66 - 上木成巳と決断力
今更ではあるけれど、騎馬戦は男子の種目である。女子は参加しない。
もちろんその分女子には女子限定の種目があるから、それはそれで大変そうだけど、今回重要なのは男子が一クラスに十七人から十八人であるという問題だ。
「普通の騎馬は土台三人と上に一人の四人組、なんだよな」
と、佐藤くん。
さすがに学級委員、なんとなく指揮能力はあるようだ。
「でもそうすると、二人あぶれるな」
「うん。だから、三人組を使うか、五人組を使うかだ」
上木くんの疑問に佐藤くんが答えた。
三人組を使う場合、三組の生徒は十八人だから、最高で六騎を用意することが出来る。
実際には安定感の問題で四人組の三騎と三人組の二騎が妥当だろう、とも。
で、五人組を都合う場合は五人組の二騎に四人組の二騎で合計四騎。
現実的ではない形として二人組、実質おんぶのような肩車のような状態のバディで行うパターンも含めればもうちょっとバリエーションは広がるけど、さすがにちょっと厳しそうだ。
いや、やろうと思えば洋輔と僕で組めばいいんだけど。たぶん目立ちすぎる。
「つまり四騎、五騎、六騎の組み合わせがありうるってことなんだけど……」
「上に乗るのは、やっぱり体格でいいんじゃねーかな。このクラスだと特段細い奴も太い奴もいねえし」
確かに平均体型な子が多いか。
ちょっと細めとか、ちょっと太めとか、そういう子はいるけど。明確にそうって感じの子は確かにいない。
「じゃあ、背の順だね。前から最大で六人」
まあ、そうなるよな……。
ちなみに前からの六人は僕、前多くん、村社くん、昌くん、信吾くん、蓬原くん。七人目が洋輔だからなんかむかつく。
で、僕を含めた六人で言うと、信吾くん、と僕がちょっと細いだろうか?
他の子たちは皆、ふつう。
ただ、ただし運動部組、つまり村社くんに昌くん、信吾くんあたりは、着替えとかでちらっと見えた程度では多少筋肉がついてきている感じでもあったな。
体重的には妥当そのものだ。
で、実際問題どう組むか。
「三人組だと、さすがに守りに支障がありそうだよね……ただでさえ文化部の子が多いし」
「ごもっともな意見だな。幸い上に乗る佳苗たちは、そこそこ動ける奴も多いから四人組の三騎と三人組の二騎かなあ……」
上木くんのつぶやきに、おおむね皆が納得したようだ。
じゃあどう組み合わせるか、という点が当然出てくる。具体的には守りに支障がありそうな三人組の二騎について、なのだけど。
「昌と佳苗だな」
さほど悩んだ様子もなく、上木くんはあっさりそう言った。
「全部で五騎でやるなら、上に乗るのは信吾まで。そん中だと、信吾、昌、佳苗の三人が『動ける』方だろ? 葵と郁也も動けないわけじゃないけど、その三人と比べるとちょっと劣るよな。で、三人組の騎馬だとどうしても不安定になる。それに対応しやすい方って感じで絞り込むと、やっぱり昌と佳苗が適切だ」
なるほど、納得。
「身長を考えないで動ける連中、で考えると、こーいち、洋輔、それに貴也に佳苗ってところか。そう考えてもやっぱり佳苗は固定でいい。昌と信吾は一長一短って気もするから、変えてもいいかもな」
「剣道部とバスケ部ってどっちが強いんだ? ってことか……」
補足について前多くんはなにやら深く頷きつつそうつぶやいた。
いや待て、異種格闘技にもほどがある。
と思ったけど、僕も将棋と囲碁が戦うとか考えてたからな。あんまり人の事言えないような……。
そして確かに、剣道部とバスケ部ってちょっと悩ましい選択な気はする。
格闘系の流れという意味では剣道部に分がありそうではあるけど、剣道部って結構型が決まってるからな。そして騎馬戦の動きはその型とはあまり似ていないだろう。
似ていないという意味ではバスケ部もそこまで似てるわけじゃないと思う反面、比較的接触のあるスポーツだし、どっちが有利とも言い難い。
「強いかどうかはさておいて、ともあれその辺だな……。騎馬、下側は、身長である程度合わせねえとそもそも成立しねえし。上に乗るやつの身長と逆、だから、佳苗の騎馬は背の高い奴で組む」
「全体的に均等にするのか」
「もちろん、大きい騎馬を作ってもいいんだが。そうすると小さい騎馬が小さすぎて、ちょっと、こう、厳しいだろ」
佐藤くんの問いかけに上木くんはあっさりと答える。ごもっともだ。
「ましてや、クラス対抗じゃなくて『全クラスによる四つ巴形式』。生き残り戦、殲滅戦だからな。球技大会で目立ってる分、三組は他のクラスからかなり狙われやすいからな……」
殲滅戦、あるいは生き残り戦。
要するに最後の一クラスになるまで続くという戦い。
落馬したらそこで脱落、落馬しなくてもハチマキが取られた時点で脱落。
脱落した場合、持っているハチマキはそのまま持っていてOK。最終的にはそれぞれのクラスで持っているハチマキの数をポイントとして争うんだけど、最後まで生存したクラスのみ、持っている数を二倍した数字が獲得ポイントになる。
ちなみに一クラスあたりの騎馬の数については自由だから、少数精鋭で来るクラスも居れば数で攻めてくるクラスもあるだろうけど、実際はバランス型で五騎が殆どだろう。
当然他にもルールはある。たとえば騎馬に対する攻撃の禁止とか、そのあたり。けが人が無駄に増えるからね。
そんなわけで、体当たりも極端なものはダメだそうだ。
極端なものは、と区切られているのは、それを外すと騎馬戦としての醍醐味が無くなるからだそう。
……でもまあ、実際に馬に乗るほうが楽だよね、これ。
僕はあんまり馬上戦術の成績よくなかったけど、洋輔がそこそこ良かったなあ。
まあいいや。
で、組み分けの結果、僕を担ぐのは泰山くんと園城くんだそうで。何このコンプレックスの塊みたいな組。
とりあえず二人に担いでもらって、と。
「重いかな?」
「言うほどじゃないけど、まあまあな」
「ふうむ」
だからと言ってまさか重力操作するわけにもいくまいよなあ。
数十倍程度ならば軽くしたり重くしたりは僕にでも魔法でできるけど、何も軽ければいいわけじゃないし。
一度降りて、他の組も確認してみる。
洋輔は昌くんを担ぐ側か。
「とりあえずは大丈夫そう、か」
「一時間くらいは練習したいところなんだけどな、本当は……」
でもまあ、そんな暇もないわけで。
色々と騎馬戦周りのことが決まると、今度は全員リレーとかの順番決めをすることに。
この順番決めにおいても活躍したのは上木くん。
結構てきぱきと案を用意し、比較させ、そして結論を出させるまでの手順が妙に手馴れている。
なんかこう……司令塔って感じだよな。
リーダーシップというよりかはパーティを動かすリーダーみたいな。
「それで、佳苗か洋輔か、このどちらかにアンカーをやってもらおうと思う」
「洋輔のほうが適任だろうね……」
「そうか? じゃあ佳苗、お前は二回な」
「うん」
わかったよ、と頷いて、あれ、と首をかしげる。
「うん? 二回?」
「おう。だってお前、二番目に早いだろ。アンカーは二回は知れねえけど、それ以外なら二回はしってオッケーのルールだからな」
「いや二回走る意味ないよね?」
「『延べ三十八人』で『基本一人百メートル』がルールだぞ」
なんてこったい。
っていうかそれだと、僕が二回はしるとしてもまだ一人足りない気がする。
「男子十九人と女子十九人の、合計三十八人で計算する。全員リレーは全員最低でも一度は走らなきゃいけない」
「……面倒な。えー。僕じゃなくて園城くんあたりに走ってもらおうよ。ほら、園城くんも足早いし」
「佳苗よりかは遅いから。だから佳苗、頑張れ。どうしてもいやならお前がアンカー走って、洋輔が二回でもいいぞ」
おお、上木くんナイス。
が、嬉々として洋輔に視線を向けたところで、
「ただしアンカーは二百メートルだ」
と上木くんが補足。
あれ? 一人百メートル、を二人分走るか、二百メートル走るかってこと?
距離的には変わんなくない?
一方で洋輔はざまぁみろ、といった表情で僕ににたりと笑いかけてきていた。なんかむかつくので今度何かしらの形で報復しよう。
「ちぇ。まあ、いいや。あんまり疲れる量的には変わんないし」
「はっはっは。で、どっち走るんだ」
「洋輔、どっちがいい? 僕はどっちでもいいよ」
「俺もどっちでもいいぞ。上木、そんなわけだから、お前が決めてくれると助かる。まあもちろん、じゃんけんとかで決めてもいいけどな」
「それならば佳苗が二回で洋輔はアンカーだ」
あ、即答された。
「それで渡来は『最初』もやってもらえるか」
「最初?」
「うん。スターター」
「ああ。良いよ、別に」
よし、と頷き、上木くんは他の面々の順番も決めていく。
ちなみに僕の二回目は後半というか終盤になった。
で、万が一誰かが怪我をしたなどで人が足りなくなった際の穴埋めは、足の速い順で園城くんとかが上からエントリー。
けが人は出ないに越したことがないけど、一人くらいは怪我をしていてもおかしくはない。
実際、球技大会では来島くんが怪我をして……あれ、
「そういえば来島くん、怪我はどうなったの?」
「ああ。完治してる。もともと大したことなかったのか、処置が適切だったのか。まあ、処置がどんなに適切でもすぐに治るとは思い難いし、前者かな」
「そっか」
賢者の石の治癒が多少は働いた……ってところかな。
尚、来島くんはクラブチームで結構怒られたらしい。
そりゃあそうだよなあ……。
閑話休題、リレー繋がりで選抜の方もついでに決定することに。
ここも僕、洋輔、園城くんの三択まではすぐに絞り込まれた。
で、話し合いをしてもたぶん平行線だろうということでじゃんけん勝負をすることに。
「じゃん、けん、」
ぽん。
えっと……洋輔はパーで、園城君がチョキだから……よし。
チョキだそっと。
「ってことで洋輔頑張ってね」
「何言ってるんだ、佳苗。これ、勝ったやつがやるんだろ?」
え?
と、上木くんにフォローを求めたら、上木くんは当然、と頷いた。
「そりゃ、勝つための選抜なんだから、負けた奴を送り出してどうするよ」
「…………」
うんまあ。
縁起って大事だからね。うん。しかたない。
「というわけで泰山くん」
「何だ」
「僕はグーを出」
「おいそこ。八百長すんな」
諦めろ、という視線を送ってくる泰山くんだった。
なんかショックだ。
まあさっさと済ますか。負ければいいのだ。
「じゃん、けん、」
えっと、園城君は……グーか。なら、チョキを出せばいいんだな。
というわけでチョキを出して無事敗北。
…………。
なんか釈然としない。
「佳苗ってさあ。やりたかったのか、それともやりたくなかったのかが、まるで分らないんだが……」
「解説してやろうか、上木。佳苗は今心底負けたことを喜んでるんだが、同時に『ぐむむ、まさかこんなところで負けるとは不覚……』と負けず嫌いを内心で発揮してるところだ」
そして大体合っている解説を洋輔にされてしまったのでにらみつけてみた。
どこ吹く風といった感じで受け流された。
「まあいいけどな。じゃあ代表の方はタケ、頑張ってくれ」
「ん。まあ、微力はつくすよ」
園城くんは上木くんにそう答え、自然と上木くんが先生に報告。
先生はちょっとばかし意外そうな表情で、しかし代表については認めてくれたようだ。
先生も僕か洋輔が走るものだと思っていたらしい。
「ちなみに代表リレーの補欠は佳苗。お前だからな」
そしてその後で、上木くんはそう言った。
え、なんで。
「勝ち残ったからに決まってるだろ」
解せぬ。
さて、それらを終えれば確認はラスト。
バトンパスの練習である。
最初、僕の次に走る女子は加藤さんなので、あまり気にすることはないようだ。
問題は次で、二度目の僕の出番では西捻さんから受け取り、遠藤さんに渡すことになる。
幸い遠藤さんは問題なさそうだけど、西捻さん曰く、ちょっと不安らしい。
「あんまり気にしないでいいよ。ちょっと足止めてもいいから、普通に渡してくれれば」
「え、でもそうすると勝てないんじゃない?」
「大丈夫。その分だけ頑張って走るから」
「…………」
さすがに記録を更新しない程度にはなるだろうけど。
まあ、変に無理をしてバトンを落とされるよりかはタイムロスも少なくすむだろうし。
僕のそんなやり取りを見て、上木くんが洋輔と一緒に呆れているのは……。
うん。あとで洋輔だけどやそう。




