、『ふぁん』で終わるし。


 夕飯の準備を終えて、少し待ったころ、続々と両親は帰ってきた。

 今日もやっぱりお疲れ気味のようだけど、依然と比べれば若干マシだ。あの置物、ちょっとは役立ってるのかな?

「ただいま。あら、洋輔くん。こんばんは」

「こんばんは。お邪魔してます」

「ええ。佳苗、大体わかるけど、説明は?」

「洋輔のお母さんもお父さんも帰りが遅いみたいだから、夕飯一緒に食べちゃおうって話になって。料理手伝ってもらったんだよ」

 主に盛り付けを。

「なるほどね。じゃあお母さんは着替えてくるわ、ちょっとまってて」

「うん」

 ちなみにお父さんは既にダイニングの椅子に座っている。

 まだ手を付けていないのは、もちろんお母さんを待っているからだ。

 最近皆で一緒のご飯って朝ごはんくらいだからな。

「それで佳苗。さっきの話の続きは?」

「あ、うん。えっと、演劇部はつづけるよ。先輩たちも優しいし、顧問の先生が担任だからやりやすいし」

「うん」

「でも、友達からすごくお願いされて。バレー部にも、やっぱり入りたい。先輩たちには、もう兼部しても大丈夫、ってお墨付きはもらってるんだけど……」

「頼まれて仕方なくやるならそれはやめるべきだが、表情を見た感じだと佳苗自身乗り気ってことか」

 そう、と頷くと、お父さんは少し考えるようなそぶりを見せて、視線を洋輔に一瞬だけ向け、逸らす。

 何だ、今の視線の動きは。

 と思ったら、もう一度洋輔に視線が向いて――今度はきっちり洋輔を捉えて、すこし遠慮がちに口を開いた。

「なあ、洋輔くん。君から見て、佳苗はどうかな。バレーのセンス、ある?」

「センスは……どうでしょうね? 決してないわけじゃないと思いますけど。でも、楽しんでやれるとは思いますよ。球技大会でも大活躍でしたから」

「そうか……」

 お父さんは考え込むように腕を組む。

「佳苗がやりたいというならば、まあ、やってもいい。無理をするのは禁物だけどな」

「うん。それは、もちろん」

「でも、スポーツとなるとさすがに、必要なものが出てくるだろう」

「そうなんだよね……。部費も、たぶんかかるし。そうじゃなくてもシューズとかは実費になると思う。なんか、下着とかもある程度指定されてるみたいだし」

「…………、」

 うーん、と声を出さずにお父さんが考え込み始めたところで、ばたばたとお母さんがやってきた。

「あら、何の話してたの?」

「ああ。実は佳苗が、バレー部を兼部しようとしているらしい。結構楽しいそうだ」

「兼部? ふうん。いいんじゃないかしら。私も学生時代は兼部してたし」

「そういえばお母さんって部活、何やってたの?」

「文芸部と陸上部よ」

 何故その二つを両立しようとしたのだろう。

 我が母親ながらよくわからない人だ。

「まあ私のことは良いわ。佳苗がやりたいなら、やればいいと思うしね」

「……でも、お金かかるよ?」

「お金の心配は、まあ、多少はしてほしいけれど。度が過ぎなければ良いわ。最近は夕飯の準備とお洗濯はやってくれてるし、お掃除もある程度してくれてるんだもの。それに対するお小遣いじゃないけど、報酬として部活にかかるくらいのお金は出してあげる」

「いいのかい、塁。結構かかるぞ」

「といっても、部費のほかに使うのはシューズ代に練習着代、あるいはユニフォーム代、バレーボールならサポーターと下着もか。あとはスポーツバッグと遠征の足代と合宿代とか、その辺りでしょ? ……あら? 結構多いわね?」

 うん。結構かかるのだ、考えてみると。

「……まあ、かまわないわ。佳苗ならあまり無駄遣いもしないでしょうからね」

「ありがとう。じゃあ、バレー部には正式に入部……で、やっとくね」

「ええ。部費に限らず、かかるお金が書いてあるようなプリントがあったら持ってきてね。用具代は……、うーん。いくらくらいかかるのかしら」

「聞いてみないとわかんないよね。一式そろえるとして……」

「そもそもどこで買うとか、決めてるの?」

「部活に誘ってくれた友達、村社くんっていうんだけど。その子が買い物に付き添ってくれるって。何が必要なのかもわかってないから……あ、ついでだし洋輔もついてくる?」

「え、俺? なんで?」

「サッカー部で使うやつとか見るかなって」

「あー。んー……」

 どうやら乗り気ではないらしい。

「ま、気が向いたらおいでよ」

「おう。そうだな」

 というわけでこのあたりで濁して置き、と。

 そろそろいただきますをしたいところだ。おなかも空いたし。

「おまたせ。じゃあ、食べましょうか。それにしても豪華なご飯ねえ」

「そうかな。おいしくできてると良いけど」

「見た目は文句なしだけどな。じゃ、いただきます」

 味に文句は無し。

 ま、品質値は嘘をつかないのだ。うん。


 食後、洋輔のお母さんが帰ってきたらしかったので、洋輔も家に帰ることに。

 また後で、といったん分かれて、洋輔が玄関を出た後、僕もとりあえず洗濯物をなんとかしないとな、と脱衣所へ――

「佳苗。ちょっと」

 ――向かおうとしたらお父さんに呼ばれてしまった。

「どうしたの?」

「はい、これ」

 はい、と渡されたのは長財布。

 財布?

「これは?」

「部活の用品を買いに行くとき、とりあえずそこからお金を出しなさい。使わなかった分はしっかり残すこと。無駄遣いもしてはならないよ。ま、お前なら大丈夫だろうけどね」

「……いいの?」

「ああ。塁にもオッケーはもらっておいた」

 ちらり、とお母さんに視線を向けると、お母さんは一度頷いた。

「まさか洋輔くんの前で渡すわけにもいかなかったからね。まあ、お前のことだから実は結構貯金があるんだろうが……」

「お父さんって時々ものすごく鋭いよね……」

「そりゃあ、お前のお父さんなんだからな。お前がだいたいどんなことを考えてるかはある程度推理できる」

 わかる、ではなく、推理できる……か。

 実にお父さんらしい。

 ま、もらえるというならばありがたく貰おう。

 財布の中身を確認するとお札が、

「って多いよ! 多すぎるよ! 加減してよ!」

「いやあ、わかんないぞ。もしかしたら結構高いかもしれない」

「いや確かに高いだろうけど。毎日の練習とか、合宿のことも考えれば洗濯分も含めて複数用意しないといけないのもあるし、そりゃあそこそこするだろうけど、それでもここまではしないと思うな……」

 具体的には一万円札が十八枚ほど。

 半分だって使わないだろう。

 という訳で半分を取り出して、お父さんにそのまま突き返そうとしたら受け取りを拒否された。

 なぜ。

「それは全部、お前のものだよ。塁と一緒にちょっとずつ貯金していた分。お前がもし、何かをやりたいと自分から言い出した時。そしてそれがそこそこお金がかかるものだった時、『初期投資』として与える分としてね。本当はもう少し上げたいんだけど……」

「十分すぎるよ……。うわあ。でもちょっとこの額は……」

 ようするに十八万円ぽんと渡されても、中学一年生になったばかりの僕としては持てあますだけというか。

 なんかさすがに無駄遣いしてしまいそうだ。

「ねえお母さん。預金口座って僕でも作れるのかな?」

「ええ。子供でも開設はできるわね」

「じゃあそこに入れとこっと……うかつに持ってるとさすがに無駄遣いしかねないし」

「あなたの事だからそれは大丈夫だと思うけど」

 妙な信頼を得ていたらしい。

 それはそれでうれしいけど、それとこれとは話が違う。

「僕にその気がなくても、お財布の中にいくらあるからこのくらいはいっか……とかさ、そういう変な油断ができかねないじゃない。お菓子とかジュースとかを買う時、友達の分も多めにーとか。僕はそういうのヤダよ。するのもされるのもヤダ」

「ヤダって気持ちがあるなら大丈夫だよ。お前なら自分を律せるだろう」

「それでもやだよ……。だから口座作って、そこに入れておく。必要なときに必要な分だけ出せばいいんだから」

「あなたがそれを望むなら、まあそれでいいのだけど。じゃあ、そうね。明日には口座作っておくわ。それを明日、帰ってきたら通帳とか渡してあげる。それでいい?」

「うん。これも、さすがに全額は使わないだろうから……。靴とか服とか鞄とか、全部そろえても五万円くらいで余裕だよね?」

「複数買うとなると余裕かどうかはともかく、足りるとは思うわ」

「じゃあ、とりあえず五万円だけもらっておくから、残りは預金しておいて。口座開くときに入れられるんだよね?」

 というわけで、お財布から五枚の一万円札を取り出して、お財布を返却。

 お父さんはやれやれ、とかたでしぐさを取りつつも受け取り、そのままお母さんへと手渡した。

 これでよし。実際五万円だって多すぎるだろう。

 余らせて、貯金と合わせて預金しよう。うん。

「部費とかのプリントは、もらってきて頂戴ね。それは当然別に払うわ」

「……うん。ごめんね、負担ばっかりかけちゃって」

「そんなことはないわ。私もお父さんも……今はちょっと、忙しすぎるくらいだけれど。来月になれば、元どおりだしね」

「え、本当に?」

「ええ。ごめんなさいね、さみしい思いをさせちゃって」

 ううん、と僕は首を横に振る。

「寂しいよりも、心配の方が大きかったからね。……ふたりとも、このところずっと遅かったから。身体大丈夫かなって」

「こんな言い方をするとお前が怒ることは分かってるけど、それでもあれだよ。お前が負った怪我よりかははるかにマシさ」

「…………」

 わかってるなら言わないでほしいなあ……お父さんらしいけど……。

「ま、わかってるなら良いか……」

「はは。ところでさっき、何か用事があったようだけど」

「ああ。洗濯だね。ほら、体育着とか色々と……あ、お風呂は掃除してあるよ。もうお湯も張ってあるから、入れる。先に入っちゃって」

「ああ。ありがとう」

 さて、他に何かあったかな?

 特に思い出せないなら明日の朝で……っと、ああ、そうだ。

「もう一個」

「うん?」

「もし、村社(むらこそ)……か、郁也(いくや)って名乗りの子がいたら、その子がバレー部に誘ってきた友達だよ。買い物の日時とか決めることになってるから、電話あったら教えてね」

「わかったわ」

 さて、今度こそ用事はおしまい。

「洗濯物済ませちゃうね」

「任せた。……ほんのちょっとで、だいぶ頼もしくなったなあ」

 まあ、お父さんもお母さんもしらないだけで、年単位の経験は重ねてるからね……異世界でだけど。

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